077_ダンジョン攻略1
謁見があった日の翌日、筆頭大臣が屋敷にやってきた。
「急な訪問になり、まずは謝罪をしよう」
筆頭大臣は黄●だ。準敵対者である。
ソファーに座ってもらい、話を聞くことに。
「貴殿への報酬の話をしにきた」
「筆頭大臣、それは旦那様がダンジョンに入って魔物を間引いた時の報酬ですか?」
政治的な話は俺よりも慣れているエリーの方がいいと思って同席をしてもらっている。
「然様です。姫様」
「姫様は止めていただけるかしら。今の私は旦那様の側室ですよ。ヘンドラー夫人、もしくは伯爵夫人と呼んでください」
「……承知しました。伯爵夫人」
謁見の間で好き勝手やった俺だけど、まだ伯爵なんだよな。
まぁ、国王は王妃様が抑えているし、貴族たちは俺に何か言ったらオウム返しなのが分かって、何も言えない。
「報酬ですが、前金として五十億円。ダンジョンの鎮静化に成功したら百億円を支払うということではどうですかな?」
「筆頭大臣、その報酬は貴族の懐から供出されるのですね?」
「然様です。伯爵夫人」
エリーは少し考えたが、すぐに口を開いた。
「旦那様、私は提示された金額の倍でもよいと思っていますが、どうでしょうか?」
「伯爵夫人!?」
筆頭大臣は倍と聞いて慌てた。
『インス~。エリーがかなり吹っ掛けているけど、どうしよう?』
『マスターにあれだけの大口をたたいたのですから、三百億でも問題ないでしょう。ただ、それによって増税などがないようにした方がいいと思います』
いつもニコニコインスも貴族たちに怒っているようです!
「筆頭大臣、私は命を懸けるのです。貴族の方々にもそれに見合う報酬を出してもらわねば話になりません」
俺の命に対する価格なんだから三百億円でも安いものだ。
「む……しかし、三百億円はあまりにも大金だ……」
「アッガス侯爵の一派に二百億を、あとの百億を他の貴族に負担させることでいいでしょう」
調子に乗って大口を叩いたバカにはそれなりの負担をさせるべきだ。
「しかし、それでは、アッガス侯爵が納得しない」
「ならば、アッガス侯爵にダンジョンへ入ってもらい魔物を鎮静化してもらえばいいのです。自分がいくか、私にいってもらうか、選ぶのはアッガス侯爵を始めとする貴族の方々だと思いますよ」
俺が簡単に納得するなんて思ってもらっては困る。
「あ、そうだ。今回、俺がダンジョンにいくことになって、報酬を払ってもらう場合、増税なんてケチなことはしないでくださいね。今回の報酬は貴族の方々が身銭を切って払ってください」
「旦那様の仰る通りです。自分たちが不甲斐ないために招いたことなのに、民に負担をさせるのは筋違いです。そこは筆頭大臣として、しっかりと管理するようにお願いしますね」
「……城に帰り、関係者に諮ります」
筆頭大臣は帰っていった。
準敵対者である筆頭大臣に俺が容赦をする理由はない。
貴族たちを抑え込むためにせいぜい苦労をしてくれ。
筆頭大臣が帰ったので、エリーの装備を造ってみた。
エリーの【王家の武(D)】はどんな武器でも扱えるみたいなので、エリーには俺と被るが近代兵器を持たせてみようと思った。
ダメなら細剣でも使ってもらおうと思う。
「これはなんでしょうか?」
「これは俺の世界の武器だ。この武器は威力はそこまでないけど、これが使いこなせればエリーでもドラゴンを倒せる武器を用意してあげるよ」
「ドラゴンを……本当……なのですよね?」
「嘘は言わないさ」
エリーの武器は【通信販売(B)】で購入して三段階改造した、ディマコC8アサルト・カービン(グレネードランチャー仕様)だ。
俺も新装備を購入したんだけど、俺のはM16アサルトライフルのM203グレネードランチャー仕様で、このM16は米陸軍で採用しているライフルだけど、C8はカナダ軍で採用されている。
C8はM16のライセンス品なので、基本的には同じ用途のライフルだ。
なんで同じものにしなかったのかというと、C8の方はカナダ軍のプリンセスなんとかという部隊が使っているライフルだったので、王女のエリーには丁度いいかと思ったわけなんだよ。
ちなみに、M16とC8はノーマルでランク3下位の魔物を倒せるけど、俺たちが使う三段階改造したものはランク6下位の魔物なら倒せる。
俺が知っているドラゴンはランク7のアースドラゴンだけど、C8で慣れたら対物ライフルを用意してやるつもりだ。
だからアースドラゴンも倒せるというのは間違いではない。
「そのC8を使いこなせたら、もっと強力な奴を使わせてあげるよ。それならドラゴンも倒せるから」
「はい、がんばります!!」
いい笑顔のエリーである。
次は防具だけど、それは俺が【神器創造(D)】で造る。
以前倒してストレージに入れておいたカオスドラゴンの皮に、軽くて丈夫なミスリルで装飾を施す。
カオスドラゴンの革鎧だけでも十分な防御力があるけど、エリーはお姫様なのでミスリルの輝きによって鎧を豪華に見せている。
「こんな立派な鎧をいただいてもいいのですか?」
「以前倒したカオスドラゴンの革鎧にミスリルで豪華さを演出している複合鎧になる。エリーが着るにはこのくらい目立った方がいいだろ?」
