たった一人の冒険者パーティ()
「……よし! これなら、一人でも戦える……今に見てろよ、あいつら」
とある森林の奥地。山の麓で滝に打たれていた青年が、勢い良く叫んで立ち上がった。ばしゃばしゃと水を掻き分けて川岸に上がり、傍に置いてあったタオルで身体を拭う。
それから旅装へと着替え、愛剣を背負い、魔道具と治癒杖を両サイドの腰へ吊るし、頑丈な皮製鞄を肩に掛けた。
王国冒険者ギルド所属、『元』ノービスクワイヤパーティ、剣士オウル。
所属していたパーティから追放され、絶賛怒りの武者修行中であった。
「――あの。本当によろしいのですか、オウル様?」
「構わない。俺一人でもパーティは組めるんだろ?」
「それはその、ええ、まあ……一人でも冒険者パーティを組むことは出来ますけど。オウル様、よろしければギルドで他の」
「いや、いらない。それじゃその書類でよろしく頼むよ」
王国王都中心部商業街冒険者ギルド一階受付。
剣士オウルは新しく所属するパーティ『俺の俺による俺だけの俺パーティ』に参加するたった一人の冒険者だ。『俺の俺による俺だけの俺パーティ』に参加している冒険者はただ一人、それは剣士オウル。
凄腕の剣術を持ちながらに中級までの魔術を会得し、更には特殊スキル、治癒術まで身に付けている冒険者であった。
そんな彼が何故パーティを追放されたのか――それは二ヶ月ほど前に遡る。
『お前には、もっといいパーティがあるよ』
当時パーティリーダーであった剣士ランドルフからの追放宣言は、討伐依頼をこなした日の夜、王都の酒場にて唐突に宣告された。
――俺にパーティを抜けろと――?
最初、オウルには彼が何を言っているのかが分からなかった。しかしランドルフ以外の面々も皆一様に首を縦に振り、『君は我々と共にするには些か役不足だな』と戦術家の弓使いアルコーが言い、『うん、オウルならもっともっと強いパーティでやっていけるよ』と魔術師兼治癒術士のセシリアにも言われ、オウルだけが取り残されてしまったのだ。
――その日、オウルは冒険者パーティ『ノービスクワイヤ』から脱退した。
オウルは失意のあまりに三人にどう返事をすることも出来ず、面々は解散し――そして、二ヶ月間もの時が過ぎてしまったのだ。
あまりの理不尽と唐突さにオウルは今でも怒りを収められずにいた。
あの野郎共は一体何をしているのかと――ギルド内をずんずん歩いて目的地へと向かう。オウルが目指すのはギルドの端、各種依頼が貼られている依頼掲示板である。
「まあ、いいさ。勝手に死んでたり解散したりしてたらざまぁみろ、俺を追放するからそうなるんだ……ぶつぶつ、ああ苛々してきた……」
オウルはあのパーティを見返してやるつもりだった。
何が他のパーティでやっていけるだ、体の良い台詞で追放したのは事実じゃないか。絶対に見返して、全員に土下座させてやる――。その上でこう言ってやるのだ。
「俺はいらない奴だって? 違うね、お前らがいらないのは俺の方だ」
と。
オウルは掲示板を隅から隅まで閲覧し、一枚の依頼を凝視した。
【依頼者:北炭鉱町の町長】
頼むよ、助けてくれ! 炭鉱の中に黒くてでっかいドラゴンが突っ込んで来て、中を暴れまわってやがるんだ。作業してた炭鉱夫も皆大怪我しちまってよ、しかもドラゴンが奥から出てこねぇもんだから何にもできやしねぇ。若い連中で討伐隊を組んだものの、全員瀕死で帰ってくる始末だ。これじゃ仕事もできねぇし、何より町にいるだけで住民が不安になってる、いつ襲われるか分からない夜を越えるのは避けたい。
もう頼めるのは冒険者のあんたらしかいないんだ。お願いだ、なんとかして倒してくれないか?
