47話 ハディック帰還で
今朝方、新郎新婦にある情報をもらい、我が輩たちとノアはすぐさま、もとエピルス本部へと急いだ。ただまだ来ていないことがわかり、作戦会議をする。
「アイズとデッドハラン王国の調査員数名が来るはずだ。これが罠だと判断した場合、すぐ攻撃できるよう準備はしたほうがいい」
「我が輩とノアがハディックを引き取る。ノデッドとタング、それからウリは隠れて待機を。なぜ今となってハディックを返してくれるのかがわからぬ」
「母さんも用件が済んだから解放されたと聞いてた。用が済めば解放される人もいる。ただルマに関してはまだ不明な部分が多すぎる。直接アイズに聞くしかない」
どのタイミングで来るのかははっきりしておらぬが、ノデッドたちには隠れててもらい、入り口で待つこと数分後。アイズとハディック二人で来た。ハディックはアイズに背中を押され、一度アイズを見てそして我が輩のもとへ帰ってくる。
「ごめん、なさいっ」
「いいんだよ。ハディックが無事でよかった」
「デッドハラン王国ロンゴール陛下より伝言を預かっている。ジェバールは次のステップへと動き出した。もうお前の父親ではなくなった。精々生き延びてみろと」
父上が父上ではなくなった…。どういうことだと混乱が起きつつ、アイズは嘲笑いながら我が輩とノアを見て言ったのだ。
「それと研究材料をありがとうと感謝をしていた」
その言葉で我が輩はファンズマの姿となり、アイズを襲おうとしたがバリアが貼られる。
「それと総長、キアをいただきに近々伺います。王に頼んでも王は必ずキアを渡してくれる。だからキアとの思い出は作っといた方がいい」
「余計な真似してくれたな」
「それじゃあ、用事は済んだから俺はこれで」
すっといなくなり誰もいなかったことが幸いだった。ハディックは何度も謝っており、大丈夫だと伝えてもしばらくハディックは泣き止まなかったのだ。
新本部へ帰還しハディックの大好きな虫がいる部屋を用意しておいてよかった。ハディックはありがとと虫部屋にいてもらい、今後のことについて話し合う。
「タングはしばらくハディックの様子を観察してほしい。何か不穏な動きを見せたら随時報告を」
「はいっす」
「ノデッドとウリは新支部に通達をしてくれ。ハディックが無事に帰還したと」
「了解じゃん」
「伝えとくね」
三人は早速行ってもらいノアはさっきの言葉が引っかかっているようだ。
「ノア」
「悪い。少しキアの様子見てくる」
「何か手伝えることがあれば手伝う。ノアとリアの大事な妹だ」
「父さん、デッドハラン王国の取引はいつも俺と母さんを同席させてはくれない密会話。時間も場所も教えてくれないから防げない。ファンズマを忍ばせても父さんは見抜く力がある」
そうであった。ノアの父上は一般人よりファンズマを感知できる。無論、ノアやリアにキアもノールト人であるから見分けられるだろう。
となると我が輩たちが忍ばせたとしても助ける手段ができないと言うわけだ。ノアには多くのことを助けてもらっているにも関わらず、ノアの力になれないのがとても残念だよ。
「こうなったらワイズに頼むしかないな」
「ワイズか?」
「そうだ。ワイズはフリジンダ社の社長だ。そこでキアの護衛をヨウミたちに任せたい」
「我が輩たちでよいのか?」
うんとノアが言いそれならノアの力になれるかも知れぬ。
「よい。では早速、新婚夫婦のもとへ戻ろうか」
「いや、俺はちょっと父さんに話をつけてくるから、それまで待っててもらえないか?すぐ迎えに来るから」
「承知した。では我が輩はハディックのそばにいるゆえ、もしその間に何か起きようとしているなら知らせてくれ」
あぁと返事をしてノアは鈴の力を使っていなくなり、我が輩はハディックのそばにいることにした。
◇
予想外な展開に実家に戻って、父さんがいる王の間へと急ぐ。すでに出かけていたら一大事だと兵士にお帰りなさい、王子と言われながらもさっさと向かった。
大きな扉が開き中に入ると母さんを膝に乗せて話していて、俺が来たことに二人がこちらを向く。
「何かあったのか?」
「父さん、先ほどアイズと接触を受けました」
「アイズはなんと?」
「…ハディックを返し、その後、キアを近々いただきに向かうと。おそらく密会の日に王から縁談話が出るはず。未来ではなかったことだから、防ぎようがないと思った。父さんはキアを手放すの?」
