重装騎兵の突撃
「見る映画は、<犬塚伝>みたいな戦争映画が多かったです」
少年兵はそういった戦争映画を見せられ、戦意を高揚させられた。
映画やアニメのヒーローたちのように格好良く戦う、という意識を植え付けられる。
ダガーも夢中になって映画を見て、同じ少年兵との間で映画の真似をよくしていたらしい。ヒーローたちの技を実戦で試し、はしゃぐ。
ダガーは目を伏せながら、当時のことを詳しく語り続けた。それは彼にとって一種の自傷行為だった。だが、彼はそれが必要だと考えていた。
「しばらくずっと、一方的な虐殺をしていました。まず偵察をして、住民の位置を把握。大人の指示通りに突撃し、銃を使って一方的に人を殺していく」
ダガーはそれを「遊び感覚でやっていた」と語る。
「ある時から『耳比べ』という……遊びが始まりました。殺した相手の耳を切って集めて、数を競うんです。大人の耳なら2ポイント、子供の耳なら1ポイント、と点数をつけて……」
それが当たり前に流行るほど、当時の彼らの精神は狂気に落ちていた。
ゴブリン・ファクトリー側は、それを止めなかった。オルケディア国内に恐怖を振りまく目的もあったため、耳を狩ることを推奨。戦果をあげた者には麻薬等の報酬まで出した。
少年たちは切り取った耳で首飾りを作り、迷彩のために顔面に塗料を塗りたくる。正体不明の武器まで使う「ゴブリン」たちの姿は、オルケディアの民衆を震え上がらせた。
ゴブリン・ファクトリーの目論見通り、「ゴブリン」に対処できない王や諸侯への信頼は削がれていった。
一方、第三王子の領地では「ゴブリン」への対応ができていた。
諸侯がまったく対応できていないゴブリンを、第三王子はきちんと討伐している。黒幕が彼だったとはいえ、第三王子の評判はそれなりに高まった。
もちろん、そこにもカラクリがあったのだが――。
「第三王子の兵が討ったとされる『ゴブリン』の正体は、オルケディア国民です。ボクらが村落から誘拐した子供たちに、衣装や化粧などの細工をして……殺したものです」
死体は何も語らない。破壊した銃器なども一緒に置いておけば、真偽を確かめるのは難しい。
ただ、時には生け捕りにした「ゴブリン」も用意した。その正体がばれないよう、喉を薬品で焼き、まともに声を出せない状態にした子が用意されていた。
第三王子の目論見はある程度成功した。
王位継承者としてまるで期待されていなかったものの、一連の騒動により、民衆は彼に期待し始めていた。
ただ、あまりにも上手くいきすぎていたからこそ、王も諸侯も第三王子を警戒していた。
第三王子は王位を――表向きは――真っ当な手続きで手に入れようとしていたが、王側も粘った。予定より戦いは長引くこととなった。
第三王子もゴブリン・ファクトリー側も、戦いが長引くことは本意ではなかった。
ゴブリン・ファクトリーが主に活動していたのは、第三王子に味方する可能性が低い諸侯の領土。一連の事件が終わった後にそれらの領土が荒れていても、国内の敵を削っておけるという利点があった。
ただ、荒らすのにも限度がある。
ゴブリン・ファクトリー側は、それまで以上の恐怖を作り出そうとした。
「ボクらは、オルケディアの軍隊と本格的にやり合うことになりました」
それまでの襲撃でも、兵士と戦うことはあった。
ただ、それは町の守備隊程度のもの。規模は大したものではなく、襲撃者であるゴブリン・ファクトリー側が主導権を握っていたため、戦闘は終始有利に進んでいた。
「あえて僕らの居場所を敵方に漏らして、そこを襲撃してもらいました。軍隊すら返り討ちにする事で、『ゴブリンに勝てるのは第三王子しかいない』と思わせようとしたんです」
襲撃する側が、今度は防衛側に回ることとなった。
オルケディアの主力は重装騎兵。騎士たちが敵陣に突撃し、その衝撃力を持って敵の陣形を崩壊させていくのが、オルケディアの勝ち筋だった。
だが、騎士たちの陣形は粉砕された。
ゴブリン・ファクトリー側が用意した銃火器や爆弾相手では、騎兵は十分な力を発揮できなかった。密集した隊列で突撃してくる重装騎兵たちは良い的であり、少年兵たちが森に逃げ込めば機動力も活かせなくなった。
「歩兵の方が怖かったです。向こうが使っている武器って、大抵は槍や弓だったので、武装面ではこっちが勝っているんですが……数は圧倒されていて……」
歩兵相手には森に逃げ込んだところで、数を頼みに圧倒される。
騎兵相手には味方になってくれた森の木々も、歩兵相手では銃弾を阻む遮蔽物になった。武装面で優位に立ち、少年兵たちも経験を積んできたとはいえ、楽に勝てる相手ではなかった。
この戦の勝敗が、オルケディアをさらなる混沌をもたらす事となった。