「――ふむ。これだ、やろう」
掲示板へと貼り出されたのは今朝。報酬は五千ガルに加えて討伐対象の死体。ドラゴンで黒色と言えば希少種だ、これを倒して報酬金と合わせば結構な額になるはずだろう。
難易度は危険度の高い赤を指し示していたが――今ならやれる。
「早速、この依頼を受けさせてくれ」
「こ、これは……! 大丈夫なんですか?」
「問題ない。別にこの程度だったら一人で十分だろ。他に受けてるパーティもいないんだろ?」
「で、ですが……分かりました」
「これから俺が北炭鉱町へ向かうとすぐに町長へ伝えてくれ」
オウルは即座に依頼を受注すると、ドラゴン退治に向けて装備品を整えていく。
黒竜と言えば火山地帯に生息する魔物だ。
強力な火炎ブレスが最も脅威だが、過酷な環境を生き延びてきた爪や牙も強靭で侮れない。オウルは耐熱服に加えて炎熱耐性を帯びたプレートアーマーを購入し、防御類の魔道具を幾つか鞄に詰め込む。炎に目をやられない為に、目元を覆う魔導グラスも購入した。
それから炭鉱内となると、炭鉱自体を崩落させかねない魔術類は使えない。
なので攻撃用の魔導具及び大規模魔術の補助武器である『魔導書』は自室の倉庫へ仕舞う。代わりに手にしたのは腰に巻く魔力灯や強化系統の魔道具だ。巨体を剣一本で切り崩すには技量だけではなく直接的な切れ味や威力も必要になるため、剣士がドラゴン退治をするのに強化魔道具は欠かせない。
各種回復アイテムも備えると、オウルは最後に即席魔術印を用意する。これはドラゴンブレスの威力を軽減させるためのスクロールであり、魔術詠唱する時間を短縮させるためだ。少々値は張るが、報酬があればお釣りが来る。
それらの準備を一通り済ませ、オウルは早速町へと旅立った。
町までは徒歩ではなく、商業組合が定期的に運行している寄り合い馬車へと乗せて貰う。冒険者で剣士であることを指し示し、依頼のことを伝えればその間の用心棒として乗せてくれる為、無料で乗ることが出来るのだ。
「――君が、一人でやるというのか?」
町長の家へと入ると、荘厳な髭面の男が開口一番そう言った。
「ああ、そうさ。俺は一人で四人分のパーティだからな。んじゃ、今から退治しに行くけど」
「ま、待て本当に倒せるのか? 中途半端に刺激されちゃこっちだって困るんだ」
「大丈夫だ。黒竜っていったら確かに強い魔物だけど、倒せないこともないからな」
「本当に倒せるならいいんだが……」
町長は含むように言って、
「だが討伐は少し待って貰いたい」
そう、続けた。
「なんでだ? 急いだほうがいいんじゃなかったか?」
「君以外にも別のパーティが受注しているんだ。ちょうど、君が受けてくれた後すぐにな。だから君にはそのパーティと合流して貰って、合同で討伐して――」
「……は? なんでそんなことを……二重契約だぞ? 俺に話を通さず勝手にしたのか?」
「もう出立してしまったと聞いたのだ、話せる暇などなかった。それにちゃんと報酬金は全額払う、ドラゴンは各パーティで分けて貰うことになろうが――これは緊急を要するのだ。すまないが、承諾して欲しい」
オウルは町長の言葉に押し黙ると、小さくこう問う。
「……分かった。でも、一つだけ聞かせてくれ。そのパーティはなんて名称だ?」
「ああ、そうだな、連携を取って貰うためにも、君には最初に知って貰った方がいいだろう。パーティ名は『ノービスクワイヤ』だ」
◇
オウルは炭鉱内を『一人で』探索していた。沸いて出る怒りが大きな足音となって炭鉱内に響いている。ダンジョンではないため、罠や仕掛けに対して気を配る必要はないのだが、それでもオウルは冷静さを欠いていた。
「なんでよりにもよって『ノービスクワイヤ』の奴らなんだ……? さては、俺の依頼を――横取りする気だな」
中でもリーダーのランドルフは剣士だ。同じく剣士をメインにしていたオウルを昔から毛嫌いしていて、ソロでの活躍でさえも横取りしようとしているのかもしれない。
きっとそうに違いない。他の連中だってそうだ、別にオウル一人で代用だって出来た。それだけの研鑽を積んできたのだから――そんなオウルを内心嫌っていたに違いないのだ。
だから追放した。
けれどそれ以上は――。ぎゅり、と強く拳が握り締められる。叩きつけるような勢いで炭鉱内の地面を踏み付け、オウルは奥へ突き進む。
『――いいや、一人で行く。どこぞの馬の骨とも知らないパーティと連携を組んでも逆に足手まといだ』
