HP1から始まる“カラミティバベル”
ついについたか……シロクロの『2ヶ月更新されてません』が……
サブタイトル増やしてみましたー。どうでしょう?
[徘徊する黒き沼]
あやはビッグブラックスライムの黒い極光に飲み込まれた。
あやは光の粒になって………消えなかった。
そう、あやはビッグブラックスライムの極光を耐え切ったのだ。今まで瞬殺されてたのに対し、かなりの前進である。
「ふぅ……あっぶなぁ」
『お嬢!ご無事ですか!?』
『大丈夫か!?』
「な、なんとか……」
ただ本当になんとかだった。【泣き髑髏】の効果で1000も増えたHPが8割も減ってしまった。それだけ強力なのだろう、あの黒い極光は。
瞬時にさおピコの{HP貯蓄}で蓄えていたHPと【邪炎ノ外套】が放つ《邪気》によって回復するあや。
だが、安心はできない。ホントになんで居んのこいつ……というのがあやの心境だ。初心者エリアで居ていい強さじゃない。LV58だし。
ビッグブラックスライムは今度は黒い触手を伸ばし始める。触手による打撃攻撃らしい。
『い、いかん!あや。距離を取れ!』
「きょ、距離ぃ!?後ろ壁だよ!」
『【邪炎ノ外套】があるだろう!?それ使え!』
「どうすんの!?」
『念じろ!』
「わ、わかった!」
背中に羽織った【邪炎ノ外套】に意識を向ける。
(空飛びたい!上上上!!)
その時、触手がまっすぐに放たれた!
「!」
――ドゴォォン!!
後ろの壁が放射状に砕かれる。
そしてあやは……
「あっぶなぁ!」
上空にいた。背中からは黒い炎を纏った翼が生えている。
『あや!上出来だ!』
『見事です!お嬢!』
胸元にあるエバーと手に持ったさおピコがあやを称賛する。
だがビッグブラックスライムも逃したわけではない。即座に追加の触手を伸ばし始める。
『躱せぇ!あや!』
「オッケー!」
連続して放たれる黒い触手。崖に当たるたびに、岩を砕き、砂埃を出す。
だがあやには当たらない。【邪炎ノ外套】の{飛行}が優秀ということもあるが、{死に急ぎ}によって強化された敏捷値があやの回避能力を底上げしている。
それにしてもデカイ。飛んでから分かったが、目算でも10mは軽く超えているだろう。
『……躱しているだけでは拉致があかん。反撃するぞ』
「でもどうしよう?私遠距離攻撃なんてないよ。さおピコでもこんなに大きなスライム釣り上げられなさそうだし…」
『うっ!鯨も釣れそうと言ったくせに面目ねぇ!』
さおピコが「しょぼーん」と竿をしならせる。硬そうな材質だが、柔軟性は高そうだ。
『……いや。さお。お前が居なくては勝てん』
『えっ?それってどういう……』
『あや。奴に向かって「イビルアロー」と唱えろ』
「えっ?でも私魔法スキルは……」
『いいから!』
「は、はい!」
あやはいったん静止してビッグブラックスライムに狙いを定める。
「い、“イビルアロー”!」
そう唱えた瞬間、あやの手に魔法陣が描かれて、黒い矢がビッグブラックスライムに向かって放たれる。
矢自体【永夜ノ残滓】が使っていたものより小さく、ビッグブラックスライムもそれほど効いてなさそうかだが、紛れもなくあやが放った魔法だ。
「えっ!?なんで!?」
『説明は後だ!連続して唱えろ!』
「わ、わかった!」
代わりに説明すると、このゲームにおいて魔法スキルを獲得する方法はいくつか存在する。
一つは初期スキル選択で選ぶこと。るーじゅの{火属性魔法}がそうだ。
もう一つはアイテムで獲得する方法。魔書と呼ばれる{○○魔法の心得}のスキルを持つアイテムだ。
このアイテムを装備した時、その魔法の一番弱い呪文がひとつだけ使える。その呪文を何度か使うことによって、その魔法スキルを修得できるのだ。
そして、【永夜ノ魂】には{邪術の心得}があるので………
『{邪術}スキルを修得しました。新たに呪文“イビルボール”を獲得しました』
『【永夜ノ魂】の{邪術の心得}が{邪術強化}に進化しました』
「!{邪術}獲れた!」
『よし!【ディストピー・パラベラム】を握れ!』
「う、うん!」
イベントリから漆黒の長剣を取り出す。左手に釣り竿。右手に長剣を持ち、黒い翼を生やした姿は、なかなかシュールである。
『その剣の{禁域解放}と、【泣き髑髏】の{不死の秘術}を使え!』
「分かった!」
【ディスタピー・パラベラム】の持つ{禁域解放}は今所持しているスキルの1LV高い武技、呪文を使用することができるスキルだ。
つまり、今のあやの{邪術}はLV1だが、LV2の呪文である“イビルウォール”を使えるということだ。
もう一つの【泣き髑髏】の{不死の秘術}は魔法を強化するスキル。魔法の効果を追加したり、威力を高めることができる。
ここまでは他にもある魔法強化のスキルと同じだが、このスキル最大の特徴でもある強化は……
「“代償呪文”……!」
そう唱えると同時に、あやのHPとMPが減少していく。
{不死の秘術LV1}強化“代償呪文”。
MPだけでなく、HPまで消費することにより、本来LVの関係で使えない呪文を無理矢理使う強化だ。
さおピコが貯蓄していたHP、MPを丸ごと使うこの魔法は、{邪術}最強にして最凶の大技。
神話において、《魔王》が《勇者》に最期に放った、文字通り《魔王》の『切り札』……!
