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第8話:エルフの群れ

 十数キロ程離れた場所にエルフの集団が居ると聞き、俺は文字通り飛んでいった。


「エルフの美少女軍団……最高過ぎる!」


 俺は口笛を……吹くとまた衝撃波が出てしまう危険があるので、心の中で鼻歌を歌いながらその場所へ向かう。サキの情報では、エルフ集団のほとんどは女子供しかいないらしい。


(男がいなくて本当によかった。イケメンエルフとかがいると、俺の影が薄くなるからな)


 俺は小声で呟いた。


 もしもその集団の中にエルフリーダー的な男がいて、女子供を守るために立ちはだかったりしたら、俺が悪役になってしまう。そんな事はあってはならない。俺は……帝王竜でいる間、可能な限り人型の美少女に囲まれて暮らしたい。


 昔は人間だったが、今の俺は帝王竜である。つまり人間の常識に縛られる必要は無い。


 人間のみんなが心の奥底で気持ち悪いとか、下劣だとか、欲望がストレートすぎるとか思って口に出さない願望を、本能全開で垂れ流していくぜ。


 たとえ末代までの恥と罵られようが、帝王竜の末代は俺だから恐れるものは何もない。


 にしても、もしも俺が人型のメスに欲情すると周りにバレた場合、俺はやはり異常性癖の持ち主として認識されるのだろうか。


 だが、人間の魂を持っているのだから、ドラゴンのメスに欲情する方が異常なのではないか。

 永遠の課題である。


「下らない事を考えている場合ではないな。あれがサキの言っていたエルフか……」


 十数キロという距離は、今の俺にとってなんら問題にならない。

 巨大な翼をひとたび羽ばたかせれば、青い猫型ロボットが所持する竹トンボ型のチートアイテムがなくても空を自由に飛べるのだ。


 帝王竜に生まれて一番幸せだった事は、車や電車が必要無くなった事かもしれない。

 人間の頃に羽を生やして通勤したい人生だった。


「しかし、想像していたのと全然違うではないか」


 俺は視界の遥か下にいるエルフ達を見た。

 エルフ達は森の中でも比較的開けた場所で、思い思いに休息を取っているように見えた。


 自慢じゃないが俺の視力はかなり良く、向こうは気付いていなくても、俺はエルフ達の顔を一人一人見分けられるくらいクリアに認識出来る。


 だから分かるのだが、確かにエルフ達はみな、本当に整った顔立ちをしていた。

 サキと同じような透けるような白い肌を持ち、皆、新緑のような髪をしている。

 でもそれはベースの部分であり、実際にはひどい有様だ。


 元々は健康的だったであろう白い肌は泥に塗れて土気色。緑の髪は汗や泥のせいか、洗っていない野良犬みたいにくしゃくしゃになっていた。


 さらによく見ると、手や足にリングのようなものが嵌められていた。最初はアクセサリかと思ったが、どうやら拘束具のようだ。ちぎれた鎖のような物がぶら下がっているエルフ達も何人かいた。


(……うーん、確かに可愛いんだけど、こういうのは望んでないんだよなぁ)


 確かに俺は可愛らしい美少女に囲まれて暮らしたい。

 だが、他人を不幸にしてまで自分だけ幸せになりたいとは思わない。


 俺は幸福な美少女のペットになりたいのであって、美少女をペットにしたいわけでは……無いわけではないが、まあ、ひどい目にあわせてまでやりたくない。


 さてどうしたもんかと空中で静止していたら、不意に一人のエルフが上を見上げ、俺と目があった。

 エルフ達は目に見えて狼狽していたが、逃げようとする者は一人もいない。


「みな怯えているのかもしれん。どうしたものか……」


 俺は内心でかなり焦っていた。このまま逃げられたりすると、「ドヴェルグ様を見て敬意を払わない無礼者め!」とか、サキが超高速でぶっ飛んできて追撃する可能性がある。


 仕方ないので、俺はなんとか着地できそうな場所を見つけ、なるべくゆっくりとエルフ達の前に降りた。身体がでかいから巨木が何本も折れたが勘弁して欲しい。人間の街での失敗を糧に、これでも気を遣ったんだ。


