3話 アイディー街②
緊張が走るなか、ライディー社に気づかれず、列に並ぶことができたけれど、終わり時間までに私の番まで来るのだろうかと不安になる。待っている間ライディー社の人たちが彷徨いているから、あまり周囲を見れない。
早く私の番になってほしいと思いながら順に並んでいると、入り口のほうがやけにうるさかった。なんだろうと思っていると出て行けと追い出されている人物がいる。
髪質がとても綺麗で、凛とした顔立ちに女性の人たちが見惚れてしまうほど美しさを出している青年は、立ち上がりなぜか私と目が合ってしまった。
目を逸らすも君と呼ばれその人は私の手をとり、注目を浴びる羽目になる。
「やっと見つけましたよ。一体どこに行ってたのです、」
耳元で私の名を呼ばれ足がすくみ動けないでいる。次第には抱きつき逃げ場を失った。その人は私の連れだと言い出して一緒に並び始める。
「そんなに緊張しなくてもよいではないか、リア。やっと娘と再会できるのですよ」
「私、帰る」
「おっと、困ります。ここで私から離れたら、ふふっティルに報告が入りますよ。今は私がいるから下の者には報告が入らない。これが終われば見逃すことを約束しましょう。ほら、前が進んでいる」
ライディー社の人たちは知らないのと疑問に浮かびながらも、ここで逃げたら追跡されてワイズとウバンに危険が及ぶ。渋々この人と並ぶ羽目に。
無線の向こうではルシャンダが慌てている声が聞こえ、大丈夫と伝えたくても伝えられない。なぜこの人はさっき追い出されていたのか、気になり聞いてみることにした。
「さっきはなんで追い出されていたの?」
「裏口から侵入したのさ。そしたら気づかれ追い出されたということだよ」
あなたは馬鹿なんですかと言いたいけれど、ぐっと堪えてそうですかとだけ伝える。
「それにしても、私の息子と娘たちは元気ですか?」
「えぇ。まだ小さい子達で、時折夜泣きしてます」
「そうですか。ふふっ夜にいつも実験を行ってましたからねえ。思い出すんでしょう」
水遺伝子を持つ一番上のエリュウに聞いたことがあった。水遺伝子を持つ人はいつも夜に訓練をさせられ、泣く子には罰が与えられていたらしい。
詳しいことは聞いたことはなかったけれど、辛い思いをしてそれが夢に出て、夜泣きをしているのだとしたらと考えてしまう。このまま入れたとしても、この人はおそらくイルルを連れて帰ると予想するしかない。
次の方と呼ばれあっという間に順番が回ってきて、一緒に入ることになった。私の腕を離さないでいるこの人はそろそろ離してくれても、いいんじゃないかと思ってしまうほどだ。
奥へ進み部屋に入ると、とても機嫌悪そうな表情で、何しに来たわけと言い出す。
「やあイルル。今度こそ一緒に」
「は?たわしあれほど言いよしましたよね?母上がライディー騎士団に再確保されることを。それをあんたは無視しようて、挙げ句に、一緒に住んでいた子の父上に頼み申した。それで父上は、リアをお連れし、何用へこちらにいらした?」
「一緒に帰ってくれないと、リアを連れて帰ろうと。未来予知でリアがどのようなことをするのか、予知しているのなら大人しく」
「ご勝手にお連れしたほうがよろしゅうくて?先ほどティルはたわしに見てもらいたいものとは別に、任務の相手を選んだ」
ティルがイルルに何を頼もうとしたのか、想像がつかなかった。この人は私を連れて出てってしまい、私も伝えたかったことがあったのに、お店から出てしまう。
「すまなかったね、リアは帰りなさい」
「それでも私は」
「よい。イルルが生まれる前までは、私はライディー社にいなかった。アリュアに惹かれ共に過ごし、誕生したのがイルル。イルルの誕生後に、私はライディー社に選ばれた者。イルルが開花し始めたのも最近のことで、里親にも何度も頭を下げたよ。それでもイルルには全て見抜かれ、ライディー社に連れて行くことは不可能となった」
「館長はなんて?」
「お前の娘なら何としてでも連れて来いと命令が出されている。私がこんな力さえなければイルルとそしてアリュアと一緒に過ごしていたのかもな」
こんなことを言われても同情はしたくないけれど、選ばれた七人の父親も館長の道具にしかならないってことになる。館長はそこまでして何がしたいのか、まだ理解はできないけれど、アリュアさんが捕まった以上、この人はあそこへ帰るんだろう。