「…やはり、そう来たか。リアとワイズが結ばれればアイズは諦めてくれると思っていた」
「あなた、このことはノアに話しておくべきよ」
母さんは父さんが考えていることを知っているようで、父さんは少し悩むも俺に打ち明けた。
「ノールト王国がなぜデッドハラン王国と取引をしているか。それはだなデッドハラン王国の現王、ロンゴールは私の弟なのだ」
信じられない事実に言葉を失う。てことは俺たちの叔父に値する人ということか。
「随分前のことだ。弟、ロンゴールは赤子の頃、デッドハラン王国の者に誘拐された。いくら探しても見つからず、父と母はロンゴールの死亡届を出した。しばらくしてある一通の手紙をいただいたそうだ」
「送り主は?」
「弟、ロンゴールからの手紙だ。そこに書かれてあったのは、デッドハラン王国の王子として動いていることの情報だった。そして死亡届を出してくれて感謝するという言葉に息を呑んだ。死んだことによって二度目の人生を歩み始め、そしてロンゴールが動き始めるという証拠をな」
「…母さんが一度デッドハラン王国に幽閉された意味は?」
ギーディスは俺との仲であっても、なかなか母さんの情報は教えてはくれなかったし、母さんからも直接聞いたことがなかった。母さんは過去を振り返るように一度目を閉じて、そして語ってくれる。
「カディヴィアの遺伝子は貴重であり、ジェバールに誘拐されデッドハラン王国に私を売り、人間の遺伝子をもらった」
「そうなるとヨウミたちの母親ってデッドハラン王国の人間になる?」
「ヨウミはそうなるわね。それ以外の子は幽閉されている女性の遺伝子だと思うわ」
ヨウミがまさかのデッドハラン王国の王子に値するだなんて、このこと知ったらヨウミはどう感じるのだろうか。あれ、そうなればロンゴールじゃなく、本来ならばヨウミがデッドハラン王国の王となるはず。
なぜよりによって叔父のロンゴールなんだと考えていたら、父さんからあることを言われる。
「デッドハラン王国の王は優秀な弟子を王とさせている。だからたとえ血筋が王族の血を受け継いでいても、王とは値しないのだ」
「まじか…。ならデッドハラン王国の王子に値する奴ってまさかアイズじゃないよな?」
「おそらくアイズが今王子に値しているから縁談話が来たのではないかと私は読んでいる。すでにキアから彼氏を紹介してもらっているから断るが、ノア、覚悟はしておいたほうがいい。キアがダメならお前の縁談話も吹っかける男だ。ノアが大切にしている人がいるならすぐ私に紹介をしなさい」
俺、未来や過去ばっか見てきたから、彼女と呼べる人がいないと考えていたら、総司令官が邪魔をすると現れた。
「先ほどの話、聞かせてもらった」
「聞いてたなら、すぐ現れてください」
「別にいいだろ。アイズがあいつの弟子になるとは私はまだ納得していない。なぜそうなってしまったのか親の責任でもある。ここは私も協力しよう。ノア、相手がいないのだろう。ざっと未婚者リスト作成しといた。興味がある子がいたら紹介する」
まさかルシャンダ特製盗聴器がここに仕掛けられていたらまずアウトだぞと思いながらその資料をいただく。カディヴィアの人間で、俺の部下じゃんか。
「密会は一週間後だから、その前に決めておけば大丈夫だろう。ただ縁談話を破棄してもアイズは何かしらと仕掛けてくるはずだ。ワイズにそのことを告げ、エピルスたちをフリジンダ社に入社させるよう伝えろ。給料面とかはこちらで手配しておくから問題はいらないと」
「わかった。明日には総司令官に報告します。俺があっち側についたら大事になるのを防いでおきたいし」
「そうね。ノアのトラベラーは貴重すぎる能力。あっち側で使われたら、後もこうもないわ。ノアも十分に気をつけなさいね」
はい、母さんと伝え、俺は父さんたちに会釈をし、一度ヨウミのところへ行って、ヨウミを連れワイズのところへと向かった。
◇
懐かしい島でゆったりと過ごし、みんなは邪魔しないようにと今の島へと帰ってしまった。だから今いるのは俺とリア、そして愛しい息子のミライのみ。
ミライのために砂場で大きな城を作っていて、リアとミライは出来上がるまでハンモックでお休み中。
こんなもんかなと周囲を見て、二人を起こしに行こうとしたら、俺の傑作を壊すリアの兄とヨウミがやって来た。
