表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

政治経済エッセイ

食品の軽減税率を下げても「予算規模」と比べて物価を下げる効率が悪いと思われる海外のデータ

作者: 中将

筆者:

 本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。


 今回は「消費税の構造」について分析していくと共に、

 軽減税率をゼロにしてもそこまで物価が下がらないのではないか? と言ったことについて触れていこうと思います。



質問者:

 食料品の軽減税率をゼロにすることについては皆さんから大きな要望があると思うのですが……。


 JNNの4月の世論調査では「食料品の消費税減税に賛成が61%」というデータもあるそうなのですが……。


 それでも駄目なんですか?



◇消費税ではなく「付加価値税」であり「第二法人税」である



筆者:

 確かにまったく物価が下がらないわけでは無いと思います。


 ただ、軽減税率をゼロにすることによって5兆円ほど予算がかかると言われているのですが、その規模に見合った効果があるのか?


 と言われると怪しいという事について僕が分析してきたという事です



質問者:

 なるほど……。具体的にどんな感じでマズいんですか?



筆者:

 まずその前に前提知識として消費税について振り返っていこうと思うのですが、


 (課税収益-課税費用)×消費税率=納税消費税


 と言う式で算出されます。


 売り上げに関しては税金の還付や海外への売り上げ、株式の配当金などは非課税売り上げになりますが、そういったものは普通の中小企業ではそんなに割合は高くありません。


 そうなると売上げ×税率10%又は8%と言う状況になりやすいのです。


 対して課税仕入(消費税が減る分)に関しては支出に比べて非課税の範囲が広いです。


 給与、保険の掛け金、お祝い金、印紙代、減価償却費、利息と言ったどんな会社でも支出するようなものが多く含まれます。


 そのために大雑把に言うのであれば「最終利益+人件費等+減価償却費+利息」×消費税率と言った計算になるのです。


 このようなことから「赤字でありながら消費税を納める」と言う惨事が起きかねない状況なのです(滞納が一番多い税金となっています)。


 一方で法人税は税金ぐらいしか非課税費用は無いために、赤字で支払うというケースは限りなく少ないと思います(ただし前年の影響で予定納税がある場合は一時的に支払いを行い納税額が少ない場合は後で還付されます)。



質問者:

 消費税は赤字で支払わなくてはいけないかもしれないのは辛いですね……。


 よく言われていることは「消費税は預かり税」であるという事なのですがそれについてはどうなんですか?



筆者:

 僕も皆さんにとって分かりやすいように便宜上で「消費税」と書いて扱わせていただいていますけど、


 先ほどから説明している通り法人にかかる税金であり、今までの話の中で「消費者」と言う用語は一言も出てきていません。


 レシートに金額×10%や×8%という文字が印刷されているために「まるで消費者が支払って法人が預かる」という「幻想」を日本国民全体が見せられているという事です。


 これは裁判例でも1990年の地裁で2例、


「事業者が、当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を、消費者との関係で負うものではない」


と言った確定判決が出ています。


「消費税」と言うのは「消費者が間接的に納めている」と思わせているためのただの「ニックネーム」だと思った方がいいと思います。



質問者:

 ややこしいから名前変えて欲しいですよね……。



筆者:

 最低でも諸外国と同じく「(法人)付加価値税」とするべきですね。

 消費者が企業を介して国に納めている間接税では無く、企業が直接支払っている直接税だという理解をしていただければと思います



◇食料品を引き下げた「経済効果の5兆円」は物価が下がるとは限らない



質問者:

 消費税についての理解は大体できたところで本題なのですが、


 どうして筆者さんは食料品の税率を下げても物価が下がらないと思われているのでしょうか?



筆者:

 日本では消費税が下がったことが無いので、海外の付加価値税の過去の事例を参考に語らせてもらおうと思います。

企業の思考パターンとしては日本も海外もそうは変わらないと思いますのでね。



 まず、付加価値税を引き上げたケースを見ていきます。

2015年の研究(Benedek et al)では1999年から2013年までの欧州の付加価値税を上げた際に,9か月前から価格への影響がみられ,変更日まで価格変化は税率相当分の71%上昇となったそうです。


 IMFが2018に公表したデータによれば、付加価値税引上げにおける消費への影響が,OECD 平均では-0.6%ポイントであるのに対し,日本の過去 3 回(導入時を含む)の平均は-4.4%ポイント低下したと指摘されています。


 そのために日本は諸外国と比べても消費税が厳しい税金であることが分かっています。



質問者:

 日本では特に消費税引き上げによる消費減少の影響は大きいんですね……。



筆者:

 それに対して付加価値税の引き下げについて2019年の研究(Benzarti and Carloni)では引き下げの利益を実際に得るのは消費者ではなく企業の所有者に利益をもたらす傾向があることが分かっています。


 食品業界の価格転嫁率は機械的な下落幅の25%程度にとどまり,多数のレストランでは価格を全く下げていないといったデータもあるそうです。



質問者:

 なんと! 引き上げの際には70%反映されて、下げても25%しか反映されていないんですね……。


 どうしてこんなことが起きるんですか?

