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087_酒盛り

 


「がーーーっははは! この酒は美味いな! ラム酒ってぇ言うのか?」

「はい、それはケイデンヘッド・エ●モアというラム酒です。喜んでいただいてよかったです」

 棟梁への報酬に【通信販売】で購入したケイデンヘッド・エ●モアというウイスキーよりは少し色が薄いラム酒を購入して出してみた。

 このケイデンヘッド・エ●モアはアルコール度数がなんと72・5度というもので、俺が飲んだらお猪口一杯でもぶっ倒れる自信がある。


「がーっははは! 美味いぞ、美味すぎるぞ! ドラガイはいつもこんな美味い酒を飲んでいるのか!? 許せんぞ!」

 棟梁と一緒に鍛冶師のダダンまで俺の家のリビングで寛いで飲んでいるんだが、まぁいいか。

「ダダンよ、この家の酒はどれも美味いぞ! がーーーっははは!」

「グローセよ、これからは鍛冶のことならなんでも俺に言え! なんでも造ってやるぞ。がーーーっははは!」

 棟梁は赤毛のドレッドヘアのひげ面で、ダダンさんは茶髪のドレッドヘアのひげ面。共にずんぐりむっくりで容姿もそうだが、笑いかたがそっくりだな。ドワーフでも師匠と言われる人物は皆こうなのかな?


「あら、ドラガイだけじゃなくダダンまで。どうりで騒がしいわけね」

 リビングの入り口にキャサリンさんが立っていた。家主である俺の許可は要らないのか? 俺はなぜ疑問形なのだろうか?


「む、キャサリンか。何しにきやがった!?」

「何しにきたって、グローセちゃんと商談よ、しょ・う・だ・ん♪ それより、ダダンまで何してるのよ?」

「俺は納品にきたらグローセが飲んでいけと言うから、飲んでいるんだ。決して酒の匂いに惹かれてきたんじゃねぇぞ」

 たしかにダダンさんはメタルタイタンの大斧の納品にきて、棟梁もついてきたから流れで2人に酒を勧めたわけなんだが、その時のダダンさんの目が酒を出せと俺を脅迫してきたんだ。

「何言ってるのよ、あんた絶対に酒を飲みにきたんでしょ!」

 さすがはキャサリンさんだ、この2人のことがよく分かってらっしゃる。


「まぁ、まぁ、キャサリンさんもどうですか?」

「あら、悪いわね。いただくわ♪」

「けっ、結局、キャサリンも飲むんじゃねぇか!」

「あら、あんたたちだけ飲んで私だけ飲まなかったら、グローセちゃんが悲しむじゃない♡」

 いや、全然悲しくないから。その極悪非道のウインクをしないで。


「お、やってるな。俺も仲間にいれてくれ」

 棟梁とダダンさん、そしてキャサリンさんがきて、あの人がこないわけがないね。巨体をのっそのっそと揺らして現れたのはクビライ支部長だ。

 だから、俺は許可した覚えはないんだけど……。


「なんだ、お前まできたのか。小僧、酒は足りるんだろうな? 足りんのなら、キャサリンとクビライには出さんでいいからな」

 棟梁はまさにドワーフの鑑だな。酒に関しては絶対に妥協しない。


「大丈夫ですよ。酒はたくさん用意してますから」

「ならいい。さぁ、飲むぞ!」

「おう、浴びるように飲むぞ!」

 棟梁とダダンさんが腕を組み合って、大ジョッキになみなみと注がれたケイデンヘッド・エ●モアを呷った。

 アルコール度72・5度のケイデンヘッド・エ●モアを薄めずに大ジョッキで一気飲みできるのは、ドワーフだけだろう。恐ろしい酒耐性だ。


「クビライ、あんたも座りなさいよ。飲むわよ」

「おう」

 キャサリンさんの横にクビライさんも座ると、大柄な2人にソファーが悲鳴をあげているように見える。

「2人にはこの酒をどうぞ」

 俺が2人に出した酒は、大●酒造の純米生●と、という日本酒で、大●酒造は福島県二本松市の酒造所で、この純米生●とは白桃のような香りが人気の日本酒だ。

 一升瓶をドンと置き、グラスを2人の前に置いた。


「ほう、これは綺麗な瓶だな。緑色のガラスか?」

「クビライ支部長の仰るとおり、それはガラスです。入れ物のことは置いておいて、さぁ飲んでください」

「お、すまない。公爵様に注いでもらえるとは光栄だ」

 グラスになみなみと純米生●とを注いで、おつまみにおせち料理のような重箱に入ったものを出した。

「ほう、この料理はなかなか綺麗だな。食べるのがもったいないぞ」

「この料理は目で楽しんで舌で楽しむものですが、食べてこその料理ですから、どうぞ」

「すまない。それでは」

 クビライ支部長は箸が使えないのでフォークとナイフだ。


「グローセちゃん、私にも注いでくれるかしら?」

「はい、どうぞ」

「うっふーん、ありがとう。……あら」

 危ないところだった。もう少しでキャサリンさんにキスされそうだったよ。どさくさに紛れて何するんだよ!?

「もう、恥ずかしがっちゃってぇ~♪」

 いやいや、恥ずかしいどころか、生命の危機を感じますが!?