「ごっめん」
「ごめんじゃないっ。せっかくの城を。リアとミライ、すっげえ楽しみにしてたんだぞ」
半泣きで二人に訴えていたら、リアが目を擦って起きて来てしまう。
「あれ?お城は?」
「この二人に壊された!」
「ありゃりゃ」
二人はごめんと再度謝り、今度は一緒に作ろうと励ましてくれるリアであった。
俺はまだ崩された二人を許したつもりはないと思いながら、紅茶を淹れて何しに来たのか教えてくれる。
「ワイズに商談話を持って来た」
「どんな?」
「以前、エピルスをフリジンダ社に入社させることだよ」
まだ俺とリアで話し合って止まってる途中だし、まだ答えは出せないからなと、迷っていたらノアがあることを口にした。
「リアのことを諦めて、今度はキアが狙われる立場となった。それとややこしくなるかもしれない。デッドハラン王国の王が俺たちの叔父だと言うことが判明した。そこでは王族とは縛らず、後継者の弟子を王とさせる国だそうだ。アイズはおそらくデッドハラン王国の王子に値する」
「…アイズの部屋、掃除してた時、大量のグッズがあったの。まさかキアが狙われるだなんて。お兄ちゃんで見て来れないの?」
「見に行きたいが、行っている間にキアが奪われる可能性が高いから行きにくい。父さんは縁談話は断るらしいけど、俺の縁談話も持って来るかもしれないからと、早めに報告するよう言われたよ。今はそれで誰にするか決めておかなければならない」
兄貴がデッドハラン王国の王子だなんて信じられなくて、母さんと親父はなんて思っているのだろうか。
「給料面とかは父さんのほうでやってくれるそうだから、エルピスに関しては考えなくて大丈夫と言ってる。ワイズ的にはどうしたい?」
まだ結論はできてないけど、そういうことになっているのならエピルスをフリジンダ社に入社させるのはいい。ただ住む家がないからな。そこは考える必要があるとノアに伝えた。
「エピルスを入社させるのはいいけどさ、住む家がないんだけど」
「それなら大丈夫さ。我が輩の新本部や新支部をフリジンダ社の支部にして構わない。それにルシャンダのゲートで帰れるであろう。そこは問題いらないのではないか」
そっか。その手があったの忘れてた。なら無理して島暮らしじゃなくてもいいってことか。
「わかったよ。エピルスを入社させる。そうとなればキアの護衛を誰にするか決めておかなくちゃじゃないか」
「後日、ワイズに情報を送ろう。エピルスの管理は我が輩に任せてくれ」
「ありがとう。ならエピルスの隊服を考えなくちゃな。リア、発注できる?」
「任せて。エピルスはエピルスでわかるようにしといたほうがいいかな?それとも私たちと同じ隊服にする?」
フリジンダ社の一員として動いてもらうから、同じ隊服でも良さそうだけど、ヨウミ的にはどうなんだろう。ヨウミはリアのデザインで興奮しているようだが、決断する。
「同じ隊服でよいぞ」
「それじゃあエピルスが何人いるか、後で私宛にメール送ってもらえれば、発注先に連絡しておく」
「よろしく頼む。リアたちを守りながら仕事するの楽しみだ。何なりと申しつけてくれ。汚れ仕事も我が輩たちがやってあげるから」
汚れ仕事ってとリアと半笑いになりながら、気になることが一つあってヨウミに聞く。
「ハディックの様子、どう?」
「今のところ大丈夫。ただしばらくは本部から出さず様子を見ようと思う」
「落ち着いてたら、リアとミライ三人で見舞いに行くから」
「お茶の用意をして待っている。それじゃあ我々はお暇するとしようか」
俺が作った城手伝ってくれないのかよと思いながらも、二人は忙しい人でもあるからリアと二人で作り直して行った。
◇
一週間後……
密会日となり、弟に会いにある街に訪れていた。賑やかな街でファンズマが人間となって動いている姿がちらほらと見かける。周囲を警戒しながら扉を開き地下通路へと通じる階段を降りた。扉の前ではデッドハラン王国の調査員が立っており、フードを脱いだ。
お待ちしておりました、ルワード陛下と言われすでにロンゴールがいるのだとわかった。扉を開けてもらい、ソファーでくつろいでいるロンゴールがいる。私は向かいのソファーに座り、密会が始まった。
「久しぶりだな、ルワード」
「元気そうでなによりだ。それで今回の取引内容を教えてもらいたい」
