HP1から始まるお買いもの(in ファース)
間に合わんかったぁぁぁぁぁ!
お前はそうだ!常に自分自身を裏切るんだ!
というわけであけましておめでとうございます。今年も拙作をよろしくお願いします。
[始まりの街 ファース ファース伯爵の屋敷]
『スキル{毒魔法}を修得しました』
『{採取}スキルがUPしました』
『ログインしました。ログインボーナスを確認してください』
「……では契約はこれにて成立ですね」
「はい、ありがとうございました」
「こちらこそ大変いい商談になりました。これで我が領の財政も大幅に改善されるでしょう」
アップデートのメンテナンスを翌日に控えた7日目、あやは魔書『清く正しく毒魔法!』の貸与についての契約を交わすためにファース伯爵の屋敷に訪れていた。契約はあやとファース伯爵が別件の用事のため代理のエリック、それに……
「ではベイス司教、本日はありがとうございました」
「ふぁ~?なんじゃって?」
「本日は!ありがとうございました!」
「いちいち大声出さなくても聞こえとるわい、まったく……」
「ははは……」
契約書の作成のために教会から来たベイス司教と呼ばれたおじいちゃんだ。なんでもこのファースの街で唯一魔法契約書の作成ができる聖職者らしい。腰がすごく曲がっているし若干耳が遠いようだが、昔はモンスターを殴り飛ばすくらいファンキーなおじいちゃんだったらしい。
そんなベイス司教の作ってくれた契約書の内容は以下の通りだ。
①【あやピコ】はファース伯爵家に魔書『清く正しく毒魔法!』を貸し出す。
②ファース伯爵家は対価として毎月【スコシ茸】で得た利益の4割を【あやピコ】に支払う。
③ファース伯爵家は【あやピコ】が個人で【スコシ茸】を販売すること認めるが、【あやピコ】は【スコシ茸】単体を40万ユートより少ない値段で販売してはいけない。
④この契約は双方の合意がなければ解除できない。
⑤この契約は双方の合意があれば内容を変更できる。
公平……というか若干あやに有利な条件での契約だ。ファース伯爵の方で気を使ってくれたのだろう。
「ご不明な点があればいつでもお聞きください。冒険者ギルドの伝書鳩などを使えば連絡できますので」
「分りました。実際にやってみないと分からないこともあるかもですしね」
「それとこちら、原木の分の200万ユートです。お確かめください」
「ありがとうございます……たしかに」
前回の【スコシ茸】の納品依頼の分を含めて250万ユート。間違いなく全プレイヤーの中で一番の金持ちはあやだろう。節約すれば次のレンタル代の支払いまで金に困ることはない。
「さて、これで商談は終わりです。お二人共、今日はありがとうございました。馬車を手配してますのでお送りいたします」
「あ、すいません。私この後『カッテチョーヨ商会』に行く予定なので、宿屋には戻らなくて……」
「でしたらそちらに行くよう御者に伝えましょう。お買い物ですか?」
「えぇ。明日友人とこの街を出て【セカスト】に行くつもりなんです」
「そうなのですか。短い付き合いでしたが、さみしくなりますな。しかし冒険者とは冒険するもの。引き留めることはできません。ご武運を祈ります」
「ありがとうございます!エリックさんも、伯爵様によろしく伝えてください」
「様なんてつけなくて良いですよ。あぁそれと……鉱山都市に行くなら火ではなく魔法で光るランプを持って行くと良いでしょう。重さが苦でないなら鉄板を仕込んだ靴もおすすめです。ツルハシなどの採掘用の道具は現地の物が質の良いので【セカスト】で購入した方がよろしいかと」
「何から何まで親切にありがとうございます。参考にしますね」
こうして最後まで親切なファース伯爵の屋敷の後にし、馬車に揺られてカッテチョーヨ商会に向かった。ちなみに今回もお土産に茶葉とクッキーをくれた。
[始まりの街 ファース カッテチョーヨ商会]
カッテチョーヨ商会に着いたあやは、食料品や調理器具が売っている1階……ではなく、衣服を取り扱っている2階に向かった。
『いや服なんぞいらんだろ』
「いやいるよ?」
『しかし性能面では【永夜ノ王服】がぶっちぎりで一番じゃないっすか?わざわざここで買う必要はないのでは?』
「それはそうなんだけどね……」
