073_謁見をぶち壊そう1
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「お待たせしました」
俺は朝食を摂り、着替えをして、身だしなみを整えてから応接間に向かった。
この世界の貴族は中世ヨーロッパのようなゴテゴテの服を着ているが、俺の格好はカジュアルなジャケットとジーンズ姿である。
自分の屋敷なので、そこまで失礼な服ではないだろう。知らんけど。
ここまでに使者の来訪から一時間半ほど経っている。
使者をそんなに待たせていいのかと思うだろうが、朝早くにやってきているのは使者の方だから待たせて何が悪いのか。
こちらの都合を確認してから訪問するのが筋なので、それで気分を害すのは筋違いである。
「ヘンドラー伯爵、初めて御意を得ます。私はアーノルド・バルス男爵と申します。朝早くに訪問してしまい、申し訳ありません」
バルス男爵は俺の服を見ても眉一つも動かさなかった。
この世界では珍しい服装なのに、なかなかポーカーフェイスレベルが高い人だ。
「これはご丁寧に。グローセ・ヘンドラーです。楽にしてください」
バルス男爵は物腰の柔らかい中年男性で、顔や体型に目立ったものはなく、普通のおじさんに見える。
俺が腰を下ろすと、バルス男爵も腰を下ろし、使用人が飲み物を置いて下がる。
「早速で申し訳ありませんが、本日、私が訪問させていただいたのは、陛下よりのご命令があってのことです。ヘンドラー伯爵には城へご同道いただきたく存じ上げます」
「出頭命令書なるものの件ですか?」
「はい、然様です」
バルス男爵はにこやかに話を進める。
高圧的な使者がやってくるかなと少し身構えていたが、なかなか巧妙な人選である。
「同道ということは、今からという話ですか?」
「申し訳ありませんが、その通りでございます」
「昨日、王都に入ったばかりでなんの準備もしていないのです。ですから、少し時間がほしいのですが?」
「正直申しますと、ヘンドラー伯爵が王都入りされるのを、陛下におかれましては首を長くしておられました。ですから、ヘンドラー伯爵には一刻も早い登城をお願いしたく存じ上げます」
バルス男爵は立ち上がり、深々と頭を下げる。
俺がここでNOと言ったら、このバルス男爵は国王と俺の板挟みになって苦労するんだろうな。
それもいいかなと思うけど、最初から俺が高圧的に出る必要はない。
こちらは相手の動きや態度を見て対応すればいいのだ。
「分かりました。少しだけお時間をください。すぐに用意をしましょう」
「ありがとうございます」
俺は立ちあがり、応接間を出た。
さて、フォーマルに着替えるとしますかね。
俺はもうこの世界の常識に合わせるのを止めようと思っている。
これで日本人だとばれても構わないし、俺の好きなように生きようと思う。
「主、登城するのか?」
「うん、城にいってくるよ」
「主の護衛は俺の仕事だ。一緒についていくぞ!」
リーシアがそう言うのは分かっていたよ。
「今回はリーシアだけついてきてくれ。インス、セーラ、サンルーヴは屋敷を守っていてほしい」
「国の手の者が屋敷を襲ってくると考えているのですか?」
「分からないけど、屋敷の周りは取り囲まれているから、念のためだよ」
俺の【サーチ】には屋敷の周りをぐるりと囲む準敵性者の反応が見て取れる。
おそらく、城での俺の行動次第では、屋敷に押し入ってきて、インスを人質にする考えなんだろう。
そのことはインスも分かっているので、俺が特に何かを語る必要はない。
「さて、いくとするか!」
「おう!」
スーツに着替えた俺はネクタイをビシッと締めて、気合を入れた。
使用人に馬車を用意するように指示しておいたので、そろそろ馬車の用意もできているだろう。
96式装輪装甲車で城に乗り込んでもいいが、一応、敵対していないので威圧行動は控えておく。
馬車は王都内で使えるように【通信販売】で購入して、乗り心地がよくなるように改造してあるものだ。
インスが王都で活動するうえで必要なものは、インスの判断で購入してもらっている。
バルス男爵の馬車の後ろについて城に向かう。
二台の馬車の周りには三十人からの兵士がいる。どう見ても大げさな戦力だ。
俺を逃がさないためのものか、はたまた他に意図があるのか。
城に到着すると、俺とリーシアは控室に通された。
貴族用の立派な控室には二人のメイドが部屋の隅に控えている。
「このソファーは座り心地が悪いな」
リーシアがドカッとソファーに腰掛けるが、お前は常闇の鎧を着ていて座り心地が分かるのか?
