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愛した君への最初で最後の手紙  作者: 幸(ゆき)
19/95

生きていたからこそ

 病院に着くと正面の入り口が閉まっていたので、その隣にあった小さな入り口から中に入った。

 

 中に入ると警備員がいて、

 

「今は面会時間ではないですが、どうかされましたか」と聞かれて、

 

事の成り行きを話した。



「そうですか。でも今は面会時間外なので。面会は出来ません。

 それに集中治療室に入っているのでしたら、家族以外の人は集中治療室には入れないと思いますので、後日あらためて面会時間内に来てください」と言われ、

仕方なく「分かりました」と答えて、家に帰った。

 

 

家に帰り、寝ようと布団に入ったが、

 

 後ろに乗せていた

『結婚を考えている』と言っていた彼女が亡くなって、もしも歩けなくなったら、

 夢で目標だった店も出来なくなって、どんな気持ちになるのだろうかと田中さんの事を考えると眠れなかった。


 3日が過ぎた頃に料理長から、


「田中が集中治療室から一般病棟に移された。

 今度の定休日に、見舞いに行ける奴だけで見舞いに行こうと思っている。

 松も行くか」


「はい。行きます」


「10時に病院の前に集まるから」


「はい。分かりました」



 6人が集まり、病室に向かった。

 

 料理長に着いて行きながら、田中さんはどうゆう気持ちで何を考えているのだろうかと思い、どういった接し方をして何を話せば良いのだろうかと考えながら病室に向かった。

 

 病室の前で料理長が立ち止まりノックをした。


 「はい」と言う聞きなれた声が聞こえて、料理長が扉を開けた。

 

 部屋は小さな個室で、


 田中さんは電動ベッドの背もたれを起こして座っている様な体制をしていて、こっちを振り向いた。

 

 料理長が、持って来ていたお見舞いの菓子折りを小さなテーブルの上に置き、

「命があって良かった」と言った。


 田中さんは震えた声で「はい」と答え、涙を堪える様な表情をしていた。


「やはり足は動かせないのか」


「はい。でも、それよりも彼女が死んだ事が辛くて、何で俺だけが生きているのだろうかと思います」


「生き残った事に何か意味があるのだろう。

 見通しが良い片側3斜線の道路での事故で、警察は初め単独事故で処理をしようとしていたらしいが、

 田中の意識が戻って


『大型のトラックが幅寄せして来た』と言う証言を聞いて、捜査方針を変えたと聞いている。

 もし田中が死んでいたら単独事故で処理されていただろうから、それだけでも生きていて良かったと思う。

 それに足が動かなくなっても両手は動かせる事は出来るのだから、

 社長に相談をして、障害者雇用で働いてもらっても構わないと言う話になっているから。

 これからリハビリをしてまだ時間は掛かるだろうが、その事も考えでおいてくれ」

 

 田中さんは涙をぬぐい、少しだけ明るい表情をして、

「分かりました」と答えていた。


 料理長との話が終わって、各自が田中さんと話をしたが、

 

 何を話して良いのか分からず「また来ます」としか言えずに、帰った。

 

翌週の定休日に見舞いに1人で行き、部屋に入ると、

どんよりとした暗く重たい空気を感じた。


 田中さんがこっちを向いて、無理に作った様な笑顔で


 「松か、よく来てくれたな」と、言ってくれ、


「田中さんが言っていた『大型のトラックが幅寄せして来た』と言うニュースが、テレビで話題になっていましたよ。

 田中さんの後ろに走っていた車のドライブレコーダーにその事が映っていて、映像がテレビで流れていました」


 田中さんは頷きながら微笑み、


「俺も見たよ」と呟いた後、ため息を付いて、


「俺は生きていて良かったのかな。

 彼女が死んで、足が動かなくなって店も出来なくなった」


「生きていて良かったと思いますよ。

 田中さんが生きていなかったら単独事故にされて、犯人は捕まらなかったでしょう。

 店が出来なくなっても、料理長が『また戻ってきたらいい』と言っていたし」


「そうか」


「これからどうすのですか」


「もう少ししたらここの病院を退院して、

リハビリ専門の病院に移って、数か月リハビリをする事になる。

 今は仕事の事とか先の事は考えられないけど、リハビリをしながらゆっくり考えようと思ってる。 

 それより松はどうするんだ、そろそろ自分の店を持つ事を考えてもいいんじゃないか」


「え、まだ何も考えてないですよ」と、田中さんの思いを、思いながら答えた。


 田中さんは微笑みながら


「そうか。俺が見つけて来た物件、場所が良いから松がしてくれたらいいなと思っていたけど、無理そうか」


「そうですね。今は何も考えていません」と話していると、


ドアをノックの音が聞こえて「リハビリの時間です」と言って、若い男が入ってきた。


「もう、そんな時間か」と時計を見て、こっちを向き、


「今からリハビリがあるから少し待っていてくれ」と言って、若い男の方を向いた。


「いいえ、今日はもう帰ります。

また来週来ますんで」と答え、部屋を出た。



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