090_31層への階段
「くっ、殺せ……」
「マスター。何を言っているのですか?」
「主を殺すわけないだろ」
接近戦を提案された俺は、リーシアと訓練をしているのだが、もうね、この娘ね、手加減しないんだよ。
本当に死ぬかと思っているんだ。ヤバいって。
「せっかくダダンに、メタルタイタンの剣と鎧を鍛えてもらったんだ。もっと使ってやらねば、剣が泣くぞ」
「いや、接近戦は苦手なんだよ」
「そんなことでは、エターナルドラゴンを瞬殺はできないぞ!」
「うっ……」
エターナルドラゴン戦で、戦闘時間があまりにも長かったので、剣を武器に選んだけど、やっぱり接近戦は怖い。
「はぁはぁはぁ……」
朝から晩まで、リーシアと訓練に明け暮れる。
リーシアは鬼だ。鬼系のオーガ族だから、鬼に違いはないけど……。
訓練でも間近で見ると、すごい迫力がある。
しかも、手加減をしない! 普通、手加減するよね? 俺、初心者だよ?
「マスター。それでは、【剣神】を購入した意味がありませんよ?」
「いや、【剣神】があっても、怖いんだよ」
「うーん、それなら、【恐怖耐性】を購入しますか?」
「えっ!? そんなものがあるなら、早く言ってよ!」
「そういうのは、自身の努力で克服するのが、一番いいのです。それに、【恐怖耐性】は、恐怖を感じにくくなりますので、イケイケになってしまう恐れがありますから……」
「ああ……なるほど……」
イケイケとか、一番苦手な戦闘スタイルだわ。
「では、【遠謀深慮】を一緒に購入しますね」
「なんか、頭がよさそうなスキルだね」
「【恐怖耐性】がイケイケの性格なら、【遠謀深慮】は慎重な性格です。イケイケをあるていど抑えてくれるでしょう」
「……よろしく頼むよ」
【恐怖耐性】と【遠謀深慮】を購入した後は、なんと言うか、リーシアの鬼のような殺気や大斧への恐怖が収まった気がする。
よくよく考えれば怖いんだけど、今まであれほど怖かったものが、つきものが落ちたようになくなったのだ。
あれから数日後。
「うおおおおおっ!」
「やあああああっ!」
俺とリーシアは訓練で剣と大斧を打ちつけ合っている。
イケイケとまではいかないが、恐怖に関してはかなり克服できたのではと思う。
「主! 31層にいくぞ!」
訓練が終わって汗を拭いていると、リーシアがいい笑顔で言ってくる。
「そうだな……準備するから、明日、31層へ向かおうか」
「よし! 腕がなるぜ!」
リーシアはブレないな。そこが頼もしいんだけど。
「あてにしているからな、頼んだぞ。リーシア」
「任せておけ!」
その日のうちに、皆に31層挑戦を話した。
インスは、【通信販売】で必要なものを購入して、皆に支給していた。
特にエリーには、ロケットランチャーの弾頭を大量に購入して、改造したものを渡した。
また、面白いと思う武器では、150KW級レーザー砲が手に入った。
バッテリーが必要だけど、改造したら小型化ができたので、面白いと思って購入してエリーに渡した。
「主、いくぞ!」
「はいはい。それじゃあ、皆、いこうか」
俺、リーシア、サンルーヴ、セーラ、エリーが30層に転移する。
俺は、メタルタイタンの鎧(黒)を着込み、メタルタイタンの剣(黒)を佩いているので、リーシアとお揃いのように見えることだろう。
ただし、俺は盾は持っていない。俺の武器がちょっと大きめの両手剣だからだ。
刃渡り120センチメートルくらいの両手剣は、なかなか扱いが難しい。だけど、【剣神】のおかげで長剣でもそれなりに様になっているようだ。
サンルーヴ、セーラ、エリーが口を揃えて、「かっこいい」と言ってくれるんだ。それだけでも、武器を剣にした甲斐があったというものだ。
転移すると、エターナルドラゴンがリポップしていたので、戦うことになった。
これは、予想していたことなので、問題ない。
「撃ちます!」
エリーが、ロケットランチャーをぶっ放した。
ヒュゥゥゥゥーーーッ、バゴォォォォォォォォーーーンッ!!!!
