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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

全員殺しちゃうゾ⭐️

作者: はら

うへっ

ある小さな村に一人の天才児が生まれた。特に天候のことに関して飛び抜けており、2歳にして次の日の三時間ごとの天気を的中させるほど、能力に長けていた。

その子供は貧しい村に生まれたために、村の希望として大事に育てられた。そして、神のように崇められた。しかし、彼は嬉しそうな顔もせず、ついには喋らなくなった。誰もその理由に気づくことなく、時は過ぎていき、少年は誤った道を進み続けるのであった。


「‥‥‥」


大きくしなやかに伸びた竹が風に煽られる。カサカサと葉擦れの音が少年と一人の大人を包んでいた。


一つの拳が頬にめり込む。大きな音を立てて、枯葉が舞った。


「やめてくれっ!」


少年は、その懇願をもろともせず腹部を蹴り飛ばした。口元は一線。笑うことも、悲しむこともなかった。

次にポケットから瓶を取り出し、それを大人の頭に殴りつけた。刺激臭の液体が頭からかかる。最後に顔面を拳で打たれ、大人は後頭部を強く打ち付けて、その場に倒れこんだ。


「ハッ‥‥‥」


大きく息を吐いたあと、少年は何も言わずに革でできた袋を携え竹藪を後にした。ということは、少なくとも三時間以内に雨が降るということだ。少年の暴力はいつもだいたい夜まで続くが、雨が降る日はその限りではない。

上がる息。大人は命をどうにか食い繫ぎ、安堵した。あの少年に殺された大人は3人。そして、その3人の死亡は村全体によって揉み消されていた。あの少年がどれほど村にとって希望なのかがわかる。実際に、あの少年は幾年かかっても見つからなかった初代村長の隠し金を探り当て、村を経済的に救っていた。



体格の良い男は地面に手をついて、立ち上がった。脛から電撃が走ったような痛みが通ずる。顔を歪め、帰路に経った。




家に帰ると、二人の遺体が少年を出迎えた。茶の間に綺麗に横たわっている。母と父だ。体からは水分が抜け切り、骸の二つの穴には底知れぬ闇が蠢いていた。

大好きだった。なのに、殺してしまった。そんな感情が少年の脳裏には、いつも張り付いている。


「ぼっちゃま。またここにいらしてたんですか」


温もりのある声の方をみると、乳婆のリヨがいた。ここは実家。少年の住居はまた別にある。

少年はリヨに連れられて、実家を後にした。






「どうですか、調子は?」


目が覚めて五分。朝の淡い光を後ろに、校長が亀岡を覗いていた。昨晩、雨が降ったのか屋根から水滴がぽたぽたと滴っている。

昨日は、家に帰ってすぐに気絶するように寝てしまった。深い傷をみて、どうやら妻が校長を呼んだらしい。時計を見ると朝7時。出勤前だ。

こんな朝早くに申し訳ないと亀岡は思った。

部屋の出入り口を見ると、妻の蓬莱が突っ立っている。クマができているのを見ると、昨日は寝てないらしい。


「あの子に、やられたんですね」


亀岡は答えた。


「ええ、もう私は学校に行ける自信がありません。村の人もみな、冷たいですし、何より苦しいです」


教員を務めて3ヶ月の間に、暴行を15回され、深い切り傷を五箇所、火傷を二箇所を体に据えられている。もう亀岡の限界は近かった。抵抗しようにも、相手は子供だ。手を出さない。いや、その以前にあの天才は強かった。肉体的な意味ではなく、体の使い方が突飛している。亀岡はあの子に一度たりとも手を触れたことはない。


「では、そうですね……」


校長自慢の目鏡が斜光に当たり、レンズを一瞬、煌めかせた。


「殺してしまいましょう」


自分でも息を飲んだのがわかった。それと同時に校長の言った言葉を疑った。本気で言っているのか、どうかということだ。亀岡は探りを入れた。


「ご冗談を。いくら校長といえど、それは立場上まずいですよ」



「冗談じゃありませんよ。実際に、あの子はもう3人の教員を殺しています。理由は知識の狭さ。彼らの知っていることは全て、少年がすでに知っていたことだったからです。あなたは運が良かったのか、故郷独自の漢方薬の知識がありましたが、もう尽きたんでしょう? だから、殴られているのですよね?」



