089_反省会
咆哮をあげるエターナルドラゴンは、暴れまくった。
足元にいるリーシアが踏まれて潰されないかと不安だったが、リーシアはエターナルドラゴンがじたばたさせた足に、メタルタイタンの大斧を叩きこんでいた。さすがだね。
さらによく見ていると、サンルーヴの姿が消えては現れ、現れては消えて攻撃していた。
2人の攻撃の邪魔にならないように、俺はエターナルドラゴンの顔面だけを狙ってトリガーを何度も引く。
エリーも俺同様に顔に攻撃を集中し、セーラはリーシアのダメージ管理を行なってくれる。
そして、上空からはルビーが、【炎の羽ばたき】で攻撃する。
エターナルドラゴンの耐久値は100万もあってHPの減りはかなり少ないが、俺たちの攻撃は着実にHPを削っている。
長期戦を覚悟していたが、地道な作業のようにHPを削る。
そんな時だった。エターナルドラゴンの六枚の羽が高速で動き出した。
「飛び上がるぞ!」
飛び上がるとリーシアとサンルーヴは攻撃できなくなる。
それに、上空からの攻撃を受けるのは、極めて危険だ。
『インス。【結界術】でエターナルドラゴンの頭を押さえてくれ』
『承知しました、マスター』
エターナルドラゴンが飛び上がろうとしたら、インスが施してくれた結界に頭をぶつけて変な顔をして唸る。
「拘束します」
インカムからセーラの声が聞こえたと思ったら、地面から植物が急速に伸びてきてエターナルドラゴンに絡みついていく。
だが、エターナルドラゴンもただでは拘束されず、ぶちぶちと植物を引きちぎる。
それでもセーラは諦めず、引きちぎられた断面から新しい植物が生えていく。
それに苛立ったのか、エターナルドラゴンが口を大きく開き、溜めを作った。
ブレスか!? そう思った俺は、リーシアを見た。
リーシアは、植物の隙間から見えるエターナルドラゴンの足に、メタルタイタンの大斧を叩きこんでいて、エターナルドラゴンの溜めには気づいていないようだ。
「リーシア! ブレスがくるぞ!」
その瞬間、エターナルドラゴンの口から、七色の光を放つブレスが吐き出された。
「リーシア!?」
ブレスは、エターナルドラゴンから300メートルくらいの広範囲に渡って吐き出され、その衝撃波は俺のところにも届いた。
もし、300メートルの範囲に入っていたら、俺もあの七色の光を浴びていてダメージを負っただろう。
しかし……問題はリーシアだ。いくらリーシアでも盾で受けず、まともにあのブレスを喰らったら……。
くっ、考えたくない。リーシア、どうか無事でいてくれ……。
ブレスが途切れ、その爆風が晴れていく……。
リーシアは無事だろうか? 無事でいてくれ……。
「………」
えーっと……。がんがんとエターナルドラゴンの足を攻撃しているリーシアがいたんだけど……。
『どうやらエターナルドラゴンのブレスは、自分の足元には届かないようですね』
『灯台下暗しではないが、間抜けなブレスだな』
『頭があれだけ高い場所にあれば、足元が疎かになるのは仕方のないことかと』
『リーシアについては、ブレスの心配がなくなっただけでもよしとするか……』
『そうですね』
とても心配した俺の精神的なダメージを、どうしてくれようか。
俺は鬱憤を晴らすかのように、バレットM82A1のトリガーを何度も引き、エターナルドラゴンへ気持ちをぶつけた。
エターナルドラゴンは何度かブレスを吐いたが、足元のリーシアは無事だし、サンルーヴは基本的に後方からの攻撃なので大丈夫だし、俺とエリーとセーラは1キロメートルほど離れている場所から攻撃しているのでブレスは届かないし、ルビーはインスが上空に張った結界のために攻撃できないでいるが、逆にエターナルドラゴンの攻撃も届かない。
「なんだこれ……。余裕なんだけど?」
エターナルドラゴンのHPを削るのに時間はかかるが、油断さえしなければかなり安全にHPを削っていける。
3時間ほどでエターナルドラゴンのHPはゼロになって、俺たちはエターナルドラゴン戦を終えた。
「主、なんだこいつは? まったく面白くないぞ!」
「俺に言われても……」
リーシアに理不尽な言葉を投げかけられて困った俺は、セーラを見た。目を逸らされた!?
そんなこんながあって、俺たちはとうとう30層を攻略したのだった。
「えーっと、階段があるということは、31層もあるってことだよな?」
俺たちの前に階段が現れた。
「そのようですね」
階段を覗きながらエリーが答える。
「なんだか精神的に疲れたから、31層は今度にしようか」
「なんだ、いかないのか?」
「拍子抜けした戦いだったけど、エターナルドラゴン戦で3時間も戦ったから今日は帰ろう」
なんとかリーシアを宥めすかして、家に帰ることにした。
家に帰った俺たちは、まず反省会をする。
「敵の防御力が高く、今の武器では今回のような長丁場になってしまいます」
エリーの意見に俺も同意だ。もっと強力な武器が必要だ。
「インス、何かいい武器はないか?」
「そうですね……戦車は「ダメだ!」ですか」
戦車なら攻撃力も防御力も申し分ないが、戦車は肉体を使わないからリーシアが否定した。
「でしたら、エリーさんにロケットランチャーなんてどうですか?」
また近代兵器だった。でも、ロケットランチャーなら、かなり大きなダメージが期待できそうだ。
ただ、ロケットランチャーといえば、使い捨てのイメージがある。
いちいち使って捨てるのでは、効率が悪くあまり使い勝手のいい武器ではない。そこのところをインスに聞いてみる。
「装弾しなおせば何度も使えますので、マジックバッグに弾頭を入れておけば問題ありません」
「元々連射するような武器ではないから、それでいいのか……?」
「一度、そのロケットランチャーというものを、見せてもらえますか?」
エリーは、ロケットランチャーに興味が出たようだ。
ロケットランチャーを地上で試射するわけにはいかないので、見るだけということで、ロケットランチャーを購入して見せてあげる。
「肩に担いで使うのですね」
購入したのは、ロシア製RPG-7というロケットランチャーだ。
オーソドックスなロケットランチャーで、改造を施すと装弾もかなり簡単にでき、威力も相当なものだ。
「気に入りました。今度からはこれとヘカートIIを併用します。ありがとうございます、インスさん」
美しい所作でお辞儀をする。
「マスターの戦闘力向上ですが」
インスが俺を見つめてくる。美しいインスに見つめられたら惚れてまうだろ! もう惚れてるけど。
「俺には、何がいいのかな?」
「マスターのステータスを生かすには、やはり接近戦武器が一番ですよ」
「うっ……。接近戦……」
それは、俺がもっとも苦手にする戦闘スタイルである。
「マスター、もう分かっていますよね?」
俺のステータスは、エターナルドラゴンよりもはるかに高い。その俺が接近戦をすれば、おそらくかなり強いはず……いや、強い。
下手したらエターナルドラゴンをワンパンで倒せるくらいには……。