ライディー社が手出ししないのは遺伝子マークがないから、イルルはここで営業をしているんだ。
「迎えが来たようだ。私は失礼するが、私の大事な娘をどうか頼む」
そう言って私に名刺を渡し、この人は馬車に乗って帰られた。名刺には水遺伝子学者、カディーラと書かれてある。これを渡されても、どうしたらいいのだろうと立ち止まっていたら、その名刺を奪われくしゃくしゃにするイルル。
「父上が毎日来てはっては、追い出しとるんやけど、懲りない男やなぁ。リア、たわしはまだリアの仲間になれんのや。ちぃと野暮用があるさかい、待っとってほしゅうくて」
無線でルシャンダの声が聞こえ、やばいの見つけてしまったでありますと囁いている。ルシャンダに言われ、イルルと一度別れた後、尾行することにした。
「ルシャンダ、さっきのは本当なの?」
『はいであります。イルルの里親は例の一種、モクディガン。館長が昔、言ってたであります。時に人間の皮を被ったこともあると』
「それは私も教わってるけど、まさかイルルの里親さんが例の一種だなんて。ならなぜカディーラはそのことを打ち明けなかったのかな」
あんな態度をとっていたけれど、実際はとてつもない人物だったらと、ワイズとウバンと合流して、イルルの屋敷へと侵入する。
「リア、さっきルシャンダがめっちゃ慌ただしかったけど、何もされてない?」
「平気。それより属性としては相性が悪すぎない?相手は緑ならイルルは水。ワイズは赤だとしても炎は出せないし、ウバンは植物。二人の力を借りたとしてもモクディガンに勝てるかどうか」
「モクディガンの弱性は赤。ただ俺は無効化することしかできないのは確かだしな。そういやマッチあるか?」
「あるけど必ず襲いかかってくる確率は高いと思うだべ。それならさ、こういうのはどうだべか?」
ウバンが何か閃いたようで話を聞くと、ウバンが花屋となって花を渡した瞬間にマッチを使って花束ごと燃やす。本当にうまくいくのかどうか少々不安になるも、ワイズの無線をウバンがつけ行こうとしたら、ルシャンダが止めに入る。
「どうしたの?」
『入っても無駄であります。敷地内の監視カメラを見たところ、部屋中が雨漏りのように濡れているであります』
マッチ作戦は失敗ってことかと他に方法があれば、いいのだけれど何一つ浮かばない。
「イルルは?」
『雨漏りしていない部屋にいるでありますよ。ただご両親といるであります』
そこに侵入するしかないのかもと敷地内の茂みに隠れていたら、見張りの人たちが向かってきて身を低くする。足音が聞こえなくなり、見張りの人もモクディガンで間違いはなさそうだ。
何とかして室内に入れればいいなと様子を伺っていると、すげええらいことになってんなと知らない声が聞こえ、そちらに目をやると、私たちと同じポーズをとっている人がいた。
「モクディガンもここまで進化してるだなんて思わなかったよ。それで三人とも困ってる顔してるけど、どうしたんだよ」
満面な笑みで言う人はルシャンダがあたふたして、赤遺伝子の父親、ギーディスでありますと叫んでいる。今日、ここで三人目の父親に接触するだなんて、どうかしてる。
それよりカディーラより、年下っぽいギーディスは普通に大きくなってとワイズをわしゃわしゃしていた。
「やめろっ!」
「大声出すと気づかれる。いやー息子がここにいるってカディッちから聞いてさ、会いたくてたまらなかったよ」
ギーディスにハグをされすりすりされているワイズはやめろと、ギーディスの顔面を掴むも離そうとはしない。
「俺たちを捕まえにきたんだろ!そうとしか考えられないっ」
「違うって。ここ最近のモクディガンを調査せよって言われてさ。見に行ったらワイズがいたから」
「いい加減、離れろ!馬鹿親父!」
ワイズの言葉で余計にくっつくギーディスは、何なのこの人と若干引く私とウバン。気づかれたら大変だよと言うも二人はしばらく続いた。
やっと解放されたワイズはギーディスに威嚇だし、その一方ギーディスの顔はワイズに引っ掻かれた後がたくさんある。
「さてと俺はこれをワイズに渡しときたくて、来ただけ。発信機とかはつけてないから安心してほしい。それに逃走者に会ったとしても、父親の役目じゃないしね」
「それを先に言え!」
はいっとワイズに渡されたのは刀で、それをもらうワイズは私の後ろに隠れた。
