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冬の国の魔女  作者: 洋梨
故郷編
2/9

2

夕暮れの中、私は台車を引いて自宅に向かう。

夏はやっぱり乾燥した道が台車を引きやすい。もうすぐ雨の多い秋や冬が来るのが残念だ。

エドナじゃないけれど、私も寒さの無い世界に行ってみたい。


私は茅葺(かやぶき)屋根が立ち並ぶ道で、屋根の上遥かにそびえ立つ山々を見上げる。

この山を越えて、さらにいくつかの谷を過ぎると、常春の世界があるという。

そこでは貴重な果物やスパイスのなる木が豊富にあり、人々は凍える心配なく野外で眠ったりするそうだ。

これは今よりもずっと冬を超えるのが大変だった時代、自分達を慰めるために考えたおとぎ話だというが、今でも十分慰められる話だ。


そんなことを考えているうちに自宅についた。

この町の外れ、細い木造の家が立ち並ぶ道の一番山側が私の家だ。

手早く家の裏手に周って庭に入り、帆屋根を含めて商品を全てかんぬき付の木製戸棚にしまう。


「じい様、今帰ったわよ。」

裏口から家に入ると、じい様ことドニは部屋の真ん中にある囲炉裏いろりそばの椅子に座り、うつらうつらと船を漕いでいた。

私は背伸びして囲炉裏にかかっている鍋の中身を見ると、薄い穀物の(かゆ)にふやけた乾燥豆と干し(たら)がはいっていた。

「珍しいこともあったもんだわ… 何の記念日でもないのに夕食の粥に鱈が入るなんて」


今にも寝そうなじい様の肩を揺らすと、彼はゆっくりと目を開いた。

「リーシュ、遅かったじゃないか。待ちくたびれて寝てしまったよ。」

じい様は淡々と言う。

「それより鱈はどうしたの?夕飯には珍しいんじゃない?」

私は気になっていたことをすかさず聞く。

「町の十字路あたりの広場で、大量に安く売られとったんじゃ。どこからか軍隊の駐留話を聞きつけて、商人が集まったせいで値崩れでも起こしたんじゃろ。」

じい様はにやりと笑った。

「もうそんなことになってるの。今日市場で右隣だったおばさんも飾り紐が良く売れたって言ってたのよ。

乾物はそんなに変わらない売れ行きだったけど…。でも色々いいことが起きるなら、毎年来て欲しいね!」

私は気軽に言ったけれど、じい様は難しい顔をした。

「今町の若い衆は浮かれているようじゃが、この鱈やそれ以外にも食糧が異常に出回っとる。

こういう現象には必ず慣れと反発がやってくる。

ワシはこの町には、軍隊の駐留を何度も向け入れられるだけの体力があるとは思えん。女王様は何をお考えなのだろうか… 。」


気まずい... 明るい雰囲気でエドナと一緒にパーティーに行くことを打診しようと思っていたのに。

じい様たら本気で(うれ)う顔をしだしたわ。

私は雰囲気を変えるため、わざと明るい声で囲炉裏に向かった。

「まあでも、この鱈には罪はないでしょう。美味しくいただいちゃいましょう。」

じい様は難しい顔をしていたが、それでも私の言葉を聞いてテーブルについた。


私たちは鍋をテーブルに移して、パンを浸しつつ鱈入り粥を堪能した。

いくらか緊張が解れたところで、私は切り出す。

「あのね、明日なんだけど、ついに駐留地に部隊が着くっていうでしょ。

それでなんだけど、エドナに誘われて、軍駐留歓迎パーティーに行ってもいいかな?

エドナ知ってるでしょ、ほら十字路あたりにある宿屋の娘で、町の学校に通ってた頃に知り合った子よ。」

私は最初はしどろもどに、最後は焦ってたくさん喋ってしまった。

するとじい様はぽかんとして、そしてちょっと笑った。

「わしは止めんよ。どうせ明日は飲めや食えやで、まじめに北西の市場に行ったって稼げやしないよ。」

「ほんとに!」

私はちょっと前のめった。

実はエドナの熱量に影響されて、私も生まれて初めての大きなお祭りの予感にドキドキしていたのだ。


じい様は頷いたが、今度は怖い声で忠告した。

「だが可愛いリーシュよ、どうかこれだけは約束してくれ。どんなにいい男がいても、明日は付いて行っちゃいけないよ。どんなに遅くなってもいいから、絶対に帰ってくるって約束してくれ。」

最初はどんなに私が軽薄に見えてるのよと思ったが、じい様がいやに真剣であったため、私は神妙に頷いた。

一応これで、明日のパーティーに出席しても良いようだった。

早速着ていく服に汚れがないか確認しないと!そう思うと鱈もあまり味を感じず、ただひたすらに口を動かした。


手早く夕飯の片付けを済ませて、足取り軽く寝室に向かう。

寝室には簡素な木製ベッドや小さい戸棚、服を入れるための木箱が置かれている。

私は腰の革製細紐のベルトを外して、壁に掛ける。

また続いてベルトで留めていたゆったりとした灰色の長袖ワンピースを脱いで、これも壁に掛ける。

「じい様がパーティーに行くことを許してくれて良かった… 。時々すごく頑固になるんだから。」

私は独り言ちながら木箱を漁って目的の黄色の亜麻のワンピースを取り出す。


早速頭からかぶり、胸元の空いているボタンを留めて、さっき壁にかけた細紐ベルトをまた腰につけてみる。

「やだ、この皮細紐よく見るとかなりボロボロだわ。今日私もおばさんから飾り紐を買っておくべきだったかもしれないわね。」

明日念の為に市場を覗くことを決意して、戸棚の上にある鏡を覗き込む。

薄茶色の髪を後ろにおろした、青色の瞳の少女と目が合う。ちょっと痩せすぎだ。

私は全身が映るよう二、三歩下がる。


私の持っている服で、こんなに長い袖を持っているのはこの服だけだ。

服の色は年々黄色が灰色帯びてくるが、それでも未だ黄色と言えそうだ。

「どこにも悪いとこは無いみたいね。」

服を検分して、重大な虫食いやほつれがないのを確認した私は、すっかり安心して、またベルトを外し、ワンピースを壁にかける。


明日は、ゆっくり水浴をして、値崩れしているという気の毒な行商人から明後日以降に売る商品を買いに行こうかな。

私は明日に向けて色々考え事をしているうちに、眠ってしまっていた。

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