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鎌倉ヴァンパイア・ヴィンテージ ~独占欲強め銀髪メイド様は、私(の血)を独り占めしたい~~  作者: つきよ


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第16話「今日、うちの家には親がいないんだよね、真夜中のプロポーズ?!」

「失礼いたします……」


私の家に着くなり、景さんは誰もいない玄関に向かって丁寧に靴を揃え、深く一礼をした。

あ、私にじゃなくて「家」に礼をしてるのか。律儀な子だ。


私の家は、私が中学生の時に亡くなったおばあちゃんが住んでいたものだ。

実はお父さんがお母さんと駆け落ちした時に、実家とは仲が悪くなっていたらしい。でも、私……要は「孫」が生まれたことで、段々と関係が修復されたそうだ。孫の存在とは偉大なものである。

そんなわけで、この家は結構広くて、初めて見た時は「屋敷!?」と思ったほどだ。


「あの、まずは、ご家族の方にご挨拶を……」


「あ、うち、今親いなくて私一人で暮らしてるよ。元々ここはおばあちゃんの家で、亡くなってからは空き家になってて。その後、私が高校入学を機に引っ越してきた感じ」


「そうだったのですね。すごい、立派なお屋敷です。築何年ぐらいなのでしょうか」


「そういうの、全く分からないんだよねー」


ふと、景さんの包帯や服が汚れていることに気づいた。


「そうだ、景さん。よかったらまずはお風呂入りませんか?」


「あ、じゃあ先にしぐれ様が……」


「その『様』は、やめませんか?」


私は玄関のかまちに座りながら、彼女を見上げた。


「私たち、同い年だし。よかったら敬語もなしで……どう?」


「しぐれ様……っ、しぐれ、ちゃんが言うなら……わかりま……わかった」


「私も景ちゃんって呼ぶね! ありがとう。じゃあ、先に入ってね」


なんだか、友達とのお泊まり会みたいで楽しい。

景ちゃんがお風呂に入っている時、私のスマホが震えた。


画面を見ると、ソフィア様からだ。


「はい、しぐれです」


『夜分遅くににごめんなさいね。……その、景はそこにいるのかしら?』


どうやら、所在を確認しているようだ。奪い返しに来るのだろうか。


「います! 今日は私の家に泊まってもらうことになりますから! そっちの人質とかあるのは分かりますが、今回は例外です!」


『あ、ならよかったわ。ちょっと落ち着きなさいよ。別に人質とは思ってないわ』


電話の向こうのソフィア様は、呆れたようにため息をついた。


『景の先祖の景時かげときは、真面目で食えないヤツだったけど、助けてもらったこともあるし、最期は分かり合えたから仲はいい方よ。なんだかんだ、お世話になった恩義を感じているの』


「なるほど……」


『これは雇い主として、そして、梶原家から大切な娘を預かっている親の代理として連絡したのよ』


……意外とお母さんなところがある、ソフィア様。


「な、なるほど。では、当分はうちで住まわせていただくことになると思います」


『何があったのよ……。ともかく、分かったわ。向こうの家には私から連絡しておくから。……明日は来るの?』


「ソフィア様、それはアナスタシアさんとメイド長に聞いてください!」


『そうなの? 私も二人に聞いたんだけど、二人とも「知りません」って、お互いに口笛吹きながら言ってたから。何も知らないと思ってたわ』


あの二人には、本当にお灸を据えたい。


「なら、明日、行きます。ですが、話し合いをさせてください! これは革命ですから!」


『か……革命!!?』


電話越しに、ソフィア様がガタッと椅子から落ちるような音がした。


『わ、分かったわ……分かったから、革命はやめて頂戴。本当に、もうフランスの時みたいなのはこりごりなの……』


「変なトラウマを思い出させてしまったのは申し訳ございませんが、明日はそのつもりで行きますので」


『分かったわ……いい? 松明とかレンガとかを投げるのはなしよ? 危ないから』


「分かりましたよ……(本当にフランスで何があったんですか)」


『それと。……二階堂から返事が返ってきたわよ。「デートいい」って。あなたのおかげよ』


「よかったですね。自宅を爆破した本人からのデートなんて、普通は受けてくれませんよ……?」


『あなたのアドバイスも欲しいから、早く戻っておいでね』


なんか、優しいな。いいなぁ、こういう感じ。

ポンコツなところもあるけど、こういうところが慕われるのだろう。


電話を切って、私はウーバーイーツを頼んだ。

そう、日給が支払われているので、今の私はちょっとした小金持ちなのだ。


「いい湯でした……」


リビングのドアが開き、私の服を借りて着た景ちゃんが現れた。


「あ、よかった! サイズが合って……うん?」


「あ、ああ。ありがとうご……ありがとう。ふぅ……合ってるよ」


身長や体格はそれほど変わらないのだが。

胸部の部分だけが、すごく苦しそうにパツパツになっている。

私のTシャツには、可愛いアニメキャラクターの絵がプリントされているのだが。私が着ると綺麗に見えるそのキャラの顔が、今は芸人さんがストッキングを被って顔を引っ張られている、あの状態に似ている。


