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鎌倉ヴァンパイア・ヴィンテージ ~独占欲強め銀髪メイド様は、私(の血)を独り占めしたい~~  作者: つきよ


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第14話「独占欲が強い銀髪メイド様と秋葉原デート」

【同日・昼下がり 撤退中のイギリス大使館車両内】


「ふふっ……悪くないわ。あの目、やっぱり最高ね」


神奈川県警本部から悠々と撤退する高級車の後部座席で、私は上機嫌に足を組んでいた。

二階堂のあの絶望と反抗が入り混じった瞳。思い出すだけで胸が高鳴る。


「さて、Bチームのナースチャ(アナスタシア)に連絡しておかないとね。お目当ての獲物には唾をつけたし、手荒な真似はもう必要ないわ」


私はスマートフォンを取り出し、アナスタシアの番号へ発信した。

数回のコールの後、ガチャリと電話が繋がる。


『はい! お疲れ様です!』


「あら。もしもし、ナースチャ? 今どこかしら?」


『あ、ソフィア様! 私、しぐれです。アナスタシアさんは今、最終確認をしていて手が離せないので、私が代わりに出ました!』


電話に出たのは、メイドのしぐれだった。

背後で何やら慌ただしい作業音が聞こえる。


「しぐれ? 貴女、Bチームに同行していたのね。ちょうど良かったわ。今、そっちはどんな状況?」


『はい! 今ちょうど、設置が終わったところです!』


「……え? 何を設置したの?」


私は怪訝な顔をした。

Bチームの任務は、二階堂の自宅への強襲と本人がいたら身柄の確保(拉致)のはずだ。設置するようなものなどないはずだが。


『なんか、ダイナマイト? みたいな、いっぱいコードが繋がったやつです!』


「は?」


私の思考が数秒停止した。


「ダイナマイト? ……え、ちょっと待って。私、そんな指示出してないわよ?」


『えっ? だって、アナスタシアさんが言ってましたよ。昨日の夜、ソフィア様が酔っ払って「あの子の帰る場所を物理的に無くせば、私の屋敷に来るしかないじゃない! 家ごと吹き飛ばしなさい! ぎゃははは!」ってノリノリで命令してたって……』


しぐれが、私の真似をしているつもりなのだろう、妙に似ている酔っ払いのモノマネを交えながら弾んだ声で教えてくれる。


「……ッ!!」


私の脳裏に、昨夜の立食パーティーでワインをがぶ飲みし、眷属たちに管を巻いていた自分の姿がフラッシュバックした。


(……言った。私、間違いなくご機嫌で言ったわ。ていうかナースチャ、あれ酒の席の冗談だって普通気づかない!? 吸血鬼の忠誠心重すぎない!?)


私は頭を抱えた。

自分の酒癖の悪さと、部下の融通の利かなさが奇跡の化学反応を起こしてしまったのだ。


「……はぁ。あの作戦は中止よ。しぐれ、貴女が会議で言ってくれた言葉を思い出したの。強引に奪うのではなく、彼女とは正面から向き合ってみることにしたわ。……ありがと――」


私が珍しく素直な感謝の言葉を紡ごうとした、その瞬間だった。


――ドッゴォォォォォォォンッ!!!