「カオスドラゴンですか!? そんな貴重な素材を……」
「いや、カオスドラゴンの死体を数体持っているから全然貴重じゃないから」
「そんなことを言えるのは旦那様だけです……」
エリーに呆れられてしまった。
翌日、また筆頭大臣がやってきた。
「ヘンドラー殿の報酬はご所望の通り、前金で百億円、成功報酬で二百億円、合計三百億円を支払うように取り計らいました」
へー、意外とすんなりといったな。
もっと揉めて時間がかかるかと思っていたよ。
「分かりました。では、百億円をいただいたらダンジョンに向かうことにしましょう」
「そうしてくれると、助かる。私が城に戻り次第、騎士団によって百億円がこちらの屋敷に運び込まれる段取りになっている」
「承知しました」
筆頭大臣が帰っていって、一時間ほどで三十人の騎士が百億円を持ってきた。
全部ミスリル貨だったけど、それでも一万枚もあると重量がすごい。
俺はそれをストレージに放り込むと、受け取り書にサインをした。
ちょっとはちょろまかされると思っていたけど、しっかりと百億円あった。拍子抜けだ。
「筆頭大臣にはこれからダンジョンに向かうと伝言しておいてください」
「承知しました」
俺のその言葉を聞いた騎士たちは帰っていった。
「よし、皆、いけるかな?」
「マスター、いつでも問題ありません」
「主、準備はできているぜ!」
「必要なものは全部用意できています。グローセさん」
「いくワン!」
「旦那様、わくわくしますわ」
「ルビーもいくっピー」
皆の準備は整っているので、早速ダンジョンへ向かいますか。
96式装輪装甲車で王都の中を走るけど、後ろを騎士が追いかけてくる。
俺たちがダンジョンに入るのを見届ける役目を受けた騎士たちだと思う。律義なことだ。
ダンジョンの入り口は冒険者ギルドと騎士団によって厳重に守られていた。
魔物が出てきたら命を懸けて戦うためだ。だったらダンジョンの中に入って戦ってもいいだろうにと思ってしまう。
冒険者がよりダンジョンに近いところに陣取っているのは、騎士団よりも先に冒険者が戦うためだろう。
それは別に騎士団の立場が上だからではない。魔物の駆除をするのが冒険者の役目なので、最初に戦うのが筋なのだ。
「グローセ・ヘンドラーだ。通るぞ」
騎士に声をかけて防御陣地を通ろうとしたら、通せんぼされた。
「申し訳ないが、貴殿が本物のヘンドラー伯爵か、ステータスを確認させてもらう」
まぁ、身元確認をするのは当然の話で、むしろ確認しない方が職務怠慢だ。
俺は商人ギルドのギルド証を提示した。
「確認しました。通ってください」
騎士はビシッと敬礼して俺たちを通してくれた。
イベントを期待していただけに、拍子抜けした俺の心は荒んでいるのだろうか?
「おい、あれがヘンドラーって伯爵かよ?」
「け、いい女連れてやがるぜ」
「伯爵様ともなると女も上玉じゃねぇか」
冒険者たちがこっちを見てひそひそ言っているが、聞こえてますよ。
それから、伯爵だからいい女が集まっているんじゃないからな。俺が伯爵になってから増えたのはエリーだけだし。
ダンジョンの中に入った。
前回きた時は洞窟型のダンジョンだったけど、今俺の目の前にはなんと草原が広がっている。
「情報にあったとおりです。三層までは草原になっていると確認ができています」
城でもらった資料に目を通し、情報通りだとエリーが確認している。
俺の前にもこのダンジョンに入った冒険者貴族がいたが、その冒険者貴族たちが命を懸けて調べた情報だ。
俺は【サーチ(A)】でどこにどんな魔物がいるのか、確認をした。その情報によるとこの層にはランク5が大量、ランク6が少しいる。
「よし、10式戦車を出すぞ」
目の前にドドドーーーンと四台の10式戦車を出した。
元々一台持っていたが、今回所持数を増やしたのだ。
俺、リーシア、セーラ、エリーが操縦して、圧倒的な火力で魔物を殲滅しようと思う。
なんといっても、ここは草原で10式戦車は縦横無尽に走ることができるのだ。
魔物をいちいち歩いて倒して回るなんて面倒だ。
すでに確認していることだが、エリーは10式戦車を操縦できる。10式戦車も武器の扱いらしく、【王家の武(D)】の効果があるようだ。
これは屋敷の庭で10式戦車を出して確認しているから間違いない。
10式戦車は操縦と武器管制は別の人間が行う。
だけど、安心してくれ。10式戦車はC4I(Command Control Communication Computer Intelligence)によって戦車同士の情報共有ができるが、三段階改造によってこれも強化されて、一台の指揮車両から他の車両の武器管制システムを完全にコントロールできるようになっている。
主砲も副砲も武器管制システムにリンクしているので、指揮車両に武器管制官がいれば全ての車両の攻撃を管理できるのだ。
この武器管制はインスにやってもらうことになっている。
ちなみに、副砲というのは12.7㎜機関銃と7.62㎜機関銃(主砲同軸)が一門ずつある。
主砲はランク8のカオスドラゴンも吹き飛ばすパワーがあるし、二門の機関銃も強力だ。




