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ケース4 心象 透 2読目

 一通り読んだ。本を読むのは慣れたものだ。だが、これはもう酷い、ひどすぎる。


 内容が完全に中学二年生の黒歴史ノートだ。詠唱が完全にもうアウトだ。クッソ腹がwww腹筋が破裂するwww


 腹筋が六枚になるのではないかというぐらい笑った。

 プライドはまだ捨てきれないから、とりあえず目をつけていたモンスターでも召喚するか。


 そう思い、ショップを覗く。


 とりあえず、もうポイントが苦しいので、ゴブリン工作兵を召喚した。


 観察していたが、名前の通り、ゴブリンがいろいろ俺の代わりをしてくれるようだ。


「これ、どういう判定なんだ? スキル的に」


「答、ゴブリンの設置した罠はダンジョン的設置物ではありません」


「それの違いってなんだ?」


「答、ダンジョン設置の罠は『勇者』スキルをはじめとするいくつかのスキルによって発見されます。罠形式の魔法は魔法探査に引っ掛かるものの、『勇者』スキルをはじめとするいくつかのスキルには見つかりません。最後に物理的な罠は、スキルによって発見されません。」


「それじゃ、物理的罠が最強か?」


「答、痕跡を一切残さない熟練者の設置という大前提で、設置時間とコストと性能が見合うのであれば推奨します」


 つまりあれか。物理的罠は魔法を使わないから魔法探査に引っ掛からないものの、魔法を使えないから全部手作業ってことか。


「ダンジョンの罠はすべて『勇者』スキルに発見されるか?」


「答、一定以下のレベルの罠はすべて感知されます。感知をかいくぐるにはダンジョンマスターが罠強化によりスキル『偽装(極)』以上を付与しなければなりません」


 あぁ、わけわかんねぇ。どーせ勇者とか来ねぇから、放置でいいか。もし勇者が出てきたら、その時考えるし。


「マスター」


「どうした」


「侵入者です」


 パソコンをすぐに起動する。確かにアラートが鳴っている。赤い帯が何とも緊急事態感をあおってきて、なんとも心地よい。このパソコン作者、分かってるな。


 現れた敵は数人。鎧を着た男と、女が三人。


「データベースを確認......マスター、お疲れさまでした」


「いや、どういうことだよ」


「あの男は『勇者』です」


 唐突に、絶望が訪れた。

 画面の先に、フラグを回収しに来たと言わんばかりに輝く笑顔を見せる勇者が映っていた。


「まだ終わってねぇ。ポイント的に......そうだな。女二人、持って行ければ」


 頭の中では、すでに勇者を倒すことをあきらめ、撤退させる方向にシフトしていた。




「ここにも罠だ。気を付けてくれ」


「さすが、勇者スキルね! 罠の位置がわかるだなんて、あなたすごいわ!」


「ハハッ、よしてくれ。俺はそこまですごくないさ。すごいのは勇者スキルさ」


「そんな謙遜するところ、あなたの美徳ね」


 イチャコライチャコラ、二人は距離がゼロのまま、ダンジョンを歩いていく。


「ねぇねぇ、早く戦うところ、見たいなぁ」


 後ろからまた別の女が抱き着く。


「良し、早くボスのところまで行くか!」


 この場にいる三人は、もうこの時点で負けが確定していたことに気づいてなどいない。





「はぁ......」


 勇者スキルについて聞いてはいたが、本当に全部見ていくんだな......


「ピクシー、勇者スキルの効果を教えてくれ」


「答、勇者スキルは複合スキルです。戦闘スキル 剣術、槍術、弓術、双剣術、刀術......


 その後もつらつらと戦闘スキルを垂れ流され、魔法スキルも大量にあると察した。


「魔法はいいや、何か面白いスキル効果とかあるのか?」


「答、ダンジョン感知、ダンジョン罠感知、勇者の心、ラッキースケベ(極)などでしょうか」


「ラッキースケベの存在感!?」


 いかんいかん、つい突っ込んでしまった。

 にしても、ラッキースケベか......罠で作ってみるか?


 ここにこれを、ここにこれを置いて......






「おかしい」


「どうしたの? また勇者スキルが何かあったの?」


「いや、まだ一度も戦闘をしていないんだよ」


「確かに。それに気づくなんて、流石勇者!」


「よしてくれ。俺はまだまだ未熟ものだよ」


 そう言いながらも、ダンジョンを歩いて......なに!?


「危ない!」


「え! きゃあ!」


 壁から鋭利な歯車が回ってきた。が、間一髪、彼女の命は守れた。


「大丈夫かい?」


「うん......あっ」


 彼女の服が歯車に切られてしまったようで、下着があらわになってしまっている。


「ほら、これを羽織っておいて」


 そう言い、マントを彼女に差し出す。


「これ、大切な......」


「君になら構わないよ。それに、嫁入り前の女性が下着をってのも良くないからね」


「別に、あなたなら気にしないのに......」


「ん? 何か言った?」


「ん! いやなんでもないわよ!」


 二人は、まだまだ進む。








「いや、ここまで都合よく進むとかえって怖いんだけど......」


「答、現在勝率は九十二%」


「もう勝っただろ......」


 何が起きているかはわかるだろう。

 まず最初、罠に気をとられている間に落とし穴で神官らしき女を落とす。

 すぐに床を閉めたら勇者は気づかずに先に進んでしまった。哀れ。


 そして歯車ラッキースケベ......というより企業の策略が見え隠れするヒロイン下着シーンの間に、弓を持った、最初に勇者に抱き着いた女を落とし穴。


 今は二人になっているというのに、気付かないとはあいつら大丈夫か......?


