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ケース1 五部川 林太郎 ~上~ ※1

※この話は、微量の性的表現を含みます。

そちらが嫌な場合は、※の付いてない話への移動を推奨します。

そして過度の期待もしないでください。あくまで『微量』です。


以上を把握の上、先へお進みください。なお、読んだことに対する責任は取りません。悪しからず。

 side 五部川 林太郎


「ふぉっふぉっふぉっ、よく来てくれたの。ここは神の世界、とでも言うべき場所じゃ。おぬしたちにはこれから異世界へと行ってもらって、あることをしてもらう」


 白い服を着た爺さんのその言葉で、俺の人生が変わった。



 もう二十代の半分が終わろうとしているというのに、一人薄暗い部屋でパソコンをいじる。


 クーラーは三百六十五日、休まずその部屋を冷やしていた。換気をロクにしないくせに、食べ物のカスは放置するため異臭が漂っているが、数年前から親とも関わろうとしなくなってからは誰にも注意されない。

 それに家から出なければ異臭にも慣れ、気にしなくなっている。


 そう、何を隠そう、この五部川 林太郎は、自宅警備員、つまり引きニートである。

 朝から晩までパソコンとにらめっこ、気が向いたときに気が向いたことをして、寝たいときに寝て、ゲームをしたいときにする。


 もはや時計もパソコンについているものしか機能しておらず、そのパソコンの小さな時計すら、見ようとはしなかった。


 就職してから三か月で会社を辞め、それからというものひたすらパソコンとにらめっこの毎日。以前カレンダーを見たとき、いつの間にか過ぎ去っていた五年近くの年月を目の当たりにしてからは、時計やカレンダーを見ようとはしなくなった。


「異世界行ったら本気出すわ」


 それがいつしか口癖となっていた俺。


 普通に考えれば早く現実を見ろ、と言ってもおかしくない......いや、もう言ったところで手遅れだが、それでも夢を見るのはやめろと誰かが教えてあげろと思うくらいの堕落っぷりだった。


 だが、そんな俺にもチャンスが回ってきた。

 回ってきてしまった。


「ここにいる百人には、ダンジョンを作ってもらう。ルールはまぁ......いろいろあるから、ナビゲートつけとくので、そちらにきくよーに。なお、異論反論はうけつけないので、頼んだぞ」


 その爺さんの言葉を聞いたが最後、俺は意識を失ってしまった。



「うっ......ここは......どこだ?」


 俺は一人、倒れていながらも、その強い光に目をくらませていた。

 数年ぶりに浴びたであろう太陽の光。青い空は狭くなっていた部屋とは違ってどこまでも広がり、クーラーとは違った風が体を通り抜ける。それは冷えているわけでも、効率化されているわけでもなかった。けれどなぜか心地よい、昔を思い出す風。



 けれど、この太陽だけは好きにはなれない。暑い、ただ暑い。


 俺は暑さから逃げるようにして、胸元にあったそれを抱きしめる。抱きしめる......抱きしめる?


「情報受信中――――――完了。」


 何かの情報を受信したのち、形が変わっていった。


「おはようございます、私はダンジョンマスター支援用ピクシー第六十八号です」


 そう、長身、そして黒いスーツを着た金髪の女性は言った。


「よ、よろしくおねがいします」


「はい、よろしくおねがいします、これからこのコアを使って、ダンジョンを作ってもらいます」


「わかりました」

 

 急な話だったが、俺はすぐに理解した。

 これは、ダンジョンマスター物の転移だと。これから攻めてくる敵を捕まえて、正当防衛を盾にして好き放題できる、と。

 そんなななか渡されたのは握りこぶしほどの水晶。


「それを設置してください」


 そういわれたので、すぐそこにあった小さな洞窟にコアを置いた。


 すると、その水晶はひとりでに光を放ち始める。

 数秒後、下の土が盛り上がって台座のようになったそのコアを、ただ茫然と見る。


 本当に、異世界に来たんだな......嘘じゃない、これは現実だ!


 その事実に俺は一気にテンションが上がる。

 興奮しているのを察したのか、先ほどのピクシーはタブレット端末を渡して来た。


「これで、実際にダンジョンを作ってみましょう」


「お、おー」


 いままで人と話すことがなかったがために、少しかすれた声しか出ない。

 しかも目の前にいるのはもう二度と会うことのないと思っていた人、しかも前の世界でもあったことのないほどの美人。

 話し方が変わるのだって、仕方ない、うん。


「では、さっそくこの端末を使って、ダンジョンを作ります。電源を付けたらホーム画面が映ります」


「ほ、ほんとですね......」


 横からいい匂いが漂ってくる。こんなことなら最後に風呂くらい入っとくべきだったか?

 まず見なかった金髪が視界の端に見え、しかも大きなその胸がかすかに当たる。


 もしかしたら......俺のことを誘ってて!?


 画面に集中できず、思わず横を見た。


 すると、ネクタイとスーツを押し上げてその存在を誇張している胸、そして華奢な体、そして目の前にある大きな双眸が俺を見つめていた。


「どうかされましたか?」


「あ、いや、そ、その、なんでもないです」


 そう答えるしかなかった。あんなに近くで、何年も聞いていなかった俺を心配する声を聞けた。それだけでもう良い気がしてきた。


「それでは、説明を続けますね。画面にある【作成】をタッチしてください」


 言われるがまま、作成をタッチした。


「はい。この画面でダンジョンの編集と保存ができます。変更するたびに、DPというポイントを消費します。ここまではよろしいですか?」


「だ、大丈夫です」


「では、実際に作っていきましょう。そうですね......最初ですし、マスターの住む居住空間でも整えますか。」


 今、マスターって呼んだ!? マスターって言ったよね! こんな美人にそんなこと言ってもらえるとか異世界サイコー!