「まずはこれを受け取ってくれ。少ないが少しばかりの姪の祝福を祝いたいのだ」
すっとテーブルに置いたのはお祝い金で、わざわざロンゴールからいただけるとは何か裏があるのではないか。されどここで疑ったら、恐れていたことが起きかねない。
ありがたくいただくとお祝い金をしまい、本題へと入った。
「オーケルの処刑は早めるのか」
「そのほうがいいだろう。姪をこれ以上苦しませたくはないのだ」
「オーケルは憎いが、なぜ二年前、確実に殺さなかった?」
「あの場では我々デッドハランが先手だと思っていたが、先を越された。奴がいつ動き出すかはまだ不明だが用心はしておいたほうがいいぞ」
やはりそうであったのか。デッドハラン王国を攻めている国があると噂を聞いていたが、本当のことのようだ。
「それで私に何をしろと」
「カディヴィアとニューダを侵略する。そのためには設計図が必要だ。ハッカークロウにやらせているが、入手が難しいと言っている。ルワードはその設計図を手に入れてもらいたい」
「攻めている国を滅ぼすためか」
「そうだ。今も戦場は続いている。戦力は多い方がいいだろう」
ロンゴールのやり方はまずやり方が荒い。ニューダ社はティルであり、カディヴィアはディリーだから商談話を持ち出せないのだろう。あの二人は確実にロンゴールの指示に従いたくない派だ。
そしてリアの夫、ワイズも自分の力で動かしたいタイプ。フリジンダ社についてはまだ表に出していないから伏せておくとしよう。
「わかったがそう簡単に入手はできないぞ。少し時間をいただきたい。なぜ二人に商談話を持ち出さない?」
「あの二人は私を嫌っている。ティルは父親を殺害容疑にしたてたことは良かったらしいが、あの短剣を持たせたことでデッドハラン王国を睨んでいると調査員から聞いた。ディリーに関しては息子を奪われたことで、カディヴィアの取引が破棄されたからな」
ワイズに刺さった短剣のことか。あの短剣は封印されていたはずだが、アイズが勝手に持ち出したと言うべきだろう。アイズはロンゴールの愛弟子。そろそろ例のことがくるかもしれん。
「設計図さえもらえれば、ノールトには何もしないと約束する。ただし、愛弟子から要望をもらった。キアを妻に迎えたいと。まだキアは未成年でもあるから、許婚であるがどうだろうか」
「キアをアイズに渡さなかったら、どうなる?」
「アイズ次第だろう。私は指示を出さないが、アイズはやる男だ。縁談話を破棄すればノールトがどうなるか。それかキアの大切なものたちを奪うかの二択になる」
ノールトの民も大事だがキアが大切にしているものたちにも危険が及ぶ。キアの大切なものたちとは、キアのフィアンセであるシフォンは緑遺伝子。アイズと相性が悪い子を選んでしまったようだ。それでもノアとの約束は守るとロンゴールに謝罪する。
「すまない、キアからすでに話をもらっているのだ。キアは諦めてもらえないか?」
「そうか。仕方がない。姪の幸せは私の幸せでもあるからよい。アイズに伝えとく。ただ先ほどのことは忘れるな。アイズは確実にやるぞ」
「覚悟はしておこう。では設計図をもらえるか確認が取れ次第、調査員に連絡をする」
「頼む。ナユは元気にしているか?」
ナユをあんな目に合わせておいて、今更ナユの心配でもしているのかと呆れるほどだ。
「オーケルの呪いによって、少女の姿が元気にしている。カディヴィアを従わせようとナユを奪ったのだろう」
「それは前王のやり方だ。私はナユを心から愛していた。あそこにいるより、ルワードのところにいたほうが安全だと考え逃したのも私だ」
ナユはまだ私に打ち明けていないことがあるが、おそらくロンゴールとの関係性だろう。
「ロンゴール、ナユの体内にいるエンディードを消滅させることはできないのか」
「できないであろう。試作で作ったファンズマの遺伝子だからな」
ロンゴールの瞳は研究の成果を見たかのように、やはりエンディードを操れる人が現れたということだ。それがアイズであるということを。これはディリーに報告はしといたほうが得策だ。
「さてそろそろ次の商談に行かなければならない。会えてよかったよ、ルワード」
「私もだ。それでは早速、ディリーに商談をして判断をする」
頼んだと言われ私はフードを深く被り、ノールト王国へと帰国した。




