虐殺の始まり
「キャンプでの訓練が終わると、さらに別の異世界に連れて行かれました」
最初の訓練キャンプの目的は、子供たちに恐怖を植え付けること。
兵士としての練度を上げるよりも、命令に従順な少年兵にすることが主目的だった。
ダガー達は再びコンテナに入れられ、運ばれることになった。
数々のトラウマが蘇り、コンテナ内で体調を崩す子が続出。これではさらなる脱落者が出る。ゴブリン・ファクトリー側もまずいと考えたのか、対策を講じた。
だが、それはダガーたちをさらなる泥沼に引きずり込むものだった。
「追加の薬……というか、麻薬が出されるようになりました」
麻薬やアルコールにより、正常な判断能力を奪う。
恐怖を遠ざけ、残忍な行為に手を染めるように誘導する。
そのために麻薬やアルコールはよく使われていた。
麻薬漬けになった子供たちは薬物依存症となり、犯罪組織から抜け出しにくくなる。一度救助されても、麻薬欲しさに戦場に戻ろうとする子さえいるほどだ。
心身の発達にも深刻な影響を与えるが、ゴブリン・ファクトリーのような犯罪組織はそんなこと考慮しない。優先事項は「少年兵を効率的に扱うこと」であって、子供たちの未来ではない。
「僕らがよく使われて……いえ、使っていたのは<ハッピー・シュガー>という麻薬でした。角砂糖に包まれていて、口にすると最初はとても甘いんです。でも、すぐに唐辛子のようにヒリヒリした感触が襲ってきて――」
心臓の鼓動が跳ね上がり、興奮状態に陥る。ダガーたちは戦闘前に麻薬を使われ、恐怖心を無理やり消されていた。
度重なる服用で薬物依存症となり、戦闘以外でも服用する子供たちが出始める。ゴブリン・ファクトリー側はそれを逆手に取り、薬を報酬の1つとする。
戦果をあげた少年兵には多めに薬を渡し、他の子にも最低限の薬を渡した。薬を抜きすぎて依存症から脱すると、組織にとって都合が悪いためだ。
自分たちに麻薬が使われていることに気づいたダガーは、それを避けようと努力した。だが、戦場の恐怖を和らげるために服用せざるを得なくなっていった。
「戦場以外でも自発的に麻薬を使っていました。火薬と混ぜたものを吸引したり、複数の麻薬をまとめて使って倒れたこともあります」
子供たちは麻薬だけではなく、戦場の脅威にも脅かされていく。
「僕らが投入されたのは、<オルケディア>という国でした」
今はもう存在しない国の名だ。
当時のオルケディアは人口一千万人が暮らしていたと言われている。水車や風車の利用が広がり、人口が大きく増加しつつあった大国だった。
ただ、多次元世界全体の技術水準から見れば後進国だった。常備軍はほとんどおらず、戦争の際は国王が諸侯や騎士に軍事奉仕を要求する国だった。
「僕らは、オルケディアの第三王子が派遣を希望した戦力だったようです」
ゴブリン・ファクトリーは第三王子と接触し、戦力を提供すると約束。
武器弾薬の手配をし、戦力の大半を少年兵にした。
第三王子は自分が王位を継ぐため、王や他の王子たちの権威失墜を狙っていた。
ゴブリン・ファクトリーの戦力をオルケディア国内で暴れさせ、それに対処できない王たちの信頼を奪おうとしていたのだ。
正気の沙汰ではないが、第三王子は最終的に王位が手に入れば過程はどうでも良かったらしい。自国領内が「多少」荒れたところで問題なし。ゴブリン・ファクトリー側は、第三王子から直々に略奪を許されることとなった。
「そんな経緯で始まった戦いだったので、最初のうちは……戦闘というより、一方的な略奪…………いえ、虐殺になりました」
ゴブリン・ファクトリーは、オルケディアにはない飛行機や高速艇を用意した。
それを使ってオルケディア国内を素早く移動し、指定された町や村を強襲。
時には船を襲うこともあった。訓練期間が一ヶ月にも満たない子供たちに、飛行機等の操縦は不可能だ。そのため、ファクトリー側は大人の傭兵も派遣し、子供たちは大人たちの指示で戦っていた。
襲われるオルケディア側には、銃器らしい銃器はない。飛び道具は弓矢や投石機程度で、異世界の技術を持ち込めるゴブリン・ファクトリー側が――武装面では――優位に立っていた。
各地で奇襲を繰り返すゴブリン・ファクトリー。彼らが襲った場所は、大量の死体が積み上がった。ただ襲うだけでなく、王国内に様々な風評をばらまき、民衆の不安も煽った。
ゴブリンが出た。
ゴブリンが村々を襲って回っている。
ゴブリンたちは、国を滅ぼした事もある。オルケディアも滅ぼされてしまう。
そんな話をばら撒き、実害以上の恐怖を煽った。
本格的に恐れられ始めた少年兵たちは、戦闘と移動の合間に麻薬漬けになっていった。
繰り返される戦闘と虐殺。
非日常に蝕まれ、彼らは息を吐くように人を殺せるようになってしまった。
また、ダガー達には麻薬以外のものも提供されていた。
「移動中は、映画を見ることが多かったですね」