『ま、待ってくれ。もうすぐに到着するんだぞ!』
『だから尚更待つ必要はないと言っているんだ、俺が先行し後に救援に回す形でいいだろそれに、いつドラゴンが出てくるかも分からないんだろ? なら討伐は早い方がいい、住民のためにも』
町長とのやり取りが脳裏で反芻されていく。
虫唾が走るやり取りだった。『ノービスクワイヤ』の事もあるが、本当は住民のことなど考えていないのにそんな台詞を吐いてしまった自分に怒りが沸く。
町長はアレで黙ったのだ。言い返せるわけがない、そんなことを言われては。
歩く速度が早くなる。ともあれ、もたもたしていたらあのパーティに先を越されてしまうのだ。
「酷い荒れ様だな……この辺り、か」
進むにつれて、炭鉱内の景色は酷い有様になっていた。壁に設置された魔力灯やトロッコのレールは無残に破壊され、堀り出した鉱石が周囲に散乱している。簡易で造られた階段、機材、それら全てが台無しだ。そして奥に行けば行くほど、灯りはなくなり暗闇になっていった。
魔力灯を持って来てよかった、とオウルは思う。当然ではあるが、暴れているということは炭鉱内の設備を当てにはできないことが最初から分かっていたからだ。
「この荒れ方……鉱石を食ってやがるな、黒竜は」
正確には食べるのではなく、鉱石を食べて排出することで身体の調子を清潔に保っているそうだ。この周囲の火山に生息するドラゴンの色が黒いのは、その食べる鉱石が原因らしい。他地域の火山で生息しているドラゴンはまた色が違ったりするようだ。
「一番やばいのは……どれだけ食ったか、だな」
何より厄介なのは、鉱石に篭った魔力は巨体に蓄えてしまうことだ。
この炭鉱でどれだけの魔力を蓄えたのかは分からないが――相当、苦戦を覚悟しなければならない。魔力は徐々に排出されるものだが、一度に魔力を蓄え続けた場合は話が別なのだから。
「……いた」
自然、いつの間にか息を殺して歩んでいたオウルは、壁に隠れるように静止した。
一度魔力灯の灯りを消し、頭だけを横から出して暗がりを窺う。
そこに眠っているのは、特大の黒竜だ。大きな翼を背中に畳み、ぐるぐると唸るような寝息を立てている。
「……近づけば即座に気付かれるか」
人間の何倍も巨大な体躯。
滅多な事では傷すら付かない頑丈な外皮。
それだけ強固な装甲を持った上で、ドラゴンの警戒心はとびきり高い。
オウルが少しでもドラゴンの射程圏内へ踏み入った瞬間には暴れ出すであろう。己の巣で眠る時とは違って、あの眠りはそういった警戒を弱めていない浅い眠りだ。人のテリトリーである炭鉱を荒らしている、ドラゴンは十分にそれを理解しているのだろう。
――ならば、とオウルは鞄を開いた。
取り出したのは強化魔導具。背中の剣をゆっくりと引き抜いたオウルは、魔道具に魔力を込めて剣にエンチャントを施していく。
斬撃強化、耐久強化、竜の動きを鈍くする為雷属性を付与。
そしてオウルは武器を片手に構えて、すう、と深呼吸を行う。
「見てやがれ……これが、俺が一人でいいと言った理由だよ――」
魔力がオウルに集う。ごう、と空間の魔力濃度が密度を増して、とうとうドラゴンが目を開けた。
――瞬間。
四人に増えたオウルが、隊列を組んでドラゴンに刃を突きつけていた。
「覚える為にどれだけの苦労と時間を要したか……まあそれで二ヶ月なんだけど。特殊スキル《分け身の型》、とくと味わえ」
攻撃役。剣を正眼に構え、中心にてドラゴンを睨み付けるオウル。
防御役。無手で隊列の最前列に陣取るオウル。
回復役。後方にて治癒杖を構え、魔力灯を点けるオウル。
支援役。魔道具とスクロール広げるオウル。
ドラゴンの咆哮と同時、それぞれの役割に振り分けられたオウルが散開した。
防御役のオウルが真っ先にドラゴンへ肉薄する。相手の気を引き攻撃を一手に引き受ける盾役のかく乱。鼻先をちょこまかと動き回るオウルを薙ぎ払わんとドラゴンが前足の剛爪を右袈裟に振るってくる。
「《防御》《反転》《軽減》!」
そこを支援役のオウルが攻撃位置に魔術を付与し、防御役のオウルが無理なくドラゴンの爪を下方へ受け流した。
勢いを逆方向へ流されて体勢を崩したドラゴンの頭部へ剣が牙を剥いた。
一歩目、剣を左へ引き、二歩目で鼻先へ間合いを詰めると――右に一閃。
「――!?」
がぎり、首を狙った斬撃が左前足の爪でずらされた。刃は僅かに爪表面を削ぎながら大きく右へ空を切る。
――防がれた!