ちなみにあや達がいるのは衣服コーナーの試着室だ。わざわざ試着ができるあたりこのゲームは大変リアリティである。ついでに言うと初期装備の【駆け出しの布の服】すら外すとスポーツブラのような簡素な下着姿になる。大変セクシー。
「あの装備性能も見た目も良いんだけどさ……目立つんだよ」
昨日『生放送とホームページ、なるべくチェックして!』というメッセージがるーじゅこと朱莉から送られてきた際、ついでにと思いUOの掲示板などを見て情報収集をしてみた。そこで知ったのだが、現在大半のプレイヤーは布の服に革鎧を着けただけだったり、なんの効果も付いてないローブなどが関の山らしい。βテスト時代の装備と交換できる【ベータチケット】も、条件を満たしたプレイヤーは皆無らしい。
そんなプレイヤー達を差し置いて上質な軍服を見にまとったあやがいればどうなるか。めちゃくちゃ目立つに決まってる。プレイヤーなのに魔物だとか、あやの容姿が可憐なのを加味してもべらぼうに目立つ。
「だから目立たないように変装は必須なんですよ、と。どう?似合う?」
『大変お似合いです!お嬢!』
試着室から出たあやの姿は薄緑の布で作られたズボンと上着、上から革の胸当てをつけた格好だ。【泣き髑髏】も外して不死化も解けている。
胸当ては【見習い盗賊セット】に入っていた【初心者の革鎧】だが、服の方はこの店で売っていた《探索者シリーズ》と呼ばれる、冒険者ギルド御用達のブランドの物らしい。名を【探索者の服・4号】である。かっこいい名前だが特筆すべき効果やスキルはない。しかし長年の研鑽による通気性と動きやすさを追求した機能性、誰にでも手に入ることができる生産性を両立した裁縫師の技術の結晶である(アイテム詳細より抜粋)。
「あとは先に買っといたこの【防刃外套】を装備してと……」
『しかしやっぱりその装備より【永夜ノ王服】の方が魔王っぽいぞ。不死化まで解除して……』
「まあまあ。手袋と靴はそのままにしてるよ。それに、普段は目立たずに民衆に潜み、いざという時に魔王の力を見せつける。こっちの方が魔王っぽいよ」
『あー……確かにそうだな。よし買っていいぞ』
だんだんとエバーの扱い方がわかってきた気がする。
「「「カタカタ」」」
「ぽよぽよ」
「あ、みんな。待っててくれてありがとね」
試着室から出たあやを出迎えたのは骸骨3人組とくろピコだ。くろピコはそのままだが、骸骨達はあやと同じ【防刃外套】を身につけている。
これが先に外套だけ買っていた理由だ。このフード付きの厚めの外套は骸骨の姿を隠すのにちょうどいい。【従魔証】があるとはいえ、骸骨が目の前を歩いていたらギョッとするだろう。そうならないように姿をある程度隠せるこの外套は最適だ。
単純に姿を隠せるのもこの外套を選んだ理由だが、不死共通の弱点である日光を気休め程度に遮断できるのも理由の一つだ。あやが変異する不死王は上位のモンスターのためダメージが発生するくらい鬱陶しい程度で済むが、骸骨3人組は最悪消滅する恐れがある。
それを防ぐために“不死強化”を使うのだが、その魔法をかけると禍々しいエフェクトが出る。それも隠せるためあやを含めて4人分の【防刃外套】を購入しておいた。
ちなみに【探索者・4号】は1着4,000ユート、【防刃外套】は1着10,000ユートである。
「おいで〜」
「ぽよぽよ」
不死化を解除してるあやはフードを付けていなくても問題ない。なので後ろに流したフードの中にくろピコを入れておくことができる。
「じゃあ買い物済まそうか」
「「「カタカタ」」」
その後1階に向かい食料品や調味料などを買い込み、調理器具などもこれまた買い込んだ。ただ……
「え?【全自動卵割り器】売り切れ?」
「申し訳ありません……」
聞けばあの魔導具はコレクターが多く、市場に出ている情報が出回れば即座に買い手が付くらしい。解せぬ。
[始まりの街 ファース ドルタ工房]
「あやさん!待たせちゃいましたか?」
「全然。それより昨日はごめんね。私のせいで二人に迷惑かけちゃって……」
「伯爵様の呼び出しならなら仕方ないですよ」
「……それにその後冒険に付き添ってくれたし、気にしてない」
ドルタ工房で待っていたらアレスとルシアがやってきた。今日最後の予定はここで装備を購入することである。二人は付き添いだ。
ちなみに買うのはあやの装備ではない。
(ガシャン!!)