今から使うのはそんな魔法だ。その名も……!
「“カラミティバベル”!!」
その魔法を唱えた瞬間、空気が変わった。
今なお地上を照らす月は、突如現れた黒雲によって姿を消す。
暗闇の中でも一際黒い威光を放つあやの《邪気》は、ビッグブラックスライムの足元で形を成す。
それはビッグブラックスライムをすっぽりと囲われるほど大きな魔法陣となった。
逆手に持った【ディストピー・パラベラム】の柄頭には、ビッグブラックスライムの足元に展開された魔法陣と同じ速度で流転する魔法陣が一つ。
それの回転速度は徐々に上がっていき………。
一拍。
ビッグブラックスライムの魔法陣から漆黒の極光が放たれた。
ビッグブラックスライムの放つ極光よりドス黒い極光は、黒い粘体を飲み込み、そのまま天を灼いた。
『ジュジュジュ…………シュー』
『プレイヤー【あやピコ】のLVがUPしました』
『{邪術}スキルがUPしました。新たに呪文“イビルウォール”を修得しました』
『{不死の秘術}スキルがUPしました。新たに“呪文拡大”を修得しました』
『{魔力操作}スキルがUPしました』
『エリア[徘徊する黒き沼]を[チュートリア崖下]に変更します』
ビッグブラックスライムは一瞬で焼け死んだが、“カラミティバベル”はそれでも止まらない。
あやが上を見れば、それはまさしく天高くそびえ立つ《バベルの塔》。
[チュートリア大森林]……いや、[ファース]にいたってこの光は目に入るだろう。それだけの大規模魔法だ。
{邪術LV 10}呪文“カラミティバベル”。
《魔王》の切り札であり、{邪術}の……いや、全魔法の中でもトップクラスの威力を誇る、まさに厄災の天塔。
この呪文は、まず防御、耐性を無視して与える超威力の邪属性攻撃。これで大抵の相手は屠れる。
さらには、放った場所に強力な《邪気》と状態異常を引き起こすエリアに変えてしまう。これはゲーム内で1ヶ月程続く。
欠点としては、これまた全魔法の中でもトップクラスのMP消費と、塔のように放たれるせいでそれほど範囲は広くないところだ。だが、それこそ塔のようなフィールドで使えば効果絶大だろう。
光の放出は未だ止まっていない。
『フハハハ!どうだ!国一つを《邪気》溢れる土地に変えた魔法だ!これさえあれば、いかなる存在もあやを止めることはできまい!フハハハ!』
「…………」
仮面で隠れて表情が分からないあやに対して、エバーはかなり上機嫌だ。この魔法を見て興奮しているらしい。
あやは無言で首に掛けている【永夜ノ魂】を外した。
『ん?あやどうした?いきなり私を外して……』
「こんな威力なんて聞いてないよ!どういうこと!?」
そう吠えると同時に、黒いペンダントをグルグルと回すあや。
『や、やめ……!ちょっ、ま、待て!回すな!おい!』
この光の放出は 10分以上続いた。
これで掲示板書いて第一章は完……って思うじゃん?
まだ続きます。しばしお付き合いください。




