表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鎌倉ヴァンパイア・ヴィンテージ ~独占欲強め銀髪メイド様は、私(の血)を独り占めしたい~~  作者: つきよ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/43

第18話「ストライキの結末と、上書きのキス(後半)」


「いや、無理やりはダメでしょ!! バリバリ中世の価値観出てるよ!!」


私のツッコミが、洋館の天井に虚しく響き渡った。


「あら、困ったわね……」


ソフィア様はコホンと咳払いをし、気まずそうに後ろの二人を振り返った。


「二人とも。しぐれの言い分に対して、何か反論はないの?」


すると、無表情の銀髪メイド――アナスタシアさんが、静かに口を開いた。


「その……最近は仲良くなってきて、露出のあるメイド服など恥ずかしい格好までさせられていたので。その分、こちらも要求スキンシップを上げてもいいと思っておりました。……少し行き過ぎたのは、大変失礼しました」


シュン、と少しだけ耳が垂れているように見えた。

意外と反省している感じだ。むしろ、あんなセクシーな服を着せておきながら強く出てしまった自分の方が、少し恥ずかしくなってくる。


続いて、ソフィア様がクイッと顎をしゃくり、メイド長に発言を促す。


「私は……しぐれの血をアナスタシアが吸っているのが羨ましかったのだ。それに、この辺のヤクザと不良グループはあらかた『処理』してしまったので、最近は生きた人間からの血が吸えなくて……」


メイド長はチラリと、私の隣にいる景ちゃんを見た。


「筋トレをして体温が上がっている景が、すごく美味しそうに見えたのだ。……あんな無防備に筋トレをしている景も悪いと思う!」


(自分で筋トレさせておいて!? マッチポンプすぎるだろ!!)


私は心の中で盛大にツッコんだ。


「ふむ……まったく……そうね」


ソフィア様が、腕組みをして深く頷く。


「たしかに、1980年代ぐらいまでは、よく夜に人を襲って血を飲んでいたものね。それが、今では『財団』が用意した血液パックから吸うようになったから、あなたたちにとっては物足りないわよね。そこに処女で食べ頃の生娘がいたら、我慢しなさいって言う方が難しいわ……ふむ」


突然の私と景ちゃんの処女公開情報がされて、ふたりとも顔が赤くなる……。


はてはて、と悩んでいるソフィア様に、私は顔の熱を誤魔化すように恐る恐る尋ねた。


「あの、生身とパックって……そんなに違うんですか?」


「全然、違うわ」


ソフィア様は即答した。


「供給によっては動物の血を飲むこともあるけど、それは最悪だわ。人間の血液パックはそれよりはマシだけど……そうね、日本人に例えるなら『炊く前の生米なまごめ』をボリボリ食べている感じね」


「生米……」


「食べられるけど、炊き立てのふっくらしたご飯の方が絶対に美味しいでしょ? それと同じよ」


それは、非常になんというか、可哀想だ。

私もアナスタシアさんがキッチンでパックの血をチューチュー吸っているのを何度か見たことがあるけど、ものすごく無表情で飲んでいたな。私も白米が好きだけど、炊いていない米なんて食べられたもんじゃない。


「あの〜……私としては、血を吸われるのは……嫌ではないです」


私がポツリと言うと、アナスタシアさんの肩がピクッと動いた。


「でも、その……無理やりとか、強引なのは嫌です……」


「正直、合意の上でそうしてもらえると、こちらとしても嬉しいわね」


ソフィア様が微笑む。

私はアナスタシアさんに向き直った。


「アナスタシアさん……吸ってもいいですけど、前みたいに強制はしないでください。すごく怖いので……」


「……分かりました。善処します」


あくまで『善処』であるという、強い抵抗の意志を感じる言葉だったが……今回はこれで良しとしよう。


「それで、メイド長。景さんにそういう風に夜這いするのもやめてください。それなら、代わりに私のを吸って……」


私が言い終える前に、アナスタシアさんが鋭い声で遮った。


「それはダメです。しぐれは、私のものですから」


「分かってるよ……っ。分かった、私は我慢する!」


メイド長が頭を抱えて唸る。


「景、あなたはどうなの? ヒルデに吸わせてもいい?」


ソフィア様が景ちゃんに尋ねる。

だが、景ちゃんが口を開くより早く、私がとっさに前に出た。


「いや、景さんはダメです! 絶対にダメです!」


「あらあら」


私が必死に両手を広げて景ちゃんを庇うと、ソフィア様は面白そうに目を細めた。


「しぐれがそんなに『ダメ』って言うのは珍しいわね。どうしたのかしら?」


私たちの間に流れる『昨日とは違う空気ニュアンス』を感じ取ったのか、ソフィア様は少し意地悪にいじるように言う。


「わ、わたしは……メイド長のことは好きですが、やっぱり血を吸われるのはちょっと……」


景ちゃんも、少し顔を赤くして視線を逸らした。


「分かったわ。そうなると、ただ片方だけ『我慢しろ』と言うのも大変ね」


ソフィア様は頭をポリポリと掻いた。なんだか、兄弟喧嘩を仲裁するお母さんのようだ。


「ヒルデの相手は、私が用意するか、ちょっと任務のついでに『それっぽいの』を見つけるようにすればいいのよね。……この辺りねぇ」


ソフィア様は腕を組み、真剣な顔で考え込む。


「私たちの流儀として、基本的には『悪い人間』をメインにやってきたのよ。西部開拓時代とかは悪党ばっかりだったから、1日に6人とかやってたわよね……。でも、今の時代は分かりやすい悪いヤツが少ないのよ……」


