82話 地獄箱へルック①
時間は遡り、アイズとノースが地獄箱へルックから脱出をした出来事である。
この奇妙な世界に閉じ込められ、何日経っているのか分からずとも、俺とノースはこの世界で暮らしながら、脱出方法を考えていた。炎魔を使ってどんな世界なのか、見て回ったところ正方形の世界だということがわかったらしい。
リアやミライは無事なのか。キアは大丈夫だろうかと日々考えながら、多種多様のファンズマを倒す日々。
俺のバリアで寝床を確保しそこで住んでいるけれど、そろそろ寝床は変えたほうがよさそうだな。
「アイズ兄さん後ろ!」
ノースの掛け声でファンズマが背後にいてバリアを一度出し、ファンズマを倒した。これでしばらくは出ないだろうと汗を拭き取る。
「さっきはありがとな」
「いえ。それより拙僧たちはどれくらいここにいるのでしょうか。スマホも無線も使えないですし」
「そうだな。あっちの状況が読めないのが難点だな」
他にもここに閉じ込められている人はいるのだろうかと炎魔に聞いてみた。
「人の気配はあったか?」
「北の方に小さな村はあったけれど、人の様子は見られなかった」
そろそろバリア生活は限度に来ており、俺の体力を考え、一度バリア生活は一度やめたほうがよさそうだな。とにかく北に向かって、その小さな村へと行ってみるか。
「ノース、ある程度倒せるようになったから、少し移動するぞ」
「はい」
荷物は持っていなくノースが出した猛獣に乗って炎魔を先頭に北へと出発した。赤と黒、師匠から教わっていたが、まるでヴィアント家とローヴァン家の色合いのようだ。ローヴァン家はティルの苗字な。
それにしてこの架空世界は少し、バンジャが作り出す架空世界に似ているような感じもする。バンジャの能力に似た能力者がもしかしてここにいるのかと不思議に思いながら、意外と近くに村があったようだ。早めにここを訪れるべきだったかと思いながら、木材で作られた要塞の扉をノックしてみる。けれど反応はなく押してみると開いたから中へと入った。
一応、ファンズマが侵入しないようにと丸太で鍵をかけ村を探索してみる。
この作り、まだ未開発予定のVRソシャゲに出てくる村にそっくりだな、あっと思い出したことがあった。
あのイベントのチケット、抽選いつだっけ。まだ何日も経っていなければ、すぐ帰って確認したいところだが、時間が過ぎてしまったら諦めるしかない。まだ先のことだろうけれど、終わっていたら発売されるまでお預けか。
まあいいやと村長の家という看板を見つけそっちに行ってみる。
ノックしても反応がなくやはり廃村と言うべきだろうかと、考えていたらそこで何をしていると声をかけられそちらに目をやった。ノースと同い年ぐらいの女の子が武装をしている。
「俺はアイズと言って、こっちにいるのがノース。君は?」
「チェル。よろしく。あまり見たことがないけれど、ここに何しに来たわけ」
「一刻も早く帰りたい。どうやったら帰れるか教えてくれるか?」
「帰る?あー君たちはあっち側の人間か。なるほどね。要は誰かによってこの地獄箱に入れられちゃったってわけか」
どういうことだと俺とノースは首を傾げると、まあ突っ立ってないで入ればと村長の家へ入れてもらった。適当に座っててと言われソファーに腰を下ろし、お茶とお菓子と言うべきなのか分からないものを持って俺たちの向かいで床に座る。
「ちなみに誰にやられたとかはある?」
「いや、名前は知らない」
「そっか。となるとヴェルディ辺り。ヴェルディはあの人の愛弟子でしかも潜入が得意で、それに空軍大将」
「余計に分からないんだが」
分からないかと再び席を外して二階へと上がってしまう。
「アイズ兄さん、人と会えたのはいいですが、油断はしないほうがいいかもしれない。さっき村を人通り見たけれど、骨がちらほらと転がっているのが見えました」
「あぁ、わかってる」
お待たせとアルバムを持って降りて来て、さっきのところに座りペラペラとアルバムを見始める。そしてあったと見せてくれたのは、ニディアと一緒にいたノールト兵で間違いはない。
「こいつ。こいつが呪文のような言葉を言ってここに来た」
「ヴェルディと言ってイルラナ遺伝子を持つエルラド族の一人。エルラド族は基本、楽園の中で過ごすと言われている」
「ならなぜノールト兵となって俺たちに接触した?」
「考えられるのはただ一つ。あのお方の子が地で暮らしているから」
あのお方って誰のことだと思考を膨らませていると、ノースがチェルに聞いてみる。
「拙僧たちの身近にいる人?」
「おそらく、そうなる。そうでなければ保護するのに近づけない」
