51話 春の嵐
桜の季節となり卒業式からすでに桜がちらほらと咲き誇っていた。今日はワイズたちの卒業式でカディヴィア学園では卒業式が行われている。
私はミライを抱っこして参列して、隣では涙目でいるギーディスがカメラを構えていた。総司令官は仕事が溜まりすぎているため、欠席している。
卒業生入場で拍手しながら、ギーディスは自分の子たちを連写してパーパとはしゃぐミライ。ワイズは照れながら小さく手を振っており、私も手を振った。
キアが連れ去られ会議で話し合った結果、デッドハラン王国の場所が判明。お兄ちゃんがキアに渡していた鈴の音を頼りに、お兄ちゃんはこっそりデッドハラン王国に侵入することを成功した。ただしそこには計り知れない新種のファンズマがいることが判明し、どう対処するかを議論しながら時が過ぎ、各土地から新種のファンズマが出始めている。
新種のファンズマを慎重に運びつつ研究を重ねていった結果、お兄ちゃんが見てきたファンズマと一致した。今はカディヴィアとニューダ社で、どのタイプなのかを調べてもらっている。
私たちはできるだけ対応できるようにとカリキュラムを更新していきながら訓練を行う日々が続いていた。そして四月にはフリジンダ社とニューダ社が表に出る。
卒業式が終え卒業生たちは思い出作りで写真を撮り、私もティルとワイズ三人で撮ったり、ルシャンダと撮ったりとしていたら、レッツォがいいかなというものでレッツォとツーショットを撮る。
「おめでとう、レッツォ」
「ありがとう。大事にする」
「こちらこそ、ニューダ社じゃなくてフリジンダ社を選んでくれて」
「もともと迂生は、その、いつかは島に戻るつもりだったから。これからは修復とかあれば手伝う」
「お願いね」
話しているとレッツォ先輩とレッツォと同じ部活の子たちで、私はその場から離れてあげた。さてと島に戻ろうとした時のことだ。木々の茂みに誰かがいて私は思わず追いかける。
もしかしてと追いかけると校舎裏で足を止めている子がいた。フードを深く被った子は一輪の花を持っている。
「誰?」
するとその子はフードを下ろし、その子の髪の毛が靡く。髪の毛が伸びていても私はキアだとすぐにわかった。
「キア」
「アイズが行っていいって言われたから来ただけ。シフォンの顔、見れたし。これはワイズに渡して」
本当はシフォンに渡したかったんだろうな。それでもシフォンは私と同じく中退して、ティルを支えていけるようにと先にニューダ社で働いている。
「アイズは?」
「僕一人。心配かけちゃってごめん。僕はなんとか元気にやってるから、もう心配しなくて大丈夫。それだけ伝えに来ただけ。そろそろ行かなくちゃ」
キアはフードを深く被っているとシフォンが待ってとキアを止めに入る。
「キアだよね。余は必ず、キアを迎えに行くから、待ってて」
「…待ってなくていい。シフォンは新しい子を探して。それじゃあ」
キアは風に吹かれるように姿を消してしまって、シフォンは少し落ち込んでいるも、キアからもらった花を渡してあげる。
「シフォンに渡したかったんだと思う。受け取ってあげて」
「ありがとうございます、リア様。キア、だいぶ変わっちゃいましたね。大丈夫でしょうか?」
「わからないけど、キアが無事で過ごしているから希望は捨てちゃだめだよ」
はいとシフォンから返事をもらい、私たちはみんなのところへ戻って撮影を再開した。
謝恩会が開かれそれぞれパーティードレスに着替え、先生と踊る卒業生や卒業生同士、卒業生と後輩が踊る。私はもちろんワイズとティル、ルシャンダやレッツォと踊る。
ワイズたちは他の子たちに踊ってくださいと言われ、私はお母さんに預けているミライのところへと行った。お母さんからミライをもらい、お母さんの隣を座る。
「いよいよって感じね」
「うん。…お母さん、さっきキアにあったよ」
「シフォンから聞いたわ。キアに会えてよかったってね。アイズとの接触はないだろうけど、覚悟はしておいたほうがいいわよ。キアがデッドハランにいることで、エンディードを利用しかねない」
「気をつける。お父様は本当にデッドハランに設計図を渡すの?」
