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075_謁見をぶち壊そう3

 


「静まれ! 静まらぬか!」

 筆頭大臣が大声を出して貴族を収めようとしているが、収まる気配がない。

 ほれほれ、もっと炎上しろ~。お前たちが騒げば騒ぐほど、首が締まるんだぞ~。

 俺は笑いを堪えるつもりもないので、「何を笑っている!?」とか言い出す奴も出始めた。いい感じだ。

 しかし、気になる人物がいる。国王に近い場所にいるので王族だと思うけど、その人物は貴族が騒ぐ中、真っすぐ俺を見つめているのだ。

 しかも、敵意のある視線ではない。【サーチ】でも敵性の赤●でも、準敵性の黄●でもない。青●なのだ。


『第一王女のエリザベート・カミラ・デルバルトです。マスターに好意を抱いているようです』

『好意? 彼女と話したこともないのに?』

『エリザベートも今の貴族たちを好ましく思っていないようですし、何より堅苦しい王族の生活に辟易しているようです』

『よくそこまで知っているね!?』

『伊達に王都で遊んでいたわけではありませんよ、マスター』

『なんだか、すまない……』

『うふふふ、マスターのためならインスは火の中にだって飛び込めます。お気になさらないでください』


 インスの気持ちが重い!?

 だけど、そんなインスが俺は大好きだ!


 筆頭大臣では抑えられなかったので、国王が貴族たちを収めようとする。

「陛下! このような者が伯爵だと思うと、同じ貴族として恥ずかしく思います!」

「はい、このヘンドラーも恥ずかしいです」

 俺だって、こんな奴らと同じ貴族だと思われているのは、不本意この上ない。

「なんだと!?」

 俺の言葉が気に入らなかったのか、筋肉ムキムキが睨んできた。いや、ずーっと睨んでいたけどさ。


「今、あなた方が仰ったではありませんか。貴族であれば、王都の危機に立ち上がるのが当然だと」

「当たり前だ!」

「ならば、貴方たちはここで何をしているのですか? 私が旅から帰ってくるまでの間、何をしていたのですか?」

「………」

 やっと気づいたようだな。俺に貴族だから立ち上がれと言う前に、お前たちも貴族なんだぜ。

「冒険者ギルドの討伐隊が駆逐され、騎士団では大きな被害が予想される。その判断をしたことで、私に出頭命令が出たのでしょう。しかし、私がこの国に戻ってくる間、この国にいた貴族は何をしていたのですか? まさか、全てを私に背負わせて自分たちは何もしないのですか? それで危機に立ち上がれと仰っていたのですか?」

 オウム返しされただけなのに、そんなに顔を青くするなよ。

「私はこの場におられる自称(・・)貴族の方々に、貴族の矜持はないのかと、問い正したいと思います」

 先ほどまで騒がしかった謁見の間がシーンと静まり返った。

 誰も喋らないの? なら、俺が喋るよ?


「陛下はなぜこの場におられる貴族へ、ダンジョンに対処しろと命令を出さず、私に出頭命令を出され、私にスタンピードを未然に防げと命令をお出しになられたのでしょうか?」

「む、それは……」

 言いよどむなよ。国王なら、毅然として答えろよな。

「そもそも、私は商人です。商人に魔物討伐を命じることに陛下は何もお思いになりませんか?」

「ふ、不遜であるぞ!」

 国王が俺の言葉に憤慨した。

「ならば、答えろっ! この国は商人に何をさせたいんだっ!」

 堪えきれず怒鳴ってしまった。いい加減、俺を馬鹿にするにもほどがある。

 不敬罪? そんなことを言い出したら、今すぐここにいる赤●たちを【時空魔法】でダンジョンの中に放り込んでやる!


 国王以下貴族たちが相当怒っているのは分かる。

 だけど、よく考えろよ。お前たちが敵意を向けているこの俺は、お前たちが対応に苦慮しているダンジョンのスタンピードを収めることができるかもしれない男だってことをな。

「あははは。お父様の負けです」

 この状況下にあっても青●の王女が、楽しそうに国王に近づいた。

「え、エリザベート!?」

「お父様、もうお分かりでしょ? あのお方は怒っておいでです」

「お前、何を……」

「お父様があの方の妻を人質などにするから、大事な時に協力が得られないのです。考えてもみてください。冒険者ギルドからの報告では、あの方はランク7のドラゴンさえ瞬殺するようなお方なのですよ。あの方がその気になれば、この国を蹂躙することなど容易(たやす)いのです」

 国王が唾をゴクリと飲み込んだ。


「本来であれば、こちらからあの方に人質を出すべきなのです。それを父上は逆に人質をとったのですよ。最初の対応が間違っていたのです」

「ぐ……しかし……」

「しかしも案山子もありません。今からでも頭を下げて許しを請い、助けてくださいとお願いするべきです」

「………」

「それともあの方を処分なさいますか? 国が滅びますよ?」

「そ、それは」

 うーん、あの王女の方が国王らしいと思ってしまうのは、俺だけじゃないはずだ。

 しかし、王女は俺をなんだと思っているのかな、国を滅ぼすだなんて……あながち間違っていないところが、反論しづらい。


「エリザベート殿下、何を仰るのですか!? あのような不敬な者に頭を下げるなど―――」

 騎士団長が反論をする。

「黙りなさい!」

 王女がぴしゃりと騎士団長を黙らせた。

「そもそも、騎士団がだらしないことが、このようなことになった原因ではないですか! それを棚にあげて自尊心だけは一人前に主張するなど言語道断! 貴方は今すぐに騎士団長の職を辞しなさい!」

 すっげー剣幕だ。騎士団に思うところがあるんだろうか?