電話越しに、鼓膜を破るような凄まじい爆発音が響き渡った。

衝撃波でマイクが割れたようなノイズが走り、私は思わずスマホを耳から離した。


「な、何事!?」


数秒後、ノイズの向こうから、何事もなかったかのように平坦な声が聞こえてきた。


『あ、爆破したみたいです! 木っ端微塵ですね! ……で、ソフィア様、すみません爆音で聞こえなかったんですけど、今、何か言いかけましたか?』


「…………」


私は、燃え盛るであろう二階堂の自宅アパートを想像し、遠い目をした。

先ほど、警察署の前でカッコよく「デートしましょう」と誘ったばかりなのに、その相手の家を物理的に消し飛ばしてしまったのだ。これで嫌われなかったら奇跡である。


「……いや。大丈夫よ。……気を付けて戻ってらっしゃい」


『はーい! 了解です!』


ガチャリ、と通話が切れる。


「(……あの子、あんな至近距離の爆発音なのにケロッとしてたわね。この数日で、ずいぶんと図太くなったものだわ……)」


私は、二階堂からの好感度がストップ安になったであろう絶望感と、しぐれの謎の成長に対する呆れで、そのまま車のシートに沈み込んだ。


【翌日(月曜日、祝日)・北鎌倉駅前】


キュッ、とグラスの氷が溶ける音がした。

季節は少し暖かくなり、私が注文した冷たいアイスコーヒーが美味しく感じる。


今日は祝日の月曜日。お休みの日だ。

私は自分の通う高校の最寄り駅でもある、北鎌倉駅の近くの喫茶店で待ち合わせをしていた。

昨日の午後、二階堂さんのアパートを爆破した(させられた)後、無事に任務(?)を終えた私たちは、「明日こそデートに行きましょう」と約束していたのだ。


カランコロン、と喫茶店のドアが開く。


「……しぐれ、お待たせしました」


声のした方を向いて、私は思わず息を呑んだ。

そこに立っていたのは、大きなサングラスをかけ、東京の銀座を歩いていそうな洗練された服装の女性だった。

綺麗、というより「カッコイイ」。

いつもはレディースメイドとして控えめで上質な服を着ているアナスタシアさんだが、休日の私服はモデル顔負けのオーラを放っていた。


「わぁ……アナスタシアさん、すっごく似合ってます!」


「そうですか? お嬢様に見立てていただいたのですが……少し落ち着かないですね」


サングラスを外した彼女が、少し照れたように目を伏せる。

その仕草がまたズルい。


「それじゃあ、行きましょう!」


私は自然と、友達と遊びに行く時のようにアナスタシアさんの手を取って、駅へと向かった。


鎌倉から秋葉原まで、電車に揺られながら向かう。

思えば、こうして二人きりでゆっくり過ごすのは初めてかもしれない。いつも前後にヤクザの襲撃があったり、世界規模の会議があったり、爆破テロがあったりしたからだ。


今日は、アナスタシアさんの古いスマホとPCを買い替えるための、純粋なお出かけだ。


ふと隣を見ると、アナスタシアさんと目が合った。


「しぐれは、秋葉原にはよく行くのですか?」


「そうですね。私、アニメのグッズとか好きなので、買いに行ってます。一時期はメイドカフェとかにも通ってましたよ」


「そうなのですね。私はアニメというものは見たことがないのだけれども……そんなに面白いものなのですか?」


「面白いですよ! いろんなジャンルがありますし。それこそ、アナスタシアさんたちのような『吸血鬼』が出る作品もいっぱいありますよ」


私が言うと、彼女はふふっと上品に笑った。


「あら、そうなのね。人間の創作の中の私たちは、ニンニクに弱くて、銀にも弱くて、なぜか朝日を浴びると死んでしまうのよね」


我々が思い描くヴァンパイアの弱点が、彼女にはおかしく見えるらしい。


「えっ? ニンニク、嫌いじゃないんですか?」


私は笑いながら聞いた。

仕事中は近寄りがたくて怖いって感覚もあったけど、今日のアナスタシアさんはどこか親しみやすくて、ずっと表情が柔らかい。


「全然嫌いじゃないわ。普通よ。……日本人がみんな、お刺身が好きなわけじゃないのと同じよ」


「なるへそ」


確かに、考えてみたらそうだ。大まかな体の作りは人間と変わらないのだから。


「しぐれは、どのアニメが一番好きなの?」


「よくぞ聞いてくれました! 歴史ものも好きなんですけど、SFが一番好きです。それこそ、今日行く『秋葉原』を舞台にしたアニメが大好きなんですよ」


「あら、そうなの? どんな物語なの?」


「えーと、大学生の主人公がタイムトラベルをして、自分の仲間たちのために色々と頑張るストーリーなんです。過去を変えて、未来を救うみたいな」


「それは、仲間みんなで時間旅行をするの?」


「いえ、主人公しか『記憶』がないんです。世界線を移動すると、他の人は主人公と過ごした思い出を忘れちゃう……って感じです」


私が説明すると、アナスタシアさんは少しだけ寂しそうな顔をした。


「……それは、辛いお話ね。自分は相手との思い出を覚えているのに、相手は全て忘れてしまっているなんて」


「そうなんですよ……。でも、孤独になっても、みんなのために、愛する人のために足掻いて頑張る姿が、すごく好きなんです」


