12話 シガッグ街②
コルアに教えてもらい、私の憶測だけれどシフォンは依頼者に報告をしている姿をコルアは見たのだろう。まだシガッグ街にいるのだとしたら、シフォンと話す時間帯をあげたい。
それがどんなに危険だとしても、コルアが落ち込む姿をこれ以上みてはいられないから。
「教えてくれてありがとう」
「ううん。シフォンが騎士団の一員だとしても、元気で過ごしているならいいの。それよりザズはあんなこと言ってたけど、実際は何か目的があるんじゃないかな?それを探りに行きたい」
「わかったけど、コルアはどうする?」
「行くわ。もしかしたらシフォンと会えるかもしれないから」
まだ少しでも希望があるのならシフォンを連れて行くべきかもしれない。明日出発することにし、ワイズとルシャンダで話し合うことにする。
「危険なことがあったのに、またシガッグ街に行くなら今度は俺も行く」
「そうでありますね。万が一に備えて、ワイズは行くべきであります。それと妙なデータを見つけたでありますよ」
カタカタとキーボードを打ち見せてくれたのはザズの経歴書だった。緑遺伝子の団に入団後、脱走を繰り返している。ザズが島に来た日より前に脱走していただなんて思いもよらなかった。
つまりティルの団に入ってしまえば、逃げ場を失うから最後のチャンスとして逃げたとしか考えられない。それにしても私を突き出そうとした理由がまだはっきりしないこと。
「妙だな。脱走して捕まっての繰り返しだったんだよな。それなのになぜリアを捕まえる必要があるんだ」
「私も思ったの。これが最後の脱出だとしたら、なぜ私を引き渡そうとしたのか」
三人で考えているとインディーの店にある防犯カメラから何か合図を送っていた。なんだろうと思い、ルシャンダにゲートを開いてもらって、私とワイズはインディーの店へと入る。
「インディ、どうしたの?」
「必要な資料があるだろうなって思ったから、ギーディスから貰っていたものがあったんだ」
どっさりと資料の山を渡され、一つを手に取ってみたら貴重な資料だということがわかった。
「貰っていいの?」
「いい。後ついでにこれ渡しとく」
インディーから貰ったものは何かの鍵で、どこの鍵だろうとインディーに聞くと、移転する島にある建物の鍵らしい。そこまで用意してくれているとは、さすがはギーディス。
「親父に感謝ばっかだな。昨日の件もすごい助かったし」
ワイズは嬉しそうに言っていて、いつか全てが終えたら家族と過ごしたいんだろうなって気がした。
資料の一つにザズの細かなことが書かれてあり、それをワイズと一緒に見ていく。
ザズは私たちより三つ上のお兄ちゃん的存在で、私のお兄ちゃんもザズと同い年に生まれた。それにコルアもザズと同じ年に生まれている。その年に生まれたのはお兄ちゃん、ザズ、コルア、それからイルルのお兄ちゃんであるオーデュエ。それから知らない人たちが複数いる。
「コルアの足を奪ったのもザズたちと同い年で名前はツァッセだ」
飴を食べていた人がツァッセ。ツァッセの施設はザズとコルアと一緒じゃなかったから、顔見知りではなかったんだ。それでもツァッセは私たちが脱走する前に本部へ移籍している。
これは館長命令なのかはよく分からずとも、ザズはツァッセと接触していたのかもしれない。
「これって」
「ザズが逃走し続けた理由って、子どもたちの逃走を手伝っていただなんてな」
「逃走した子たちは?」
インディは首を横に振り、ザズが逃した子たちは今も行方不明らしい。もしかしたらすでにライディー騎士団に捕まっている可能性もある。
ザズから情報が聞ければ一番いいけれど、会うのは困難。たとえ接触したとしてもライディー騎士団がいる以上、聞くに聞けない。なぜこのことを黙っていたのかが疑問点だ。
「ザズが逃した子たちを見つけだしたいけど、どうやって見つけだそう」
