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Utopia・Online〜開始初日で魔王になるエクストリームプレイ日記〜  作者: オタケ部長
HP1から始まる魔王降臨
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HP1から始まる{生への執念}


 次にあやの胸が上下する。まるで今まで息をしていなかった人間が息を吹き返したようだ。


 さらに赤い粒子が集まり、あやの左腕を形作った。


 あやの変化はそれだけに止まらない。


 あやの日本人特有の黒い髪が、みるみるうちに白く変色している。


 そしてカッと見開いた目は………紅く輝いている。


 {生への執念}発動の証だ。今のあやは、不死系魔物(アンデットモンスター)【生への執念】なのだ。


 あやはゆっくりと立ち上がった。どうやら現状を正しく理解できていないようだ。


『ムゥ……マダ息ガアッタカ……“イビルスラッシュ”!』


 永夜ノ残滓(エバーナイトダスト)が腕を一振りすると、黒い斬撃があやに向かって放たれた。


「えっ、ちょっ、きゃあ!」


 なすすべもなく食らってしまう。


 土埃があやを覆い隠す。


『コレナラ流石ニクタバッタカ……ナッ!?』


 土埃が晴れた、そこにいたのは……


「あ、あれ?なんともない……」


 ボロボロではあるが、ピンピンしたあやだった。


『貴様!一体ドンナ手品ヲ使ッタ!?』

「いや、私も知りたい……」


 種明かしはこうだ。


 まず、永夜ノ残滓(エバーナイトダスト)が使う攻撃は、{邪術}と呼ばれる、魔王専用の魔法だ。この魔法は魔王専用とあるだけあって、なかなか凶悪な性質を持っている。


 一つは、固定ダメージ。


 魔法は、各属性の耐性スキルや{魔法耐性}などのスキルでダメージを軽減することができ、一部に至っては無効化することもできる。


 だが、{邪術}は違う。{邪術}は、仮に{魔法無効}というスキルがあったとしても、ある程度は軽減されるが必ず一定量の固定ダメージはある。そしてそれはどんな手段を使っても減らすことはできない。


 だから今の攻撃もあやにはダメージがあった。あったはずなのだ。


 もう一つは、属性。

 

 {邪術}は分類上属性は《邪》となっている。


 このゲームの仕様では弱点属性へのダメージは通常の1.5倍になるが、{邪術}は倍率が1.3倍に落ちる代わりにすべての属性に特攻効果を持つ。たとえ勇者の持つ《神聖》の属性であってもだ。


 加えて《邪》の属性の『生きとし生けるものを蝕む』という設定上、高確率で《邪気》の状態異常になる。《邪気》はスリップダメージとランダムで他の状態異常を付与する状態異常だ。


 それらに加え、{邪術}は攻撃以外にも、相手にデバフを掛けたり、《瘴気》を発生させたりと、妨害にも長けている。


 ではなぜそんな魔法があやには効果が無かったのか?


 理由は言わずもがな、{生への執念}だ。


 そもそも{邪術}には唯一弱点がある。


 それは、不死系魔物(アンデットモンスター)とには相性がすこぶる悪いのだ。


 そもそもその魔法を使う魔王もアンデット。そして配下もアンデット。


 野良のモンスターとして出てきても{死霊魔法}の呪文(スペル)で支配下における。


 だから永夜ノ残滓(エバーナイトダスト)はアンデットと戦った経験が極端なまでに少ない。


 だからこそ失念していた。


 《邪》属性がアンデットを回復させることができるということを……!


 さらにあやが変異したのが【生への執念】であるというのも永夜ノ残滓(エバーナイトダスト)にとっては不運だろう。


 【生への執念】を一言で表現するなら、『タフすぎるアンデット』だろう。


 魔法と物理の耐性に加え、{体力超増強}に{超速再生}{状態異常無効}もある、究極のタフモンスターと言えるだろう。


 加えて{邪気吸収}がこれまたまずい。{邪術}に含まれる《邪気》があやのHPに変換される。


 つまり、今のあやは二つの耐性スキルでダメージを軽減させ、{体力超増強}によって増えたHPが軽減したダメージをさらに目立たなくさせ、{超速再生}によってすぐに回復する。さらには{死に急ぎ}によりダメージを受ければ受けるほど速度が上がり、HPが0になっても{不屈の闘志}で耐えることができるという……。


 魔王よりラスボスっぽい。相対した者にとっては悪夢でしかないだろう。


『クッ!劣骨(レッサーボー)(ンドラゴン)!』

『グルォォオ!』

 

 永夜ノ残滓(エバーナイトダスト)は別の魔法の準備を始め、劣骨(レッサーボーン)(ドラゴン)骨息吹(ボーンブレス)を放つ。


「二度も食らうか!」


 あやは素早く【あやピコの執念のボロ竿】を手に取り、駆け出す。


 遅れて骨息吹(ボーンブレス)はあやがそこまでいた所で猛威を振るう。

 

