HP1から始まる負けず嫌い
かつてないペースで小説が書ける。
あやの手には【木の棒】。そして彫刻刀代わりの【初心者の短剣】が握られている。
とりあえず今のままでは太いので、少しずつ削って釣り竿っぽくし、糸を通す穴を作らなくてはならない。糸は【見習い裁縫師セット】に入っている【糸】を使おうと思っている。
1日3mまでという制限があるものの、比較的に丈夫な物なので充分釣り糸として利用できるだろう。
ちなみに針は手間がかかるだろうが【ツノウサギの角】を削って作る予定だ。
なお、【ビーカー】の【ジェルポーション】は放置中だ。
「さてと……指切らないようにしないと」
そう言って【木の棒】に短剣を当て、静かに削り始めた。
だが、
――バシュ!
「えっ?」
あやの指に小さな赤いダメージエフェクトが出た。
現実なら気にも留めないような小さな傷。少し洗うか、絆創膏を貼るかで済ませるだろう。
だがこのゲームの中では、あやにとっては致命傷だった。
「うそん」
あやは光の粒になって消えた。
『プレイヤー【あやピコ】が死亡しました。15秒後リスポーンします』
このゲームにおいて、生産はスキルレベルと器用さ。あとは現実の手先の器用さに依存する。
だが、いかにあやの手先が器用でも、スキルレベルは1。器用さも10。使っている道具は生産用の彫刻刀ではなく、武器の短剣。
失敗する確率の方が高いはずだ。
そして、このゲームの生産活動における失敗とは、品質の劣化と“自傷ダメージ”があることだ。
鍛治をしたならハンマーで。木工なら彫刻刀で。料理なら包丁で。
いずれも攻撃力に比例するとはいえ、どれも小さなダメージではある。
だが、あやの場合はその小さなダメージで即死する。
つまり{加工}を続ける間は、常に死の危険が伴うということだ。
15秒後リスポーンしたあやは、未だ呆然としていた。
「{加工}って死の危険があるのか……」
おそらく現時点ではあやだけだろう。
「でも続けないと{加工}レベル上がらないし、{釣り}もできない……やるしかない!いざ!」
――バシュ!
『プレイヤー【あやピコ】が死亡しました。15秒後リスポーンします』
15秒後。
「いざ!…………あっ」
――バシュ!
『プレイヤー【あやピコ】が死亡しました。15秒後リスポーンします』
15秒後。
「い」
――バシュ!
『プレイヤー【あやピコ】が死亡しました。15秒後リスポーンします』
15秒後。
「この!……………………だぁ!?」
――バシュ
『プレイヤー【あやピコ】が死亡しました。15秒後リスポーンします』
15秒後。
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(以下繰り返し)
あやは、なんだかここでやめたら負けた気がすると思い、何度死のうが構わず続けた。
実は死亡した時のペナルティとしてステータスダウンが掛かっていたのも、失敗の原因の一つだった。
そしてこれを続けること………1時間半。
次回、あやピコ覚醒。