074_謁見をぶち壊そう2
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兵士が集まってきて騒がしい。
言っておくが、俺はただ帰ろうとしているだけで、騒いでいるのは兵士たちのほうである。
兵士は剣を抜くのはまずいと思ったのか、廊下を塞ぐように立ちはだかった。人間バリケードだ。
しばらく言葉のキャッチボールにもなっていない会話をすると、後ろから声がかかった。
「ヘンドラー伯爵! 謁見の準備が整いました! 謁見の間へお越しください!」
ほとんど悲鳴のような声だ。執事さんだった。
「今日は気分が悪いので、日を改めさせていただくと、陛下にお伝えください」
「え?」
「気分が悪いのです。ですから帰らさせていただくと陛下にお伝えを」
自分でも底意地が悪いと思う。
だけど、俺とインスを引き離しておいて、都合が悪くなると俺に頼るその根性が気に入らない。
「ヘンドラー伯爵、そう虐めるものではないですぞ」
今度は誰だ? ん~、たしか……筆頭大臣だったか?
以前、俺が伯爵になった時に会ったのを覚えているけど、名前までは憶えていない。
『アクラマカン・バミル侯爵です。マスター』
『おお、そうか、そんな名前だったな。ありがとう、インス』
インスのおかげで筆頭大臣の名前が分かった。
だからといって、俺の仮病が治るわけではない!
「バミル様、お久しぶりでございます」
「ああ、久しいな」
「久しぶりにお会いしましたが、気分がすぐれないので、屋敷に戻らせてもらいます」
「ヘンドラー伯爵、それが通用しないのは分かるであろう?」
白髪のお爺ちゃんだが、その眼光は鋭い。まだまだ現役でいらっしゃる。
「しかし、このままでは陛下のご前で粗相をしてしまいます」
「それは私から陛下に断っておこう。さぁ、謁見の間へ!」
大物が出てきたことで、一旦は矛を収めるとするか。
あとは謁見でどうなるか。
筆頭大臣についていき、謁見の間の前に到着した。
大きな扉の向こうには国王と貴族たちが待ち構えているのが、【サーチ】で分かる。
貴族のほとんどは俺に敵意を持っている赤●だ。
「リーシアはここで待っていてくれ」
「分かった」
リーシアを廊下で待たせて、俺だけで謁見の間に入っていく。
前回は伯爵に叙爵される時にここへきたが、今回はどんな結果になるのか。
筆頭大臣がここでと言った場所で俺が止まると、筆頭大臣は国王のそばにいき何やら耳打ちをしている。
俺の気分(本当は機嫌)が悪いと耳打ちしているのだろう。
国王が一回だけ頷くと、筆頭大臣は自分の立ち位置へ移動して、俺を見た。
「陛下、ご尊顔を拝し、恐悦至極にございます」
一応、礼儀として挨拶をしておく。
「ヘンドラー伯爵よ。よく参った」
俺は軽く頭を下げて視線は斜め前の赤い絨毯を見つめながら、別にきたくてきたわけじゃないと、心の中で反論した。
「陛下、ご用向きをお伺いしてもよろしいでしょうか」
早く終わらせて帰ろう。
「うむ。筆頭大臣、説明を」
「はい。では、某から説明をいたす。現在、この王都にあるダンジョンの一層に高ランクの魔物が確認されている。これはスタンピードの兆候ではないかと、我らは考えているのだ」
それは知っている。だから、俺に何をさせたいかはっきりと言え。
「おそれながらも、陛下がおわすこの王都でスタンピードを起こさせるわけにはいかぬ。ゆえにグローセ・ヘンドラーには、ダンジョンのスタンピードを未然に防ぐよう命じるものである」
予定通りの言葉が投げかけられた。
だが、それに唯々諾々と応えるつもりはない。
「おそれながら、いくつか確認をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「許す、申せ」
筆頭大臣ではなく、国王自ら返事をした。
「ありがとうございます。では、早速一つ目の確認を。ダンジョンは冒険者ギルドの管轄だったはずですが、冒険者ギルドは何をしているのでしょうか?」
俺の言葉を聞いて、殺気が強くなった奴がいる。
先にも述べたが、この場にいる貴族の多くは敵性の赤●である。
『あれは王都の冒険者ギルドで副ギルドマスターをしています、アルモンド・サージェイン伯爵です』
王都の冒険者ギルドは、このデルバルト王国の本部ということで責任者は支部長ではなく、ギルドマスターと呼ばれる。
