永い眠り
「起きて、たろー」
その声を聞いて、俺は飛び起きる。
「もう、朝か......?」
「たろー、いつ寝たか覚えてる?」
「いつって、そりゃあ......いつだ?」
永い眠りについていたような錯覚。体の疲れや節々の痛み、そして寝起きに痛くなる胸も今日は痛くなかった。
「たろー、かれこれ三日は寝てた」
「み、三日も!?」
「って言ったら小説っぽいかと思って」
「めっちゃ思った」
一週間も寝るなろうの主人公たちはどうかしている。三日でもすごい。
「それで実際は?」
「一日」
「あら一日、よく寝たわね」
「そうね、たろーさん、小説書ける?」
「......無理」
構想は思いつかないし、以前のようなゾーンに入った感覚もどこかへと消え去ってしまった。
「どうしようか」
「書くしかない」
辛辣に突き放すような言葉を向けられる。とはいっても、それは自分でわかっていることだった。
「んじゃ、リハビリでテキトーに新作書いてみるわ」
「どこかの世界、使う?」
「いんや、今回は俺の頭の中かな」
「そう、それならこの前書いていた『僕が残したもの、僕が遺せたもの』はどうするの?」
「あー、それ、元からお盆休み投稿予定だったし、添削かまして出すか」
そう言ってパソコンをいじり始める。
隣に幼女がいたら数百倍の効率を誇ると思っていたのだが、もう今となっては効率は落ちそうな予感しかしない。
「それじゃ、私のダンジョンいじってくる」
「おう、あ、そうだ」
「ん、なに」
「決闘システム、使えそうか?」
「準備万端」
「そうか、いつでもいいぞ」
「そう。わかった」
そう言って、ぜっちゃん―――――全能神は、部屋を出ていった。
一人取り残された形となったが、今は一人になりたい。
「できてたことが出来なくなるって、怖いって初めて知ったよ」
その声がどんなものだったかは、ご想像にお任せする。




