運営①
で、電池が
あやや他のプレイヤーがいるフィールドの遥か上空。
《Utopia Online》の心臓部にして運営陣であるゲーム会社《ユートピアゲームズUO支部》がそこにはあった。
この《ユートピアゲームズ》の社長は『理想郷』という言葉に強いこだわりを抱いており、「万人にとっての、そして私にとっての理想郷であれ」という願いを込めてこのゲームを作ったのだ。まぁ、半分は趣味であるが。
サービス開始当日ということもあり、運営のスタッフは忙しなく働いている。
「サービス開始当日で現在約2万5000人……《バーチャルギア》の当選者は3万人だったから、もう8割は終わったな?」
フードを被り、首にヘッドホンを掛け、角の生えた悪魔が隣にいる白いスーツに身を包んだ天使に話しかける。
「ですね。とりあえず最初の山は乗り切ったと言えるでしょう。今のところ目立ったバグもありませんし……」
「いや、こことかちょっと考え直す必要あるんじゃないっすか?」
二人の後ろにいた、豪華な装飾のされた一本の大剣が話しかけてくる。
ここは運営陣と言ってもゲームの中である。なのでスタッフは各々好きなアバターで作業をしている。
見ればエルフにドラゴン、骸骨、炎の塊、鎧武者……。
様々な人ならざるものがパソコンに似た機材に向かって働く姿はなかなかシュールである。
「?何か問題でも?」
「この【あやピコ】ってプレイヤーがっすよ、サービス開始2分でキルされちゃってるんっす」
「そんなにモンスターと戦いたかった好戦的なプレイヤーだったのか?いや待て、キルされた?」
「そーなんっすよ。【ファース】でβ時代のトッププレイヤーの【るーじゅ】にキルされちゃったんっす。まぁ、この【あやピコ】さんにも問題が無かった訳では無いっすけど……」
「素行が悪いプレイヤーだったんですか?」
彼ら運営陣にとって、バグは見つかると厄介だが、時間と人員をつぎ込めば比較的簡単に対処できる。
しかし悪質なプレイヤーは別だ。まだ情状酌量の余地があるプレイヤーには軽い注意で済むが、余りにも目の余るプレイヤーは利用停止してもらう必要がある。
そして、相手はアバターの姿でも人なので、単純なシステムを修理するとは比べ物にならないほど精神をすり減らす。
β時代にそういうプレイヤーが何人もいた為、思わず悪魔と天使は眉を挟める。
「いやそう言うじゃなくて……とりあえずこれ彼女の初期設定っす。多分見てもらったら言いたい事分かると思うっす」
大剣は虚空から取り出した一枚の書類を悪魔と天使に渡す。
「なになに……プレイヤー名【あやピコ】……HPは1!?」
「しかも見事に《生産系スキル》と《Unknown》ばっかですね……この人まともにプレイできるんでしょうか?」
「あ、ちなみに彼女キルしちゃった【るーじゅ】とは別に仲が悪いって感じはしなかったっすよ。リア友って感じだったっす。でも【ファース】で即死はちょっと考え直した方がいいかなぁと思ったから……」
「【あやピコ】さんはとっても面白い人だよ」
三人の会話に参加してきたのは、白と黒を基調にした軍服に、頭部が白くて丸い「UoU」と書かれた球体に翼の生えた異形。
「あ、ゆーさん」
「やあ、【かりばー】。それに【サタ】に【瓜エル】」
彼こそが「ゆーさん」の名で親しまれている《Utopia Online》開発責任者にして、《ユートピアゲームズ》社長の【Lord Utopia】である。
「確かにネタ枠といえば面白いかもしれませんが……」
「あなたのロマンを詰め込んだ《Unknown》を5つ以上持っていますが、HP1では成長する前にキャラを作り直してしまうのでは?」
「いやね、僕も自分に周ってきた仕事終わらせてから下の状況眺めてたんだけどさ〜……彼女、超おもしろいよ」
「何で【あやピコ】を注目してたんですか?」
「見た目がもろタイプだった。僕があと10歳若かったら告ってた」
「「「……」」」
突然の上司の性癖暴露に黙り込んでしまう三人。
「冗談、冗談……。半分くらいは」
「半分本気だったんっすか……」
「それで?もう半分は?」
「ん?う〜ん……」
悪魔……【サタ】に聞かれて【Lord Utopia】はわざとらしく首を捻り、そして【サタ】にピシッと人差し指を向けた。
「彼女HP1にしてたおかげでもう{不屈}と{死に急ぎ}取ってる」
「えっ!?サービス開始当日で!?まだ2時間なのに!?」
「{死に急ぎ}取るプレイヤー居たんすか!?それだけで半分奇跡みたいなもんじゃないっすか!?」
「一体何と戦ったらそんなに……」
「いや彼女戦闘じゃなくて生産活動で。だから《魂心クオリティ》システムも解放されちゃったし」
「「「ハァ!?」」」
慌ててあやのログを見直す三人。
彼らはすべてのプレイヤーが立ち寄る【ファース】とその周囲にのみ目を向けていたため、気付くのにが遅れたのだ。
「いやエグいエグい……釣り竿作るだけで100回以上死ぬとか……」
「しかも作ったのが【あやピコの執念のボロ竿】って……ただの【木の棒】がなんでこんなことに……」
「素材の影響で品質は低いがそれでも破格の性能だ……何で{捕食吸収}が?」
「ねっ、ねっ。おもしろいでしょう?それにこれ見て」
【Lord Utopia】がどこからかタブレット端末のようなものを取り出した。そこに映っていたのは、
『これ絶対……釣りって言わない!』
初めて{釣り}をしたあやの映像だった。
「可愛くない?」
「可愛い」
「抱きしめたい」
「結婚したい」
彼らもきちんとオタクの端くれだった。
だが無理もあるまい。
ほっぺぷんぷん。ちょっと涙目。
クリティカルヒットも当然だ。
「とりあえず彼女の動向は注目だよ」
「確かに。それに彼女なら……」
「伝説の《魔王》に……」
「可能性は大っすね」
そう言いながら仕事に戻っていった。
「さて僕も用意しようかなぁ……《ユニークスキル》をさ」
そう言って【Lord Utopia】も己の席に戻って行った。
もう無い!




