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鎌倉ヴァンパイア・ヴィンテージ ~独占欲強め銀髪メイド様は、私(の血)を独り占めしたい~~  作者: つきよ


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第20話「あなたとチューチューしたいだけ デート編」(二階堂警部捕目線)

宮内庁のどこかの個室


ここ最近の私の人生は、まさに激動の時代だった。

平和だった江戸時代が、黒船来航によって一気に幕末へと突入したかの如く。


「……うん、いい感じですね」


慣れない手つきで、皇宮警察の賀茂かもさんが私の顔に高級海外ブランドのファンデーションを塗っている。化粧品特有の、甘いような酸っぱいような女性らしい匂いを嗅ぐのは、ずいぶん久しぶりだ。


私は高卒でそのまま警察官になり、警察学校から寮生活を経て、ひたすら仕事と昇任試験ばかりの二十代を過ごしてきた。その甲斐あって、ストレートでパスを続け、二十代後半で『警部補』になれたのは、自分で言うのもなんだが自慢だ。

だがその反動か、ゴリゴリの男社会で生きていく中で、化粧やオシャレを勉強する時間など全くなかった。ちゃんとした化粧をしてこなかったツケが回ってきて、今はこうして代わりにやってもらっているわけだが――彼女も私と同じ公安系(自衛隊、警察、海上保安庁など)の人間だからなのか、先ほどから手元がおぼつかず、不安しかない。


事の発端は数日前。

ソフィアという女が警察署を襲撃した一件が終わり、宮内庁の烏丸からすまさんたちと話していたら、突然「ご自宅が爆破されました」と告げられたのだ。


正直、家に大切なものを置く主義ではなかったので、なくなって悲しい物は特になかった。あるとしたら、カートンで買ったタバコと、コストコで友人と一緒に買った少し大きめのジャックダニエルぐらいだ。


その後、メイド服の部下を連れてきたソフィアが、箱いっぱいに詰まった金貨を持ってきて、「ご自宅を爆破したのは私たちです...」と謝罪(?)してきた時は、狂ってやがると思った。

告白した相手(私)の自宅を、物理的に爆破するってどういう神経だ。そして、それを「ガス爆発」として処理することにした日本政府も恐ろしい。


トントン、とドアをノックする音がして、「入ってもいいですか」と烏丸さんが部屋に入ってきた。

賀茂さんが「ある程度完成しました」と言って、彼に私の顔を見せる。


「これは……。そうだね、賀茂君。頑張ってくれてありがとう。君は少し休んでいるといい」


烏丸さんはそう言うと、私に向き直った。


「すまないが、二階堂警部補。私が化粧を代わってもいいかね? 顔に触れることになるが……」


「あ、はい。構いませんが」


烏丸さんは四十代から五十代くらいだろう。たぶん私の父親や、署の代理と同じくらいの年齢だ。

普段、そのくらいの年齢の警察署のオヤジどもは平気でセクハラまがいの発言をかましてくるので、こんなに紳士的に扱われるのはなんだか逆に恥ずかしい。


烏丸さんは、さっきのぎこちない賀茂さんとは違い、ひどく手慣れた手つきで私の化粧を進めていく。

沈黙に耐えきれなくなり、私が口を開いた。


「お化粧、うまいっすね」


「ああ。若い頃は、スタイリストになりたくて勉強をしていたんだ。でも、うちの家は代々この仕事をする宿命があってね。本来それを継ぐ予定だった兄貴が亡くなって、私がその代わりになったんだよ」


