HP1から始まる【復活の祭壇】
[復活の祭壇]
視界を遮るかのように立ち込める紫の霧。
唯一晴れている上空には赤い月。
所々風化した石の柱。
大勢の人間が通ることを想定された巨大な階段。
そんな階段の前に光の粒子が集まり、あやが現れた。
『エクストラスキル{生への執念}を修得しました』
リスポーン直後に鳴り響くアナウンス。だがあやはそれどころではない。
「………なに、ここ?」
{冥府の徘徊者}が発動しなかったと思うと、突然新しいスキルと未知の場所に飛ばされたのだ。当然だろう。
それとなんだ【復活の祭壇】って。何が復活すんだよ、というのがあやの心境であった。
「あっそうだ。新しいスキルスキル……」
こちらの方は、死亡回数によるモノだろうから、整理のしやすいスキルの方を確認することにした。
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✴︎エクストラスキル{死を望む者LV1}
そんなに死にたいか?ならば死ね。
HPをMPに変換する。
修得条件ー66時間以内に999回死亡すること。
✴︎エクストラスキル{生への執念}
HPが0になるとき、不死系魔物【生への執念】として復
活する。
変異中スキル{体力超増強}{超速再生}{物理耐性}
{魔法耐性}{邪気吸収}{捕食再生}{弱点:光}
{暗視}{状態異常無効}を得る。
修得条件ー999回死亡し、リスポーンすること。
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「わぉ……」
なかなか情報量が多い。あやは単語一個ずつ丁寧に読むことにした。
そして全部読んだ後……
「すごい………のかな?」
何度も言うが、るーじゅのようなゲーマーでないので、すごいのはわかるが、どれほどすごいかわからない。
「なんか{生への執念}発動したらスキルめっちゃ増えるじゃん」くらいにしか思っていない。
だがるーじゅが見たら……大声をあげて驚くだろう。
{死を望む者}は魔法職にとっては垂涎のスキルだ。HPなんてそこまで重視されないし、HPポーションを飲めばいくらでも魔法を放てる。
{生への執念}はガッツスキルとして盾職は欲しいだろう。その後の耐性も美味しい。
……よく考えたらあやはどういう部類に入るのだろうか?
敏捷値を上げる{疾走}と{死に急ぎ}に{立体機動}を持ってると思えば、ガッツスキルの{不屈の闘志}と{生への執念}を持っている。魔法職必須の{魔力操作}にMP回復の{死を望む者}もあれば、生産職として{調合}{裁縫}{細工}に、趣味として{料理}{水泳}{サバイバル}……
あやは本当にどういう方向性のキャラなのだろうか?
きっとあや本人にも分からないだろう。
ただ分かるのはあやがやりたいようにやった結果なのだ、これは。
まだ1日目でLVは4だが………
「さて……ここ、どこ?」
あやは、今まで触れなかったところに触れる。
マップ機能を使っても、『現在詳細なマップはありません』と出るし、るーじゅに聞こうにもメッセージ機能も使えない。
周囲になにがあるかと言えば……
右手。霧。
左手。霧。
背後。霧。
頭上。月。
足下。地面。
正面。階段。
「どう考えても進めってことだよね……」
正直何か飛び出してこないか心配だ。あやはお化け屋敷などが怖い訳では無いが、それでも驚きはする。
「よし……行こう」
あやは念のために、距離が取れるように【あやピコの執念のボロ竿】を装備し、【ポーションキャンディ】を口に入れる。継続回復のおかげで、あやの体力は全快し、ボロ竿の{HP貯蓄}で余すことなく活用できる。
――コツン、コツン、コツン………
どういう素材でできているのか、あやの足音がよく響く。
階段の横の壁には壁画らしきものが描かれているが、かすれてなにが描いてあったかわからない。
ただ、黒い塗料を多用してあるので、夜の絵ではないかと思われる。
(………なにが復活するのかな?)
あやはそれが不思議でならなかった。
そして、階段を登り切った先には、広場があった。
崩れかけの屋根があり、どことなくギリシア建築を連想させる。
そしてその広場の中心には、祭壇があった。
「あれが【復活の祭壇】………」
あやがそう呟いたその時。
――ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ、ボッ
「ひゃあ!?」
広場の周りに人魂が現れ、月明かりに加えてこの場を照らす。
すると祭壇の方にも変化が現れた。
いつのまにか、服を着た骸骨が立っていたのだ。
それも大きい。身長は2mありそうだが、『ゴツゴツとした大男』という印象は受けない。
骸骨自体に厚みがないのもそうだが、シュッとした軍服のような服を着ているのも理由だろう。黒い羽を集めたようなマントをしているから、それなりの地位の骸骨(?)なのかもしれない。
『我ハ……コノ世界ヲ愛シテイル』
唐突に語り出す骸骨。
『コノ美シキ世界ハ守ラナケレバナラナイ』
どうも世界を壊してやる〜みたいな悪役では無さそうだ。
『ダガ、人ガソレヲ汚ス』
骸骨の眼窩(目の窪み)から黒い炎が漏れ出てくる。
『同ジ種族ナノニ憎ミ合ウ奴ラハ愚カダ。ダカラ我ガ手ヲ下シタトイウノニ……』
悔しそうに己の手を見つめる骸骨。
『マタコノ世ヲ終ワラヌ夜デ満タサナクテハナラナイ……』
今度はあやの方を見る骸骨。
『ソノ執念ノ宿ッタ身体……我ガ新シイ身体ニ相応シイ…』
執念で思いつくのは、999回も死んだことだ。
そう、これは①MPが100以上である。
②{魔力操作}のスキルを持っている。
そして③999回死亡することによって発動する、一回限りのワンタイムクエスト。
【魔王復活の儀】。
あやがボロ竿を構えて警戒する。
『サア、ソノ身体ヲヨコセ!』
【永夜ノ残滓LV⁇】
今ここに、このゲームの、勇者と対をなす存在との戦いの火蓋が切られた。
『シロクロ・チェリーサイクル』……略して『シロチェル』を没にしたいと思います。
だが、復活する!私が小説家としてレベルアップしたら!
その時まで、待ってろよ!




