4.ゆるりと薬草採取
南西の森へと向かうボクは、南の防壁門にたどり着く。
「外に出るのか?」
「はい」
若い衛兵に捕まり、検問が始まった。
「身分証明書を出してくれないか?」
「うん」
仮登録した冒険者カードを手渡す。
すると衛兵のお兄さんが、小さい丸石をカードに近づけた。
「よし。いいだろう」
何が分かったのか分からないけど、衛兵のお兄さんがカードを返してくれた。
「今からどこへ行くんだ?」
「南西の十キロ地点です。薬草を採りに行こうと思います」
「そうか。気を付けて行って来いよ」
「はい」
チェックが終わったのでボクは、その場から急いで離れることにした。
門を潜り抜け、すれ違う牛車の横を通り過ぎる。
そこから街道沿いをまっすぐに歩く。
牛車の往来が多く、すれ違う御者に頭を下げていく。
太陽が真上にあるみたい。
今はお昼を過ぎたところかな?
牛車の出入りが多いようだから、今が込み合う時間帯なのかもしれないね。
今後のために覚えておこう。
それにしてもお腹が空いてきたな。
ボクは歩きながら昼食を取ることにした。
アイテムボックスから干し肉を出して、口に放り込んでいく。
「うっ」
塩気がきついね。
美味しくない。
咬めば咬むほど獣の香りがする。
それに全然柔らかくならないよね。これ。
飲み込むのが辛いよ。
「まずい」
特別質が悪い干し肉に当たったみたいだね。
「ボク、がんばる」
気を紛らわすために走って目的地に向かうことにした。
なにせ時間がない。
採取は夕暮れまでに終わらせないといけないからね。
今回の依頼は薬草を持ってくること。
薬草は色で見分けることができる。
青い植物を根ごと採って来るように云われている。
「それにしても、青い草ってなんだろうね。今まで見たことがないんだけど」
これでもボクは山菜取りの経験はある。孤児院で手伝いをしたことがある。
主に食用の野草だけど、それなりに毒草も見分けることができる。
「ふ~、まずかった」
やっと思いで飲み込むことができたよ。
おかげでお腹がいっぱいだ。
「到着かな? 多分ここで合っていると思うけど……」
意外と時間が掛からなかったようだね。
息切れもない。
思ったよりもこの体は丈夫なようだ。
「じゃあ、始めようか」
木々の隙間に草が茂っている。
背中のナイフを鞘から抜き取り、腰まである草を払い除ける。
青い草を探しながら進む道を作っていく。
「あっと」
途中で足が止まる。
十メートルほど先に草の無い地面が広がっている。
ここからは森になる。
森へは入ることはできない。入ると魔物が出る。危険は極力避けたいからね。
とてもじゃないが、今の弱いボクにはできない行為だ。
林の限界地点は木々のすき間から照らされる太陽の光が目印だ。
ある程度光量が少なくなると植物の生態系が変わって来る。
そこからが林と森との境界線。
だからボクは歩く方向を変えていく。
明るい場所に向かってゆっくりと進んでいく。
草をナイフで払い退け、道を作っていく。
歩きながら青い草を探していく。
だけど一向にそれらしい草を見付けることができない。
青い虫は視たけど青い草なんて一本も生えていない。
青い花すら一本もない。
どうなっているんだよ? これ。
「うーん。見当たらないねー」
何かヒントはないのかな?
見分ける方法はないのかな?
目に付く草にはいろいろと種類がある。
長い葉のものや固い葉のもの。あるいは、棘が生えたものまで多種多様にある。
全てが緑色をしているし、中には赤い斑点が入ったものまである。緑が濃いものも沢山あるね。
でも、青い草は一本もない。
「何か見落としていることはないだろうか」
思い出そう。受付のおじさんが云っていたことを。
「そういえば、青色の草には魔力が宿るって云っていたよね?」
話の途中で聞いた気がする。
魔素が濃い森の近くでは薬草が生えやすいってね。
「だったらアレがいいかな?」
魔力感応スキルの出番だね。
目に魔力を集めると見える世界が変わっていく。
昨日の夜に試したばかりだ。
「まずは魔力を感じられるようにするところからかな?」
魔力感応スキルを瞳に発動させる。
すると、目の周りがうずく。眼鏡をするような違和感を覚える。
「これで魔力の感覚が分かるようになったね」
後は体中の魔力を瞳に集めるだけだ。
目の周りからほほに掛けて温かい気配を流していく。
「できた」
お昼を過ぎたというのに、周りが明るく見えるね。
空気中に漂う光。蛍のように輝き、ふわふわと浮かんでいる。
赤と黄と青の三色の輝きが美しく、濃淡のある明暗がゆらゆらと流れていく。
「あっ、見つけた」
青い草だ。
思ったよりも早く見付けることができたね。
「開いて」
ボクは青色の草に触れながら鑑定のスキルを発動させる。
昨夜に検証済みだ。
識別スキルよりも強力で、対象に触れただけで様々なことが分かってくる。
名前 回復草
種類 魔素を含んだ野草が変異した植物。
効能 体力回復微 苦い 渋い
「いいね」
回復草で間違いない。
「根ごと採るんだったよね?」
傷付けないようにしよう。
ボクはナイフを地面に突き立て、そのまま掘り起こすように差し込んでいく。
「やった。また採れた!」
どれくらい時間が経っただろう。
すでに両手で抱えることができない量を何度も採っている。
その度にアイテムボックスへ収納している。
採取した物は回復草以外にもある。
毒草や解毒草に魔力草や油菜といった植物も手に入れることができた。
全て合わせると200束は超えている。
どうやらボクの思惑は予想以上の成果をもたらしたらしい。
始めはどうなるかと思ったけど、なんとかなるものだね。
「まだ行けるかな?」
空が赤くなって来た。
もうじき夕暮れの気配がする。
林の奥が暗い。
暗くなると魔物が動きが活発になるからね。
夜に活動する魔物が多いと聞く。
ゴブリンやオークも街道沿いに出ることがあるという話を王都のどこかで聞いたことがある。
「そろそろ街に帰らないといけないね」
これで作業は終わりにしよう。
ボクは瞳から魔力を開放する。
肩の力を抜いて、普段の状態に戻していく。
アイテムボックスを開き、まとめていた残りの薬草を仕舞い込んでいく。
毒草[17] 解毒草[32] 魔力草[50]
油菜[52] 回復草[121]
どうやら種類毎に薬草が分けられているね。
個数も自動で加算されている。
今さらだけどアイテムボックスに入れる方法もあった気がする。
無差別に植物を採取して仕舞い込む作戦だ。
今度機会があったら試してみよう。
何かの役に立つかもしれないからね。
「さて、帰るかな?」
ボクは来た道を走って移動することにした。