私たちだけがお父様に教えてもらったこと。設計図を渡す代わりにキアを返してもらう商談を行うこと。ディリー総司令官もティルからは了承を得ている。というのも来るなら来いと二人は言っていたなとティルが笑ってニディアと踊っている姿をみた。
ワイズはギブアップのようで踊り過ぎたとお母さんの席に座り私に寄りかかる。お母さんはギーディスのところへと行くようだった。
お疲れ様と癒しのミライを渡し、ワイズは癒やされたかのようにミライを抱っこする。
「さっきキアに会ったんだろ?どうだった?シフォン、少し元気なかったからさ」
「アイズが会いに行っていいって言われたから来たみたい。侵入されないようにお兄ちゃんやってるけど、学園は穴があるみたいだよ」
「俺たちが卒業してからどうなるかはわかんねえけど、強化はしたほうがいいよな」
お兄ちゃんはもう一つ言っていた。学園内でデッドハラン調査員がいる。そのせいで情報があっちに渡っているということ。それにキアが言っていた言葉。待ってなくていいという言葉が何を意味するのか想像したくない。
ルシャンダがルマと踊っている姿を見ていると、ギーディスが何かを話したいようでミライをお母さんに渡し、会場から出た。
「親父なんかあった?」
「さっき、キアに会っただろ?」
「会ったけど」
「俺はアイズに会って言われたよ。今度はリアとミライを奪いに来る。ワイズにそう伝えろとな。それと卒業おめでとうとも言ってた」
「まだリアのこと諦めてなかったのかよ。覚悟はしてるけど、他にもなんか言ってたなかったのか?」
ギーディスはそれはと半笑いして、なんだろうと考えていたら、ギーディスが言い出す。
「エンディードをもっと増やすからキアだけじゃ足りないとまでも言ってた。ハイス流のやり方をされたら後戻りはできなくなる。キアはなんか言ってなかったか?」
「…シフォンが待っててと伝えたけど、キアは待ってなくていい、他の子を選んでと言ってた。それが本当ならキアはもう戻って来れなくなるってこと?」
まだわからないとギーディスが言っていて、もっと詳しくキアに聞いておけばよかった。キアの遺伝子を与えるってことだよね。妊娠してるようには見えなかったから、ハイスがやっている方法で遺伝子を分け与えるとしか言いようがない。
話しているとカディヴィア社総軍隊長に選ばれたブルバがやって来る。
「ネフィラのことは言ってなかった?」
「何も」
「そっか。総長、またデッドハラン王国に侵入してるけど、見つからないように祈るしかない。ギーディス団長」
「引退したんだから元団長だ。それでディリーはなんか言ってたか?」
「いつでも侵略されてもいいようにと準備は進めています。カディヴィアの民、そしてノールトの民は念の為、各島に避難してもらうよう手配はしてあります」
どのタイミングでデッドハラン王国が侵略してくるかはわからずとも、フリジンダ社も力を貸せるようにと準備は進めていた。後はお父様の商談がうまくいけばいいと祈るしかない。
「ブルバ、そう言えば能力は?」
「元に戻った。あ!俺エワンと踊る約束してた。じゃっ」
ブルバはエワンのところへと行ってしまい、私たちも戻ろうと会場へ戻って楽しい一時を楽しんだ。
◇
デッドハラン王国……
アイズと合流してデッドハラン王国に帰還し、もう少しいたかったなと思いながらアイズの隣を歩く。僕のことまだ諦めていないでくれている喜びがあるも、もう僕はシフォンの場所には帰れない。
エンディードを出す訓練は辛い日々であっても、アイズなしで生きていくのが怖いという恐怖に支配されている。僕が生み出すエンディードは姉貴と違い、凶暴すぎてデッドハラン王国の研究者たち数名を怪我させてしまった。僕はそれを見て余計に叫んでしまったことで、一度はどうなったのか記憶にない。それを止めてくれたのはただ一人アイズ。
思い出すたびにいつも想像してしまう。シフォンやみんなに危害を与えるエンディードの姿で、いずれ僕のエンディードがみんなを滅ぼす未来が訪れないことを祈っている。
「シフォンに会った?」
「会ったよ。本当は姉貴だけに会うつもりだったけど、ついてきちゃった」
「そっか。大丈夫、シフォンの前では出さないであげるから安心して。俺は父さんに伝えといた、もう時期リアとミライを奪う」
「姉貴のエンディードはどんな感じなの?」