「だな。親父に頼んでもよさそうだけど、ティルに警戒されてそうだしそう簡単に情報は聞き出せそうにないしな」
「とにかくザズともう一度、接触してみるしかなさそうだね」
会えるかは不明でもシガッグ街に行くことは決めてたし、そこで情報をかき集めるしかない。それかエピルスのたまり場に聞いてみるのもよさそう。ヨウミがいないことを祈るしかない。
インディに感謝を述べて、私とワイズは島に戻ると珍しくチーシャがモニターを眺めていた。
「どうかしたの?」
「見覚えのある人がさっき画面に映ってたの。ただいなくなってたから気のせいなのかもなの」
「チーシャって前は確か紫遺伝子の施設にいたんだよな。以前の施設の人が映ってたのか?」
んーと考えそうじゃないのとチーシャは目を開けて画面を見ながら言う。
「リアたちがいた施設に異動する前に、自由時間をくれて、その時に会った人なの。その人はわえと同じ髪をしてるの」
同じ髪ということはもしかしたらチーシャの親戚が歩いていたってことになる。それでもおかしいな。たとえ母親だったとしても、施設から絶対に出さない。
ルシャンダが保存してくれていたらしく、私たちがつけているリングに転送してくれた。仮にチーシャが探していた人に会ったら事情を説明し会わせることに。
◇
邪魔が入っていなければ、リアはティルのところに連れていけた。今もコルアの足はツァッセが持っており、そううまく取り戻せるものじゃない。俺はコルアが昔のように笑って走る姿を見ていたかった。
館長に報告後、俺は正式にティルの団員となるつもりだが、この件が終わるまでは緑の団員として動きたいと告げたところ、了承を得られた。
一度、緑の団員が住んでいる建物へと入り、親父がいるらしく挨拶に行く。植物が好きだから屋内も大量の植物が置かれている。父がいる温室へと入ると父は水やりをしていた。
「出世する前に挨拶か」
「まあそうなる。それより前より植物増えた?」
「治療に必要な植物が増えているぐらいだ」
本部に入った時、結構な怪我人が運ばれている姿をそう言えば見かけたな。リアがいれば楽ちんだが、リアは結局連れては来れなかった。
「親父、あのさ」
「コルアのことか。ツァッセと話しているのだろう」
「そうだけど、コルアを治せるのは親父しかいない」
「ツァッセの能力は切断であっても、血が流れることはない。つまり、ツァッセ自身が足をくっつけさせれば治る。ただ年月が経つほど、治る見込みは少ない」
だからスーツケースに入れて保存していたってことなのか。いまいち納得できない部分もあるが取引をさせるのは俺じゃなくシフォンだ。親父と話していたらシフォンが籠を持って現れた。
「ザズ兄さん来ていらっしゃったのですか」
「シフォン、ティルに伝えといてくれるか?コルアの件が終わり次第、そっちに行くから」
シフォンは少し悩みながらも伝えときますと言ってくれて、俺はもう一度ツァッセに会うことにする。
◇
翌日、私たちは再度シガッグ街へと行き、ザズがいないかあちこち回った。それでもザズの姿はなく、やはり本部であるワガラ都市へと帰ってしまったか。
ワガラ都市からそう遠くない、シガッグ街だから戻ってくる可能性は高いよね。そう考えているとノデッドが普通に買い物をしていた。
「あれ?リアじゃん。どうしたん?今、ヨウミは本基地に戻ってるよ」
「ヨウミに用事があるわけじゃないの」
「あーなるほどね。さてはツァッセ待ち?それともザズかシフォンかな。三人は昨日、本部に戻ったみたいだから、しばらくは来ないと思うよ」
やはりワガラ都市に戻っているのなら、会えそうにないのかもしれない。するとコルアがノデッドに聞いた。
「ザズかシフォンが戻って来る可能性ってあるの?」
「んーどうだろうな。今はうちのリーダーが狙われてるから、可能性は低いと思うじゃん。まあヨウミがリアに手を出せばティルぐらいは来るだろうけど」