熱く語ってしまった。

周りの高校の友達にはあんまり言えない趣味だったけれど、否定せずちゃんと聞いてくれるのが嬉しかった。

彼女のような途方もない時間を生きる存在にとって、「記憶を取り残される孤独」は、アニメの中だけの話ではないのかもしれない。


「ここ最近は本当に色々とありましたが……今日は全部忘れて、楽しみましょうね!」


私が笑いかけると、彼女もコクリと頷いた。


【東京・秋葉原】


「うわぁ……人が多いですね。そして、目がチカチカします」


秋葉原駅の電気街口を出た瞬間、鎌倉とは全く違うポップカルチャーの街の風景に、アナスタシアさんは圧倒されていた。


「ふふっ。今日は私がエスコートしますからね、はぐれないでくださいよ」


「ええ。なら、お願いするわ」


私は彼女の手を引っ張り、まずは家電量販店へと向かった。


「まずは、スマホを買いに行きましょう! 機種はお嬢様から『Androidがお勧め』って聞いてきました。でも、私はよく分からないので、操作が楽なア〇フォンがいいとも思いまして」


「ほうほう、ソフィア様は分かってらっしゃるじゃないですか。ア〇フォンもよろしいですが、ここは.……ちなみに、アナスタシアさんが今使っている機種はなんですか?」


「よく分からないのです。私はこういう機械に疎いので……スマホを使っていますが、折りたたみの携帯に戻したいと何度も思っています」


「ちょっと拝借しますね。どれどれ……って、これ!」


彼女がバッグから取り出した端末を見て、私は目を丸くした。


「これ……らくらく◯ォンじゃないですか!!!!」


ご年配のお姉さま方やお兄さま方が愛用している、ボタンがでかくて最低限の機能しかついていない、ある意味シンプル・イズ・ベストの極み!


「なるほど……分かりました。私と同じGoogleのP〇xelにしましょう。それなら操作方法に困っても、私に連絡できますから」


「よく分かりませんが、承知しました」


無事にスマホの機種変更を終え、次はいよいよPCショップだ。


「秋葉原は、『カメラ』をたくさん売っている街なのですか?」


街を歩きながら、アナスタシアさんが不思議そうに看板を指差した。


「ああ、確かにビッ◯カメラとか、ヨド◯シカメラって名前ですもんね。普通の巨大な電化製品屋さんだと思います」


そんな会話をしながら、PC専門店に到着した。


「……すごいですね。キーボードを押すと、光りますよ……」


ゲーミングキーボードのコーナーで、目をキラキラさせて驚いている銀髪の美人ヴァンパイア。ちょっとウケる。


「アナスタシアさんの使っているPCって、すごく古いですよね。フロッピーディスクとか使ってそう」


「そうですね。あまりよく分からないです。大体、お姉様たちとの連絡か、外部の対応で使うぐらいしか使えていないですね。……これでもだいぶ使いやすくなったのですよ? 前は小さい画面で、横にカセットテープみたいなものを入れて読み込ませていて……」


カセットテープ……?

もしかしてその幻のレトロPCってIBM....

いや、まさかね。


「そうなんですね。仕事に使うのはもちろんですけど、最近のPCは色々とできますよ。映画を見たり、動画を見たり。……アナスタシアさんのお部屋にお邪魔した時に驚いたんです。本が少しと、古いPCとベッドしかなかったから」


「……今の時代の『遊び』などは知らないのよ。昔は、生き延びるだけでやっとだった時代も長かったし」


彼女の言葉に、少しだけ胸が痛くなった。

そんな寂しい生活、もったいない。


「じゃあ、一緒に動画を撮影して編集してみるとかどうですか? あと、一緒にゲームをやりましょうよ!」


「そうね。……一緒にやれるなら、いいわね」


彼女が優しく微笑んでくれた。

そうなると、既存のメーカー製PCよりも、カスタマイズ可能なゲーミングPCがいいなぁ。でも、最近のPCはグラフィックボードとか高騰してるし……。


「あの、アナスタシアさん……。本日のご予算は?」


「お金がかかると聞いているから、持ってきているわよ」


アナスタシアさんが、高級そうな革の財布を開いて見せてくれた。

中には、鈍く光るコインが大量に入っていた。


「……えっと、これは何の? いや、いつの時代の硬貨ですか……?」


「ああ、これは昔、お嬢様と一緒にスペインのガレオン船を襲った時の金貨ですから、純金ですよ」


「いやいやいや! 密輸品! それ大航海時代の海賊のやつ!」


私は慌てて彼女の財布を閉じさせた。

秋葉原のPCショップで、数百年前のスペイン金貨で支払いをする客なんて通報案件だ。


「分かりました、ストップです! 今の日本では、金貨をそのまま使うことはあまりないんです。……あの、普通の『円』はありますか?」


「円ですか? もちろん。普段はこちらのカードを使っています」


そう言って、おもむろに取り出してきたのは――漆黒の輝きを放つ、最上級のブラックカードだった。


「……」


どうやって審査に通ったの?