俺も腰かけてみる。
「たしかに、座り心地が悪いな」
俺の王都の屋敷にはイタリア製の高級家具があちこちに置かれている。
来客があった時に安物の家具では馬鹿にされるだろうと、インスが購入したものだ。
その家具に比べると、たしかにこの控室のソファーの座り心地は悪いし、家具も安っぽい。
「主をこんな安物の部屋に通すとは、国王は主を相当下に見ているようだな」
日本にいた頃はもっと安物の家具に囲まれていましたが、何か?
リーシアちゃんや、君の言葉を聞いたメイドが青い顔をして、慌てて部屋の外に出ていったぞ。
あまり波風立てるのは控えてくれるかな。その時がきたら、俺がビシッと波風立てるからさ。
しばらくすると、執事らしき格好の人が現れた。
なんだか慌てた様子だけど、これはリーシアの言葉が伝わったからだと思う。
「申し訳ございませんが、お部屋をお移りいただければと……」
「面倒だからここにいさせてもらいます。それとも他に使う人でもいるのですか?」
別に俺は安物でも構わないぞ。今さら別の部屋に移動するのも面倒だ。
「いえいえ、そのようなことは……」
執事はハンカチで額の汗を拭う。大変だねぇ。
「それよりも謁見はまだですか? こちらも忙しい身なので」
「申し訳ございません……」
いや、執事が悪いわけじゃないだろ?
俺を呼び出しておいて、待たせる奴らが悪いんだから、そんなに汗をかかなくてもいいんだぞ。
控室に通されてから結構時間が経った。そのためか、料理が運ばれてきた。
謁見する気はないようだな。
「食事が出るということは、まだしばらくかかるということですね?」
「申し訳ございません……」
「仕方ない。出直すとしましょう」
俺が立ちあがると、リーシアも立ち上がった。
すると、執事が大慌てで俺を止める。
「すぐにこいと言われてきたのです。それなのにこれだけ私を待たせるのは非礼ではないですか? 相手が誰であろうと、非礼を受け入れる気はありません」
俺のステータスは人外だ。誰が俺を止められようか。
「お、お待ちを!?」
構わず部屋を出て廊下を戻っていく。
執事が悪いわけじゃないけど、俺は貴族や王族相手に我慢することをやめたのだ。
礼儀をもって接してもらえば礼儀で返すが、非礼には非礼で返して何が悪い。
俺を止めるのに何人かやってきたが、知ったことではない。
すると、兵士までやってきて、俺に剣を向けようとした。
「へぇ~、剣をむけるつもりですか?」
剣を向けられたら、こっちも手加減はしないよ。
リーシアちゃんや、そんなにウキウキした顔をするなよ。
「大人しく部屋に戻ってください!」
兵士の隊長なのか、俺に戻れと言う。
「私がどこへいこうと、貴方に指図されるいわれはない」
「城内ですぞ! 暴挙は許されません!」
「だから城を出るのです。文句はないでしょ?」
「ぐっ!?」
俺を呼びだしたのは誰だ? 俺を呼び出した理由はなんだ? 俺に頼みがあるのなら、俺を馬鹿にした対応をするな!
兵士の間を抜けて進む。剣を向けられたら、その時点で俺とこの国の関係は終わりだ。
俺の当面の目標は赤の塔の攻略だけど、赤の塔の中には【時空魔法】で転移ができるので、わざわざ入り口から入る必要はない。
どこで暮らそうと、俺は好きな時に赤の塔に入って、好きな時に出ることができるのだ。
赤の塔の町では孤児たちを集めたが、子供たちはアスタリカ公国へ移せばいいだろう。
キャサリンさんには世話になったが、今とは別の形で恩を返そう。
じわじわと総合評価が上がって29700オーバーです。
もうすぐ30000いきそうなので、評価してください!