「ワイズはまだ本来の力を出せていないから、炎が出せないでいる。他の子たちもそうだ。それなのに逃走するなんて」
嘘泣きをするギーディスであり、ワイズが鞘を抜こうとしたからストップをかける。なんちゃってと笑い出し、じゃあまたねと手を振りながら去って行くギーディスであった。
「刀もらっても何も効果なかったら、捨ててやる」
「まあまあ、落ち着いて、ワイズ。その刀で倒せるんだったら一件落着じゃない?」
「信じていいのか判断しにくいけど、試しにそこら辺の木で試してみたら?」
後ろには多くの木がありワイズはさっきので、イライラが残っていたから鞘を抜いて馬鹿親父と叫びながら切る。すると切った瞬間、炎がついた。
この刀凄すぎるともういっちょっとワイズが切っていたら、モクディガンが来てしまい、ワイズが刀を振るう。
私も小型ナイフはレッツォからもらったから、ワイズの力を吸収してナイフでモクディガンに斬りつけると炎がつく。モクディガンは熱い熱いと叫び出しながらちりとなっていった。
このまま進もうと私たちが入った途端、床が滑ってバランスを崩す。さっきまで水の状態だったよねと派手に転んだらしいワイズがどうなってんだよと氷を燃やした。
水遺伝子は水だと思ってたけど、確か青遺伝子の子たちも水を使っている。思考を膨らませていたら、ふとギーディスの言葉がそれを意味しているとしたら、水遺伝子の子たちは水じゃなく本来の力は氷。
ワイズの力で普通に歩け、ルシャンダの誘導にイルルがいる場所へと入ったら、そこにはモクディガン二体が氷化していた。
「イルル、大丈夫?」
「倒し方は未来予知で見たやから平気や。未来予知でこやつらが化け物だっちゅうことは知っとったんよ。そん時にな、リアたちが見えて、それまでこやつらを泳がせてたんや」
未来予知で読んでただなんて私たち助けに行かなくてもよかったパターンだったかも。だってモクディガンの弱点にはもう一つ、氷だと言うことを。
荷物を持ち行きやしょうとイルルはすっきりしたような表情を出し、ルシャンダにゲートを出してもらおうと思った矢先。私のリングとワイズのリングが光り出し、リングに触れると画面が開きチャット画面でルシャンダがゲードが作れないと焦ったスタンプ付きできた。
となれば無線も今は使えない状況でワイズが窓を見てもらったら、ライディー騎士団に包囲されているっぽい。
「あの色水色ってことはカディーラがいるんじゃ。屋敷から脱出できる通路とかあるか?」
「そういう通路はないんや。父上の狙いはたわし。たわしが行っているすきに逃げや」
「アリュアさんと約束したの。イルルも一緒に連れていくこと。何かいい方法があれば」
「ならさ、いいこと考えちゃったべ、協力してくれるだべか?」
ウバンが閃いたものって何と思いながらも、その作戦しかないとウバンの作戦にのることに。
◇
カディッちの部下たちが屋敷を包囲して、逃げ場を失うワイズたち。隣では大笑いをしているカディッちで、そもそもイルルを手放すつもりはないのは元々わかっていた。
まあ本来、父親の役目ではないんだが、イルルはカディッちがライディー社に入る前に生まれた子であるから、自ら迎えに行かなければならない義務がある。ここでさっき本来の力を開花させたから、相当喜んでいる意味で大笑いをしていた。
「ここで開花すると私はずっと待ち望んでいた。だからあえて私はモクディガンに渡していたのだ。ギーディス、喜べ。お前の息子も捕まえて見せるぞ」
悪い目をしているカディッちであり、これは止めようがないなと棒キャンディーを舐める。
「あのー早く、帰りたいのですが」
「ごめんね、シフォン。早く主人様のところに戻らなくちゃいけないのはわかってるんだけど、こうでもしないとカディッち拗ねるから」
「そうは仰ってても某の役目は、ティル様にお仕えする者です。そろそろ戻らなければ、ティル様の夕食の時間に間に合いません」
「後できっちり詫びはカディッちにたっぷりもらっていいから、お願い」
納得していないような表情を出すシフォンは眼鏡を拭きながら、後五分は待ちますというシフォン。後五分でシフォンの能力は途切れる。それまでにイルルを捕まえないと後で館長に叱られるからな。
シフォンに棒キャンディを差し出すも遠慮しますと言われ、ポケットにしまっていると屋敷内が燃え始めていく。
