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7.ゆるりと指名依頼を受ける

 さっきまでボクは夢にうなされていたんだ。

 息苦しく早朝に目を覚ますことになったんだけど、とても怖い夢だった。


「あーっ! あっ、あっ、あーっ!」


 突然の地震が起きた。

 テレビを付けると一斉にニュースが流れて来た。

 そして、停電。

 何が起こったか分からないままボクは、ぼう然とベッドの縁に座ったのを覚えている。


「いや……、そこ……、あ、だめ……」


 ちょうど今のようにギシギシと部屋が揺れていた。次第に揺れが強くなり、人の叫び声が聞こえて来る。


「いい! いいわ! もっと!」


 壁一枚隔て、近隣に悲鳴が響いていく。

 その響きと共に衝撃がボクの意識を闇へと飲み込んでいった。

 そんな夢を観た気がしたんだ。


「あ……あ、あ……あぁーっ!」


 男女の営みが終わったみたい。

 これでやっと静かになるね。

 本当に迷惑な行為だよ。

 おかげで目が覚めてしまったじゃないか。

 もう股間が破裂しそうだよ。

 体も顔も熱く、エッチな妄想をしたせいで、胸の鼓動が収まらないじゃないか。

 変な汗も出ちゃったよ。どうするんだよ。これ。


「むう……」


 リア充は死ねよ。

 正直うらやましいぞ。

 

「シコシコしてやる。しこしこ、しこしこ」


 取りあえず一回抜いておこう。


「あ、おぉ……、うっ」


 すぐに一回目が終わる。

 すごく気分が落ち着いた。

 途中から何か変な声が出てしまったが、お隣も始めてしまったようなので気にしない。


 すかさず二発目に突入する。

 今度はゆっくり長くだ。

 将来竿が長くなるように今から意識してトレーニングをしよう。

 まだまだ短い。子供用の竿が大人サイズになれるように頑張らないとね。


 そうこうしている内に快楽が昇っていく。

 頭が真っ白になり、声が漏れ出る。

 そうして盛大に噴射。その瞬間だけ自分でも不思議なほど生々しい声が漏れていた気がする。


 やっちゃった。

 ズボンからはみ出してシーツに飛び出しちゃったよ。てへへ。

 もうよだれが出るほど気持ち良くて仕方がなかったんだよね。

 許して欲しい。


 ボクはその後で三射目に取り掛かる。

 もうね。すごかったよ?


 結局五射目からは数えていない。

 それまでは噴水だった男汁もそれ以降は徐々に減っていった気がする。

 子供の体ってすごいね。何回やっても最高だよね。


 シャコシャコ。

 ゴシゴシ。

 シコシコ。


 ボクは裸だ。


 シャッシャ。

 ゴシゴシ。

 シコシコ。


 体を洗うついでに衣服を洗濯している。

 もうじき終わるところ。

 それにしても、服を洗う薬が欲しいよね。

 この世界は原始的だ。洗濯といっても水で浸して木の板に擦り付けるだけになる。

 汚れが落ちるというよりは薄めているような感じで、さっき出した男汁の匂いも気になってしまう。

 それと、シーツは宿の人の物なので、仕方なく生活魔法だけで処理をしている。

 おかげで臭いが残ってしまったようだが、それも仕方がない。

 どうせしばらくはそのままなのだから、そのうち気にならなくなるだろう。


「終わりぃっと、ん?」


 今、馬小屋の方に人の気配がした気がしたのだけど。


「誰か居るの?」

「あっ」


 やっぱり人が居た。

 声のした方向に顔を向けると、勝手口のドアの前にベティが立っていた。


「なんだ、ベティか。おはよう」

「……っ」

「ん?」


 どうしたのだろう。

 なんだか昨日と違って元気がない。

 座っているボクをチラチラと見ているね。


「どうしたの? 何か用?」

「……っ」


 手で顔を隠している。

 指の隙間から見える目線の先がボクなのに、なぜか恥ずかしそうにしているね。


「ベティ?」

「あっ、うん」


 やっと返事をしてくれた。


「どうしたの? そんなところで立っていたら他のお客さんの迷惑になるかもよ?」

「私、馬小屋で馬のお世話をしていたの……」


 お世話ということは、もう終わったんだろうね。

 だったら宿の中に入ればいいのに。

 だというのになんでボクを見るのかな?