 


筆者:

 これは価格決定者はあくまでも企業側であり、基本的には販売価格は需給バランスで決まるからです。

そのために消費減税をしたからと言って価格が下がるとは限らないのです。


 消費減税によって同業他社が税率分全て引き下げれば下げるでしょうけど、

そうでなければ下げないといった思考に働くのだと思います。

 

 つまり、消費税を上げることは本当に「しちゃいけない」ということです。


 逆に時限的な消費税減税では再び元に戻る(上がる)際に再び価格上昇要因となるでしょうね。



質問者:

 4月4日の記事で、立憲民主党の有志議員でつくる「食料品の消費税ゼロ%を実現する会」(会長・江田憲司元代表代行)がまとめた消費減税案では、


『同会は税率ゼロで「年間約5兆円の減税効果があり、国内総生産(GDP)を約0・3~0・5%押し上げる」と試算。財源として、過剰な積み立てが指摘される基金の活用などを想定している。』


 とあったのですがこれは一体どういう事なんですか?



筆者:

 「5兆円の減税効果」は確かにあるのでしょうけど、これが全て「物価が下がる効果とは限らない」という事です。


 欧州の研究を参考にするのならば5兆円分減税しても1.25兆円余りしか物価減には影響しないでしょう。


 せいぜい、「第二法人税」の性質があることから、残る金額分は食品業界の経営が楽になる程度の効果しか無いと思われます。


 それらが物価に対して追加の物価高を抑えるという意味では効果があるとは思いますが、直接的に国家全体にプラスにはなりにくいと思います。


 中途半端に下げて「物価高にさほど効果なし」となったら消費税について改革されるチャンスと言うのが全く無くなってしまう恐れがあります。


 それだけは避けたいので、僕としては消費税の軽減税率のみ下げることに反対したいという事なのです。



◇「弱者イジメ」の消費税を廃止し、法人税に一本化するべき



質問者:

 確かにそれなら7兆円かけて「103万円の所得税の壁」を178万円に引き上げた方が国民の手取りが確実に増えて良いですね……。



筆者:

 賛否は分かれると思いますが「国民を豊かにする」ことと「予算が限られている」状況下であればその判断で正しいと思います。


 ただ、本来であれば国民がここまで苦しんでいる状況では政策を総動員して何でもやるべきだとは思いますけどね。



質問者:

 消費税はそうなると何が問題なんですか?



筆者:

 現状の消費税の最大の問題は「賃下げ税制」であることです。


 同じコストを支払うのであれば非正規雇用にすることが、会社の利益(残金)が増えたり、給料における手取りが増える最善の道まであるんです(社会保険に加入せずに済むために)


 食品の消費税を減税や非課税にしようとも、この点が全く変わらないために効果が薄いんです。



質問者:

 でも思ったんですけど、どうして賃金は消費税の対象外(消費税が減る要因ではない)なのでしょうか?



筆者:

 僕もこれは調べて最近知ったことなのですが、


 世界中のほとんどの国で採用されている付加価値税制度でも、

 給与や給料は消費行為ではないため、基本的に非課税と言った考え方を取っているところがほとんどのようです。



質問者:

 そうなんですか……。



筆者:

 ただ今の日本政府が矛盾している点は「賃上げの音頭」を取って「賃上げをした企業に補助金」を出すといったことをやっていることです。


 現状では団塊の世代がいなくなって人手不足になっているために自ずと賃上げが起きやすい状況にあります。


 そのために「賃上げをした結果」に対して補助金を与えることは適切ではありません。


 「適切な手取りが増えるための賃上げの音頭」を取るのであれば基礎的な消費税率を下げることと社会保障の低所得者層への減免が大事だという事です。



質問者:

 なるほど……。



筆者:

 また、予算だ! 税制だ! などを言うのであれば、消費税廃止して法人税に一本化がベストだと思います。


 消費税は上記のように複雑な制度ですからいっそのこと無くしてしまった方が便利です。



質問者:

 「賃上げの音頭」を取るのであればまず消費税を廃止して法人税の一本化と言う事ですか……。


 でも全くそんな議論にならないのはどうしてでしょうか?



筆者:

 一つは「利権」があると思います。


 税金が複雑であれば税理士などの職業が潤いますが、簡素化して誰でも分かるようなシステムで確定申告などが出来るようになってしまえば仕事が無くなります。


 もう一つは制度が複雑であることによって増税をし易くしています。

 

 消費税のインボイス制度も消費税の根本的構図が理解されていないことから「実質増税」である構造を理解できない方が多かったのです。



質問者:

 確かにあまりに複雑で色々制度があると「考えたくなくなる」ことから、政治家の思う壺ということになってしまいますね……。



筆者:

 「思考停止」が一番いけないと思います。政治家の詭弁などに対して反論する論拠をしっかり持つべきだと思います。


 そのためには、僕なりにかみ砕いて政治経済について全力で解説していこうと思いますので、よろしければこれからもご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
税金についてこの前描き忘れたのが、3公7民~4公6民が最適と歴史上ですでに何度も結論づけられてますが、今の日本は多分上級国民(心は劣等国民)以外は逆どころか9公1民すらあり得るのが大問題ですよね
税制は法人と関税の2つ有れば十分。そこに他者の健康被害に繋がるタバコ税やアスベストや公害といった健康・環境税を付加すればお仕舞いですよね。 後は、同一企業内での所得がせめて5倍以内に(最終的には2倍…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