「なるほど……」


「これはお節介かもしれないが、タバコとお酒、それから食事には気を付けた方がいいかもね。お肌が『痛い痛い』と泣いているよ」


耳が痛いことを言われ、私はまた黙り込んでしまった。図星だ。


「よし、できた」


烏丸さんが言って、私の肩をポンと叩く。

瞑っていた瞼を開いて鏡を見ると――そこには、なんだかすごく綺麗な『私』がいた。

よく世間の女子が言う「お化粧しておしゃれするとテンションが上がる」という意味が、三十近くになってようやく分かった気がする。


「あと、この香水をつけといて」


渡されたのは『No.4711』と書かれたオーデコロンだった。


「これは、相手ソフィアが好きな香水のリストの中からピックアップした一つだ」


「あ、はい」


「今回のデート中、我々もできるだけ近くで見守っているから安心してくれ。向こうも、イギリスの特殊部隊や配下の人間を近くに配置しているようだからね」


緊張する私に対して、烏丸さんは穏やかに言った。


「安心したまえ。君にもある意味、『王の使い』がついているのだから」


「その……ソフィアに、イギリス政府はそんなに全面的に協力的なんっすか?」


「我々も詳しい事情は不明だが……あの者は、今のイギリス、厳密には『王室の設立時』から関わっているらしく、関係性としては家族と同様らしい。特殊部隊の設立から深く関わっており、確実に分かっているだけでも、第二次大戦時の北アフリカ戦線で活躍しているのが把握されている。ただ、少なくともそれよりも前、中世から軍事関連での深い関わりがあるのだろうね」


スケールが大きすぎて、頭が痛くなってきた。


「あと、これもだ」


小さなイヤリングを渡された。


「これで我々と通信ができる。危なくなったら、すぐにこちらが助けに行く」


続けて、烏丸さんは真面目な顔で言った。


「あと、発信機もつけるのだが……私ではつけられない場所なので、賀茂君に任せるよ」


そうして、想像もしていなかったような恥ずかしい場所(下着の裏)に発信機を仕込まれ、私はデートの待ち合わせ場所へと向かうことになった。


「これ……トイレの時とかどうするんだよ……」


公用車のセンチュリーの後部座席に乗り込み、私は一人ごちた。

隣に座っている烏丸さんが口を開く。


「今回の作戦は『関係構築』がメインなので、深追いはしなくていい。また、陛下からも御言葉(伝言)を預かっている」


「陛下って……天皇陛下……!?」


「『この度の二階堂警部補の尽力に、深く嘉賞かしょうする。国民に代わり感謝を述べるとともに、決して無理のないように』とのことだ」


「お……はい……」


集合場所である、赤坂駅前に到着した。

ドアを開けて降りようとすると、車の中にいる烏丸さんが身を乗り出して言った。


「色々と君には言ったが、変に気負うことはない。自分らしくいたまえ」


「あざます」


車を降りると、待ち合わせ場所にはすでにソフィアの姿があった。

会うたびに「コスプレか?」と思うほどの、現代にはそぐわない豪華なドレス姿だったが、今日は抑えめだった、それでも綺麗なのは変わらないが。


「あら、ごきげんよう、二階堂さん」


「あ、どうも……。今日はよろしくお願いいたします」


「今日はよかったら、あなたのオススメのお店に行こうと思うのだけど、いいかしら?」


「え、あ、はい。じゃあ……カフェでも行きますか?」


「ええ、いいわね。どこのカフェに行こうかしら?」


「じゃあ、コメダで」


「コメダ? 初めて聞く名ね。いいわ」


言ってから後悔した。どうしよう、オシャレなカフェなんて行かないから、知っている『コメダ珈琲』を思わず口走ってしまった。

でも、ええい、ままよ! このまま行くわ!

私はスマホで検索し、近くのコメダへと彼女を案内した。




「いらっしゃいませー」

「あ、二名で」


店員に案内され、ボックス席に着く。


「すごいわね、食べ物が沢山あるわ!」


ソフィアはメニューを見てすごくワクワクしている。まるでアニメで、お金持ちキャラが普段行かないファミレスではしゃいでいるような光景だ。


「ここはどの食べ物も美味しいし、ボリュームもあるので、その……オススメです」


「そうなのね。あなた……そういえば、下の名前で呼んでもいいかしら?」


「え、あ、はい。私は……」


「『りん』でしょ? 知っているわよ、凛」


(いつの間に調べたんだ……!)

