損切り
「騎兵相手の勝負に勝ったものの、戦自体は負けたんです」
少年兵たちは、逆に潰走することになった。
ゴブリン・ファクトリー側の見込みが甘かったのか、もしくはオルケディア側の将が優れていたのか、彼らは敗北した。大人たちは少年兵たちを囮にし、真っ先に逃げていった。
「キャンプ時代から一緒にいた仲間が、オルケディアの人たちに捕まって何人も殺されました。僕が隠れている茂みから少し離れたところで、数十人に取り囲まれた同年代の子が身体中を串刺しにされて、引き裂かれて、身体のあちこちを槍で掲げられたまま見せしめにされていました」
ダガーと一部の少年兵は何とか逃げ切れたものの、この戦いでゴブリン・ファクトリー側は確かに敗北した。銃火器の一部は鹵獲され、民衆の恐怖は幾分か和らぎ、第三王子は焦り始めた。
この戦い以降、オルケディアの戦いはさらなる泥沼へと突き進んでいった。
「国王の暗殺作戦が実行されることになったんです」
焦った第三王子は、さらなる強硬策に走った。
国王を――父親を暗殺させ、混乱に乗じて強引に王位を奪う。
それはかなりの博打だった。王が死ねば確かに大きな混乱が起き、第三王子が王位を継ぐ機会も巡ってくる。ただ、正式な手続きで王位が継がないとなると、王位継承者や諸侯の間で主導権を争い、もっと大きな争いが始まりかねない。
それでも第三王子は、ゴブリン・ファクトリーに王殺しを依頼した。一か八かの博打が始まり、ゴブリン・ファクトリーは戦力の補充を素早く終え、王の暗殺を成功させた。
博打そのものは失敗した。
オルケディアでは、王位を巡って大きな内戦が勃発。元々、ゴブリン・ファクトリーが暴れていた混乱によって国が疲弊していたため、諸外国まで絡んでくる大戦に発展した。
「ボクらは第三王子を支援するために、しばらく戦っていました。第三王子の敵になる勢力の長たちの暗殺作戦が何度も行われました」
だが、それもキリがなかった。オルケディアでの戦いは混沌としており、敵方の長を数人殺しただけではさらなる混沌を招くだけだった。
「最後はもう、ゴブリン・ファクトリー側も匙を投げたみたいです」
オルケディアでの作戦は失敗。もう収拾がつかない。
第三王子の即位後、それまでの投資を回収する。そんな筋書きを成立させるのもほぼ不可能となった。ゴブリン・ファクトリーは、オルケディアから手を引く。
ひたすら情勢を引っ掻き回した犯罪組織は、最後まで無責任だった。
「ボクらはオルケディアに置いていかれることになりました」
ゴブリン・ファクトリーは残酷な損切りを始めた。自分たちの都合で誘拐してきた少年兵の大半をオルケディアに置き去りにした。現場の指示役を担っていた大人の傭兵も、一部は置き去りにした。
オルケディアに置き去りにされたダガーたちは、オルケディアから逃げることすらままならなくなった。残された者たちだけでは異世界に渡航する手段がない。逃げるだけでなく、補給すらままならなくなった。
少年兵たちがオルケディア相手に優位を持てていたのは武装面。優位だったからこそ、銃火器の現地調達もできない。彼らはまともに戦えなくなってしまった。
ゴブリン・ファクトリーに置き去りにされた一部の傭兵たちは、最初のうちは少年兵たちを率い、何とか生き残りの道を模索していた。
略奪によって生きる糧を得ようとした。だが、武器と弾薬はどうにもならない。傭兵たちも匙を投げた。ある朝、少年兵たちは大人が誰もいなくなっていることに気づいた。大人たちはめぼしい物資だけ盗み、どこかへ行ってしまった。
「ボクらはその後も略奪を繰り返しました。ただ、前のように戦える状態ではなかったので、闇夜に紛れて盗みに入るしかできませんでした」
オルケディアの住民に捕まり、集団に撲殺される子もいた。
少年兵は飢え苦しみながらオルケディアをさまよった。オルケディアの人々も苦しんでいた。戦火はオルケディア全土を焼き、国は滅びた。戦後も疫病が流行り、人口はさらに減少した。
「食料や武器弾薬以上に『足りない』と感じたのは薬でした」
少年兵たちはゴブリン・ファクトリーにより、薬物依存症になっていた。
当たり前に使っていた麻薬も手に入らなくなり、禁断症状に苦しむようになった。
身体は震え、頭痛が影のように付きまとう。薬物で無理やり得ていた高揚感は消え失せ、重い苦しみに支配される。薬物と洗脳教育で植え付けられた暴力衝動は消えず、衝動的に木々や人に当たった。些細なことがきっかけで仲間内で殺し合うこともあった。
全員が散り散りになることはなかった。
異世界に無理やり連れてこられ、大人の都合で戦ってきた彼らに頼れる人間はいなかった。
子供たちも自分たちの置かれている状況が厳しいことは理解していた。
ただ、どうすればいいかはわからなかった。
それでも必死にもがき、生き残ろうとした。
多くの人々から恨まれても、それでも。
「僕らは第三王子に頼ることにしました。大人があの人と取引しているのは知っていたので、第三王子の私兵になれば……まだ、何とかなると……」