能力は封じ込めたはずなのに、ワイズがやったのかと驚愕している場合じゃない。すぐ火を消せと指示を出し水を出してもらうも、すぐ氷になり溶ける一方だ。
こういう時、俺じゃなくてハイス騎士団を呼んでおけよと、カディッちに突っ込みたかったよ。イルルがと頭を抱え冷静になれないでいるから、俺が炎を纏って入るしかないか。
「カディッち、木にまで炎が舞い始めるから、カディッちたちは下がってろ」
「しかし!イルルはまだあの中に!」
「隠し通路があってそこから逃げ出してるかもしれないだろ?今はイルルの無事とそれから館長の娘に俺の息子も巻き添いになった。ここで死亡確定になったら、カディッちわかってるだろ?」
これが仮に死亡に繋がることになったら、カディッちは終わりだ。ただ希望はただ一つ。ユフェンの息子があの力を使えれば別の話になってくるが能力は今、封じているしな。
「シフォン、カディッちが変な真似しないよう見張ってろ」
「ですが」
シフォンの言葉を聞かずに俺は炎を纏い、屋敷内へと入っていった。
◇
厨房から油を持ってありったけあちこちへまき、マッチで火をつけ油のところに放り投げる。煙を吸わないようにしながらルシャンダからのチャットを確認しつつ、ルシャンダが教えてくれた部屋から脱出ができるらしい。
炎がこっちまで来て早く行かなきゃと走っていたら、ギーディスが目の前にいる。そうか、ギーディスは火だからこういう場は平気なんだ。
「おっリアか。息子たちは?」
「教えるわけない。そこをどいてください」
「こんな危なっかしいことする子たちを放ってはおけないだろ。俺と一緒に来い」
「嫌です。それにこれは父親の役目じゃないとさっき教えてくれたのは嘘ですか?」
これ以上はいられないと咳き込んでいたら、世話の焼ける子だと私を担ぐ。
「降ろして!」
「いいや、それ以上、灰を吸ったら危ない。それで息子たちはどこにいるんだ?そこまで連れてってやる」
この人を信じられないと暴れていたらリングが光り、チャット画面にワイズからで教えていいから早く来い、崩れるとある。どうなっても知らないよと私はワイズたちがいる場所へ案内した。
人が入れるぐらいの通気口から顔を出すワイズがこっちだと言っていて、そこで降ろされる。
「行け。イルルたちは安全な通路で逃げたと報告しておく。また近々会うことがあったら、ワイズ、今度は一本勝負しよう」
「却下、馬鹿親父。でも逃がしてくれることありがとう」
それ言っちゃったらと思っていたら、やっぱり逃がしたくないような表情でも、崩れ始めて行き背中を押される。ギーディスに会釈して、ワイズの手をとり屋敷から脱出した。
通気口から脱出した私たちが辿り着いたのは、屋敷から多少離れた場所に辿り着く。ライディー騎士団がいないから一安心だけれど、まだ屋敷方面は黒い煙がもくもくと空に向かっていた。
ルシャンダにゲートを開いてもらい、一度インディのところへと戻る。おかえりと言われながらただいまと伝えソファーで身体を休めた。
「なんか焦げ臭えけどなんかあったのか?」
「ライディー騎士団から逃げるために火事を起こしたの。それより三人の父親と接触するだなんて厄日にしかならない」
「インディ、馬鹿親父からもらった刀、調べてくれないか?何か発信機とかつけられていたらアウトだからさ」
一度さっきもらった刀をインディに調べてもらい、他にアイディー街や付近の村、町に住んでいる逃走者がいないか調べていく。どれもアイディー街から結構な距離があり、いないかもしれないと見ていたらイルルが何かを見つけたらしい。
「この人なんやけど先週ぐらいにたわしのところに来よったよ。なんやったか忘れよったけど、焦ってはった」
「そう言えば、この人、ぼかぁも何度か見たことがあるべ。そん時、おばさんと何か揉めてはすぐ帰ってったべよ」
アリュアさんと何を揉めていたのかは定かではないけれど、アリュアさんはすでにライディー騎士団に捕まっているし聞くに聞けない。だとすればこの人に直接聞いたほうがいいのかもしれないとルシャンダと応答してもらう。
「まだアイディー街にいるかもしれないから、この人の位置情報をお願い」
あいあいさーと返事をしてもらい、調べてもらっている最中に武器を補充しておく。インディに調べてもらった刀は何も細工とはされていないようで、ほっとしているワイズ。