久しぶりに下の名前で呼ばれると恥ずかしい。すごく女の子っぽい名前だから、余計に。


「わたしは、なんてお呼びすればいいですか? ソフィア様?」


「様はいらないわ。ソフィアでいいから」


「はい」


烏丸さんたちと話す時は『ソフィア』と呼び捨てにしているものの、本人を前にして言うのはなんだか緊張する。


「じゃあ、私はこの『カツパン』? というのにするけど、凛はどうする?」


「わたしはコーヒーと、シロノワールにします」


タブレットで注文をし、しばらくして品物が届いた。


「思ったよりボリュームがあるわね……すごいわ。アナスタシアとしぐれに見せておきましょう」


と言いながら、ソフィアはスマホを取り出して写真を撮り始めた。


「スマホ、Androidなんっすね」


「え、そうよ。何か変かしら?」


「あ、いや。ヴァンパイアがスマホ持っているのも驚きですが、なんか、アイ〇ォンのイメージがあったので」


ソフィアは手で口を覆いながらクスクスと笑った。


「ふふ、何よそれ。Androidの方が、色々カスタマイズできて便利なのよ。あなた、ガジェットとか好きなの?」


「あ、いや、そこまでは。でも、同じ機種ですよ」


「あら、本当じゃない。私のと同じ機種で、コンパクトな方なのね。迷ったのよ、それにするか」


「あ、私もです。そっちはProですよね? 家でスマホで動画見るので、大きい方がいいかと思ったんですが、値段と大きさがネックで……」


「分かるわー。ちょっと重たいのよね」


まさかの女子トーク(スマホ談義)で盛り上がってしまった。

会うまでは胃が痛くなるほど緊張していたが、意外と楽しい。言われてみれば、同性の友人とこんな風に他愛もない話をしたのはいつぶりだろうか。


「あと、聞きたかったんですが。ソフィアさ……ソフィアは、ごはんとか美味しく感じるんですか? ほら、血がメインの食事じゃないですか」


「ええ、そうね。お腹が満たされるというわけではないけど、味は楽しめるわよ。お菓子と一緒ね。満腹にはならないけど、満足感はあるでしょ?」


「へぇー。ちなみに、人によって血の味とかも変わるんですか?」


「もちろんよ。若い子だと甘いわ。男性の血が好きなヴァンパイアもいれば、女性が好きなヴァンパイアもいて、嗜好は多岐にわたるわね。病気を持っている子の血は特殊で、好き嫌いが分かれるわ」


「へぇ……ちなみに、ソフィアはどんな味が好きなんですか?」


「それを聞くの? ……ふふ」


ソフィアは、私の顔をじっと見つめて妖しく微笑んだ。


「凛みたいに、タバコとお酒をたっぷり摂取していて、仕事で疲れ切っている大人の血は……程よい苦味と酸味があって、最高に美味しいのよ」


「う……左様ですか」


私は少し背筋が寒くなった。

届いたカツパンを、ソフィアは丁寧にフォークとナイフを使って食べている。カツパンをそんな風に上品に食べる人を初めて見た。


意外にも会話は弾み、お昼に入ったのにもう16時を過ぎていた。


「結構話してしまったわね、凛。次はどこに行くのかしら?」


「それじゃあ、ソフィアが行ったことない『居酒屋』に行くのはどうですか?」


「イザカヤ? いいわよ。お酒を飲むところよね」


お店を出て、次の場所に向かう。

歩き出した時、ソフィアがこちらに振り向いて、右手を少し上げていた。


「右手が、お留守なのだけど?」


「あ、はいはい」


エスコートしろという意味だと察した私は、彼女の右手にそっと自分の手を添えた。

その瞬間、イヤリング越しに『ワールド イズ マイン、グッド!』と、ドヤ顔の烏丸さんの低音ボイスが聞こえた。

(後で、なにPの作品がすきなのか問い詰めてやろう……)




