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鎌倉ヴァンパイア・ヴィンテージ ~独占欲強め銀髪メイド様は、私(の血)を独り占めしたい~~  作者: つきよ


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第17話 「朝チュン事件とストライキ(前半)」


翌朝。

朝の通学路を、私と景ちゃんは二人で並んで歩いていた。

(……なんだか、すごく新鮮だ)


学校の校門に差し掛かったところで、朝練終わりなのか、剣道着姿の義乃よしのとバッタリ出くわした。


「あ、よしのー! ごきげんよう」


私が手を振ると、義乃は竹刀袋を肩に担ぎ直しながら首を傾げた。


「ごきげんよ……う? あれ、二人とも同じ方向からだっけ?」


義乃の視線が、私と景ちゃんを交互に捉える。

私は胸を張り、サラッと言ってのけた。


「今日、家に泊まってもらったんだ」


「えええええっ!? なにそれ!? あとで詳しく!!」


義乃の素っ頓狂な声が、朝の校門に響き渡った。



朝のホームルーム前。

自分の席についた私は、前の席の義乃に事の顛末(の一部)を話した。

あくまで「親戚だということが分かったから、ちょっと家の都合でうちに泊まっている」というマイルドな設定にしてある。


「……しぐれたち、やばいよ」


義乃は声をひそめ、チラリと教室の後ろを見た。

そこでは、いつも通り机に突っ伏して寝たふりをしている景ちゃんの姿がある。


「それ、一緒に住んでるなんて『親衛隊ファンクラブ』にバレたら、ガチでやばくない?」


純金組のお嬢様でありながら、学園の孤高の狼。

景ちゃんには、熱狂的な取り巻きのファンクラブが存在するのだ。


「そしたら、ちゃんと説明するよ。……それで駄目なら、拳で分かってもらう」


私は真顔で、両手で拳を作ってみせた。


「しぐれ……なんかキャラ変わったね……まぁ……分かったけど」


義乃が少し引いている。

……そりゃそうだろう。


(あんな至近距離で、あんな可愛い顔で『ダーリンさん』なんて言われたら、誰だって覚醒するっての……!)


昨夜の布団の中での出来事を思い出し、私は一人で顔を熱くした。



お昼休み。

お弁当箱を広げながら、私は義乃に提案した。


「よしの、今日のお昼ご飯、景ちゃ……景さんと一緒に食べてもいい?」


「え? 私は別にいいけど……」


義乃は少し困ったように頬を掻いた。


「あいつ、昼はいつも『バンド仲間』と食べるから、無理なんじゃない?」


「え?」


私は目を丸くした。


「バンド、やってたの?」


「あんた、一緒に住んでるのに知らないの? 軽音部じゃなくて、外のスタジオで組んでるやつ。結構ガチみたいだよ」


知らなかった。

言われてみれば、私は今まで「怖いヤンキー」だと思って、景ちゃんの方をなるべく見ないように避けて生きてきたのだ。

彼女の好きなもの、普段何をしているか、どんな音楽を聴くのか。

私はまだ、彼女のほんの一部しか知らない。


(……今度、ゆっくり聞いてみよう)



放課後。

いよいよ今日は、あの洋館へ乗り込んで「労働組合ストライキ」の決起集会を行う日だ。

気合いを入れ直し、カバンを持って教室を出ようとした、その時だった。


「大庭さん? ちょっといいかしら」


「えーと……」


声をかけられ、振り返る。

そこに立っていたのは、三つ編みのおさげ髪に、分厚い銀縁眼鏡をかけた女子生徒だった。

絵に描いたような「優等生」という出立ちだが、どこか目が笑っていない。私とは全く接点がないタイプの子だ。


「あ、隣のクラスの丹羽たんばです」


「あ、はい。……なんでしょうか?」


丹羽さんは眼鏡のブリッジを中指で押し上げると、冷ややかな声で言った。


「ここではなんですので、こちらに来てください」


「……」


「旧校舎へ」


有無を言わさぬその圧力に、私はカバンの持ち手をギュッと握りしめた。




旧校舎の裏手。

昼間でも薄暗いその場所に、私と丹羽さんは向かい合って立っていた。


「……で。お話って、なんでしょうか」


私が警戒しながら尋ねると、丹羽さんは冷たい声で言った。


「大庭さん。あなた、最近、景様……梶原さんと急接近していますね」


(うわ、やっぱり『親衛隊』だ)