振り切ってしまったオウルの隙をドラゴンは逃がさず、大顎をがばりと開く。鋭い牙が魔力灯にぬらりと照った――鉱石をも砕く牙だ、あんなものに挟まれれば、一撃で命は消し飛んでしまう。
「《俊敏》」
「……うぉおおおぉお!」
「あぁああああああ!」
支援役の強化により防御役が下顎を右拳で打ち上げ、攻撃役が無理矢理右足を踏み込み剣を手放して大きく左へ飛ぶことで回避、回復役が拾い上げた剣を投げて受け取った。
その間にドラゴンは次の攻撃準備へと移っていた。
唸る咆哮、防御役を正面に捉えたブレスが喉奥から吐き出される。予備動作の少ないドラゴンブレスに防御役の対処は間に合わない――しかし、そもそも『ブレスは普通に撃たせた』時点で敗北だ。
炭鉱が崩れるのを危惧して大魔法を禁じているのだから、大規模破壊を齎しかねないブレス対策は戦闘が始まる前に終了している。
支援役が起動したスクロールが輝き、ブレスの威力を相殺するための魔力撃が真っ向からブレスと衝突。
「《防御》《反転》《軽減》」
同じ術式を防御役へ掛け、真正面からブレスを対処する。耐熱素材の上から肌を焼く魔力の炎を治癒し続け、剣を構え直した攻撃役が剣を上段に構えた。
「《斬撃強化》《重力強化》《腕力強化》」
魔力剤を飲み続ける支援役が多重エンチャントを付与し、唐竹割りがドラゴンの眉間を捉えた。この一撃で、切り落と――。
『―――――――!!!!!!!!!!!!!』
その時だった。魔力を込めた咆哮をドラゴンが放ったのは。
眉間を切り裂いた刃が頭蓋骨を切断する前に、攻撃役ごと大きく弾かれてしまう。
ブレスを真正面から防ぐ防御役は後方へ吹き飛ぶ。
それを即座に治癒し――だが、距離を離していた回復役支援役共に無傷では済んでいなかった。咆哮の余波は、強化を受けていない肉体に確実な傷を刻み込んでいる。
遅れて治癒を開始するものの、分身四人分の負担は尋常ではなかった。
身を分けるスキルというのは言葉通り『自分を増やす』スキルだが、本体が存在するわけではない。全てがオウル本体であり、全てがオウルの意識を備えた本物である。利点は多いが受けるダメージも四倍。
元々長期戦に向かない上、想定外のドラゴンの反撃に四人のオウルが膝を折った。
「だが、まだだ――!」
勝機がなくなったわけではない。
支援魔術で無理矢理前衛を立ち上がらせ、治癒術で肉体を急速に回復させていく。
「まだ――」
剣を正眼に構え直す。咆哮を終えたドラゴンは、オウルをぎょろりと凝視した。
再び口が開かれ、その口が――。
強烈な『重力』によって閉ざされた。怯んだドラゴンの鼻と眼球に幾つもの矢が突き刺さる。
「今だ!」
「っしゃああぁああ! 『破斬剣』んん!」
オウルの横から飛び出した影が、巨大な大剣を振り降ろす。
「合せるよランドルフ――《竜殺》《斬撃強化》《魔人斬》!」
その大剣が輝くと、裂かれたドラゴンの眉間へ叩き込まれた。ばぎゃりと骨の砕ける音色が鳴り、ドラゴンが悲痛な呻きを洩らす。
足りない。だが、それでは、ドラゴンは死なない。
オウルは半ば反射的にありったけの強化を剣へと施し、分身を一つに戻して――ドラゴンの巨大な眼球へ、突き込んだ。
――ドラゴンの死体を前に、オウルは傷だらけの身体を治癒していた。
頭蓋骨を縦に割られ、二つの眼球を脳味噌ごと刺し貫かれたドラゴンに先程までの威圧の面影はない。そのドラゴンを背に息を荒げるオウルへ、声が掛けられた。
「なんで一人で戦ってたの? 危なかったんだよ?」
抑揚のない声。それはオウルを非難するようなセシリアの声だった。
「お前らこそ、なんで来たんだよ……」
「そりゃ俺達の目の前であんな危険度の依頼一人で受けてんの見たら、気になるだろ」
悪態を吐くオウルの前に、ランドルフは大剣を血振りながらそう言った。
「……な、アレを見て」
「でなければ我々も来ないだろう。全く、二ヶ月間も何をやっていたというのだ?」
「――は?」
更に追撃が如くアルコーの呆れた言葉が飛んできて、オウルは思考が追いつかなくなった。
「っは、ははは……なんだよ、じゃあ、お前ら三人は、俺を馬鹿にしにきたんだな? そうなんだろ? お前じゃ何もできねぇって笑いに来たんだろ?」
しん――誰からも返事はなかった。