 骸骨戦士(スケルトンウォーリア)骸骨魔術師(スケルトンメイジ)を巻き込むが、あやには当たらない。


 これは先程永夜ノ残滓(エバーナイトダスト)が使った魔法“ディザスターフレイム”が原因だ。


 “ディザスターフレイム”は放った後もその場に炎が残り、()()()()()()が発生する。


 {死に急ぎ}入りまーす。


 さらに{回避}の補正によって面白いくらい当たらない。


 あやの回避の仕方も独特だ。イナバウアーだったり180°開脚だったりと。“天歩”も使って立体的に動く。


『{回避}スキルがUPしました』

『{立体機動}スキルがUPしました』

『{疾走}スキルがUPしました』


 さらに言うなら、今のあやはアンデット。


 アンデットにはスタミナゲージが存在しない。変化の証としてゲージは紫に変わって一切変化しない。


 だから今あやは無限に走れるのだ。


 そうこうしていると、劣骨(レッサーボーン)(ドラゴン)の足元にやってきた。


「“天歩”!“天歩”!」


 二連続の“天歩”で一気に食べに頭の上まで登るあや。


 そうしてくるりと180°回転すると、


「“天歩”!“竿叩き”!」


 そうして一気に駆け降りて、しなるボロ竿を叩き込む!


『グルァァァ!?』


 何も{死に急ぎ}で上がるのは敏捷値だけではない。敏捷値ほどの上昇力はないが、攻撃力も上がる。少なくとも頭蓋骨を放射状に砕き、地面に叩きつけられるくらいは。


『グッ……グォォォ……』

「“天歩”!」


 今度は“天歩”を足場に縦ではなく横に一回転して【あやピコの執念のボロ竿】を槍のように投げつける。


『スキル{投擲}を修得しました』


『グルォォオ……』


 砕けた部分に食い込み、それが原因で劣骨(レッサーボー)(ンドラゴン)は倒れた。


『プレイヤー【あやピコ】のレベルがUPしました』

『プレイヤー【あやピコ】のレベルがUPしました』

『プレイヤー【あやピコ】のレベルがUPしました』

            :

            :

            :

『{立体機動}スキルがUPしました』


 戦闘中にいちいち気にしてられないほどレベルがUPする。


『オノレェェ!!“五重詠唱(クインテットスペル)“イビルレイ”!』


 5つの黒い光線があやに向かって放たれるが、当たらない。


 ただ躱したせいで【あやピコの執念のボロ竿】を回収できなかった。


 だが、永夜ノ残滓(エバーナイトダスト)の紙装甲を切り裂くなら、【初心者の短剣】で充分だ。


「せいやぁ!」


 {疾走}もあって一気に肉薄するあや。


『クッ!“二重詠唱(デュエットスペル)”“イビルウォール”!』


 永夜ノ残滓(エバーナイトダスト)の後ろから二枚の布のような物が出て、永夜ノ残滓(エバーナイトダスト)を守る壁となる。


 この“イビルウォール”、《邪気》で構築されているため、触れるだけでもダメージを負うのだが……


「こんのぉ!“デュアルスラッシュ”!」


 あやにとっては自分を回復してくれる、ポーションの壁のような物だ。上昇した攻撃力を伴った短剣はいともたやすく黒い壁を切り裂いた。


『ムゥ!』


 防御魔法で見えなくなった隙に永夜ノ残滓(エバーナイトダスト)がどこからともなく漆黒の長剣を取り出す。どうやら剣も使えるらしい。


 長い。とてつもなく長い。刀身だけで1m。持ち手も含めて1m 30cmはある。どこに隠していたのだろうか。それを横薙ぎに振るう。


『フン!』

「あたっ!」


 先ほど再生したばかりの左腕を剣の軌道に割り込ませて剣を受け止める。衝撃でつい声を上げてしまったが、{痛覚遮断}の効果で痛みはない。そして【生への執念】の頑丈さや【不動の守護者】の補正のお陰で左腕は断ち切られることなくしっかりと刃を受け止める。


「どりゃぁぁぁ!!」

 

 そして自由に動く右手を握りしめると、永夜ノ残滓(エバーナイトダスト)の顎にきれいなアッパーカットを放つ!


『カッハ……!』


 そして永夜ノ残滓(エバーナイトダスト)のHPバーは消し飛んだ。ただでさえ打撃に弱い骸骨なのに顎にクリーンヒットを食らったのだ。耐えられるはずがない。

 

『ヌォォ……オノレェェ……』


 剣を落とし、身体が靄となって溶けるように消えてゆく。


『ウケ……レ………チ…ラ………ヲ…………』


 そして最後に何か言い残して消えた。



「勝っ……た……きゅ~」

 

 あやはそのまま前に倒れ込む。どうやらボス戦のプレッシャーから解放され気が抜けてしまったらしい。


『プレイヤー【あやピコ】のレベルがUPしました』

『プレイヤー【あやピコ】のレベルがUPしました』

『プレイヤー【あやピコ】のレベルがUPしました』

            :

            :

            :

 

 あやの耳にアナウンスは聞こえなかった。


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