嫌だと私はついワイズの後ろに隠れ、ワイズがやめろよとノデッドに怒る。
「怒らなくていいじゃん。ただライディー騎士団、まだ彷徨いてるから、接触するのもいいかもよ。んじゃ何か困ったことがあったら、あそこの店にいるからおいでね」
買い物を済ませたノデッドは行ってしまい、ライディー騎士団と接触するかどうか。
「まずはザズと接触できればいいな」
「あたし的にはまず、シフォンと話がしたい」
「どうやって足が治るのか、ツァッセに聞くのもありかもしれないよ」
三択に分かれてしまい、どれから行ったほうが好都合か考えていると無線からイルルの声が聞こえた。
『さっき、未来が見えたで。先に出会うのはシフォンや。シフォンが結構落ち込んでるところ、コルアが声をかけてたんやけど』
「何か起きたの?」
『そこにリアとワイズはいなかったんや。おそらく別行動をとったかなにかやで。ただ二人の未来が見れへんかった』
コルアを一人にさせるのは少し不安があるも、私とワイズがいたらシフォンはさっきみたいに逃げるはずだ。
「わかったわ。少し単独行動をとってみる」
するとイルルではなくエリュウの声も聞こえた。
『もし危なそうだったら、俺が行くから安心して』
エリュウがいてくれたら一先ず安心かなと思い、私たちは別行動をとることに。
ワイズと二人きりになり手を繋いで、街並みを歩いていた。いろんなお店を回っていると、ザズらしき人物を見かける。尾行していたら、何かに警戒を抱いてはその先へと進んでいた。
何かあるんだろうかとその奥へ進んでいくと、私たちが尾行しているのがばれていたようだ。
「リア、ワイズ、ここで何してる?島に帰れ」
「帰れるわけないだろ。ザズ、本当は」
「あのな、俺はそもそも逃走するつもりはなかった。ただお前たちが逃げたいって駄々捏ねるから手伝ってあげただけだ。今度捕まったらどうなるか、それくらいわかってんだろ?」
「逃走するつもりもないって言うけれど、それならなぜ止めなかったの」
ザズはだんまりしてしまい、本音が違うことぐらい目を見ればわかる。同期であるコルアの足を取り戻すためなんだと。そうしたらリスクが大きすぎる。これで再び、ライディー騎士団を裏切ったら、ザズではなくなってしまうことがとても怖い。
するとダンガスとそれからモクディガンが現れてしまい、ワイズは剣をとり炎の力を出す。
「ここで大人しく待っててもらおうぞ」
仕方なく戦うしかないとワイズの肩に触れ、力を借りながら私も戦うことにした。イルルが見れなかった原因がなんなのか知りたいけれど、何かとてつもないことが起きるんじゃないかと感じる。
モクディガンは簡単に倒せるも、ダンガスは相性が悪いのか、なかなか倒せそうにない。戦っていると遠くから泥団子が降って来て、ダンガスが弱まっていく。
一体誰がと弱まったダンガスを倒すと、ザズさんと声が聞こえた。会いたくなかった表情をするザズで、駆け寄ってきたのは作業着の格好をした少年。
「探したんですよ。急にいなくなっちゃうから…ザズさん。何その服…」
「ダディゴには関係ない。お前は身を隠しておけ。ここにいたら来るぞ」
「手配書が消えたから、僕らたちずっとザズさんを探してた。なんで、どういうことなの?」
ダディゴという少年も手配書が出ているんだと知り、この子に聞けば島に避難させることができる。聞く前にザズは怒りたくもないはずのに、ダディゴに怒りをぶつけ始めた。
「ここにいたら危険だって言ってんだよ!さっさと逃げろ!それともあれか?ライディー騎士団に戻りたいってか?ふざけんな。俺の力がなければダディゴも他の連中も逃げきれなかったくせに」
「そんなつもりじゃ……」
