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2.ゆるりと目覚める

「ん……、あっ、れ……」


 空が見える。

 まぶしい。


「うっ、いっつぅ~」


 二日酔いかな。

 片頭痛がして、耳の奥がずきずきとする。


「ここは、――あ!」


 岩の上。ってぇ、違うよね。ゲームの世界かな? いや、そうじゃない。

 ここはどこ。

 アパートにボクは居たよね?

 短パンとシャツだけだったよね?

 それなのに柔道着みたいな服になっているし。

 ここは外だよね?

 靴を履いているし。

 手袋もしている。

 変な格好。

 どこだよ。ここ。

 あれ?

 体が小さい。

 どうして。

 ボクは。


「だれ……?」


 神野夢月。35歳。


「違う」


 ボクはリエルだよ。

 十日前に12歳になったばかり。

 孤児院で暮らしていたけど、養護支援年齢を超えたので一人立ちをすることになったんだ。

 今は冒険者になる旅をしている。

 旅は八日目。歩きと野宿を繰り返している。


「転生……」


 合っているかもしれない。


「だったらどうして倒れていたのかな?」


 のどが渇いたので森に入ったのは覚えている。

 川で水を補給したのも覚えている。

 帰りに岩の上で足を滑らせ、その後のことは覚えていない。


「頭をぶつけちゃったんだよね。きっと」


 血は出ていないようだけど。

 怪我はなさそうだし。

 頭が悪くなったってことはないのかな?

 さすった感触は問題なさそうだけど、ちょっと分からないね。


「だいぶ眠っていたのかな?」

 

 太陽の位置が変わっていないみたい。

 よかった。

 それほど時間が経っていないのだろうね。


「魔物に襲われなくてよかったよ」


 魔物は危険だ。力の無いボクなんて一溜まりもないからね。

 だってボクはリエルだよ? 筋肉も少なくて小柄で温厚。それでいて優しい性格をしている。

 病気になったことがないけど泣き虫で弱虫だ。


「どうしてこんなにも体が小さいのかな」


 どうせだったら、もっと大きな身体が欲しかったな。

 心の機微もそうだ。夢月は男らしくて変態だった。なのにボクはボクだし、女の子の体を想像すると顔が熱くなる。

 こういうの、本でも読んだことがある。

 TS転生って言うんだよね。体が別で心が前世と同じになるっていう略称のこと。トランススピリットと呼ばれているんだったよね?

 あれ? 違ったかな。まあいいや。


「開いて」


 突然だけど、識別スキルで自分の状態を調べてみる。



 名前:リエル

 種族:天人族

 性別:男

 レベル:1[1/1000]

 ライフメーター:体力[1/40] 魔力[102/105]

 スキル:鑑定[1.01] 錬金術[1.00]

     時空魔法[1.52] 生活魔法[1.02]

     幸運[1.00]



「え?」


 驚いた。

 以前と全く違うようだね。


「名前に、種族、性別にレベル。それと、ライフメーターにスキル」


 ボクは上から順に表示された文字を声に出して読み上げていく。

 ゆっくりと確実に間違えがないようにする。

 鑑定と錬金術に時空魔法と生活魔法。それに幸運のスキルがある。

 どれも見覚えがない。


「天人族ってなんだろう。レベルも1って、まるでゲームみたいじゃないか。それになんでだろう。魔力がすごい上がっているし」


 以前は10だったのに今は100を超えている。


「……っ」


 考えられることは一つだ。

 前世の記憶を思い出したせいだろう。きっと。


「体力が1だし」


 頭を強く打ったせいかな。

 だったら馬鹿になってないよね?


「そんなことよりもボクが人族じゃなかったってことが問題だよ」


 そっちの方がショックだよ。

 天人族ってなんだよ。天使じゃないってことぐらいは分かっているけどさ。


「あーあ、人族が良かったなー」


 ゲームと同じだったら、バランス型の人族が一番優秀だったからね。

 いろいろとスキル表示が消えた今となっては、物理特化の天人族補正で魔法が苦手になったのかもしれないし。


「あっ! ボクのお金!」


 日雇いで稼いだお金がアイテムボックスに仕舞ってある。

 もしも持ち物が全て無くなったなんてことになっていたら、これからの生活をどう生きればいいんだよ。


「開いて」


 大切なんだよ。無くしたら死活問題だ。

 お願いスキルさん。上手く発動してください。



 水が入った革袋[1] 古い干し肉[12] 毛布[2]

 ぼろぼろの布[5] お金が入った袋[4]



「よかった。お金は無事みたい」


 アイテムボックスのスキルが使えるということは、他のスキルも大丈夫なのかもしれないね。

 中身は以前と変わらないようだし。


「全部ある」


 よかった。本当に良かったよ。


「これで旅が続けられる」


 そう言えば、ゲームだとアイテムストレージって呼ばれていたよね?