「そ……そんなに伸びるぅぅ……?」


格差社会の残酷さを突きつけられながら、二人でウーバーのご飯を食べた。

色々と話しているうちに、結構いい時間になった。


「私のベッドで寝てね。布団は他にあると思うんだけど、蔵の中みたいで……」


「いや、それはさすがに悪い……から。私がソファで寝ま……寝る」


「よかったら、一緒に寝よう!」


私は完全にお泊まり会テンションだった。

私たちは電気を消して、二人でベッドに入った。


「そういえば、聞きたかったんだけど。私の家と景ちゃんの家が親戚って、どういうこと?」


「えっと……長い話になるんだけど」


暗闇の中で、景ちゃんがポツリと語り始めた。


鎌倉権五郎景政かまくらごんごろうかげまさ公っていう、目を射抜かれても戦い続けた武将がいて。その人が、私たちにとって同じ『祖』にあたるんだ。その子孫たちが、それぞれ名前を変えて、大庭おおば氏、長尾ながお氏、三浦みうら氏、梶原かじわら氏と名乗った……って感じ」


「へぇ~、そうなんだ。目、痛いのにすごいね。……三浦って、義乃よしのの苗字もそうだね」


「だから、あいつとも遠い親戚ではあるんだ」


「義乃とも遠い親戚なのかぁ~、だから妙に馬があうのかな」

「でも、みんな名前が違うんだね。普通、『鎌倉』って名前になるんじゃないの?」


「全員が『鎌倉』だと分かりづらいから、自分たちが治めて住んだ土地の名前を取ったらしい。……厳密に言うと、その景政公の直系の嫡男(長男)が『大庭氏』を名乗ったから、大庭が本家になる。私の梶原家は、そこから分かれた弟の家系にあたるから、分家……って感じ」


「なるほど……」


お父さん、その辺のこと全然教えてくれなかったな。今度聞いてみよう。


「それと、景ちゃん。前に『結婚とかも家で決められる』って言ってたけど……そういうのはさすがにもう無いよね?」


「……うちは、そうしないとダメ」


景ちゃんの声が、急に小さく、沈んだ。


「家を継がないといけないんだけど、うちは分家の分家だから……格上の家に嫁ぐことになってて。……あんまり、得意じゃなくて。相手、年が30ぐらい上で……」


暗闇でも分かるくらい、すごく寂しそうな目をしていた。

何それ。今の時代、ありえなくない!?


「じゃあ、私たちが結婚すればいいじゃない?」


「……え?」


「うちも男の人いないけど、ほら、大庭家って『本家』だし? うちと結婚するなら、格上になるんじゃないの?」


私が思いつきで言うと、景ちゃんは目を丸くした。


「た、確かに、今の婚約予定の人よりも格上ではある、けど……。でも、同性じゃ結婚できないし、子供が……」


「それなら、どっかの梶原さんちの親戚から養子をもらえばいいし、どうよ?」


「でもそれだと、同じ梶原家でも、うち(景の家)の血が繋がらないから……」


「なんか、マジすかTVで専門家の人が言ってたけど、女の子同士でもiPS細胞とかで子供できる技術があるらしいよ! 法律も今後『同性婚もあり』ってなるかもしれないし、景ちゃんが政治家になって変えるのも手だよね! 体外受精? とかもあるし!」


私はオタク特有の早口で、めちゃくちゃな理屈を並べ立てた。


「ふふっ……」


景ちゃんが、小さく吹き出した。


「そうなってくれたら……嬉しい。二人で、色々と遊びに行ける...」


彼女が嬉しそうにしてくれた。

今の日本ではダメだと分かっているし、夢物語かもしれない。それでも、彼女が喜んでくれるなら、本当にそうしたいと思ってしまった。


「ありがとう。そう言ってくれるだけでも、嬉しいです」


「本当にそうなるようにしようよ!!!」


私はガバッと起き上がった。


「私、景ちゃんのこと最初はヤンキーで怖かったけど、色々と話したら、いい子だし、ちゃんとしているし、優しい子だって分かったから!」


「しぐれさ……しぐれ、ありがとう」


「結婚しても、自由にしてていいし! 好きな男の人ができたら、その人と離婚して結婚してもいいよ! バツイチになっちゃうけど!」


それじゃ、意味ないじゃんと言って笑う景ちゃんの笑顔は、すごく可愛かった。

なんだろう。女の子に対して「可愛い」と思うことはよくあるけど、この胸の奥がキュッとなる感覚は……。


「本当にそうしてくれるなら……ずっと一緒にいてください、しぐれ」


起き上がっている私を見上げて。

景ちゃんが、私の唇に、優しくキスをしてくれた。


「え、ちょ、え!?」


「頼むよ……約束だからな、私のダーリンさん」


「え、え! はい! え!?」


そのまま、景ちゃんは満足そうに目を閉じ、スヤスヤと寝てしまった。


私は一人、仰向けのまま布団を被る。

目がギンギンだ。


(……いやいやいやいや!?)


いつもアナスタシアさんにもっと凄いこと(吸血とか太ももキスとか)をされているけど。

正直、それよりもずっと、心臓がバクバクして破裂しそうだった。


翌朝。

目を覚ますと、キッチンからトントンと包丁の音が聞こえてきた。


「お、おはようございます……」


「おはようございます、しぐれ」


そこには、私のエプロンを身につけ、鼻歌を歌いながら料理をしている景ちゃんの姿があった。

朝の光に照らされて、なんだかすごく新婚さんっぽい。


「朝ごはんと、お弁当を作りました。冷蔵庫の材料、借りた」


「あ、ありがとうございます……」


私は照れ隠しに鼻をこすりながら、食卓についた。

……こんな生活も、悪くないぜ。


(第16話 完)

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