どのようにして維持費を払っているの?

ていうか、メイドの給料っていくらなの?


私の中に渦巻く無数のツッコミを飲み込み、私は静かに店員さんを呼んで、最高のゲーミングPCを一式お買い上げした。


無事にPCを街の配送ボックスに入れ、私たちは次の目的地へ向かった。

メイド喫茶だ。


「メイド喫茶とは聞いたことありますが、ご給仕してもらうだけですよね?」


現役の本職(屋敷のメイド)がそれを言ったらおしまいだろうと思いつつ、私は答えた。


「そうなんですよ。でも、可愛いメイド服を着た子に萌え萌えされたら、楽しいですよ」


「なるほど……分かりました」


雑居ビルの階段を上がり、ピンク色のドアを開ける。


「おかえりなさいませにゃん!」


そこには、猫耳のカチューシャと可愛いメイド服を着た店員さんが立っていた。


「お嬢様お二人は、この国は初めてにゃん? ここは猫の国だから、いくつか禁止事項があるにゃん!」


そう言いながら、店のコンセプトの説明に入る。

自然な動線だ。さすが老舗のメイドカフェ。面構えが違う。


そんな、審査員を装っている私の隣で、アナスタシアさんが真剣な顔で頷いた。


「あ、ここは治外法権なのですね。禁止事項とは、偶像崇拝とかですか?」


「ぐうはい? ……ここのメイドさんたちは元々ネコちゃんなので、いきなりのお触りは禁止にゃん!」


いい具合に外国人っぽい(というか中世ヨーロッパ基準の)リアクションをするヴァンパイアと一緒に、私たちは案内された席についた。


「どうですか?」


私が尋ねると、アナスタシアさんは店内を見渡し、小声で答えた。


「そうね。まぁ、娼婦の館みたいな異次元な感じがするわ。みんなスカートが短いし」


「絶対に、その感想言わない方がいいです。気をつけてください」


たぶん、彼女の一番知っている「女性が接客する館」の体験を例えて言ってくれたのだろうけど、それはコンプライアンス的にNGすぎる。


私たちは、メイドカフェの定番中の定番、オムライスを頼んだ。

ケチャップで猫の絵を描いてもらい、いよいよ「あの」儀式だ。


「ではお二人には最後に、美味しくなるおまじないをしてもらうにゃん! 『もえもえにゃん』って、うちに合わせて言ってほしいにゃん」


「……」


アナスタシアさんは、一切の感情を排したすごい真顔で、両手をグーにして猫のポーズを作った。

どんな感情なんだろう。


「これでおいしくなるんですね。なるほど……原理はまったく分かりませんが、今日お嬢様にオムライスを作って差し上げる予定なので、やりましょう」


「ぶぶぶ!! ゴホンッ!」


私は堪えきれず、思わずむせてしまった。

ソフィア様の前で、あの真顔で「もえもえきゅん」をやるアナスタシアさんを想像してしまったのだ。


「大丈夫ですか?」


心配してくれたアナスタシアさんが、ハンカチを取り出そうと顔を近づけてきた。

そして、私の口元についていたオムライスの一粒を、すっと自分の指ですくい取り――そのまま自分の口に運び、ぺろんと舐めた。


「……ッ!」


あまりにも自然な動作に、私の顔が一気に熱くなる。

なんか、すごく恥ずかしい……。


「しぐれは、こういうメイド服が好きなんですか?」


彼女は私の動揺に気づいていないのか、店内のメイド服を見ながら聞いてきた。


「そうですね。こういうのは、自分で着るというよりは見る方が好きです。こんなフリフリで可愛いスカートを着ているメイドさんを見るのが好きなんですよね。秋葉原に売っているので、買おうとは悩むんですが、なかなか……」


「それでは……お互いに似合うと思うメイド服を買いませんか?」


「え、突然どうしたんですか?」


「今日の記念に、何か欲しいのです」


アナスタシアさんは、少しだけ上目遣いで私を見た。


「実は、こういう風に誰かとお出かけをするのは初めてで……何か記念に残したいのです。ダメ……ですか?」


そんな、大人の人の乙女的な上目遣いで言われたら……ダメじゃないですか……もう!!!


