HP1から始まるログイン
最近暑くなってきましたね。
私は蚊に5カ所刺されました。
[始まりの街 ファース]
白い光の粒子が集まり、人の形を作っていく。
やがてそれは--あやのキャラクターになった。
「お、おー……本物そっくり……」
近くのガラスに寄り、そこに写った自分の姿を見て体をペタペタと触る。
肩まで伸びた黒い髪。整った形の眉毛。彫りの深い顔。ぱっちりと開いた黒い瞳。肉付きもふっくらとしていて、全体的に整った容姿をしている。
「おーい!」
大声が聞こえたので後ろを振り向くと、そこには朱莉そっくり(おそらく本人)が駆けて来た。
「えっとー、彩華だよね?」
名前の方は小声で聞いてきた。ゲームでは本名で呼ぶのはマナー違反だからだろう。
「うん、そうだよ。PNは【あやピコ】だよ」
「あやピコ…?じゃ、じゃああやって呼ぶね。私のPNは【るーじゅ】!」
「るーじゅね。るーって呼ぼうかな」
「それでいいよ」
二人がそんな話をしている中、周囲が『るーじゅ』と聞いてからざわめき始める。
「おい、るーじゅって…」「間違いない、《炎刃姫》だ」「βテスト時代のプレイヤーの中でもトップクラスの実力者だろう。やっぱりいるよな」
どうやらるーじゅはかなりの実力者だそうだ。
「るーって結構有名人?」
「ふふん。βテストに参加したプレイヤー千人の中でモンスター討伐数第3位、PvPでも高い実績を誇っているわ」
「へー」
あやはモンスター討伐数とかPvPとか言われてもピーンとこなかった。
でも1000人の中で3番目なんだからそこそこ凄いんだろうくらいにしか思わなかった。
「そんな私の初期ステータスはこちらでーす」
そう言って出てきたのは白いステータスボード。そこには
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【るーじゅ】LV1
HP-40
MP-60
《ステータス》 ステータスポイント-0
攻撃力-15 (+1)
防御力-5
敏捷値-15
器用-10
精神力-5
知力-10
運-10
《スキル》 SP-10
{剣術LV1}{火属性魔法LV1}{攻撃力強化LV1}{遠見LV1}{軽業LV1}{縮地LV1}{魔法付与LV1}
所持金:1000ユート
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ん?《スキル》って10枠じゃなかったけ?7個しかないよ」
「一部特殊な《スキル》って枠を多く必要になるのよ。私の場合は{軽業}と{縮地}と{魔法付与}がそうね。βテスト時代はこの《スキル》で無双したわ」
「へー。この攻撃力の+は?」
「{身体強化}で強化された分。《スキル》のLVが上がると増えるわ。LV1だと10%アップ」
「すごいね」
「あやのステータスは?相談とかしてくれなかったから不安なんだけど」
「だ、大丈夫だよ。これが私のステータスだ!」
今度はあやのステータスボードが現れた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【あやピコ】LV1
HP-1
MP-99
《ステータス》 ステータスポイント0
攻撃力-10
防御力-10
敏捷値-10
器用-10
精神力-10
知力-10
運-10
《スキル》 SP-10
{調合LV1}{加工LV1}{裁縫LV1}{鑑定LV1}{魔力操作LV1}{料理LV1}{演奏LV1}{水泳LV1}{釣りLV1}{サバイバルLV1}
所持金:1000ユート
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「………」
これを見たるーじゅの反応は………絶句…!
もはや声さえ出ない。
ステータスポイントを10ずつ割り振ったのはいいだろう。だがHPを1に設定するなど正気の沙汰ではない。魔法使い系のキャラクターを作ろうと思ったにしてもこれはない。
それに《スキル》も……
「いや〜。結構苦労したんだよね〜。《スキル》選びとかも気を使って……」
「…ぁか」
「えっ?」
「馬鹿馬鹿!何考えてんの⁉︎」
選択した《スキル》も半分が《Unknown》。しかも《戦闘系スキル》を一個も入れないという暴挙。
βテストの生産系プレイヤーも護身のために《戦闘系スキル》を一個くらい入れていた。
なのにあやはそれをせず、HPが1の紙装甲にも関わらず防御系の《スキル》も入れない。
思わずるーじゅがあやをポカポカしたくなるのも仕方ないだろう。
「馬鹿馬鹿!あやの馬鹿!」
「ちょ、ちょっと!待っ!痛い痛い!」
突然だがここでこのゲームの『ダメージ判定』に関する話をしよう。
このゲームはなるべく現実に近いようになっている。なので転んだりぶつかったりすると、防御力の低さによってはダメージ判定を受ける場合がある。
あやの紙装甲でも防御力が10なら、余程の勢いで転ばないとダメージ判定はない。
しかしこれがプレイヤー同士だと話は変わる。
攻撃する側のプレイヤーをA、攻撃を受ける側のプレイヤーをBとする。Aの攻撃力がBの防御力を上回った場合、Bは「攻撃力-防御力」分のダメージを受ける。厳密には使用した武器や攻撃した位置で誤差が生じるがそのようなものだと思ってもらいたい。
ただ触れただけではダメージ判定が起こることはないが、あや達の場合、るーじゅが“拳”をあやに振り下ろしている。
システムはこの状況を『るーじゅからあやへの攻撃』と判断し、ダメージ計算を行う。
なので--
「えぇ⁉︎何⁉︎ちょっーー」
「へ?ってあやーー⁉︎」
あやは白い粒子になって消えた。
『プレイヤー【あやピコ】が死亡しました。15秒後リスポーンします』
虚空にそんなインフォが響くが、るーじゅの耳には届かなかった。
「あやーーー!ゴメーーン!!」
あやが何であんなステータスにしたのかは次回!