HP1から始まる呼び出し
筆が進んでしまった
[始まりの街 ファース 西区]
『ログインしました。ログインボーナスを確認してください』
「ん〜!ログインする時ベットあるって良いな〜」
『目覚めたか』
『おはようございます!お嬢!』
「おはよう」
6日目のログイン。あやがログインしたのはカッテチョーヨ商会から出た後、ルシア達にオススメされた宿『小石亭』の一室である。
3畳ほどの空間にベットとテーブルがポツンと置いてあり、明かりはベットの近くにある窓だけだ。一泊3,000ユート(食事なし)で相場よりかなり安い。
部屋が狭いのは宿としては良くないかもしれないが、街中でログアウトするだけのプレイヤーからすれば部屋の狭さなどは気にならない。あやとしてはこの狭さが逆に落ち着くので気に入っている。
「将来拠点とか作れたらこのくらいの自室があっても良いかもなー。さてと今日のログインボーナスは……【★3確定ランダム装備ボックス】ねー」
その名の通り、レア度が★3の装備がランダムで手に入る箱のようだ。装備には武器はもちろん防具やアクセサリーも含まれ、細かい排出率が説明欄で確認できる。
「早速開けてみようかな〜」
あやが箱に手をかけたその時、
ーートントン
あやが宿泊した部屋のドアがノックされた。
『すみませーん!女将のターユですけど、あやさん起きてますー?』
「起きてまーす!今開けますねー」
昨夜ベットに入る前に壁に掛けていた上着を慌てて着てドアを開ける。
「お寛ぎのところすみません。あやさんにお客様です」
「お客?ルシアちゃんとアレスくんかな……」
「いえ、あの子達じゃなくて、領主様のとこの騎士様でして……」
「……騎士?」
どういうことだろうか。あやに騎士の知り合いはいないし、領主の知り合いはもっといない。
「なんでもあやさんを迎えに来たらしくて……表に馬車も来てます」
「馬車まで……断るのは不味いですかね?」
「不味いかと……」
どうやら避けられないイベントのようだ。
「行くしかないか……申し訳ないんですけど、ルシアちゃん達が来たら事情を説明してもらえますか?」
「わかりました。その……頑張ってください?」
「ありがとうございます……」
部屋の鍵を女将に返して宿屋を出ると、鎧を着た男と立派な馬車が待っていた。
「失礼、異界人のあやピコ殿でよろしいか?」
「そうですけど……どちら様で?」
「この街の領主、ファース伯爵の使いの者です。この度伯爵閣下が貴女とお会いになりたいと仰せられておりますので、お呼びに上がりました」
「そのファース伯爵がなんで私みたいな異界人に……?面識は無いですよね?」
「そこまではなんとも……詳しくは閣下からお聞きください」
「はぁ……」
怪しい。呼び出す用件を言い出さない時点で、かなり。
そんなあやの内心を感じ取ったのか、騎士の男が困ったような顔で話す。
「流石に怪しまれますよね……。伯爵閣下は貴女に危害を加えるつもりはないかと。女神の客人である異界人ですからね。ただ、貴女を呼び出すのは昨日の夜決まったことで、私のような末端の騎士には呼び出す理由まではわかりません。ただとにかく迅速に、とのことでして……」
(……どうする?)
『異界人であることから最低限の安全は保証されるだろうし、行ってみたらどうだ?それに、昨日この街に来たばかりのあやに伯爵が会いたい理由も気になる』
『迅速にってことはかなり慌ててるんですかね?使いの者に詳細な話が通らないくらい』
確かにそこまでお慌てになるほどあやに会いたい理由は気になる。
「……分かりました。変なことしないなら大人しく行きます」
「それはもう!ささ、こちらへ」
こうしてあやは馬車に乗り、ファース伯爵の館に向かうことになった。