そう、亀岡が赴任して来た当初は、亀岡の生まれ育った故郷の漢方の知識を少年に享受していた。しかし、2ヶ月を過ぎ、その知識に新鮮味がなくなると、あからさまに暴力が始まったのだ。


「あの子は、この世界に居てはいけないもの。もういっそ殺しましょう」


外を見ると、いつのまにか土砂降りの雨になっていた。きっと通り雨だ。





少年がどこで何をしようともリヨはいつも傍についている。学校でも教室の端で成り行きを見守り、家では風呂と排泄時以外は少年にべったりだった。少年は天才ゆえに、こうして村によって管理されているのだ。貴重な人材を逃さないように。いわば、自由のある奴隷だった。

しかし、しばしばリヨの手から抜け出せる時が増えるようになって来た。リヨが歳をとり、運動能力が低下したからだ。その隙間をみて、教員に暴力を振るっていた。それをリヨは黙認していた。

だが、それも今日で最後。少年の13年間の恨みが公に出る。




右手には大きな斧を持ち、ポケットには拳銃が一丁入っている。亀岡は拳銃の重厚感を初めて知った。

小雨が降りしきる中、大きな家の玄関でその時を待つ。扉が開き、死角になるであろう場所に身を潜めて。

(本当に殺すのか?)

亀岡はずっとそんなことを、考えていた。彼も一応は教師。子供を殺すことに抵抗感がないわけがない。いくら暴力を振るわれたって殺されてはいないのだ。それが少年のの死に値するのか。亀岡の答えは否。

(そうだ、殺したことにして、この村から逃せばいい)

亀岡そう決意して玄関のノブに手をかけゆっくりと回した。中に入ると、人がいないくらい、静かになっていた。

廊下を歩いて行くと、何やら赤い水たまりが出来ている。刹那に理解した。血だ。

頭が鐘のように響く足を引きずり、血が流れている部屋につく。

(なぜ、死んでいるんだ)

そこには少年が横たわっていた。息はもうない。

次の瞬間、轟音が全身を襲った。雷だ。しかも、一発や二発ではない。数多の爆発音が聞こえる。村の方からだ。


「どうなっているんだ……」


ただ事ではない超自然現象に我が家の心配をし始めた亀岡。身を翻して斧を投げ捨てる。しかし、彼の足がまるで木槌にでも叩かれたように痛むのだ。これほどの痛みを味わったことがなくかった亀岡はいつしか闇の中に身を投じてしまった。




目が覚め、一階に降りると2人の遺体が横たわっていた。亀岡とかという男と、坊っちゃまだ。

坊っちゃまが、あの亀岡という男と一緒に死にたいと言った時には驚いた。どうやら、坊っちゃまの愛を一番良く受け入れていたのだろう。

坊っちゃまの愛は暴力だ。愛が大きければ大きいほど、暴力も強い。だからこそ、坊っちゃまの母と父は坊っちゃまの愛によって殺された。他の教員もそうだ。

対して、常人の言う愛は、抱擁だったり、接吻だったりという物だが、坊っちゃまはそれをひどく嫌う。一歳の時にそれを村人から目一杯受けてしまったために、坊っちゃまは村人に対して喋らなくなってしまったのだ。そして、憎んだ。


常人の愛と坊っちゃまの愛は正反対だ。だからこそ、こんなことが起きてしまった。一週間前から大嵐が来ることをわかっていながら村人に伝えなかったのも死んで欲しかったという、願望があった故。


亀岡には毒の回りが遅いが確実に死ぬ劇薬を振りかけたと言っていた。それがたまたまこの家に来ていた時に回って死んだだけだ。



さてと、あとは坊っちゃまの最期の願いを聞き入れるべきでしょう。小学校の校長、ならびに亀岡の妻の蓬莱の殺戮。2人が不倫関係ということは、坊っちゃまが一番最初に気づいた。そして、2人がこの村から夜逃げするのも知っていた。計画だと昨晩。つまり、亀岡をこの屋敷に行かせているうちに、と言った具合だ。しかしながら、昨日は大嵐。逃げられるはずがない。


亀岡の手にあった斧を持ち、拳銃を取り上げる。

坊っちゃま。2人を殺したら、私もすぐにいきます。それまでしばしお待ちになって下さいな。


ほへっ

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