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金切り声がした。発狂した猿が机の上を暴れまわっている。間の抜けた顔の店員、多分バイトはそれをぼんやりと見ている。店主が奥から出てくる。やばいなと思う。今のうちにここから抜け出せないものかと思う。机の下に人が入れるくらいの穴があった。ここから飛び降りようと思った。そんなに大きい穴なのか。わからないけど落下したい気分だった。酔っ払っていた。夢かもしれないと思っていた。嘘だ。頭は全然冴えていた。冴えたまま私も発狂しているのかもしれなかった。視界が揺れる。超常現象が起こる。私は滑り込む。巨大な穴の中に。冒険の始まりだ。吐き気を催している。いまだかつて味わったことのない浮遊感で。尿意も催している。ビールは最初の一杯しか飲んでいないのに。ここでまきちらしても問題なかろう。完全におねしょの夢だが。ロマンに下品は付きものだろう。壮大な物語には最も残酷な結末が用意されている。私の身の丈にあった穴の中身はなんだろう。飛び込め、さあ飛び込め。私に続いてどんどん飛び込め。逆・蜘蛛の糸。お釈迦様もびっくり。亡者の群れが頭上に大きな影になっていて、これに追いつかれたら一溜まりもないだろうと考えると思わず吐いた。吐瀉物は空高く舞い上がり一面に咲き誇る満開の桜。そして桜吹雪。美しいときは儚い。盛者必衰の理をあらわす。そろそろどこかに着いてもいい頃だろうか。風の抵抗が強くて涙が出てきた。ついでに鼻水も出てきてるから体液の漏洩がまじで止まらなくなっている。私このまま死ぬのかな、みたいな考えも浮かんでは結果なかなか死なないため消えていく。さようなら。さようなら、と唱えてからどれくらい経っただろう。さようならのバリエーションもあばよとかさらばとかいつか別れると分かっててどうして人は人に怒ることができるんだろうとか許さないなんてことができるんだろうとか、今までの人生を後悔し始めたものだから、こんなつもりじゃなかった。こんなつもりで私は穴に飛び込んだんじゃない。新しい自分になる。OR DEATH くらいの気持ちで飛び込んだんだ。決して成り行きではないのだ。後悔はしてないのだ。いずれ楽になるのだ。立派なお侍様になるまで帰らないのだ。あるいは売れてビッグなミュージシャンになって夜毎日毎の贅沢三昧酒池肉林。