「我の住む領域に何の用だ? エルフの群れよ」


 俺はなるべく穏便に「俺んちに何か用?」と尋ねてみた。


 エルフ達はもともと血色の悪い顔を蒼白にし、皆で怯えて固まっていた。

 なんだか俺が悪い事をしているように見えるが、帝王竜の外見じゃいくら丁寧に言っても怖いよな。


 やっぱり来世は小動物ルートだな。


「す、すみませんでした! まさか帝王竜様の縄張りだとは知らなかったのです! お許しを!」


 一人のエルフが飛び出し、地面にひれ伏して俺に許しを求めてくる。

 さっき上空から見たうちの一人で、人間の外見で考えると女子高生くらいに見える。

 まあ、この世界のエルフに人間基準が該当するのかは分からないが。


「頭を上げよ。我は別に気にしておらん。ここは仮初(かりそめ)の縄張りなのだからな」


 俺はもともと廃都に長居する気は無いし、そもそもここの管理人はサキで俺は居候である。

 そんなに媚びへつらわなくてもいいというか、むしろ困る。

 俺が促すと、おずおずと平伏していたエルフが顔を上げる。


 やはり、元が可愛いと薄汚れていても可愛い。美少女は可愛い。

 しかもおっぱいがでかい。おっぱいがでかいという事は、全てを許せるという事だ。

 よって、俺は「お許しを」と言われたので許すことにした。それ以前に怒ってない。


「ありがとうございます……帝王竜様の寛大なお心遣いに感謝します。すぐにこの場を立ち去ります」


 エルフの少女――多分リーダー格であろう子がそう言うと、エルフ達はのろのろと動きだす。

 移動を嫌がっているのではない、疲労が溜まって俊敏な動きが出来ないのだ。

 ど素人の俺でも分かるくらいなんだから、どのくらい疲れ切っているかは推して知るべしだ。


「待て」


 エルフ達が立ち去ろうとするのを、俺は慌てて止めた。


「た、立ち去る許可をいただけたのではないでしょうか? 何か私達に至らぬ点が?」


 先ほどの少女が、あからさまに怯えた表情で俺を見上げる。


「違う。何故、お前達はそれほど弱りきっているのだ? 我に出来る事があれば力になろうぞ」


 こんな状態の女子供の集団をさすがに放ってはおけない。

 なにより、おっぱいの群れが去ってしまう。

 廃都には圧倒的におっぱいが不足しているのだ。

 小さいのが二つしかないからね。出来れば補充しておきたい。


 出来れば「うちによって行かない?」と誘いたい。少なくとも、猛獣がうろついている森の中を歩いて行くよりは、廃都の方が安全に過ごせるはずだ。


 サキの機嫌を損ねなければ。たぶん。


「帝王竜様が、私達のような下等種族のお話を聞くというのですか?」

「自ら下等などと卑下するではない。お前達は美しい。美しいものは、それだけで価値があるのだ」


 可愛いは正義である。これは、全世界が認めざるを得ない事実なのだ。

 猫だって世界の侵略害獣ワースト100にランクインしているのに、みんなから愛されているではないか。


「では、僭越(せんえつ)ながら、エルフの長である私……ペルーシュより、帝王竜様に我々の悲劇を説明させていただきたく思います」


 ペルーシュと名乗るエルフの少女は、再び俺の前に(ひざまず)き、涙ながらにエルフの悲劇とやらを語り出した。


 簡単に説明すると、ペルーシュ達の一族はグランツ王国より東にある『大森林』という場所で静かに暮らしていたそうだ。そこに王国軍が攻め入って来た。領土拡大と労働力の確保のためらしい。


 そして、エルフの男性達は労働力として先に連れて行かれ、女子供は競売に賭けられる運命だったらしい。

 らしい、というのは未遂に終わったからだ。


 今朝、ペルーシュ達――戦利品を乗せた馬車がグランツ王国へ向かう途中、一頭の巨大な竜が王国に飛んでいくのを見たらしい。人間の兵士達は見た事のない状況に狼狽(ろうばい)し、その隙を付き、彼女らは近くの森に逃げ込んだのだという。


 一度森に入ってしまえば、森の暮らしに馴れているエルフ達のほうが有利だ。なんとか兵士達の追撃を振り切り、今朝からずっとあてもなく森をさまよっていたそうだ。


 そこに俺が出て来たという訳だ。

 ていうか、竜って俺の事じゃん。


「事情は分かった。さぞやつらかっただろう」

「はい。ですが、帝王竜様に温かい言葉を掛けていただけただけで、他の者たちも浮かばれることでしょう」


 ペルーシュは深々と頭を垂れる。

 いや、今日初めて会ったばっかりなのに、なんで俺に対してそんなに敬意を払うんだ。

 逆に怖いぞ。


「ペルーシュと言ったな、我が質問に答えるのだ」

「はい。何なりと」

「なぜ、お前は我にそこまで下手に出るのだ? 我の力に怯えているのなら、手は下さんからもっと気楽にするがよい」

「それは違います。我々は自然に生きる者。そして、自然に生み出されし者の中で、もっとも強大な力を持つ帝王竜様を、神の使いとして信仰しておりますので」


 えぇ……と思わず口から漏れそうになった。


 神の使いとか言われても困ってしまう。

 そもそも、俺は女神の適当な仕事でこんな状況になってるんだから、神というものに対して全然敬意を払えない。


 でも、彼女達の状況を鑑みると、文字通り神にすがりたい気持ちなんだろう。

 だったら別に否定する理由もない。少なくとも今はそういう段階じゃないだろう。


「そうか。我をどう思うかはお前達に判断をゆだねよう。では、行くとするか」

「行く……ああ、御身の巣へ帰られるのですね」


 ペルーシュが名残惜しそうな口調でそう言った。

 俺が居なくなれば、彼女達はあての無い放浪生活を再開する事になる。

 それが分かっていても、俺を引きとめる事は出来ないと考えているのだろう。


「ああ、巣へ帰る。お前達を連れてな」

「…………私達を、ですか?」


 ペルーシュはしばし沈黙した後、きょとんとした表情で自分を指差した。

 後ろに居るエルフ達も、ざわざわと何かを囁きあっている。


 甘いなペルーシュよ。

 俺はこんな所に放置されている美少女を捨てていくほど愚かではないのだ。

 もったいない精神を思う存分に発揮するのは今しかない。


(サキにはどう伝えたもんかなぁ……)


 まあ、とりあえず全員お持ち帰りしてから考えよう。

 そうだ。それがいい。


 そうして俺は、ペルーシュ達を引き連れ、廃都へと戻る事を決意した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良作発見!続きも楽しませてもらいます!!
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