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第9話:招かれざる客の招き方

 ペルーシュ達を引き連れ、俺は廃都アドミラルへと帰還した。


 俺が殿(しんがり)でエルフ集団を護衛し、道中は彼女達に歩いてもらった。

 ヘロヘロの状態で十数キロ歩くのは相当しんどいだろうが仕方がない。


 背中に乗せて飛んでいけば一瞬なのだが、なにせ三十人くらいいるし、俺は自分の力がいまいち制御できない。「落っことしちゃったZE♪」では済まない。


 地上百メートルの高さから空中に放り出されたら人間は死ぬ。

 エルフも多分死ぬ。

 あと俺の背に乗ってるのを見たサキがブチ切れて殺す可能性があり、断言出来るが絶対死ぬ。


 少しでも急いだ方がいいと思い、疲れた体に鞭打って歩いてもらった結果、真夜中に出発し、アドミラルに到着したのは太陽が昇る頃だった。


「あれが帝王竜様の住処……」


 ペルーシュがぽつりと呟く。その声はどこか浮ついているようにも聞こえた

 確かに、廃都の周りは数十メートルの壁でぐるりと囲われていて、その巨大建造物が朝日に照らされて輝くのを見るのはなかなか壮観だった。エアーズロックとか見たらこんな気持ちになるんだろうか。


 俺、いつも内側か、空から飛んで入るから、こうして違った視点から見るとなかなか楽しいな。


「あの人影のようなものは?」


 ペルーシュが俺を見上げて尋ねる。均等に作られた壁の上に、豆粒ほどに見えるシルエットがあった。

 あんな場所にいる人型の存在は、俺の知る限り一人しかいない。

 そして、その人影はなんの躊躇(ためら)いもなく壁から飛び降り、平然と着地した。

 エルフ達がざわつく。そりゃそうだろう。


「おかえりなさいませ。ドヴェルグ様」


 人影――サキは、着地した際に付いたであろうコートの土を払い落した後、俺の前まで走り寄ってきて頭を垂れた。俺に挨拶をした直後、後ろに控えていたエルフ達に視線を移す。


「森の民よ。ここが帝王竜ドヴェルグ様の縄張りだと知って侵入したのですか?」


 サキの声は決して大きくは無いが、刺すような響きがある。

 エルフ達は完全にびびっている。ぶっちゃけ俺もちょっとびびっていた。


 特にエルフ達は、小柄な女の子が三十メートルの絶壁から飛び降りて着地するシーンを目の当たりにしている。

 俺は見慣れていたので何とも思わなったが、冷静に考えたらおかしい。


「そ、それは……知らなかったのです! ドヴェルグ様に教えていただき初めて気付いたのです。ですが、『私達も来い』と誘われたので……」

「本当ですか? 嘘を吐いていた場合、死ぬよりも凄惨な目にあわせる事も可能なのですよ」


 サキは平然とそう言い放つ。この子、好戦的ではないんだけど、基本的に迎撃システムらしいからなんかあったら武力行使に走りがちなんだよな。


 俺は速攻でフォローする事にした。


「本当だ。我がこの者たちを誘い入れたのだ。我らが領域に踏み入ったのも事情あっての事。だから、許してやってはくれまいか」

「……ドヴェルグ様がそう仰るのであれば、この者たちを許しましょう。さあ、どこへなりとも去りなさい」


 いやいや、命が惜しくば立ち去れみたいな事を言わないで欲しい。

 門の前まで連れて来て、じゃあ帰れはあんまりすぎる。


「サキよ、お前の考えも分からんでも無いが、この者たちをアドミラルへと入れてやってはもらえぬか?」

「帝王竜様の縄張りに!? このような弱弱しい種族を置くのですか!?」


 サキは珍しく素っ頓狂な声を上げた。千年くらいずっと二人きりだったからな。

 とはいえ、俺がいなくなった後、サキがひとりぼっちにならないようにお仲間だって必要だろう。

 今はちょっと馴れないかもしれないが、打ち解けてくれれば同じ女の子同士仲良くなれるのでは。

 大嫌いから始まる恋もあるって言うじゃない。知らんけど。


「我はそのためにこの者達を連れて来たのだ。とにかく、一度エルフ達を休ませてやろうと思う。サキよ、門を開けてはくれぬか?」


 とりあえず、こんなボロボロの状態のエルフをこれ以上付き合わせるのはかわいそうだ。

 空中から入ると対空バリアでエルフは間違いなく消し炭になるから、サキに門を開けてもらうしかない。


 サキはしぶしぶと言った感じで、門の方に手をかざす。


 すると、サキの手の平から蛍の光のような燐光が発せられ、あのクソ頑丈な鋼鉄の門が音を立てて開いて行く。おお、門が開くのを初めて見た。


「……偉大なる帝王竜様の縄張りです。決して無礼の無いように」


 サキはエルフ達にそう言い放つと、開いた門の向こう側の街に首を向けた。

「入れ」とエルフ達に促しているようだ。


「ここは遥か昔に廃棄された街だ。少々くたびれてはいるが、魔獣ひしめく森よりは遥かに安全だし、水源や果物のなる樹もある。少なくとも、身体を休める分には問題ないだろう」