何回か出張で来たことがある、渋谷の横丁的な居酒屋街に着いた。


「こんな狭い、豚小屋のようなところに人が沢山!! すごいわね!」


「その言い方はちょっと……まあ、イギリスで言うところの『HUB』みたいなところです」


「いいわね! あそこのお店に入りましょうよ!」


席に着き、お酒を頼む。


「この『ウメシュ』というのは何なの?」


「それは梅でできたお酒ですね。甘くて美味しいですよ」


「ふーん、いいわね。ここにあるの、全部飲んでみるわ!」


数時間後。

お互い、良い感じにお酒が回っていた。


「てか、ヴァンパイアってアルコールで酔えるんっすね」


「当たり前じゃないの!」


「ふふっ」


最初よりも、お互いにかなり砕けた口調になっていた。


「てか、うちの家を爆発したの、本当に頭おかしいと思ったっすよ」


「それは前も謝ったでしょ〜? うちのアナスタシアたちに『作戦中止』を伝える前に、やっちゃったのよ!」


「私も現場見ましたけど、どんな爆弾使ったらああなるんですか」


「C4よ、C4。あれが一番使い勝手いいのよ!」


この際だから、色々と聞いてしまおうと思った。


「ちょっと聞きたかったんすけど、日本にはいつからいるんすか?」


「ふふ、日本に長く滞在したのは……今の言い方だと、鎌倉時代? かしら。でも、それより前にもちょくちょく来てたわよ」


ソフィアが少し自慢げに言う。


「ちょくちょくって、いつからなんすか? 縄文? 弥生?」


「初めて来たのはね……わからないわ、ふと『一番遠くまで行こう』と思って空を飛んでいた時に、ハニワを見つけたのね。それで、私の身につけている装飾品と交換したのよ。第一印象は『こんな粗末な土の塊を作っている、遅れている文明ね』って思ったわ」


「それぇ、ひどいっすよ。うちのご先祖様かもしれないのに」


「でもね」


ソフィアは、私の方をポンと叩きながら笑った。


「それをずっと見ていたら、不思議と可愛く見えてきてね。そこから、ちょくちょく様子を見に来るようになったの」


「飛ぶって……空飛べるんすか?」


「もちろんよ。最近は飛んで遠出はしないけどね」


「ええ、飛んだ方が便利じゃないですか?」


「単純に寒いのよ。あと、疲れるの。歩く10分と、車に乗る10分だと、体の負担が全然違うでしょ?」


「たしかに……。あ、ちょっとお手洗い行ってきます」


そう言って席を立ち、お手洗いへ向かう。

用事を済ませて手を洗いながら鏡を見ると、化粧で顔は白いが、耳や首のあたりが赤くなっている自分がいた。


「お化粧、落ちてる……」


おもむろに口紅を直し、貰った香水をつけ直していると。


「いい匂いね。これ、私も好きな香水なの。すごく好きってわけじゃないけど、ここのメーカーはずっとあるからね」


いつの間にか背後に立っていたソフィアが、うなだれるように後ろからハグをしてきた。


「あ、ちょっと……」


「安心しなさい。ちょっと甘えたくなっただけよ」


「う……ちょっとだけですよ」


お酒のせいなのか、少しだけならいいかと思ってしまった。


「本当に……あなたのこと、好きなのよ」


「そんなこと言われても。まだ知り合ってすぐじゃないですか」


「そうね、あなたからすればそうよね」


「うん? ちょっと飲みすぎでは?」


「ふふ、あなたよりずっと長生きしているのよ? 心配してくれるの?」


「ええ、しますよ。ほら、席に戻ってお水飲みましょ」


私が促そうとすると、彼女はさらに体重を預けるように抱きついてきた。


「ちょっと……」


「ねえ。少し、チューチューしていい?」


「それは……キスってことですか?」


「エッチなのね、凛。違うわ。あなたの『血』を飲みたいって言っているの」


「それはダメ」


「いいじゃないの、少しぐらい」


「ダメなものはダメ」


私がきっぱりと拒絶すると、ソフィアは面白そうに喉を鳴らした。


「ふーん……。私にそこまでハッキリ『ダメ』と言う子は初めてよ。じゃあ……『マーキング』をつけるのはいい?」


「え、なにそれ」


「首や肩のあたりに、私の歯形をつけるの。そうすれば、他のヴァンパイアはあなたに手を出してこなくなるわ」


「そういうの、嘘なんじゃないっすか?」


「本当よ。あなたはあんまりピンと来てないようだけど、私はヴァンパイア界ではある程度『顔が利く』のよ。私のマーキングがついているなら、他の奴らは絶対に手出しできないわ。……あなたのためなのよ?」


(う……こんなの、絶対に『押し売りの詐欺』と同じ手口だ……!)