マイペースかなと過去を思い出していて、なぜ僕のエンディードは凶暴の性格なんだと胸に当てた。聞きたくても今は寝てるから仕方ないかと胸に当てるのをやめ、アイズの手を握る。そしたらどうしたという目でみるも握り返してきて、今日は師匠がいないからゆっくりと過ごした。
◇
翌日、ワイズはまだ寝ておりその一方ミライは目をパチリさせ私を見ていた。おはようと起き上がってミライを抱っこし、リビングへ入る。
四月に発表するけれど私たちはフリジンダ社を今日から動かしていくことになっていた。ミライはリビングにあるおもちゃで遊んでてもらい、ワイズのお弁当を作っていく。卵焼きを焼いていたら、まだ眠そうなワイズがリビングに入り、お互いおはようと言いながら、ワイズはミライの面倒を見ててもらった。
こんなものかなとお弁当箱に詰め、朝食をテーブルに乗せ、ワイズはミライをベビーチェアに座らせる。いただきますと言いながら、今日のことで話し合う。
「今日はどうする?」
「エピルスはすでに動いてもらってるから、挨拶回り行くか。それにせっかくキア護衛隊考えてくれてたヨウミに詫びの品も持っていきたいし」
「そうだったね。ヨウミたち、キアが消えてから捜索に当たってくれてたから、お礼しにいこ」
キアの護衛部隊はなくなってしまっても、エピルスのみんなはワイズたちが学園活を送っている間に、捜索してくれていた。もちろん、ニューダ社の社員やカディヴィア社の社員が探し回ってくれてた。
ワイズは朝食を食べた後、先にフリジンダ社へと向かい、私は家事をしてミライと一緒にフリジンダ社へと入る。
モニター室へ入るとルシャンダはここで寝ていたようで、布団をしまっていた。
「おはようであります」
「おはよう。せっかく家あるのに」
「えへへ。つい癖で寝ちゃったであります。いよいよでありますね。ワイズは社長室にいるでありますよ」
「うん。ヨウミたちのところに行くから、ゲートの準備お願いね」
あいあいさーとルシャンダはゲートの準備をしてもらっている間に、社長室へ入るとコルアと打ち合わせをしている。コルア、キアと同じで朝苦手なのにとコルアにおはようと伝えた。
「おはよう、リア、ミライ。ヨウミたちのところ行くなら、ミライ、あたしが見てる?」
「お願い。ミライも会いたいだろうけど、支部を回るからミライ、コルアお姉ちゃんと待っててね」
ミライは笑顔であいっと言ってくれて、私とワイズはモニター室へ入りルシャンダから無線をもらって出発する。途中で手土産を買って、ヨウミがいる支部へと訪れるとおはようございますと元気よく挨拶してくれるエピルスたち。
おはようと伝えながらヨウミがいる部屋に行ってみると、待ちなさいとヨウミは五歳ぐらいの子を追いかけ回っていた。するとその子は私の後ろに隠れてしまう。
「やあ、リア、ワイズ」
「ヨウミ、この子どうしたの?」
「新種ファンズマの近くにいたのだよ。採血して誰の子かを調べたいのだが注射針を見せただけで逃げてしまったのだ。ほらおいで、怖くないぞ」
ヨウミが言うもヨウミは注射器を手にし私にしがみつく。ワイズは注射しまえと言っており、私は大丈夫だよとその子の頭を触れようとしたら、泣いてしまった。
もしかしてと思いちょっと見せてねと長袖をめくるとあざと注射を打った痕が多く見受けられる。ごめんねと私はその子を包み、ぶったりしないよと背中を摩ってあげた。少しして落ち着きソファーに座らせた。
「すまぬ。気づかず注射器を見せてしまった」
「どこから来たのかも不明だもんな。お名前言える?」
「メリュレ…」
「どこから来たのか言えるかな?」
質問すると手が震え出し、よっぽど怖いところから来たんだと私たちは悟る。大丈夫だよと頭に触れることができ、一度ワイズとヨウミは部屋を出て話すようだ。
私はメリュレの隣に座り、何かを話してくれるまで待っていたら、メリュレの口から開いた。
「…デッドハラン王国から来た。たくさん、お仕置きされて、注射たくさん打たれた」
「ここは怖くない場所だから安心していいよ。どうやってここに来たの?」
「気がついたら、新種ファンズマに囲まれてて動けなくて、そしたらさっきのお兄ちゃんに助けてもらった」
誰かがメリュレを逃したのかは不明だけど、ヨウミが保護したからフリジンダ社でメリュレの手続きをする必要がある。二人のことを待っていると、ワイズたちが戻って来てメリュレに質問をする。