「どうせだったらゲームのときに手に入れた有料アイテムもあればよかったのに」


 楽しかったなあ。あの頃に戻りたい。

 もう一度ゲームがしたいね。


「そう考えると、王都の癖に娯楽が無かったよなー」


 カードゲームもなければボードゲームもない。

 日々の暮らしで精一杯。異性交友だけが唯一の遊びになっていたよね。


「孤児院でもそうだったなー」


 女の子は大人に憧れる。男の子は歳の近い女の子に憧れる。

 好きな子にいたずらをする。気を引こうと必死になる。

 男女どちらも程度の違いがあるけれど、だいたい似たようなことをしていたと思う。


「その点、ボクは違うけどね」


 好きな子には優しくするし、同室の野郎たちには気を使っていたからね。


「まあ、嫌がらせはなかったよ」


 なんとなく女子たちは目を合わせてはくれなかったけどね。

 仲間外れにされていた訳じゃないよ。ボクに魅力が無かっただけなんだからね。

 鏡があったら視てみたい。自分の顔がどこまで変なのか知りたいよね。

 友達に言われたことがある。女子たちが見てくれないのはお前の顔のせいだって。


「分かっているよ。この世界は無情だってことくらい」


 期待したら負けだよ。ボクの顔はどうしようもなく不細工だ。


「ここがゲームの世界と同じだったらいいのに」


 そうしたら顔のハンデを補うことだってできるのに。

 転生物語には必ずチート要素が隠されている。

 ボクは弱い。だから生きるための知識と武器が欲しいよね。


「せめて攻撃魔法が使えればいいのに」


 これでもボクは、風や火を起こすことだってできるんだよ。


「スキルが以前のままだったら今でもできるはずなんだ」


 目の前に手を掲げたボクは、不意に着火スキルを発動させる。


「あ、できた」


 以前よりも火力が上がっている。

 種火くらいの大きさから蝋燭ろうそくの火にはなった気がする。

 ついでだから風も起こしてみよう。

 ボクはブローの力をそのまま重ねて発動させる。


「わあっ」


 火力が強くなった。

 蝋燭ロウソクの火から松明の火くらいにはなったと思う。

 ちょっとした攻撃にも使えそう。


「もしかしたら火魔法を覚えたのかも。なんてことにはならないかな?」


 こういうのって小説でも良くある話だよね。

 主人公が火を出したら魔法が増えていた。なんて事にはならないだろうか。


「開いて」


 さっそく確認してみよう。

 スキルを使って自分のステータスを確かめてみた。



 名前:リエル

 種族:天人族

 性別:男

 レベル:1[1/1000]

 ライフメーター:体力[4/40] 魔力[98/105]

 スキル:鑑定[1.05] 錬金術[1.00]

     時空魔法[1.52] 生活魔法[1.04]

     魔力感応[0.01] 幸運[1.00]



「え?」


 なんか別のスキルが増えているね。

 魔力感応だって。

 感応だから、魔力を感じ取ることができる力ってことかな?

 ゲームだと魔力制御のスキルがあったけど、似たようなことができるのかもしれないね。


「あっ! 人だ!」


 木々の隙間から小さく人の形が見える。


「ここ、街道沿いの近くだったんだね」


 よく見ると牛車の姿もある。


「良かった」


 これで次の街に行けるよね。


「安心したらのどが渇いてきちゃった」


 ボクはアイテムボックスから水入りの革袋を取り出した。


「美味しい」


 口に流し込むと甘い味がした。

 軟水なのかな? 異世界の川って綺麗なんだね。


「風も気持ちがいいね」


 春の日差しは暖かく、流れる空気が心地良い。

 火照った体の汗を冷やしてくれる。


「ふい~」


 一息を付いたボクは、ぼう然と木々のすき間から青空を見上げる。


「どうしてボクは旅をすることになったのかな?」


 思い出したかのように記憶を呼び起こす。


「孤児院の皆はどうしているんだろうね」


 自分の意志で院を出たのは覚えている。


「先生……」


 先生は教会の聖女。

 ボクたち孤児を養ってくれた偉い人。

 でもその先生から出て行って欲しいと頼まれたので、今はこうしている。


「なんでボクだけ追い出されたんだろう」


 理由は分からない。

 だけど、あの時の先生はとても怖い顔をしていた。


「まあ、法律上は問題ないし、覚えていても仕方がないよね? もう終わっちゃったことだしさ」


 昔のことは忘れよう。


「うん」


 ボクは立ち上がり、水の入った革袋をアイテムボックスに仕舞い込む。


「体の調子はいいよね? 歩くには問題ないよね?」


 もう一度だけ自分の力を確かめる。

 体力が20。限界値の半分まで回復をしている。


「これだったら歩けるかな? 夜までには到着ができるよね?」


 朝一番に迷宮都市ベナンの門に入れるかな?

 今日中に門の前で野宿ができればいいよね。安くて安心の宿を探したいから、早くから時間を掛ければ見付けられると思う。


「忘れ物はないよね?」


 誰も居ない自分に問い掛ける。体をひねり、異常がないのかを再びチェックする。


「いいかな? いいよね? じゃあ行こう。人も居なくなったし、丁度いいよね?」


 この世界は危険が多い。

 突然人の前に飛び出しただけでも殺されることだってあるのだから。

 ボクは指を出して呼称していく。木々のすき間を歩いて道沿いの砂地を踏む。


「誰も居ないよね?」


 危険はないみたい。

 山賊や盗賊に間違えられたら命が危ないからね。


「じゃあ行こう」


 できるだけ目立つようにボクは道の端を歩いて行く。

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