 俺とサキは食事の必要性が無いので全然使わないのだが、おそらく自然公園のなれの果てみたいな場所がある。そこに行ってもらうつもりだ。


 俺が促すと、エルフ達はおっかなびっくりといった感じで、廃都の門をくぐっていった。

 よし、とりあえず第一関門突破だ。門だけに。


「……ドヴェルグ様の決定に口を挟むようで申し訳ありませんが、お伺いしたい事があります」


 来た。第二関門サキさんである。

 繰り返すが、ここはサキの管理場である。俺はあくまで居候。

 居候の分際でかわいそうだからって動物を拾ってきたら、家主としてはいい顔はしないだろう。


「疑問なのですが、なぜ侵入者……しかもエルフなどを招き入れたのでしょう? あれは人の基準であれば美しい生き物ではありますが、決して強力な種族ではありません。生命活動の維持に飲食が必要という時点で、我々に遥かに劣る脆弱な存在です」


 すっかり忘れていたが、生き物はご飯を食べないと死ぬ。

 でも、俺とかサキは大気中にある魔力を吸収して身体を維持出来る。

 そう考えると、サキの気持ちがなんとなく理解出来る。


 こう言うと情けないが、俺ははっきりいって生活能力が無い。

 というか、無くても生活できてしまう。

 飲食も必要無いし、睡眠も気が向いたときに取ればいい程度。


 サキも同様だ。そんな中、手間のかかるペットの世話をちゃんと出来るのか、という点を気にしているのだろう。


 俺が「ちゃんと世話するから!」って言っても、この場所はサキの家なのだ。

 で、「あんたが拾ってきたの、お母さんが世話してるでしょ!」みたいになるのが嫌なんだろう。

 捨て猫を拾ってきて怒られる小学生みたいな状況である。


「ドヴェルグ様、あの者達をどのように扱うつもりですか? 偉大なる帝王竜様のお考えを、是非お聞かせいただきたく思うのですが……」


 サキは少し小声になっていた。俺の考えが分からない事に不安を持っているらしい。

 そして、何を考えているかと問われれば、俺はこう答えるしかない。


「何も考えていない」と。


 いやだって、かわいそうだったし……それに、人間の心を持つ俺としては、生活には癒しが必要なんだ。美少女に囲まれて暮らしたいというのもある。


 アドミラルには腐るほど生活スペースがあるんだから、エルフ達が自分たちで自活して貰えれば別に置いても……ん? 待てよ。

 

 その時、俺の中に天啓が舞い降りた。

 そうだ! 飲食が必要っていうデメリットを逆に利用すればいいんだ。


「サキよ……この世界で我らは強者の部類に入るだろう。サキの言うとおり、我らに飲食は必要無い。だが、全く必要無い訳ではないと思うのだ」

「……どういう事でしょうか?」


 サキは俺の話の意図が分からないらしい。よし、ここで一気に畳みかける。


「エルフというのは飲食が必要だ。自分達で狩りや採取をして生活をするのだろう? ならば、そのための駒として使おう、そう考えていたのだ」


 今思いついたんだが。

 要するに、エルフ達に狩りとか果物とか取って来てもらって、おこぼれをいただこうという訳だ。


「ですが、我々にはやはり食事は必要無いと思うのですが……」

「それは違うぞ。我ら長命種の最大の敵は『退屈』なのだ。それを少しでも紛らわせるなら、エルフ達を迎え入れる価値は充分にある」

「食事……ですか。あまり考えた事はありませんでしたが、ドヴェルグ様がそう仰るのであれば、きっとそうなのでしょう」


 よし! 説得成功。

 あとはこれをエルフ達に頼めばいいだけだ、多分、聞いてくれるだろう。


「ところで、ドヴェルグ様はどのような食物を欲しているのでしょう? 私がエルフ達に伝えてこようと思うのですが」

「ふぅむ……そうだな……」


 まあ、ここまで意志疎通出来れば、あとはサキに任せても大丈夫だろう。

 俺はなるべく見守る立場にして、少しずつサキとエルフ達の距離を縮めて行けばいい。

 で、何が食べたいかというと……やっぱり肉だよな。こんがりとした肉を大量に食ってみたい。


「では、我が所望するのは肉であると伝えるがよい。長旅の疲れが癒えた後でよいが……血の滴る新鮮な肉が最もよい」


 俺は「お肉が食べたいから、エルフのみんなは家賃代わりに合間見て狩ってきてね」とサキに伝えた。

 すると、サキは今までと違い、はっとした表情になった。

 サキだってエルフと一緒に肉を食べれば、同じ釜の飯を食った仲になるかもしれない。


「血の滴る新鮮な肉……ですね。なるほど、そう伝えておきます」

「うむ、では行くがよい」


 俺が大仰に頷くと、サキはエルフ達が向かったであろう廃都内の森林区域に走っていった。


(久々に焼肉パーティ出来るかもな。こりゃ、俺って案外機転が利くのかもな)


 美味しいジビエが食べられるかもしれないと思うと、俺の心はちょっとだけ嬉しくなった。

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