「カタッ!?」
「うわ!?大丈夫!?」
「その人は……」
「……骸骨?」
骸骨3人組の装備である。今のは金属製の全身鎧を試着した骸骨盾士が鎧の重さに耐えきれずにうつ伏せに倒れた音だ。
外套だけではモンスターであることを隠すには足りないと思い、全身を隠せる装備を探しにドルタ工房にやってきたのだが……
「難しいね……」
「「カタカタ」」
他の骸骨達に手伝ってもらいながら骸骨盾士から鎧を外す。見ると鎧のアイテム詳細には『従魔は装備条件を満たしてません』と表示されている。
「装備条件を満たしつつ、全身をすっぽり隠せる装備か……」
「あのあやさん……」
「……そちらの骸骨」
「あ、二人には紹介してなかったっけ。この子達は……」
ふと思ったがこの骸骨3人組にちゃんとした名前を付けたことはなかった。いつも「盾ちゃん」とか「杖持ちちゃん」呼びだった気がする。
では今ここで名前を付けよう。
「紹介するね。【骸骨盾士】の……シルちゃん」
「カタカタ!?」
「槍を持ってるのが【骸骨槍士】の……ランちゃん」
「カタカタ〜」
「で最後に杖を持ってるのが【骸骨召喚師】の……サモッさん」
「カタカタ……カタッ!?」
「え?自分だけさん付けですか?」と言わんばかりに振り返る骸骨召喚……サモッさん。
「なんかしっくりきちゃって……あっ、こっちがくろピコね」
「ぽよぽよ」
「スライムだ!可愛い〜」
フードに隠れてたくろピコは触手を伸ばし、ルシアと握手をする。群集猪くらいなら瞬殺できることは黙っておこう。
「……骸骨の姿を隠せる装備を探してるのか。だけど全身装備は高いぞ」
「臨時収入が入ったから多分大丈夫だと思うけど……」
「ーーアレスの言う通りどんな装備かにもよるが結構高く付くぜ」
「あ、ドルタさん」
工房の奥から別の作業をしていたドルタがやってきた。
「今店に並んでるやつで全身を隠せる装備はその全身鎧くらいだな。となるとオーダーメイドするしかねぇな」
「オーダーメイド……ちなみにおいくらほど?」
「まぁ作る装備によって変わるが……ざっと60万くらいか?」
「ろくじゅ……」
ファース伯爵の一件で得たお金は250万。そこから宿代やカッテチョーヨ商会での散財を差し引いて……残金200万ユート。仮に3人分のオーダーメイドをしてもらっても残金20万ユート。
支払えなくはないが【セカスト】で買い物することを考えるともう少し残しておきたいところだ。
「お金足りないんですか?」
「払えなくはないんだけど思ったより高くてびっくりしただけ。ほら、【初心者の革鎧】とかと比べてすごい高いから」
「あれな〜。王都にいる冒険者ギルドが冒険者を増やそうとして魔法で量産してる防具だからな……。俺みたいな職人に言わせるとありゃひでぇ防具だよ。生産性の高さは認めるけどよ」
「だからお安いのか。うーん困った……」
出発前に【スコシ茸】を売っておくか?いやあれは即金で買えるようなものではないし、契約のせいで二束三文で売り払うこともできない。
「まあ聞けよ。今言った値段は素材もこっちが用意した場合だ。素材持ち込みならある程度は安くなるからよ。ルシア達から聞いてるぜ?結構いろんなモンスター狩ってるんだろ?出してみな」
「わかりました」
ドルタに促されて工房のカウンターの上に次々とモンスターの素材を出す。群集猪に郡長猪、あと流れで狩った兎や狼、熊などの獣系に加え、手のひらサイズの昆虫から取れた虫系素材に木がモンスター化したトレントなどの植物系の素材をドバドバとカウンターの上に乗っけた。
劣骨竜や【外道術師の研究所】で見つけた素材はまだ出さないでおく。
「おっ、こんなにあんのか……こいつぁ郡長猪じゃねえか!?滅多にお目にかかれねぇぞ!あやの嬢ちゃん!」
「は、はい!」
「使わなかった素材買い取っていいなら一式装備一つ20万で受け持つぜ!素材欲しさに手ェ抜いたりしねぇからよ!」
「じゃ、じゃあそれで」
「あいよ!明日の朝までには終わらせるぜ!そん時またきてくれよ!」
そう言ってドルタは素材を持って工房の奥に戻って行った。その時の顔は「ホクホク」という擬音が付きそうなほどホクホクした顔だった。
「びっくりした……でも明日までに終わるならいいか」
「明日何かあるんですか?」
「実はプレ……異界人の友達と【セカスト】に行こうと思ってね。ファースは明日発とうと思ってるんだ」
「そうなんですか!?」
「ごめん、言ってなかったーー」
「あやの嬢ちゃん!骸骨達を連れてきてくれ!採寸する!」
「わ、分かりました!ごめん行くね」
「あ、はーい」
その後採寸を終え、正式に契約を交わしてドルタ工房をあとにした。
料理の試作でもと思ったが、メンテナンスのために早急にログアウトしなければいけなかったので断念することになった。
明日のアップデートが楽しみで仕方がない。
作品内の時間が一週間も経過してない件について
えぇ?私の小説テンポ悪すぎ……