ダディゴはぎゅっと拳を作り、言いたくても言えないような表情で、しまいには涙目で鼻水を垂らしてる。私はそっとダディゴの手を握り、ワイズに合図を送ると、ワイズが煙玉を投げた。その隙に一度撤退することを選ぶ。
ルシャンダの誘導により、私とワイズ、それからダディゴはエピルスのたまり場へと逃げ込んだ。
「あんなザズ初めてみた」
「私も。それよりダディゴ?大丈夫?」
聞くと思いっきり泣いてしまい、怖かったよねと慰めていたらノデッドがハンカチを差し出してくれる。ハンカチを貸してもらい涙を拭き取るも、ポロポロと涙は止まらないようだった。
少し落ち着くまで泣いてもらい、その間になぜザズはあんな敵視をするようになっているのか話し合う。
「俺たちには見せなかった表情だったよな…」
「うん。いつも私たちにはとても優しい人だったし、怒った一面は一度も見せなかったよね」
「ほへぇそんな人なんだね。ダディゴが落ち着き次第、話聞いてあげたらいいんじゃん?自分たちがいるからゆっくりしてっていいから」
奥の部屋に入れさせてもらい、ダディゴが落ち着くまで待ってあげることに。
◇
普段はみんなが車椅子を押してくれてるけれど、今は自力で車椅子を動かしながらシフォンを探す。イルルが言っていた場所はこの辺かしらと周囲を見ていると、シフォンがお店から出てくるのが見えた。
声をかけても反応がなく、遠ざかりそうで待ってと車椅子を動かそうとしたら、挟まってしまったらしく動けない。どうしようと周りにいる人に助けを呼ぼうとしたら誰かが動かしてくれる。誰と顔を上に向けたらなんとティルだった。
「ティル…」
「シフォンが最近元気がないことぐらいわかってた」
「あたしを連行するつもりなの」
「目的はザズだから連れていくつもりもない。それにリアが悲しむ姿は見たくないから」
だったらと言おうとしたら、車椅子が停止しティルと顔を上げると目を擦って再び動く。ティルまさかと思ってもきっと応えてはくれないんだろうと思い、その言葉は胸にしまっておくことにした。
シフォンがいるお店の前に到着し、しばらくしたら出てくるそうで、そこからティルはどこかへ行ってしまう。
なぜかとても緊張してしまい、早く出て来ないかなとそわそわしていたら、シフォンが出てきて声をかける。
「シフォン」
声をかけるとシフォンはびっくりする顔でもなく、私がいることでごめんなさいと私に抱きつく。おそらく足を失ったのはシフォンが原因なんだろうと思っていても、怒ったりはしないよと頭を撫でた。
「謝らなくていいわよ、シフォン」
「でも余のせいでっコルアさんの足がっ」
「あたしの足は前々から不必要だってわかってたからいいのよ。一番に脱走するかもしれないからって理由でね。覚悟はしてた」
「余はそれでも黙ってたこともっ」
潜入捜査菜ら尚更気づかれてほしくないし、それにあたしはシフォンに生かされた喜びは隠したくない。
「あなたがライディー騎士団の一員だってことはあの時点では気づかなかった。ただ元気で過ごしていることを願っていたわ。それに、シフォン。あたしが逃走者だってことを知っていながら接してくれて、そして逃がしてくれたことありがとう」
これで今度は捕まる可能性も高くなるのは承知しているし、ティルがここにいる以上リアとワイズにも知らせておく必要がある。リングで伝えといたほうがいいかもしれないと触れようとしたらルシャンダからここから離れるように言われた。
ライディー騎士団がこっちに向かってくるってことなのかもしれない。それでもシフォンは離れてくれそうになく声をかけようとしたらシフォンが言う。
「コルアさん、余を許してほしい」
「許すに決まってるでしょ」
「ありがとう、コルアさん」
その瞬間、首元に注射器が刺さって、ルシャンダが慌てている声とそして目の前にエリュウが走ってくる姿に、モクディガンが見える。だんだんとぼやけ、眠気に襲われた。