炭鉱内が静まり返る。三人共々が意味不明そうな表情をオウルに向け、それから各々が顔を見合わせて、そして首を傾げた。
こいつは何を言っているのだろうか。そう言わんばかりのとぼけた顔つきだった。
「……えっと、オウル? ごめん、私オウルが何言ってるのか分からないけど、馬鹿にしようだなんて思ってないよ?」
「大体なんで一人で雲隠れして一人で依頼しにきたのかって話だぜ」
「?????????????????」
「突然に我々のパーティを抜け出したかと思えば、随分とヘンテコなパーティを作っていたようだが……あ」
そこで何かに気が付いたようにアルコーがはっとした顔になる。そうしてランドルフとセシリアにジェスチャーをした。
ビールをぐいっと煽るような仕草だ。その瞬間に二人も察したのか、同じように「あ」と呟いてオウルを見やる。
「もしかして、お前あの時全く喋らなかったのって」
「パーティを追い出されたって勘違いしちゃった――って、ことだよね? 違うの! そんなつもりじゃなくてね!」
「えっ」
かくして依頼は終了。
放心したオウルを三人が連れ帰った為、報酬は『ノービスクワイヤ』へのみ支払われることになったのだった。
◇
「――次から気をつけて下さいね。今回はこの『俺の俺による俺だけの俺パーティ』は」
「やめてぇえええええフルネームで言わないでぇえええ!」
「解散として処理しますが――」
王国冒険者ギルド一階受付。
ノービススクワイヤの面々と再加入したオウルを冷ややかな目で睨みながら、ギルド員の女性はそう忠告をしてきた。
――そう、確かにオウルは頭一つ抜けてパーティの中では強かったが、決して他の三人はオウルを邪険に思っていたわけではなかったのだ。酒が入っていたこともあってか配慮のない言葉ではあったが、確かに三人はオウルを素直に褒めていた。それを勘違いして、オウルが離反してしまったのである。
そして。誤解が解けたオウルがまず全員に土下座をし、三人もオウルに謝ることで勘違いから始まる追放劇は幕を終えたのだった。
「それにしてもあのパーティどうしたんだよ、『リーダー』オウル『剣士オウル』『魔術士オウル』『治癒術士』オウルって! 確かに出来るけど! 出来るけどさあ!」
「登録だけは出来るが、やろうと思って実行に移す奴はそうはいないだろう」
「やめてぇえぇええええええええええええ!」
その夜、酒場でオウルは酒を一気飲みしまくっていた。色々と忘れるためだったのだが、テンションがハイになっておかしなことになっている。その状態のオウルを突きまくるランドルフを窘めつつ「でも」とセシリアは言った。
「凄いよね、一人で四人役だなんて……やろうと思ってできちゃうのがオウルなんだから」
「ならいっそ『俺のなんとかなんとかパーティ』で一人でやれてたんじゃね? ぎゃははははは!」
「ちょ、待て――ランドルフ、それは地雷」
「ふ、ふふふ……ああ、そうさ、俺は一人……ふふ……」
――今日一日が終わり、長い夜は更けていく。
――ともあれ、こうしてオウルの一人パーティは短い終焉を迎えるのであった。
彼らの旅はまだまだ、続きそうだ。
~fin~
流れに任せて書いてたけどどう考えても追放オチにできそうではなくなり、まあこれはこれで平和でいいやと思ったので急遽没ネタ
――依頼が終わった後のギルド。再びオウルをパーティに加えようとしていたこと三人だったが、そこで予想外の事態が発生してしまった。
ギルド員「『ノービスクワイヤ』の皆さん、募集していた新人の方がお見えですよ」
新人「あの……どうも。抜けている穴埋めを募集とのことで、よろしくお願いします!」
ギルド員「良かったですね。一パーティは四人までとギルドで定められていまして、丁度この方達が最後の募集パーティだったのですよ」
三人「あっ」
オウル「……えっ」
ランドルフ「あ、ごめん、人数が……悪い、オウル、パーティはその、あれで」
セシリア「これで新人さん断るの、可哀想だよね……流石に」
アルコー「ああそうだな。オウルにはオウルとオウルとオウルが付いている、彼は四人いることだし大丈夫だろう」
オウル×4「ぐわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」