手慣れたナイフを足に装着していたら、イルルが武器で悩んでいるようだ。あまり目立たない武器は避けたほうがいいとワイズに言われたからだろう。
イルルは氷だし、すぐ凍らせてしまうのであれば下手に武器を持っていなくても良さそうな気がする。ウバンはずっと一緒にいたこともあり、慣れているスリングショットをすでに持参していた。
「悩みますなぁ。どないしよ」
「武器持っていなくても、イルルはそのままで良さそうだけど、何か持ちたいとかある?」
「考えてはなかったさかい。ただこれからの先を考えとるとな、念のため持ってったほうが便利やと思ったんや」
イルルの場合、私たちと違って戦闘技術は取得していないはず。さっきのは相性が良かったから簡単に倒せたようなもの。そうなるとイルルに合う武器って、やっぱりこれかなと手にする。
「それなんや?」
「占いと言ったらタロットカードかなって。水晶玉はお店に置きっぱなしでしょ?それにこのタロットカードは普通のタロット違うんだよね。インディ、ちょっと使っても平気?」
厄介なカード出すなよと言われながら、カードを軽くシャッフルさせ五枚を投げると、その五枚が宙に浮く。よりによって悪魔と死神を引くだなんて運悪すぎる。
「死神に悪魔、それから金貨、聖杯二枚が仮に出たとする。それで相手にどのような状況にしたいのかを、出ているものから一枚触れるの。そうすることで相手に攻撃ができる。剣は攻撃、聖杯は治癒、棒は防御。それで大アルカナが出た場合は小アルカナより、四つの力が倍にでるの。もし違うカードを出したくなかったら、左にスライドすると戻る仕組みになってる」
左にスライドするとカードが手元に戻り、イルルは興味があるそうだけれどもう少し悩むようだ。
結局、イルルが悩みに悩んで選んだ武器は雪結晶の模様が描かれた拳銃で、インディー特製品の武器だから問題はない。装備を完了して、ルシャンダがゲートを作り、インディに行ってきますと伝えながらゲートに入った。
新しく無線もくれたことで離れていても二人と話せるから安心かな。それよりアイディー街であるから、確実に正体がバレる可能性の高い。それにイルルも逃走者の貼り紙が貼り出されたらアウト。四人での行動はリスクが高いため、私とウバン、ワイズとイルル、二手で例の人を探す。
人が賑わっている中心部で探していると、ホームレスの格好をした人を見つける。私はワイズとイルルに報告した。
「例の人、見つけた。ホームレスの格好をして歩いてる。それにしてもおかしくない?ホームレスってなったら、ライディー騎士団は疑うはずなのに」
『言われてみればそうだな。逃走者となればホームレスになるやつも多いだろうし』
『せやね。たわしの力で誰かを待っているんやったら、一度引いたほうが良さそうや。ちいと待ってな』
イルルに力を使ってもらい誰かを待っているのか、ただ単に歩いているだけなのか待つ。少しして私とウバンが見えたと言う。そうとなれば接触しても大丈夫そうと、私とウバンは例の人物に接触した。
「すみません、オーデュエさんでよろしかったでしょうか?」
声をかけるとオーデュエさんは不機嫌そうな瞳をしていて、何も言わずに立ち去ろうとしたから待ってくださいと追いかけた。
「あなたの身に危険が及んでるんです」
「さっさと失せろや。お前はん、あれやろ?ライディー社から逃げたっちゅう逃走者。お仲間集めて反乱起こす気やろ?やめとき。そんなんやっても、無意味や」
この口調の話し方、イルルと似てるのはどういうことなの。確かアリュアさんの情報によればイルルともう一人いる。想像したくないことが頭によぎり、私はウバンの手を引っ張って引き下がった。
オーデュエさんは私が引き下がったことで、ふっと笑いそして大笑いし始める。それでも周囲にいる人たちは何も見ずに歩いていた。
笑いながらオーデュエさんが着ている古いローブを脱ぎ捨てると、その姿に私とウバンは衝撃が走る。その姿はライディー騎士団の武装で、しかもカディーラの部下。情報は偽りだったということなの。
「ほんまに父はんは何やってんやろうな。動いても無理やで。今頃、たしわの後輩がイルルを捕らえに行っているさかい。残念やったなぁ」
嘲笑う瞳に周囲の人たちも全員、脱ぎ捨て武装の格好をしていた。ここでゲートを開いたとしても、必ず何人かはゲートに入り込まれる可能性が高い。
ワイズ、イルル、なんとかして逃げ切ってほしいと願うしかなかった。