副ギルドマスターは三人いて、あの金髪茶目の四十手前の男はそのうちの一人ということだ。
貴族なのに副ギルドマスターをしているのは、国と冒険者ギルドの繋ぎ役といった感じなんだろう。
「すでに冒険者ギルドは数度の討伐隊を送ったが、結果は思わしくない」
筆頭大臣が答えた。
「魔物討伐の専門家である冒険者ギルドが討伐隊を出して失敗したのですか?」
ちょっと嫌味っぽく言うと、アルモンド・サージェイン伯爵が歯ぎしりする。
そういうのを隠せないようじゃ、二流の政治家にしかなれないよ。
「遺憾ながら、その通りである」
どうやら俺との問答は筆頭大臣が対応するようだ。
「では、王都の騎士団は何をしていましょうか?」
スタンピードやその兆候がある時は、冒険者ギルドのバックアップとして領主軍が動くことになっている。
地方なら領主軍が動いて、援軍として国の騎士団が駆けつける手はずだが、ここは王都なので最初から騎士団が動くことになる。
そんなわけで、俺への殺気を強めた奴がいる。
『騎士団長のベルヌイ・カショーバ伯爵です』
大柄で金属鎧を着て、国王のそばで帯剣している茶髪茶目の中年男だ。
一般的には迫力のある顔なんだろうけど、能力に見るべきところはない。
「今回のダンジョンは草原が確認されているが、元々が洞窟型である。洞窟型では騎士団が得意としている集団戦闘ができない。よって騎士団は待機させている」
そんな理由で待機って、俺を馬鹿にしているのか?
元々が洞窟だからといって、今もそうだとは限らない。
事実として草原が確認されているんだぞ?
「はて? 騎士団が動いていないのに、なぜ私に討伐令が下るのでしょうか?」
この言葉で謁見の間が騒然となる。
貴族たちにしてみれば、質問をするだけでも不遜だと思っているのに、討伐令への疑問を投げかけるなどあってはならないのだ。
そんなことは、俺に関係ない。貴族ごっこがしたければ、俺のいないところでやればいい。
やじが飛んでくるが、こいつらの言葉にはなんの重みもない。
「静まれ!」
筆頭大臣が貴族たちを収めるために一喝すると、貴族の私語が止んだ。
「ヘンドラー伯爵、理由は先ほども申した通りである。騎士団では効果的な討伐ができないと考えている」
貴族たちの私語が止むと、それを見計らい筆頭大臣が言い聞かせるように話した。
「騎士団にダンジョンを抑える力がないのは、分かりました」
「貴様!? 騎士団を侮辱するか!?」
俺の言葉に憤慨した騎士団長が声を荒げた。
「侮辱? 筆頭大臣殿、今筆頭大臣殿が仰ったことは騎士団がダンジョンのスタンピードの可能性を鎮められないという話ではなかったのですか?」
騎士団では対応できないから、俺に対応しろと言っているのは誰だって分かるぞ?
「言わせておけば!?」
「止めよっ!」
「へ、陛下……申し訳ございませぬ」
国王に止められた騎士団長は歯を噛みしめて悔しさを堪えている。
「ごほん。ヘンドラー伯爵の言う通り、そのように受け取られても仕方がない。しかし、騎士団はダンジョンだけに戦力を割くことはできぬ。国防の要である騎士団を無駄に使うことは避けたいのだ」
騎士団長が少し落ち着いてから、筆頭大臣が話を続けた。
スタンピードを収めるのも国防じゃないのかね? この人の話は詭弁にしか聞こえないな。
「しかし、なぜ私なのですか? 私は冒険者でもなければ、騎士でもありませんよ?」
そう、俺には国の要請や命令で戦闘力を行使する義務はないのだ。
戦力を持っている貴族なら他にもいるから、俺を名指しするのはその後になってもおかしくない。
「もう我慢ならん! 貴様、それでも栄えある王国貴族か!? 貴族なら、王都の危機に立ち上がって、ダンジョンの魔物を討伐するのが道理ではないか!」
俺の両サイドには多数の貴族が並んで立っているが、右側の一人がまくしたてた。
筋肉ムキムキって感じの貴族でむさ苦しい髭をたくわえた、いかにも武闘派といったおっさんだ。
「そうだ! 王国貴族であれば、王都の危機に立ち上がるのが当然である!」
そんな声が筆頭大臣も抑えきれないほどあがった。うん、それを待っていたんだ。
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