「それで、ダダンが納品したものはどこにあるのかしら?」

 ダダンさんの持ってきた大斧のことは、キャサリンさんも知らないらしい。

「それなら裏庭でリーシアが喜々として振り回していますよ」

「リーシアちゃんが?」

 窓から裏庭を見ると、リーシアが巨大な斧を上下左右、縦横無尽に振り回していた。


「あの大きな斧のことかしら……?」

「ふむ、今までの黒魔鉄の大斧より一回りデカいか?」

 メタルタイタンの大斧は黒魔鉄の大斧よりも大きく、そして重い。だけど、リーシアはその大斧を片手で軽々と振り回し、ジャンプしたり、横に跳びのいたりと忙しい。


「ちょっと待ってちょうだい。あの大斧……いったい何でできているの?」

「うむ、黒魔鉄のように見えるが、黒魔鉄など比較にならぬほどの存在感と剣呑さを纏っているぞ」

 商人ギルドの支部長と冒険者ギルドの支部長の目はさすがだ。

「がーーーっははは! あれはな、メタルタイタンの大斧だ! このダダンが精魂込めて造り上げた傑作中の傑作だぞ!」

「メタル……」

「タイタン……」

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」

 支部長コンビが卒倒した。棟梁とダダンさんはそんな2人を見て笑い転げている。まったくこの人たちは。


 その後、なんとか復活した2人はメタルタイタンのことを忘れようとしているのか、純米生●とを呷るように飲んだ。

「ダメだわ。ちっとも酔わないじゃないの」

「うむ、グローセ殿、もっと強い酒はないか?」

 支部長コンビの要望でウイスキーのシングル●ルトを出してあげると、2人はそれをストレートで一気に呷った。

「くーーー、これよこれ!」

「うむ、これだ!」

 2人はグラスになみなみに注いだシングル●ルトをストレートで3杯飲むと、やっと落ちついたようで飲むペースを落とした。俺からすれば、こんな飲み方したらあっという間に昇天するレベルだ。


「主、これはいい斧だ!」

 気が済んだのか、リーシアがリビングに戻ってきて大斧に頬ずりした。その光景は猟奇的でとても小さな子供に見せられたものではない。

「そ、そうか……。よかったな」

「うむ。主、感謝するぞ! それにダダン、いい斧だ。気に入ったぞ」

「おう! そいつがあれば、どんな化け物にだって負けねぇぞ!」

「もとより負けるつもりなどないぞ! はーっははは!」

 リーシアの笑い方はドワーフ組の笑い方に近い。まだ「がーーーっははは!」と笑わないだけマシだけど。

「リーシア、汗をかいただろ。風呂で汗を流してきたら、一緒に飲もう」

「おう、すぐに汗を流してくるぞ!」

 酒が飲めるので、リーシアは嬉しそうに風呂へ向かった。


「あらあら、皆さんおいででしたか」

 そこにインスとエリーがやってきた。2人はヘンドラー商会の経営について別室で話し合いをしていたのだ。

 最近の俺はあまりヘンドラー商会の経営に携わっていないので、2人に経営は任せっきりだ。

「マスター、今後の経営方針についてまとめました。明日にでも話をさせてください」

「分かった。2人に任せっきりで悪いな。さ、2人も座って飲んでくれ」

 俺は2人を俺の両サイドに誘った。キャバクラじゃないけど、この絶世の美女である2人が横にいてくれると、酒が進んで仕方がない。


「旦那様の妻にしてもらってよかったですわ。毎日美味しい料理だけではなく、美味しいお酒も飲めるのですもの」

 俺に鍋島大吟●三十●万石を注いでくれるのは、このデルバルト王国の王女で今は俺の妻であるエリーだ。サラサラのストレートの金髪を背中の真ん中まで伸ばしたエリーのサファイアのような透き通る藍眼で見られると、魂がその美しい藍眼に吸い込まれそうになる。

 そんな錯覚に襲われながら、鍋島大吟●三十●万石を飲み干す。


「マスター、今日はいつも以上に賑やかで楽しいですね」

 インスの極上のメロンが俺の腕を包んでくる! この世の幸せを噛みしめてインスの注いだ鍋島大吟●三十●万石を飲み干す。

 一気に2杯の鍋島大吟●三十●万石を飲み干したので、カーっと頭に血が上った。


「あら、楽しそうですね」

「サンルーヴも食べるワン」

 買い物にいっていたセーラとサンルーヴが帰ってきて、サンルーヴがいつものように俺の膝の上に乗った。

「私はもっと料理を作ってきますね」

 俺はセーラの手をとって、セーラを引き寄せた。

「料理ならいくらでもあるから、セーラも座って一緒に飲もう」

「グローセさん、酔っているのですか?」

「酔ったらダメかな?」

「いいえ……」

 俺とセーラは見つめ合った。そのままキス……をしようと思ったら何かが首に巻きついてきた。

「主! 酒だ! 酒をくれ!」

 リーシアである。風呂上がりなので石鹸のいい匂いがする。

「よーーーっし! 飲むぞぉぉぉっ!」

「おう、飲むぞ!」


 その日のことはあまり記憶にない。

 たまにはこんな日があってもいいよね。


 

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