死なない蝉
俺は蝉。
セミっていうのは、自分の生涯のほとんどを地下で過ごし、地上に出てきてから数週間で子孫を残して死んでいく。
だけれど、俺は他のセミとは違う。
不老不死ってやつだ。
なんでも人間様が遺伝子組み換えっていう技術を使って他の生物の遺伝子を俺に与えたみたいだ。冬場の寒さも感じず、擬態を身につけていたので外敵に狙われることもなかった。
最初の夏は周りのセミが死ぬのをただ木から見下ろした。
冬の間に人間様の死者を弔う儀式を覚えた。
次の夏から死んだセミ達に木の枝で「墓」ってやつを作った。
その年の冬、人間様が死んだ猫を土に埋葬して墓を作っているのを見て、また次の年からセミ以外の生物でも死に絶えていたら土に埋蔵し墓を作った。
何年も経つうちに普通のセミでは理解出来ない事も理解できるようになった。
幸か不幸か感情ってやつが俺の中で芽生えた。
普通のセミは子供の顔も見ずに死んでいくが俺は子供も孫もひ孫の顔も見ることができた。だけれど、子供が親より先に死ぬのはなんとも悲痛だった。
俺はそれが辛くて鳴くのをやめた。(メスに自分の場所をアピールするのをやめた)
感情を持ったせいか俺は大きな孤独を感じた。
真っ暗な部屋に一人で光を探しているような。
俺はある夏、光を見つけた。
今考えてみれば見つけたというよりは誘導されただけのことだった。
今年はこの地区のセミ全員で冬を乗り越えようと考えた。
全員の力を合わせれば可能だと思い、地区のセミに協力を仰いで冬を乗り越えることにした。
結果は俺以外全員死んだ。
なんでも、近年セミは人間様の身体に害を与える病原体を媒介する生き物として政府が最優先で駆除するように取り決められていたらしい。
その効果的な方法が俺だった。
人間様は俺が感情を持ち孤独から抜け出そうとすることを最初からわかっていたのだ。
「感情を持つことも残酷だな」
厳重な防護服を身につけた人間様の手のひらで朦朧としながら俺は思った。