思い当たる節があり、キアやリアがエルラド族の末裔の子だとすれば俺を排除し、捕まえられるからだ。
「ちなみにさ、チェルはここに閉じ込められているってことでいいのか?」
「まあそうなるかな。ズユ様を守ろうとした時にあのお方によって閉じ込められたようなもん。ズユ様がどうなったのかは分からない」
「あのお方って?」
「パトレア様、世界の創造主たる者。脱出したら楽園に入れると思うけど、覚悟はしといたほうがいい。それでもいいなら脱出方法は教える。けれど一つ条件があるけどいい?」
なんだと聞いたら服とタオルをもらい、とにかく風呂に入って来いと言われ、俺とノースは赤っ恥になりながら風呂に入ることに。
こっちに来てから一度も風呂に入っていなかったからなと身体をきっちり洗い湯船に浸かった。久しぶりの湯船に極楽していると、ノースが指で水鉄砲を作りお湯を発射させながら言う。
「信じられないです。おとぎ話に出てきた族が本当にあるだなんて」
「俺も驚いた。あの話を聞く限り、リアたちのことを示していたよな。そうなるとリアたちは今、楽園にいるってことになる」
「可能性はありますね。無事でいてくれることを願うしかありません」
エンディードはもう使えないのか、はっきりしないけれど、キアのエンディードが暴れなきゃいいなと感じてしまった。
すっきりした俺たちはくれた衣服に着替え、リビングに戻ってみると、おとぎ話の本を読んでいるチェルがいた。俺たちが来たことで、その本を棚に戻し、隣にあった本を俺たちに見せてくれる。
「これって?」
「アイズが知りたいような内容が載ってる」
俺が知りたいような内容と思いながらペラっとめくるとそこに記されていたのはヴィアント家についての本だった。ヴィアント家はレッドヴィークの王族とも呼ばれているのは、母さんから教わっていた。
けれど、ヴィアント家は元々エルラド族の楽園の片隅に住んでいたらしい。つまり俺たちもエルラド族だということ。
「数百年前、ヴィアント家はかつて楽園の片隅に住んでいたらしい。だがローヴァン家によってその片隅の土地を奪われ、ヴィアント家は地へと降りた。これでなんとなくわかるはず」
「俺の家系とティルの家系は因縁があるから、母さんはライディー社を潰そうとしていた」
「え?そうなんですか?」
ノースに質問され、そうだよと告げるとノースはびっくりしていた。今はどうなっているのかは帰ってみないと状況が読めない。
「それともう一つ、一番厄介なのはティルの母親のことを聞いたことはある?」
「ティルの母親?」
「ティルには腹違いの兄が存在する。腹違いの兄はヨウミという奴だ」
俺とノースは驚愕し、ヨウミは半ファンズマだぞと思考を膨らませていると、そう言えばグックからあることを教えてもらったことがある。ヨウミはデッドハラン王国の王子…はっと思い出してまさかとチェルに聞いてみた。
「デッドハラン王国ってもとは」
「初代ノールト王国、ロンゴールが奪ってデッドハラン王国へと変わった」
なんとなく理解はでき、オーケルの妻でティルの母親はデッドハラン王国に幽閉されている。オーケルが大人しかったのもはっきりした。
「これでなんとなくはわかった?」
「大体は。それでどうやって脱出するんだ?」
「この架空世界はキューブ型の世界。七つの世界が存在するって言ってもわかんないか。ちょっと待ってて」
チェルは紙とペンを持ってきて書いてくれた大きな正方形を書く。
そこから九つの正方形。そして上左が赤、上中央が橙、上右が黄色、中央は緑、下左が水、下中央が青、下右が紫エリアで、俺たちがいるのは赤いブロックにいるらしい。
「色を示しているのは属性って捉えればいいんだよな」
「そういうこと。ただ脱出するには七色の鍵を入手しなければならない。そうすれば確実に出られる」
「今の俺たちじゃ周りにいるファンズマが限度だな」
「そうですね。もっと力をつけないと辿り着けないかもしれない」
今の実力じゃたとえ鍵を入手しようと挑んでもファンズマには勝てないだろう。そしたらチェルがファンズマと疑問に抱いていて、この世界にいる魔物について教えてくれた。
「ここにいるのは魔遺伝子で生まれた魔物、マナジオ。魔を持たない人たちは確実に死す。あなたたちはヴィアント家だから、魔を利用して生き延びられている状況」
「じゃあ骸骨があったのは」
「魔遺伝子を持っていない人たちが死したようなもの」
俺たちは常に炎魔を出していたから、死なずに済んだってことなのか。それにしてもここにいるマナジオは炎系タイプばかり。
そうだ一応どういう能力なのか聞いておこう。
「チェルはどんな能力を持っているんだ?」