「質問、落とし穴のそこにいる二人はどうされますか?」


「そうだな、地下二階を作って、牢獄エリアにしておこうか」


 そう言うと俺は、地下二階を作成し、牢屋をとりあえず二つ設置した。

 この牢屋を見て気付いたのだが、人間がダンジョン内に滞在していると、それだけでDPが手に入るようなのだ。

 そして牢屋はポイントにボーナスが入る効果を持っているようだ。その代わり鍵をどこかに設置しないといけないらしく、仕方がないので一番通らないところにある落とし穴の底に隠しておこう。

 そして催眠トラップを使って二人を眠らせると、一人一人で牢獄にぶち込んだ。


「これでDP安定供給」


 外道だと罵るか? けれどお前らが俺を殺しに来ているんだから、殺される覚悟はできてるよな?

 そう返すだけで偽善者はすぐに黙るから楽だ。まぁ殺さないけど。ずっと生かしておくけど。


「そんじゃ、仕上げに入るか」


 俺は最後の仕上げのため、コアルームと自室を牢獄エリアの奥に設置し、地下一階を改装するのだった。






「さて、ここが最深部だ」


「勇者の力、見せてやりなさい!」


 二人はダンジョン地下一階、大きな扉の前に立っていた。ボス部屋だろう。

 きっとここの奥のコアを壊せば、みんな幸せになるんだ!


 扉を開ける。

 しかし、そこに魔物の姿はなかった。

 おかしい、この戸の奥にはボスがいるはずなのに!


 その時だった。


「ようこそ我が要塞へ」


 声が、聞こえた。

 まさか。このダンジョンには。


「そう、私がこのダンジョンのボス、いやマスターといったほうが正しい。私がこの城の主、心象 徹だ」


 そう、目の前の男は名乗り出た。


「ダンジョン......マスター! 貴様! 覚悟しろ!」


「ほう、覚悟はいいが、お前ら、これはいいのか?」


 そう言って地下から牢を上にエレベーターで上げてくる。

 挙げられてきたのは檻に錠でつながれた二人の女性。


「「勇者様!」」


「な、卑怯だぞ!」


「忘れ去った貴様らが悪い。さて、開放してほしければまず武器を捨ててこっちに来い」


「......分かった」


 がしゃ、がしゃ、と音を立てる勇者。そしてこちらに歩いていく。


「武器を捨てろ、そう言ったが?」


「......っち」


 懐からナイフを落とした勇者。

 こと心を読むことに関して、彼の隣に出る者はごく少数、この世界ではそう言ったスキル持っていないと張り合えないだろう。


 そして幸運にも、勇者にそう言ったスキルは備わっていないようだ。というより、ラッキースケベを搭載するような製作者が、難聴系になっている勇者が、心を読んでしまってはヒロインレースが面白くなくなくなるからと、搭載しないであろう確信がある。


 読む、というより行動から推測されたものだったが、期待を裏切らない製作者。


「もう武器は持っていない! そっちに行く! だから開放してくれ!」


「そうだな、ならばここに錠のカギを置いておこう。そして開放すればいい。だが、開放した瞬間にここに強力なモンスターが登場する」


 そう言って鍵を放りなげた。


「モンス......? とにかく、どれだけ強くても、どれだけ大きな壁が立ちふさがれようと、俺たちは屈しない。俺は勇者だから!」


 そう言って、勇者は走り出した。


 そして、鍵を拾った。


 そして、落とし穴に落ちた。


「う、うわぁ、何故だ!」


 もう地上に戻るには救助が必要なほどに下へと落下していった。


「さて、鍵がとられたので、強力モンスターを召喚します、と」


「どういうこと......」


 しかし、止まらない。


 魔力が収束し、召喚―――――


 しかし、魔物はいつまで経っても姿を現さなかった。


「な、なによ、口だけじゃない! 今からあんたを倒して、勇者様を救出―――――」


 しかし、その言葉の続きが紡がれることはなかった。


「お疲れ様。アサシンゴブリン、結構高かったぜ......まぁ、お前のおかげで勇者を殺せる」


 勇者は罠から出られない。二人の仲間は肉体を拘束された。一人の女性は息を引き取った。


 ポイントは十分。これでどう負けようというのだろうか。


「それじゃ、勇者にっと......ほれ」


 購入したのは勇者スキル所持者をとらえるためだけの牢。

 その特別製の牢だが、一番安いものでも今殺した女性からとれたDPの半分、三万DPを持っていかれる。そのうえ牢というより封印といったほうが正しいような機構を備えていた。


 そして条件も安いからか厳しくなっていた。


 が、その説明欄に書かれたメリット効果は俺にとって、ダンジョンマスターとしてこれから生き残るにあたって必要だ。


 しかし安いからだろう。


 HP一割未満。


 これが条件。誤って殺すことこそないだろうが、それでも今無力化だけした状態のため、どうしたものか。


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