 よく見るとベティの顔が真っ赤だ。何かそういった要素がボクにあるのだろうか。


 あ、そういうことか。

 井戸をボクが独占しているのがいけないのかもしれないね。


「ごめんね。もう洗濯も終わったし。後は乾かすだけだから。もう少し待っていてね」


 そう伝えてボクは急いで立ち上がる。


「ひゃっ」


 ふんどしのような下着を手に持ち、生活魔法で乾燥させていく。

 すぐに乾いたので着用していく。股間を隠し、残りの衣服を両手で持ち上げる。

 早々に水場から離れる。


「もういいよ。ねえ? ベティ? ……あれ?」


 腰を上げて振り向くと、いつの間にかベティが居なくなっていた。


「変なの」


 ボクは服を着替えながら、ベティについて考えを巡らせていく。


「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」


 ジョギングはいいね。

 朝の鍛練だ。

 通りの端で長くできるだけ疲れないように走るのがコツだよ?


「ふっ、はっ、はっ、はっ」


 目的は筋力強化スキルの熟練度を上げること。

 強化とは名ばかりで、言ってしまえば肉体の鍛練によって得られた経験値の積み重ねみたいなものだね。

 今はレベルが1。

 最終的に100を目指して、身体強化スキルの取得がしたいと思っている。今から地道に訓練をしていけば、いずれは覚えることができると考えているからね。

 そのためには毎日の鍛練が必要になる。

 だからボクは息を切らし、ひたすら走っている。

 ついでに周辺の地理を把握していく。


「ふー」


 走り抜いた。

 前世では考えられないくらいの体力だ。


「うーん、涼しい」


 朝の冷たい空気が気持ちいいね。


「ふぅ~」


 宿の玄関口の敷地で息を整える。

 体を慣らすためにその場で行き帰りの歩きを繰り返す。

 これで朝の鍛練は終わりになるね。


「もう少しだけ体を動かそうかな?」


 さっきも走る前に腕立て伏せと腹筋運動をしている。

 それなのに疲れがない。

 どちらかというと爽快で心地が良く、程々に身体が温まっている気がする。

 だからだろうか、激しい運動がしたい欲求に駆られている。

 この体は前世の肉体と違って強いようだし、まだまだ鍛えが足りないみたいだね。

 昔のボクだったら今頃地面にはいつくばっていたよね。きっと。


「ふんっ! はっ! はあぁぁぁ! ――やあ!」


 敷地の細道から裏庭に入る。

 すると、風切り音と共に女性の掛け声が聞こえて来た。


「あっ」


 レティッシャだ。

 木剣を両手で持ち、素振りをしている。

 美しい剣技だ。思わず見惚れてしまう。

 まるで達人の型稽古を見ているみたいだね。


「かっこいい……」


 茶色く長い髪をした獣人族のレティッシャ。

 見た目は人族と同じだけど、特徴のある耳と尻尾が他にはない美しさを表現している。

 ゲームの獣人族は毛深い種族だった。プレイヤーも選択することができるため、モフモフの小柄で可愛いキャラクターが好まれていた。

 でもこの世界の獣人族は人とそれほど違いがないようだ。

 あるとするならファッションセンスくらいだろう。

 露出が多い格好を好むのか、腹筋が割れている素肌が目立つくらいだ。

 それ以外はボクと変わらない姿だと思う。


「はっ! ふんっ! はあぁぁぁー! はぁっ!」


 獣人族ってスタイルが良いよね。太っている人は見たことがないし、かっこ良いよね。

 そんな勇ましい姿のレティッシャを目で追うボクは、邪魔にならない位置から眉を寄せて見学に務める。

 しばらくするとレティッシャが手を休める。

 ボクの方に振り向いて口を開く。


「リエル。何か用か?」

「おはよう、レティッシャ。精が出るね」


 まずは朝の挨拶だ。先輩冒険者には敬意を払うべき。


「ああ、いい朝だな」


 確かに晴天だね。

 今日も良い天気に恵まれそうだ。


「リエル。やってみるか? いい運動になるぞ?」


 そう来ると思っていました。


「はい!」


 剣術スキルの手解き、よろしくお願いします。


「アレンさん。おはようございます」

「おはよう。リエル、それと、レティも」

「ああ、いい朝だな」


 食堂で朝食をとっていると、アレンが同じ席にやって来た。


「二人とも一緒か。仲がいいな」

「はい。剣を教わっていたのでそのついでに」

「ああ、なるほど。朝の日課か。俺も後でやっておくか」


 そうアレンが言葉にすると、おもむろに椅子に座り、眠そうに欠伸あくびをする。


「アレン。今日の予定はどうする?」

「ん? 今日は休みだろ。急にどうした?」


 パーティー内での会話だろう。

 ボクには関係ないので、話に参加しないでおく。

 どうやらダンジョンから帰って来たばかりのようで、活動はしばらくお休みらしい。


「アレン、おはよう! 今日はトマトの特性スープだよ!」

「お! 旨そうだな!」

「お父さんが作ってくれた焼きたてのパンもあるよ! 昨日いっぱい頼んでくれたから、一つおまけにしておいたからね!」

「ありがとう。ベティ、いつも助かる」

「えへへ」


 やっぱり変だ。ボクにだけ他人行儀な気がする。

 アレンや他のお客さんには元気に挨拶するのに、ボクにだけ愛想が悪い。

 目を合わせてくれることもしてくれない。


「レティッシャ。お水のおかわりは要る?」

「ああ、頼む」


 レティッシャのコップに水を入れるベティ。

 次はボクの番。


「えっと、入れる、ね?」

「うん。ありがとう、ベティ」


 やっぱり変。ボクにだけ声のトーンが低い。

 水を入れた後も何事もなく別のテーブル席へ移動して行くベティ。元気に他の客に声を掛けていく。

 明らかにボクと対応が違う。

 なぜなんだろうね。

 どうやらまた、女の子に嫌われたみたいだ。


「リエルはどうするんだ? 今日もまた採取の仕事か?」

「うん。南西の林で採って来る予定だよ」


 アレンがボクに話し掛けて来た。


「なあ? レティ。南西の林に薬草があるって聞いたことがあるか?」

「いや、ないな。私も初めて聞く」


 えっと、どういうこと?