(結果的には平和でいいことなのでは……?)と思ってしまうが、なるほど。この人たちにも『無関係の善人は襲わない』という流儀や倫理観があるのか。


そうすると、景ちゃんがハッとしたように口を開いた。


「そういえば。この辺の海側に、オヤジ狩り、飲酒、タバコ、窃盗……なんでもありの『レディース』の集団がいますよ」


(あ、聞いたことある。この令和の時代に暴走族かよ! って思ったけど、うちらの高校とは違うもっと海側にいるって聞いたことある……)


「なるほど……!」


ソフィア様がポンッと手を打った。


「その子たちを襲って、血を吸うための『牧場』として囲ってしまえばいいのよ!」


ものすごーーく悪いことを言っている。

これを止めるべきなのか、私は迷ってしまった。


「あの〜、それはちょっとやりすぎじゃ……」


私が口を挟むと、ソフィア様はものすごく真面目な顔で、私の肩にポンと手を置いた。どこか悟ったような顔だった。


「何かを得るには、何かを失わないといけないの。……私は、私の為に働く者たちにリスペクトを持っているわ。だから、その働きに相応しい見返り(食事)を与えたいのよ。これが、私の経営理念よ」


私は、ポンと置かれたその手をそっと掴んで離しながら言った。


「いや、すごくカッコよく言ってますが。それ、ただ暴走族の子たちを拘束するってことですよね?」


「まあまあ。ヒルデは、ナースチャと違って『戦闘力が高い子』が好きなのよ。レディースって、要はギャングでしょ? アメリカで見てきたわ。そういった意味では、ヒルデの趣味に合っているのよ」


「ぬー……」


私は少し葛藤したが、やがてため息をついた。


「分かりました。私も鎌倉は好きです。そこの治安が良くなるなら……目をつぶります。……ただ、あまりに変なことをしたら、言わせてもらいますからね!」


「分かったわ。……それじゃあ、今回は解決ってことでいいかしら?」


私たちはその場で4人で握手を交わし、作業に戻った。


「しぐれ、ちょっと」


アナスタシアさんに呼ばれ、私は二人きりで奥の作業室に入った。


「はい、なんでしょうか」


「その……この間はごめんなさいね。ちょっと強引でした」


「ちょっと、ではなかったですけど……もう大丈夫ですから。今後はあいうのは……」


私が言い終える前に、アナスタシアさんがスッと私の腰に手を回し、距離が近くなる。


「あなたが『私のもの』だという気持ちは変わらないわ。……それだけは、理解してらして?」


「う……。ちょっと、まだそういうのは分からないのと……私は、誰のものでもない……です……」


「強情な子。そういうところも変わってないわね」


彼女は、少し嬉しそうに妖しく笑った。


「変わってないって……ずっと私はこうですよ!」


「そうね。……ところで」


アナスタシアさんの深い青の瞳が、スッと細められた。


「あなたから、景の『メスの匂い』がするのだけれど。……これは、私への当てつけかしら?」


「え!? なんでれすか!? メスの匂いって!!」


私はパニックになって噛んだ。


「まぁ、あなたぐらいの歳だと、色々とあるわよね。ある程度は目をつむるつもりですが……『浮気』はダメですからね、しぐれ」


「いや、うわきとか……その……ないです!」


「嘘つきで浮気者には……上書きしないといけないわね」


そして、舌の根も乾かぬうちに。

この人は強引に私にキスをしてくる。しかも口に舌を入れてくるやつだ。正直、すごくうまい……。


「うっ……んにぁっ、や、さっきの約束は……!」


怒ろうとして目を明けると。

そこには、すごく怖い顔のアナスタシアさんがいた。


『――今回はこれぐらいで許すが、あまりおイタはするな』


言葉にしなくても伝わってくる、無言の圧力だった。


「……返事は?」


「は……はい……」


フラフラになりながら廊下に出ると。

そこには、壁に体を委ねながら立っているソフィア様がいた。


「まったく、ナースチャって子は……意外とわがままで、子供なのよね……」


ソフィア様は、優しいわけではないが、どこか子供に向ける母のような目をしていた。


「う……お嬢様。私は失礼します」


ばつが悪そうに、アナスタシアさんは足早にどこかへ行ってしまった。一人残された私も、ものすごく気まずい。


「しぐれ」


ソフィア様が私を見た。


「ちょっと色々とひと段落ついたことだし……私の相談に乗ってくれないかしら?」


「え、は、はい。……どういった?」


「デートの相談よ。……現代人のアドバイスが欲しいの」


(第18話 完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