「お父さんとお母さんに帰してあげたいから、お父さんとお母さんの名前言える?」
「…帰りたくない」
帰りたくないと言う言葉で私とワイズは決心し、ワイズが答えた。
「わかった。ご両親のところには連れて行かない。メリュレはどんな能力を持ってる?」
「気候を操れる能力」
「教えてくれてありがとな。しばらくはこのお兄ちゃんと一緒にいて。もしかしたらご両親が探しに来るかもしれないから」
「うん。さっきは逃げ回ってごめんなさい」
いいんだよとヨウミはメリュレの面倒を見てもらうことにし、私たちは次の支部へ向かうことに。ルシャンダはメリュレのご両親が誰なのか探ってもらっている。
支部を回りこれからよろしくねと伝え、一度島に戻りルシャンダがメリュレの両親を見つけてくれた。昼食を食べながら画面を見て、今後ご両親がやってくるかもしれないと予測する。
「メリュレがわざとここに来たと言うのもありそうだからしばらくは警戒しつつ、メリュレといるようヨウミには伝えてある」
「ご両親はデッドハラン王国出身だから、私たちの仲間ではなさそう。それにしても腕上げたね、ルシャンダ。前はデッドハラン王国の情報盗めないって言ってたのに」
「えっへんであります。ただ貴重な情報はクロウに邪魔されて盗めないでありますけどね」
「ルシャンダは今後、クロウと張り合う形になるけど、こっちの情報はなるべく守ってな」
任せてでありますと食べながら言うルシャンダで、メリュレのご両親は、こっちで例えると父親が青遺伝子で母親が緑遺伝子。父親の能力は魚人で、母親が空気を操る能力だから母親の遺伝子が強いことがわかる。
「これ一応、母さんに伝えとく。デッドハラン王国から来た子を保護したって」
「ならティルには私から伝えとくね。デッドハラン王国の情報は貴重だから」
「和吉はもう少しメリュレの情報探ってみるであります」
それぞれ仕事にかかり、ゲートを開けてもらってニューダ社の入り口に到着した。警備員に一度止められるも、証明証を見せて中に入れてもらう。ニューダ社のほうは大人たちが多いのは当たり前かと思いつつ本部の建物に入り、受付でティル館長に会いに来たことを告げた。
おかけになってお待ちくださいと言われ待つこと数分後、シフォンがやって来て、こちらへとシフォンについていく。
「てっきりティルが来るのかと思った」
「ティル様は今日から仕事なので、手が離せない状態です。手短にお願いしますね」
「うん。シフォン、キアのことなんだけど」
「キアは余が必ず救いますのでご安心ください。キアに避けられていたとしても、余は信じてますから」
シフォンは昨日落ち込んでいたけれど、大丈夫そうでよかった。館長室へお邪魔すると資料に目を通しているティルがいて、シフォンが館長と呼ぶとこちらを向いてくれる。
「挨拶回り?」
「それもそうなんだけど、今朝デッドハラン王国から逃げ出した子を保護したの」
「誰を保護したの?」
「メリュレ・ガンシャ、年齢は六歳で性別は男の子。デッドハラン王国出身で、ご両親に虐待されていることがわかってる」
ティルはデスクトップを見て、ルシャンダから資料もらったそうでそれを見つつ、続きをと言われたから報告した。
「現在、ヨウミがいる支部にて、保護をしているけれど、万が一に備えて警戒は怠らないように伝えてある」
「気候を操れる能力…。少し妙だな。ニューダ社にも気候を操れる能力者がいる。メリュレが嘘をついて時を待っているかもしれないから、気を抜かないようにしてもらいたいところかな」
「うん。ティルたちももしかしたら保護する子たちが増えるかもしれないから気をつけて」
「気をつける。リア、キアのこと心配だろうけど、これからもニューダ社はキアを救う準備もしておく。何かあったらいつでも来ていいし、電話でもいいから話して」
ありがとうと伝えティルのお仕事を邪魔するわけには行かないため、私はニューダ社を出る。ルシャンダにゲートを開けてもらい、島に戻ってミライを抱っこし、外に出た。
風がなくまるで嵐を起こすような静けさと思いながら、ミライが歩きたいようで降ろしてあげる。手を繋いで私はミライと一緒に浜辺へと向かった。




