◆はじめに
前略、このページをご覧くださっている全ての皆様へ、まずは心から感謝を――。
……と、『深界の止揚』の外伝作品らしく、書き出しはこんなふうに揃えておくこととしよう。
一度”物書き”を辞めてしまった僕が、こうやって再び筆を執る気になったのは、誰でもない――”赤髪の彼女”に影響されてであることは間違いない。
この荒んだ世界で腐りかけていた僕に、細やかなチャンスをくれた彼女に対して、僕は少しずつ恩返しをしていきたい。そんな思いも相まって、数年のブランクがあるにもかかわらず、意外とすらすら指が動くことに自分自身驚いている。
前置きが長くなってしまいそうなので、手短に済ませよう。
このお話は、そんな僕が彼女と出会ってからの日々を綴った記録のようなものだ。ファンタジーやSF好きの君達からすれば、少し面白みに欠ける内容になってしまうかもしれないけれど、最後までお付き合いいただけると大変嬉しく思う。
事の顛末を語る前に、まずは”あの夜”の出来事から話すのがいいだろう。
物語はあの場所から始まり、最後には再びあの夜へと回帰する。そんな日々の喧騒の中で、一人の少女が懸命に筆を取り、一つの”物語”を完成させた。
これから君達に贈るのは、赤髪の彼女――綾瀬彩華が、『深界のアウフヘーベン』という壮大な作品を書き上げるまでを綴った、君達にとってはフィクションで、僕らにとってはノンフィクションでもある物語である。
著者:葛葉 芳澄