私はカバンを強く握りしめた。

カバンでまずは顔を叩いて逃げよう。

伏兵がいるかもしれないし。

そう覚悟を決めて身構えた、その時――。


「安心してください」


丹羽さんが、ふっと肩の力を抜いた。


「私たちは『後方腕組み見守り派』です」


「……はい?」


「孤高の狼である景様が、最近あなたの前でだけ見せる『優しい表情』……あれは、非常に良いものです。我々見守り派は、二人の関係を陰ながら応援する所存です」


丹羽さんが、急に早口のオタクみたいな熱量で語り出した。


「あ、ありがとうございます……?」


「ですが、気をつけてください」


丹羽さんの顔が、再びスッと真顔に戻る。


「親衛隊の中には『景様は誰のものにもならないから美しい』と主張する『過激派』の派閥が存在します。彼女たちは、あなたと景様が一緒に住んでいると知ってしまった以上、間違いなく何かしらのアクションを起こすでしょう」


「なぜ、それを……」


「いつも、寒川さむかわにお住まいの景様がそちらの方面から現れず、貴女と一緒に登校してくれば分かることです」


丹羽さんは眼鏡をスッと光らせた。


「現在、この事態は『朝チュン事件』としてファンクラブ内で共有され、すでに捜査本部が立ち上がりました」


(朝チュン事件って何!? )


「ええ。背後には気をつけて。……我々から言える忠告は、それだけです」


丹羽さんはそれだけ言うと、踵を返して旧校舎の影へと消えていった。


(……面倒くさいことになってきたぞ)


私は一人、大きなため息をついた。


そして、放課後。

私と景ちゃんは、洋館の重厚な扉の前に立っていた。


「行くよ、景ちゃん。労働組合の決起集会ストライキだ」


「はい!……」


私たちは顔を見合わせ、力強く頷くと、バンッと扉を押し開けた。


エントランスホールを抜け、メインの応接室に入る。

そこには、豪華なソファ(玉座?)に深々と腰掛けるソフィア様と。

その背後に控える、銀髪メイドのアナスタシアさん、そしてメイド長のヒルデさんが並んでいた。


「……来たわね」


ソフィア様が、ワイングラスを揺らしながら言った。

声は威厳に満ちているが、グラスを持つ手がかすかに震えている。


「こちらは丸腰よ。信頼できるスイス傭兵隊は、もういなかったわ……」


(スイスようへいたい……? よく分からないけど、そんなの今の時代にいるの?)


どうやら『革命』というワードにビビり散らかし、かつてのトラウマから完全に思考が過去に退行しているらしい。


「改めて聞くわ。……一体、どういうことなの?」


ソフィア様の問いに、私は一歩前に出た。


「どういうことも何も、労働環境の改善要求です!」


私はビシッと、後ろに控える無表情の銀髪メイドを指差した。


「そこのアナスタシアさん! 私は『嫌だ』って言ったのに、無理やり縛って、その……太ももの……すごい変なところから血を吸ってきました! しかも魅了チャームまで使って!」


「なっ……」


ソフィア様が目を見開く。

続いて、景ちゃんが一歩前に出た。


「そこのメイド長もです! 筋トレの指導までは耐えましたが、夜な夜な私の部屋に忍び込んできて、首筋の匂いを嗅いだり、血を吸おうと迫ってくるのです! 実質の夜這いです!」


私たちの悲痛な訴えが、応接室に響き渡る。

沈黙が落ちた。


「…………」


ソフィア様は、プルプルと震える手でワイングラスをテーブルに置くと。

勢いよく立ち上がり、背後の二人を怒鳴りつけた。


「あんたたち!! 一体何やってんのよ!!」


ソフィア様の怒号に、アナスタシアさんとヒルデさんがビクッと肩を揺らす。


「ある程度の『おイタ』は許してるけど、やりすぎは良くないわよ! 今の時代、完全に『コンプライアンス違反』よ!」


おおっ。

ソフィア様が、現代社会の倫理観を理解している……!

私は感動で胸を熱くした。なんだかんだで、この吸血鬼の真祖は話が分かる人なのだ。


「いいこと!? 吸血鬼たるもの、気高く、美しくありなさい! やるんだったら、優雅にやりなさい……」


ソフィア様は腕組みをして、ドヤ顔で言い放った。


「まずは家を焼き払い、親族を人質に取り、精神と肉体を徹底的に屈服させてから、相手が自ら『どうか吸ってください』と泣きついてくるように仕向けるのとか、縛る時も鞭と飴を使うのが真祖としての正しい作法でしょう!!」


「いやいや、バリバリ中世の価値観出てるよ!!」


私のツッコミが、洋館の天井に虚しく響き渡った。


(第17話 完)


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