「新しく発見されたっていうのか? いや、そんなはずはないな。だとするとギルドマスターだけが知る秘密の場所か?」


 何か雲行きが怪しくなって来た。


「違う。南は魔素が少ない。魔物も小さく弱い。北に比べると薬草の数もかなり少ないはずだ」

「そうだな。俺もそう思っていたところだ。だとすると……」


 レティッシャとアレンが同じ青色の瞳をボクに向けてくる。


「確かに。それしか考えられん」

「だよな? ギルドマスターだからな?」


 なんのこと? 教えて欲しいな。


「あの、二人とも憶測でもいいので教えてくれないかな?」

「別に構わない。が、どうする? レティ」

「私に聞くな。リーダーはお前だ」


 凄く困った顔になるアレン。

 レティッシャはアレンに丸投げで、食事を再会し始める。

 おそらく、おじさんの嫌がらせなのだろう。

 このまま受け続けてもいいのだけど、なんだか知らないままだと落ち着かない。

 場合によっては対策を考えたいところだね。


「リエル。俺は昔ながらのやり方が嫌いだ。だから、俺は先輩冒険者として、新人冒険者のリエルに話をしようと思う」

「うん」

「そこでだが、俺と取引をしないか?」

「ん?」


 取引ってなんだろう。


「口約束だ。絶対に俺から教わったということは言わないで欲しい」

「あ、はい」


 そういうことか。

 これは商売ではなく、呪言じゅごん契約による取引のことだろう。


 呪言契約を行うと、相手と自分が取引で決めた魔法のルールで縛ることができる。

 これは本来必ず履行されるものになる。

 実際に行う場合には、特殊な獣皮紙とインクが必要になる。

 しかし、これは一種のまじないだ。

 ただの口約束。

 そういった契約はしないものの、相手を信用していますという絶対的な言い回しになる。

 もしも破った場合は二度と信用されることはないという要求でもあり、意外と効力が大きいのも特徴の一つになる。

 冒険者の間で使われることが多く、人なりを見るための信用取引方法にもなっているらしい。

 破った場合は信用を取り戻すまで奴隷のように敬います。

 確かにそんな感じの意味合いが含まれていたと思う。

 その代わり、対価も大きい。

 大抵の場合は受ける方が得をすることになる。

 そんな話を孤児院の先輩たちから聞いたことがあるね。


「いいか。よく聞けよ」

「あの、周りで聞いている人がいるかもしれませんよ?」


 そうは言っても、時間帯がいいのか、食堂にボクたち以外の冒険者は居なさそうだ。


「いい。そこまで重たいものでもないからな。それよりも一回しか言わないからよく聞けよ?」

「うん」


 アレンが耳打ちをして、話をしてくれた。

 要約すると、新人冒険者の訓練があるらしい。

 昨日の食事時に聞き逃した内容の続きのようで、新人にわざと嘘の依頼条件を突き付け、達成を難しくするというものになる。

 冒険者には必須のスキルがある。

 それをFランクになるまでに身に着けさせるという趣旨があるらしい。


「まあ、ギルドマスターのことだ。何か考えがあってのことだと思う」

「だったら、今度の受付の時には別の方にお願いしたらいいんですかね?」

「それもいいかもしれんな」


 そもそもギルドマスターなんだから、いつも居るとは限らない。