「……もちろんです! じゃあ、お互いお店で選びますけど、家に帰ってから開けて、お互い着た姿でビデオ通話しませんか? 今日買ったスマホの操作の練習も含めて」


「はい」


私たちはその後、コスプレショップでお互いに似合うであろうメイド服を内緒で買い合い、帰路についた。


合流した時の北鎌倉駅は明るかったが、今はすっかり暗くなっている。

そろそろお別れだと思いながら、少し寂しい気持ちになる。


「今日は、楽しかったです。また館で会えるのに、妙に名残惜しいですね」


「ですね。でもこのあと、お互いのメイド服を見せるイベントが待ってますよ」


「そうでした。まだデートは続くのですね」


彼女は今日一番の、柔らかい笑顔を見せてくれた。


「それじゃ……また……あとで」


「はい。お気をつけて、しぐれ」


【同日・夜 しぐれの自室】


自宅に戻った私は、スマホの設定(店員さんがやってくれた)を済ませ、交換したばかりのDiscordを開いた。


「よし……」


私は今、アナスタシアさんが選んでくれたメイド服を着ている。

フリフリがたくさんついていて、ピンク色が可愛い、ものすごくアイドル系の王道メイド服だ。

しかも妙に私のサイズに合っていてすごい。いつの間に測ったんだろう。


ビデオ通話のボタンを押すと、すぐに相手が出た。


『あの……アナスタシアです』


「はい、聞こえてますよ、アナスタシアさん」


『あの、カメラはどうすればいいですか?』


「左下にカメラのマークがあるので、それをタップしてください。私の姿は見えてますか?」


『ええ、見えています。とても似合ってますよ。……ただ、しぐれ。私の……その、すごく丈が短い……』


そんな話の途中に、いきなりアナスタシアさんのカメラがオンになった。

画面に映し出されたその姿を見て、私は言葉を失った。


そこには――バニーガールのような、胸元が大きく開き、スカートの丈が極端に短いセクシーなメイド服姿のアナスタシアさんがいた。

普段は露出の少ない服しか着ない彼女だからこそ、王道のクラシックも考えたが、足が長くてスタイルが良い彼女には、これ一択だと思ったのだ。


『その、こんな短いのは……すごく恥ずかしいです』


画面の中で、彼女が顔を真っ赤にしてモジモジしている。

ほう、意外にも恥ずかしがっている……よいではないか。何かに目覚めるかもしれない。


「あの、今日のメイドさんみたいに、『にゃんにゃん』って手を頭に置いてやってもらえますか? スマホは机に置いて、見えるようにしてください」


私は早口で指示を出した。


『え、いや、それは……』


「お願いします! アルバイト終了後に、私の血を飲んでいいので!」


『う……分かりました』


性欲ならぬ血欲には勝てないのが、ヴァンパイアさんの悲しいさがなのだろう。

アナスタシアさんは渋々スマホを置き、両手で猫のポーズを作った。


『う……にゃん……にゃん』


すごい小さい声でやっている、その時だった。


『――アナスタシアー? ごめんなさいね、入るわよー? デートの件で……』


画面の向こうで、ガチャリとドアが開く音がした。


『……あら〜〜〜〜?』


そこには、パジャマ姿のソフィア様が立っていた。


『あら、あら、あ〜ら〜? あららららぁ。相手はしぐれぇ〜? え〜、これは俗に言う、寝落ちもちもち通話になるのかしら〜?』


「あ、ソ、ソフィア様!! あの、これは!!! あの、その、二人の思い出で……!」


普段は冷静沈着なアナスタシアさんが、かつてないほど慌てふためいている。


『分かってるわ、分かってるから。今後はちゃんとノックをして、数秒置いてから入るわね。今日はお母さんが悪かったわ〜』


『お母さんじゃありません!!』


『寝落ち通話するなら、私の有線イヤフォンを貸してあげるから、ちゃんとドアを閉めるのよ〜。ウフフフフ……』


終始、謎の「娘の彼氏を冷やかすお母さんキャラ」だったソフィア様は、楽しそうに部屋を去っていった。

画面の中のアナスタシアさんは、真っ白に燃え尽きている。


「あ、アナスタシアさん……大丈夫ですか?」


『…………』


長い沈黙の後、彼女は画面越しに私をジロッと睨んだ。


『……今日は許します。次、うちに来る時は、たっぷり吸わせてもらいますからね』


いつもの、少しドSなアナスタシアさんに戻ってしまった。

でも、その顔はまだ少しだけ赤くて、私はベッドの上で一人、声を出して笑ってしまった。


(第14話 完)

すみません、興が乗ってしまい、大量に書いてしまいました。

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