「基本能力はエスパー、本来の能力は洗脳術」
洗脳能力者がいるだなんて初めてのケースで、チェルの瞳からなぜか逸らすことができない。しまったとノースもかかってしまったようで、チェルは高笑いしタブレットを見せてくれた。
そこに映っているのはリアの姿で、その隣にいるのはティル。
「ズユ様やリア様を洗脳できなかったのは残念だけど、このことを知ったアイズとノースはこの世界にいてもらう。このことをぜーんぶ忘れて、ここで過ごしなよ。それがパトレア様が下した天罰。よかったね、死なずに済んで。わかった?」
はいっと勝手に口が滑った途端に景色が真っ暗になった。
◇
二人がぐっすり寝てもらっている間にプログラムを変更して場所を切り替え地獄箱の管理室へと入る。七つの鍵はここに保管しているから、探しても無理。それにしてもあっさり、あの二人をコントロールできるとは思いもしなかった。
これで時間は稼げるけれど、問題は炎魔が二人を目覚めさせる可能性が高い。それも見つつ、また能力使えばいいかと着替え一度、地獄箱から出た。
「いきなり出てくるな」
「けちヴェルディ。パトレア様はあの二人をその箱にしまっておく必要ってどこにある?」
「パトレア様のお考えだ。チェルは指示に従ってればいい。リア様とティル様が順調にいっているとしても、油断はできないからな。二人は?」
「きっちり指示に従わせて今は眠ってる。起きたら観察する予定」
そうかとヴェルディと歩いていたら、誰その子と不機嫌そうな子がいて、ヴェルディが紹介する。
「キア様、こちらは俺の弟子であるチェル。あまりいないこともありますが、仲良くしてあげてください」
「ふうん。じゃあさ、チェル少し借りてっていい?」
「チェル、失礼の内容に」
例の子かと思いながら承知しましたと敬礼して、キア様の左後ろを歩いた。さっき地獄箱に入っているのばれたかもしれないなと思いながら、キア様のお部屋へと入った途端に壁に突きつけられどういうことだよと睨まれる。
「あそこから出てきたのを見えた。アイズはそこにいんの?」
「キア様、なんのこと」
「ふざけんなよ。今不気味なあいつと接触して機嫌悪いんだからさ。アイズの居場所吐いてもらわないと、パトレア様に言っちゃうよ」
この子、根が強すぎると思いながらもキア様にかけても効果は薄い。だから正直に答えるしかないかと伝えた。
「あれは地獄箱へルックと言って、一度入れた者は出てくることができない物。キア様は助けることができない」
「ならチェルはどうやって出たんだよ」
「それはあそこを管理しているから、出入りができる」
「ならさ、僕と取引してくんない?勝手にここに連れ去られてアイズがあの箱に入って凄く心配なんだ。その代わりチェルの望みを叶えてあげるよ」
そうは言ってもパトレア様がそれを望むはずがないし、チェルの望みはズユ様をパトレア様のところに連れてくること。一度パトレア様に閉じ込められて、もう駄目かと思ったけれど、条件を言い渡され生きている。
ただパトレア様に逆らえば天魔になる術が込められているから、逃げることは許されない。けれど一眼でいいからズユ様が無事でいるかどうか確認できればそれだけで十分だ。
「わかりました。ですがパトレア様に一度確認してからでもよろしいでしょうか?」
「構わない。僕は一度だけでいいからアイズに会いたいだけだから」
「ではお話が決まり次第、キア様のお部屋に向かいます。それまではしばらくお待ちください」
伝えるとお願いねとなぜか無邪気な笑みを見せられ、何あの子と思いながらパトレア様のお部屋へと向かった。きっと叱られるだろうと覚悟しながら、階段を登り切ると変わらず空の海を眺めていらっしゃる。
パトレア様とお声掛けるとパトレア様はどうされましたと微笑みながらこっちにいらっしゃった。
「先ほど、キア様に出るところを見られたかもしれません。それで」
「わかっていましたよ。キアはずっとヴェルディがつけているへルックを見ていたので。いいでしょう。エンディードも消えたことですし、会わせる許可は出しますが一度だけですよ」
「わちの天罰は」
「天罰は与えませんが、くれぐれも注意はしておいてください。わかりましたね?」
「はい、パトレア様」
よろしいと言われ、わちはパトレア様にお辞儀をして、キア様のお部屋へと向かうことに。
◇
僕はなんとしてでもアイズを助けたくて、ティルも探してはいるようだけれど、書斎には地獄箱へルックについての本がない。どこかにあるのではないかと行ける範囲内で探すもどこにもなかった。
だから僕はヴェルディを監視していたところに、あのキューブからチェルが出てきたことに驚いたよ。