『騎士団の多くは貴族の子弟で構成されています。実力ではなく家柄が出世の基準になっていることを、第一王女は危惧しているのです』


 なるほどね、家柄だけの無能な奴が王家を護る実行部隊を支配しているわけか。そりゃ~気に入らなくても無理ないな。

 俺が国王なら即行で騎士団の改革するぞ。自分や家族を護る奴らが、本当に役に立つか不安なのは精神衛生上よくない。

「アッガス侯爵、先ほど貴方が仰ったように、まずは貴方がダンジョンへ赴き命を懸けて王家への忠誠を見せなさい!」

 今度の標的は最初に騒ぎ出した筋肉ムキムキのおっさんだ。あんな野性味あふれた顔をしているのに、侯爵らしい。


「お父様、いますぐアッガス侯爵にダンジョンの魔物の討伐令をお出しください。さすれば、アッガス侯爵も喜んでダンジョンに向かいましょう」

「そ、それは……」

「何を迷っておいでですか? アッガス侯爵は貴族の誇りを賭けて魔物どもを駆逐されるでしょう」

 国王もタジタジだが、何よりもアッガスという侯爵の顔色が悪い。

「アッガス侯爵も自主的にダンジョンへ向かって構わないのですよ? それが王家への忠誠というものです」

 俺に向かってあれだけの言葉を吐いたんだから、命令がなくてもダンジョンで魔物と戦っていいと思う。

 なんというか、王女を応援したくなってきた(笑)

 いいぞ~、もっと言ってやれ~♪


 王女の一人舞台はしばらく続き、そこに王妃まで出てきた。

「陛下、此度の失政はグローセ・ヘンドラー殿に許しを請い、協力を得ることで挽回できます」

 何を勝手に決めつけているわけ? 仮に国王が俺に頭を下げても協力する理由はないぞ。

 それに貴族の前で国王が俺に頭など下げないだろ? 国王の威厳というのがあるからな。

 ただ、王女や王妃が出てきて失政とか言ってる時点で、国王の威厳もくそもない気がするけど。


「それに、ここに居並ぶ貴族は、ヘンドラー殿に向かってあれだけのことを言ったのです。まずは貴族たちに討伐をお命じになるのが筋でしょう」

 王妃も貴族を追い込むな~。

「だが……」

「まだ迷っておいでですか? では、ヘンドラー殿への報酬を貴族たちに負担させましょう。それで彼らの誇りも傷つかないでしょう?」

「う、うむ……筆頭大臣、それでよいか?」

 自分で決めろよ! お前は国王だろ!? 俺が引き受けるなんて決まってないけどな。

「陛下の御心のままに……」


 なんだかんだあって、別室に通された。どうやら国王の執務室のようだ。

 ちなみに、謁見の間では俺が引き受けるということが決まらないうちに、貴族たちが俺への報酬を負担することが決まった。

「ヘンドラー殿、今回のこと、本当に申し訳ありませんでした」

 王妃が頭を下げてきた。

 この国は王妃が裏の国王なの?

「ヘンドラー殿、色々と思うところがあるとは思います。その上でお願いします。王都を救ってください」

 王妃と王女が頭を下げた。おい国王! お前、何空気になっているんだよ!?


「奥方の件を含めて、全て一からやり直しをさせてほしいと思います。許してはもらえませんか?」

 ここまで言われては、無下に断るわけにもいかないだろうな……。

「妻は連れ帰ってもよろしいのですね?」

「もちろんです。その上で、この子を差し出しましょう」

 一歩二歩と前に出たのは第一王女のエリザベート・カミラ・デルバルトだった。

「はい?」

「この子をヘンドラー殿の妻にしていただきたい」

「エリザベート・カミラ・デルバルトと申します。ヘンドラー様、いく久しゅう、可愛がってください」

 何を言っているんだ!?


『王家としては表立って王女を人質に出すわけにはいかないので、マスターの妻にしようというのです』

『いやいやいや、なんで俺に人質を出す必要があるの!?』

『マスターの力を利用するため。そして何より、マスターの力が王家に向かないようにするためです』

『………』

『マスターの力は国を揺るがすほどの脅威です。その力を自分たちに向けられないために、マスターに人質を出すのです』

『そんなことで自分の娘を嫁に出すのか……?』

『王侯貴族であれば、普通のことです。それに、第一王女本人がそう望んでいるように見えます』

『………』

『俺の感情は?』

『すでにマスターは私を含め、四人の妻がいるのですよ? 王家もそのことを知っていますので、今さらです』

『ダンジョンを鎮静化するから、嫁入りの話はなしにしてもらうってのは?』

『国王の娘を、王女を嫁(人質)に出すと言っているのに、それを断ればマスターに二心があると疑われるだけです。仮にマスターがこの国を出て他の国に住み着いても、いく先々に手を回される可能性もありますので、この国を滅ぼすか王女を受け入れるかです』

『第三の選択肢は?』

『私には思いつきません』

『なんてこったぁ……』


「陛下はそれでよろしいのですか?」

 黙りこくっている国王に問いただす。

 俺が言葉で何を言っても信用できないんだろ? そんな目をしている。

「よきに計らうがよい……」

 投げやりだな!


 

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