「そ、そうですね、お願いしてもいいですか?」


「あ、わかりました、ではこちらのテンプレを使いましょう」


 表示されたのは、不自由なく暮らせるであろう空間。元の世界の自室よりも圧倒的に環境の良いそれを見て、俺は一つ、足りないものを見つけた。


「パソコンって、ありますか」


「インターネットは流石に世界を超えて届きませんが、ダンジョンの編集とほか少しの機能が付いた物なら、ありますよ」


「では、それもお願いします」


「マスターが自分で買うこともできますけれど......購入しておきますね」


「はい。これで保存を押せばいいんですか?」


「はい。これで居住空間を作ることができます」


 俺はためらいなくぽちっとその保存ボタンを押した。


 瞬間、水晶が輝き、洞窟の壁を押しのけるようにして、奥へと伸びた。

 扉を開くと、そこには先ほどまで画面に映っていた光景が。


 試しに風呂に入ってみるも、温かく、シャンプーやボディーソープもそこで買える仕様となっていた。

 けど、やっぱり、ここまでくると.......


「やっぱ、現実か......」


 その声が、一人だけの浴室の壁を空しく反響した。




「お湯、いかがでしたか?」


「あ、あぁ、まぁ、うん、よかったですよ」


「それは良かったです。では、この新しい家に侵入してこようとする『悪』を倒すために、防衛する部屋を作りましょう。このままだと、私ともども、死んでしまいます」


「え、あなたも死ぬんですか」


 思わず声が出る。きっと新しい就職先、とかやるんだと思ってたんだけど......


「もちろんです。私とマスターは一心同体、ってわけですね。さて、編集を押して、頑張りましょー!」


 テンションを上げてくれようとしているのであろう彼女。

 一心同体って、なんかいい響きだな。

 そう思ったが、とりあえずにやけた顔を戻して真剣に聞く。


「あの、死ぬのは怖くないですか?」


「怖い、といえば、この感情がきっとそうですね。いつ死ぬか。そう考えただけで身震いがします」


「だったら」


「そうです。守ってください。死なないように、マスターの知恵のすべてを絞って。どうか、お願いしますね?」


 少し意地悪な顔をした彼女。

 ここまで女の子に言われて、立ち上がる理由ももらった。何もしないわけにもいかないじゃないか!


「異世界行ったら本気出す、か......。」


 口癖だった言葉を思い出す。

 さあ、立ち上がれ五部川。お前はここでやらなくて、いつやるっていうんだ!


「さぁ、やってやろうじゃないか!」


 ここに、一人の女子のために一人の男が立ち上がった。


 ひたすらにデータを見る。魔物一体当たりのDPと特殊能力を精査して、最も己にあった魔物を考える。


「トラップは再設置コストがかかると......維持費はかからないのか。けど、一度限りなら少しでいいか。それよりも、ここだな」


 俺はピックアップした二種類の魔物を見る。


「ゴブリンとオークは、人型の雌と交尾したら数を増やせるのか......これが将来的にはいいのか?」


 ゴブリンは単体の能力は低いものの、オークよりも安上がりだ。

 対してオークは、この強さが大きい。が、コストも大きい。


 この二種類で迷う。さて......数の暴力、ともいうし、ここはゴブリンを多く買っておこう。


「これであとは、人型の雌......?」


 もしかして......


 そう視線を向けたのは、ダンジョン支援で送られたピクシー。

 ゴブリンに突っ込むと、ダンジョンが強化される。が、先ほど理由をもらっておいた手前、そんな悪逆非道な方法は......


 そこで、俺は気づいてしまった。

 己が息子が大反応していることに。


 マスターなんだし、使い古してからゴブリンにやっても......


 考えれば考えるほど、その思考は深くなっていく。

 三大欲求の中の一つに数えられるのも納得なほど、彼女のそういった妄想で思考が埋まっていく。

 しかも、それがダンジョンの強化に使えるという理由付けまで得てしまった。


 試しにショップを見る、トラップの補充用アイテムから、宝物に入れるアイテムまで様々なものがそろう中、俺は確かに睡眠薬の存在を見つけた。


 結構高かった。正直高かった。これで大量のゴブリンと合わせてポイントは使い切った。が、睡眠薬の効力は確実で強力。そして未来計画も万全。


「俺がマスターなんだ。俺がこの部屋の王。そしてこの世界の王になる。そのための第一歩だ」


 その液体薬をどう飲ませるか、そしてどう行為に及ぶか。そしてどれくらいしたらゴブリンに投入するか。


 正直ゴブリンに投入するには惜しすぎるほどの美貌。ここまで俺の理想そのもののような女性は見たことがない。ずっと手元に置いておきたい。ずっと愛しておきたい。


 ならば、魔物で雌を用意、とも思うかもしれないが、きっと強い能力が与えられているであろうピクシーから生まれる最強軍団が、スキルを継承とかして征服できるだろう。ヘルプ見たところステータスは継承あるらしいし。


 これが、運命の分水嶺だった。

ね?微量でしょ?(多分)


9/12 誤字修正しました。


12/7 一部変更しました。

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