後は返答が来るのを待つのみだけれど、このむずむず感はなんだ。恐れてほしくないことが起きるのではないか。姉貴はアイズのことも心配しているし、無事だという証明さえあれば姉貴は落ち着く。
けれど姉貴との接触は禁じられているから、シフォンに伝言を頼むしかない。
ベッドに座ってそんなことを考えていたら、すぐにチェルとヴェルディがやって来て、入れてくれるんだと理解し立ち上がった。
「パトレア様から許可が出ましたが、こっちに戻る際、必ず清め風呂に入るよう命じられました」
あぁあれねと苦笑いしながらありがとうと告げ、チェルの手を握り、チェルは握っていないほうでキューブに触れると管理室っぽい部屋に到着した。ルシャンダの部屋みたいと思いつつ、洋服を貸してくれる。それに着替えてローブを羽織っていると七色の鍵があった。
これってもしかしてと触れようとしたら、チェルが触れてはいけませんと注意され、これが脱出する鍵なんだ。アイズに会ったらこのことをこっそり伝えなきゃ。
行きましょうとタブレットで操作をし、ワープした。あのタブレットを奪えばあの管理室に行けるかもしれないと思ってしまう。赤い空、黒い地面。ファンズマのような魔物がうようよいたとしても、僕たちに危害を与えるような感じではないようだ。
少しして歩いていくと木材で作られた要塞があり、帰って来たよと叫ぶと扉が開いた。ここにいるのかと中に入れてもらうとアイズとノースがいても、いらっしゃいと僕を知らないような感じで言葉を失う。それにこの村で住んでいるような服装で武装が全てない。
「新しい子?」
「そうじゃない。アイズに会いたいって言うから連れて来ただけ。どう?感想は?」
アイズ、僕だよと伝えたくても、初めましてと言われて、僕は真っ先にチェルを連れて一度村に出る。
「どういうことだよ。ちゃんと説明しろ!」
「わちの能力は洗脳、パトレア様のご指示で二人を止まらせている。会いたいって言ったのはキア様。どんな状況でも受け止めるべき」
てっきり普段通りのアイズに会えると思っていた僕が間違いだった。ノースがなぜここにいるのかは知らないけれど、一人よりかはましか。アイズやノースを元に戻せるのはきっとミライとワイズだけだ。
記憶回復のヘリットは洗脳された記憶を回復させる可能性があるから。けれど僕は地に降りることはまだ許されていない。何か暗号を置いて置くしかなさそうだな。
「悪かった。少しアイズと二人きりで話してもいい?」
「大丈夫」
ありがとうと伝えて村の中へ入り、アイズの手を取って知らない家の中に入る。
「えっと、君は」
アイズ思い出してとアイズに口付けをしてみるも、アイズの手で押され離れてしまい、やや頬を染めて照れていた。アイズ、何も思い出せないでいる。
「びっくりさせないでくれ」
「びっくり?僕だよ。キアだ。アイズと僕はデッドハラン王国第一調査員で、アイズのパートナー」
「デッドハラン王国…?調査員…?」
混乱しているようで、洗脳を解くにはやっぱり二人の力が必要かもしれないと思っていたら、アイズが頭を抱え倒れそうになり支えた。記憶をいじったり、洗脳するとか最低だよと背中を摩っていたら、アイズからの口付けがくる。
自分がさっきしたけれど、アイズからくるとは思わなくて、びっくりしていたら、唇が離れぎゅっと抱きしめられた。
「キア、無事でよかった」
「無事は無事でも、僕と姉貴にそれからティルとシフォンは囚われの身だよ」
「あっちでどうなってる?どれくらいたった?」
「僕もしばらく寝てたこともあって正確には覚えてないけど、半月か一ヶ月は経ってると思う」
アイズは少し悩んでいて、するとアイズがこんなことを言い出した。
「キア、せっかく来てくれたけれど、俺とノースはここに残る」
「どうして。もしかしたらもう二度と会えなくなるかもしれない」
「必ず脱出はする。キアの隣にシフォンがいるなら安心だ。ちゃんと幸せになるんだよ」
「じゃあ元から」
アイズは僕の頬に触れ全てわかっていたような表情をして、ラストにもう一度口付けをする。
「いい?鍵の場所があるはずだから、それを探してみる」
「そのことなんだけど、鍵は管理室に全て揃ってた。探すにしてもないと思う」
「なるほどな。なら、俺はこのまま忘れている振りをしながらどうやって入れるのか探る。時間はかかるかもしれないけれど、必ず脱出して、キアたちの前に現れるから、リアたちのこと頼むな」
「わかった。このことみんなにも共有しておく。必ず帰って来てね」
わかってるとアイズの笑顔を見て、僕はチェルと一緒に地獄箱へルックから出たんだ。