すると、イヤリングから小声で『OK、マーキング! go』と聞こえてきた。

(なぜ、さっきから謎の英語なんだ、あのおじさんは……!)


「ほら、そっちの陰陽師崩れの子(烏丸)も行けって言ってるじゃない?」


「い……! 聞こえてたんすか!?」


「当たり前よ。耳、目、嗅覚。すべてにおいて、私たちは人間より敏感なの」


そう言って、ソフィアは私の首に両手を回してきた。


「わ、分かったよ。……ほら」


私は観念して、自分でトップスの襟元を少しずらし、首筋を差し出した。


「ふふっ……自分でそうやって服をずらして待つなんて、すごくエッチすぎるわよ……」


(ヴァンパイアの羞恥心の基準が分からない……!)


ソフィアが顔を寄せ、ガブリと軽く噛み付いてきた。チクッとした痛みの後、生温かい感触が首筋を這う。


「う……なんで舐めるの?」


「私の匂いをつけているの。これが『誰のもの』か、はっきりと分かるようにね」


「う……」


「よし、これで大丈夫。もう誰もあなたを襲わないわ。……私以外にはね」


「…………」


恥ずかしくて、私は何も言い返せなかった。


「そろそろ、お店を出ようかしらね」




会計を済ませて、夜の渋谷の街に出る。


「お姉さんたち、二軒目とか決まってます?」

「よかったら、俺らと飲まない? てか、そっちの金髪の子、日本語分かる? めっちゃ綺麗やん!」


この辺りではよくある、いかにもなナンパ男二人組だった。

ったく。普段は警察官のオーラが出ているのか声をかけられないから、私が追い払ってやろうと前に出た、その瞬間だった。


『――Noli tangere quod meum est, plebs vilis.』


ソフィアが、聞いたこともない言語で低く呟いた。

その鋭い、氷のような視線。

次の瞬間、ソフィアはナンパ野郎の腕を掴むと、ひょいっと片手で路地裏のゴミ捨て場の方へ投げ飛ばしてしまった。


「なっ……なんだ、この女ぁ!?」


もう一人の男が怯む中、ソフィアは左手で小さく『待て』のジェスチャーをした。

たぶん、周囲に潜んでいるおつきの者たちに、「手を出すな」と合図しているのだろう。


「あら、ごめんなさいね。でもね、おイタが過ぎるわよ。今日はこれから帰るところだから……また今度、遊んであげるわね」


ソフィアは優雅に微笑んでみせた。

普段は市民を守る側の私が、生まれて初めて人に『守られて』しまった。

……なんだか、ちょっと嬉しかった。




その後、赤坂の待ち合わせ場所まで戻り、私たちは別れた。


「今日は楽しかったわよ、凛」


「私も……楽しかったっす。……ありがとうございます」


「ふふ、また二人で会いましょうね。今度は『逢い引き』で」


「いや……ちょっと、その言い方は時代が……」


「じゃあね」


ソフィアは満足そうに微笑み、夜の闇へと消えていった。

私は、待機していた烏丸さんたちの車へと合流した。


「なかなか、良かったですよ」


「はは、私も楽しかったです。……てか、烏丸さんがちょくちょく英語使うの、あれ何なんですか」


「いや、現場の部隊に端的に分かりやすく指示を出したら、ああなりました」


「なる……ほどね、好きなボカロ曲は?」


「少女レイ...あ!」


「いつか、話をしましょう」



その日の夜は、久しぶりに泥のように深く、よく眠れた。


翌朝。

無意識にスマホでニュースをぼーっと見ていたら、とある記事が目に飛び込んできた。


『本日未明、東京の渋谷にて、二名の男性の遺体が発見されました。遺体は体内の血液がすべて抜かれた状態であり、警察は違法薬物が関連している可能性があるとみて――』


そのニュースとともに、二名の顔写真が映し出された。


「……あの、ナンパ野郎ふたりじゃん……」


色々と、誰がやったかは察しがついたが。

私はスマホの画面をそっと閉じ、深く考えるのをやめることにした。


(第20話 完)

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