 昨日は運が悪かったんだよ。きっと。

 そんなことを考えて朝食を終えたボクは、アレンたちと別れた後に冒険者ギルドへ向かうことにした。


「よお。早いな」


 居るよー。


「あ、おはようございます。ギルドマスター」

「なんだ、気付いていたのか」


 受付のおじさんが昨日と同じ席に座っている。


「どこに行くんだ?」

「えっと、依頼ボードを見に行こうかと」

「なんでここまで来た? 入り口から直接見に行けばいいだろう?」

「ひぐ」


 なんか分からないけど怖い顔をしている。妙な圧力を感じてしまう。

 おかげで変な声が出ちゃったよ。


「ちょっと来い。お前さんに仕事がある」

「え……」

「いいから来い!」

「ひゃい」


 ボクは仕方なく、ギルドマスターが座っているカウンターの前に歩み寄る。


「今日も回復草の採取仕事をしてもらう。昨日と内容は同じだ」

「はい」

「ただし、量が違う。今日中に昨日の倍は欲しい」


 それなら簡単だね。

 午前中にでも終わるだろう。


「できるか?」

「はい。できます」

「よし。カードを出せ」


 言われるままにボクは、アイテムボックスから冒険者カードを取り出す。

 受け取ったおじさんは、手前にある魔導具みたいな箱の上にカードを設置する。

 するとカードが青く光る。


「そうそう。言い忘れたが、指名依頼扱いにしておくからな」


 へえ、そうなんだ。


「依頼者は回復院ギルドのギルド長。エプタルエス教会の聖女を兼任している、ユーネリア・ネオ・テーゼだ。よろしく頼むな」

「はい」


 なにかよく分からないけど、色々と情報量が多い。


「そう固くならんでもいい。指名依頼と云っても、口約束みたいなもんだ。出来なかった場合は通常依頼として扱う。そういった類のもんだな」

「あ、そうなんですか?」


 よかった。

 肩書がベナン回復院ギルドの最高権力者にして、エルドラン王国の貴族名を持ち、神を祀るエプタルエス教会の聖女だなんて。

 そんな人がボクに指名依頼なんてありえないよね?


「まあ、そのときは冒険者を辞めてもらうがなあ」

「え? ひどい」

「当然だろう?」

「それって実質強制って意味じゃないですか!」

「いやなら断ってもいいんだぞ? ただし、結果は同じだ」

「うぐむぅ……」


 なんだかこのおじさん、ボクに冒険者を辞めさせようとしていないかな?


「やります! ボク、冒険者のままでいたいので!」

「言い切ったな」

「でも報酬はきっちりと貰いますよ?」

「ああ、それは約束する」


 ここは値段交渉をした方がいいのかな?

 いや、止めておこう。せっかくの指名依頼だ。ボクじゃなくてもいいとか言われたら、何も言い返せなくなるからね。


「理解したならさっさと行ってこい!」

「はい! 分かりました!」


 ボクはおじさんから冒険者カードを受け取り、外に向けて走り出す。

 途中でボクの噂話をしている人たちの声が聴こえて来るが、気にせずに入り口へと向かう。


 あの新人はギルドマスターに目を付けられている。

 悪い意味でも注目されている。


 そんな小言を聞いたような気がしたボクは、入り口を出て昨日と同じように、南門へと走っていく。

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