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大英雄の代理転生した幼女は研究がしたい  作者: 五色の虹
第一章
10/30

05話 魔術決闘Ⅰ-1 【1/2】

 魔術学園の生徒は魔術スペルの使用について規約がある。それは、生徒が魔術スペル騒動そうどうや悪用などの問題を起こさせないためである。そのこともあり、生徒が魔術スペルを使える場所は限られている。

 その中で、心置きなく使える場所の1つが“闘技場とうぎじょう”である。


 闘技場――大きさは長さ211メートル、幅186メートル、高さが40メートルある。収容人数は最大で約3万人。円形の闘技場は、大空から見ればむき出しなのだ。構造はレンガと火山灰を利用したコンクリートで建つ。鉄骨は用いていないが、円筒型の設計のため強度は安心して良い。

 戦場は長さ73メートル、幅62メートルの楕円形をしている。観客席は高さ5メートルから35メートルまで階段で通行が可能だ。樹木の断面のように均等な間隔で席が広がっていく。

 建物の外側には、所々に曲線形状の通り穴が開いている。設計者のちょっとしたオシャレというとこであろう。単純なアーチとは違い、見た時に味わいを感じさせてくれる。

 闘技場内の一部には歴戦の戦士たちの石像が天目がけ、威風堂堂いふうどうどう佇立ちょりつしている。

 地球の西洋の古代競技場に類似する点も多いのは、一先ず置いておこう。

 そんな闘技場は、広大な学園内の一角にある。誰でも利用できる魔術戦闘と娯楽を兼用けんようするため、建設された施設とされる。


 シュクは綿のように柔らかく、小さいお尻を客席に乗せていた。硬く冷たい石造りなので、数分おきにお尻の位置を変え、痛みを緩和している。

 幼女の視界に入る限り、300人を超える人間が中央地に注目していた。話を聞きつけてきたのであろう見物客は、学園の生徒が多く、その次に大人の男性が多い。数名だが、甲冑を身にまとった人間たちもいる。

 闘技場は広く、反対側の客席に座る人々の顔は小さく認識するのが難しいほどだ。

 シュクは穏やかな日の光を浴びながら、じっとしている。周りには、数十名の人たち。大声で盛り上がる親父たちや、微笑ましい母と子。年齢の幅が広く皆、娯楽のような雰囲気をかもし出している。


 シュクは横目で1人の子供を確認すると、口を開いた。


 「許可を得ずに店をやったのが発端ほったんで、こんな大事おおごとになっているが」

 と、小動物のように可愛らしく悔悟する子供に話す。たまたま同列に居合わせたのは、今回の騒動の原因となった少年だった。

 ゆるやかに顔を向けると、少年は不服ふふくな表情へと変化した。


 「うるさい!」と吠えた。子供が親の言うことを受け入れたくない、そんな威勢の良さだ。すると、話しかけてきた少女に対し、「お前は何者なんだ?」という気持ちを犇犇ひしひしとさせている。

 じーと睨みつけ、

 「同年齢のお前に何がわかるんだ」

 と、口に出さずとも顔に書いてある。少年はぷいっと首を背けると、素っ気ない口調で話す。


 「そんなの、そんなのわかってる。でも、お金が早く欲しかったんだ。‥‥‥妹のために」


 兄妹思いの優しい兄という印象を強く感じさせる。

 この少年の意思に感銘を受ける大人だって多いかもしれない。しかし、感銘を受ける人間はこの世界では極めて少ない。裕福だからこそ、心に余裕が生まれ、相手を思いやれる。

 都市アルヴァードに住む人間たちの4分の1は貧困層であり、自身の周りを養うだけで精一杯なのだ。そんなに人間たちは、他人の生活に関与することすら避けるであろう。

 アルヴァードの貧困率は回復の傾向に向かっている。悲劇的な都市だって存在する。この都市で貧困な子供に優しくするのは、学園の生徒と一部の大人くらいであろう。


 シュクは最前列から戦場にいる2人の様子を眺めていた。


 「そういう理由か」

 「悪いか!?」


 少年は噛みつく勢いで大声を出した。シュクは無表情のまま反応をしないで、「そうか」とだけ口にする。

 それからの会話はなくなった。闘技場全体は賑わい、今か今かと楽しみにしている。


 戦場で向かい合って立つ、美少女と黒服の男。

 シュクは、健気な少女に視線を送っている。

 [それにしても、厄介事やっかいごとに巻き込まれてばかりだな、ラーミアルは]

 と、一緒にいた数時間の濃厚さに呆気に取られるが、これも悪くない。そんな気分なのだ。


 数分が経ち、決闘が始まる時、少年は席から立ち上がった。


 「お姉ちゃん、頑張って!」


 子犬のように軽快に鳴いた。その瞬間、合図が叫ばれ、闘技場は盛大に歓声により震え上がった。

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