エターナルドラゴンの丈夫な体が抉れた。いい感じだ。
「私も負けていられません!」
超高熱のドームが発生し、エターナルドラゴンの頭部を包み込む。
今度はドームが小さくなっていき、最後には大爆発を起こしてエターナルドラゴンが、悲鳴をあげる。
爆発が収まると、エターナルドラゴンの頭部が二割ほど吹き飛んでいた。
前回は、ここまでの攻撃力はなかった。
セーラのレベルが上がり、能力が上がったのもあるが、新しいスキルを覚えたのが大きいかもしれない。
今回、セーラは【魔法ダメージ増加】【破壊力増加】の2つのスキルを覚えてもらった。
これによって、与ダメージが大幅に上昇したのは、間違いない。
しかし、いくら【恐怖耐性】があっても、あのような光景を見せられると、背筋がぞわぞわし、あんなのを喰らったら痛いでは済まないと思ってしまい、股間がシュンッとなった。
それから、俺を含めて全員に【破壊力増加】を覚えてもらっている。
これで、与ダメージが増えているので、全員でボコボコにしてやるつもりだ。
「いくワン!」
破壊された頭部に、サンルーヴが短剣を叩きこむ。
頭蓋骨がスパンッとめくれて、脳が見える。キモッ!
「俺もいくぜ!」
リーシアが、メタルタイタンの大斧を振り抜いた。
大斧は、エターナルドラゴンの足を大きく抉って、骨まで砕いた。
エターナルドラゴンの巨体が、ぐらりと傾く。
そこで、エターナルドラゴンの口が大きく開かれた。
「ブレスがくる!」
俺は地面を蹴り、大きく開かれたエターナルドラゴンの口に向かっていく。
「うらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
両手で持ったメタルタイタンの両手剣を振り抜く。
手応えはあった。と思う。
なんと言っても、剣の戦闘は経験がない。これでいいのかと、不安でしかたがない。だが、心では、斬った! と思っている。
ドッスーーーンッ。
『マスター。エターナルドラゴンの死亡を確認しました』
『俺、やったよ!』
『はい。かっこよかったです。マスター』
『惚れなおした?』
『うふふふ。何度も惚れなおしていますよ。マスター』
『やっほーーーっ!』
「あっけなかったな。やっぱり主は強いぜ!」
リーシア、背中をバンバン叩くな。鎧を着込んでいても、痛いんだよ。
「いやいや、皆でエターナルドラゴンに勝ったんだ」
「でも、グローセさんが剣を扱っていなければ、もっと苦戦していたと思います」
「セーラだって、頭部を破壊していたじゃないか」
「私のは、あれで目いっぱいです。グローセさんは、まだ余力がありますから」
はにかむセーラも可愛いな。眼福だ。
「サンルーヴとエリーもよくやった。皆の攻撃力が上がったのは、今回の戦いで実感できた。これで心置きなく31層に向かえるぞ」
「いくワン!」
「今回は、ロケットランチャーの試射ができましたが、レーザーの試射を行なっていません。次は、レーザーを使ってみますね」
「おう、思いっきりやってやれ」
「はい!」
ルビーには悪いが、今回は出番がなかった。
まあ、ルビーは攻撃よりも回復要員だからな。
「さて、あの階段を進めば31層だ。皆、準備はいいか?」
「エターナルドラゴンに苦戦しなかったので、問題ありません」
エリーの返事に、俺は頷いて階段を上がっていく。
今までよりも長い階段だ。
すでに百メートルくらいは上がっていると思うが、全然先が見えない。
「これは、ラスボス戦の予感がする」
思わず呟いてしまった。
「とうとう、最強の敵が現れるんだな!?」
俺の呟きに、リーシアが反応した。
なにがそんなに嬉しいのか、俺には理解できないけど、【恐怖耐性】のおかげか恐怖は感じない。
「この階段、上がっていけばいくほど、殺気のようなプレッシャーが強くなっていきます……」
セーラが表情を引き締めている。
「何があってもいいように、準備はしてあります。自分たちを信じて進みましょう」
エリーはお姫様だけあって、皆を鼓舞するのが上手い。
「なんでもこいワン!」
サンルーヴは、リーシア寄りの考えだ。リーシアに感化されているんじゃないかな……。
『マスター。考えられる最大限の準備をしています。自分を信じてください』
『分かった。俺は、俺自身を信じて戦う!』
『はい。それでこそ、マスターです』




