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070_木々のダンジョン2

2巻が今月発売になります。

よろしくお願いします!

 


 一晩、ゆっくり寝ると疲れが取れる。

 ここがダンジョンの中だということを忘れさせてくれる快適空間のおかげだ。

 この96式装輪装甲車(クーガー)は居住区がとても充実しているグローセ用特別仕様車なのだ!


 木々のダンジョンの五層はランク2の魔物が多い。

 シッタケが大きくなったビッグシッタケ、木の魔物であるリトルトレント、花の魔物であるポイズンフラワーなどがよく出現する。

 ここまで植物系の魔物以外は見ていない。シイタケは菌類というツッコミはしないでくれ。


「じゃじゃーん!」

 とにかく進む速度が遅いので、俺は森探索の強い味方をストレージから取り出した。

「主、これはなんだ?」

「グローセさん、それは車でしょうか?」

「ワン?」

「っピー?」

 全員が不思議そうな顔をしている。


「これはバギーとオフロードバイクという車の一種だよ」

 小型の四輪バギーが一台と、モトクロスにも使われるオフロードバイクを二台用意してみた。

 四輪バギーはセーラとサンルーヴの二人用、オフロードバイクは俺とリーシアに一台ずつだ。

 リーシアとセーラに乗り方を教えると、あれよあれよと覚えてしまった。

 本当にこの二人は乗り物系の操縦をすぐに覚えてしまう。


「あははは。主、このバイクいいじゃないか!」

 リーシアはなんとオフロードバイクをジャンプさせて空中で一回転させた。

 バイクに乗ってから一時間も経っていないのに、ここまで乗りこなすリーシアが怖い!

「グローセさん、楽しいですね」

 四輪バギーは小型の二人乗り用のもので、ハンドルもバイクと同じだ。

 セーラはサンルーヴを後ろに乗せて楽しそうだ。


「よし、いこうか」

 俺たちはアクセルを開けて、走り出した。

 リーシアは無駄にアクセルを開けてウィリーをしたり楽しんでいるが、その後ろを走っている俺に泥や土埃がめちゃくちゃかかるので止めてくれ。


 空を飛べるルビーは先行して魔物を狩っている。

 インスがサーチで魔物の死体をタゲって【時空魔法】で転移させてストレージに回収させていく。

 触る必要もなければ、視界に入れる必要もないので、便利だ。


 俺たちはあっという間に五層の一番奥まで辿りついた。

 そこには大きな門があって、冒険者が並んでいた。

「あそこが五層のエリアボスの部屋です」

 ボス部屋の扉の向こうには普通に森が繋がっていて、扉の向こうに冒険者が消えていくのは不思議な光景だなと思っていた。

 しかし、あの扉は【時空魔法】の応用だから俺でも作れるとインスが教えてくれた。

 俺は自分でチートだと思っていたけど、改めてチートを実感した。


 オフロードバイクや四輪バギーに乗った俺たちが現れたことで、冒険者たちが少し騒然となったけど、無視して冒険者の列に並んだ。

 こういうのは下手に触れてはいけないのだ。

「並んでいる間、暇だからおやつでも食べるか」

 起きた後に朝食は摂った。でも、冒険者が結構並んでいるので、おやつタイムだ。

「やったー、おやつだわん」

 サンルーヴが飛び跳ねて喜んだ。

「うむ、今日はチョコレートケーキが食べたいぞ、主」

 はいはい。リーシアはチョコレートケーキな。

「グローセさん、私はティラミスがいいです」

 セーラはティラミスね。


 サンルーヴにはクッキー山盛りとフルーツジュース、リーシアにはチョコレートケーキとブラックコーヒー、セーラにはティラミスとアップルティー、ルビーには米粒と水、俺は緑茶と栗きんとんを用意した。

 ルビーに嫌がらせをしているわけではなく、ルビーは米粒が好きなのだ。

 特に精米前の玄米で、コシヒカリが一番美味しいと言っている。

 俺も、こう見えても和菓子が好きで、特に栗系のお菓子が好きなのだ。

 岐阜県の東農地方で売られている栗きんとんは、関東で食べられている栗きんとんとは違って、漉した栗でできたお菓子でとても美味しい。

 この栗きんとんのシーズンになったら必ず取り寄せていた。これは美味(びみ)である!


「美味いな! この甘さと苦味の調和がなんとも言えぬ!」

 リーシアはグルメリポーターのようなコメントをして、ぺろりとチョコレートケーキを平らげた。

 言っておくが、リーシアが食べたのはカット品ではなく、ホールだ。

 リーシアはいつもこの量をぺろりと平らげるので、いつも胸焼けしないのだろうかと心配になるが、俺の心配は無駄に終わる。


「リーシアさん、口の周りにチョコレートがついていますよ」

 リーシアの口を拭ってやっているセーラが母親のように見えてしまう。

「ごしゅじんさま、おかわりワン」

 サンルーヴにもクッキーの詰め合わせ一缶を出してやったが、ぺろりとなくなってお代わりを要求してきた。

 あの小さな体のどこに消えてなくなるのかと、不思議でならない。

「サンルーヴ、これから戦わなければいけないので、我慢しなさい」

 セーラが完全にオカンだ。

 でも、俺だとサンルーヴの求めるままに与えてしまうので、セーラがいてくれると助かる。


「あ、あんたたち、美味そうな物を食べていたな……」

 冒険者の一人が話しかけてきた。

 食べたそうにしているのは、俺にでも分かる。だけど、俺が彼らに食べ物を分けてやる義理も義務もない。

 そもそも、ダンジョン内では食料は重要な物資なんだ。だから、食料を分け与えるのは、それなりに重大事がないとしないことだ。

「ええ、美味しかったです。もうありませんが」

 俺がそう言うと、冒険者は落胆したのが分かった。

 その俺の横でリーシアが「もうないのか!?」、サンルーヴが「そんなーワン」と落ち込んでいる。

 二人は俺の【通信販売】のことを知っているだろう!?


 やっと俺たちの番になった。

 俺たちが扉を開けて中に入っていくと、扉はひとりでに閉まった。

 扉の向こうは大きなドーム状の部屋になっていて、そこにひと際大きなトレントがいた。

「五層のボスのミドルトレントです。ランク3の魔物です」

 リトルトレントよりも大きいが、ミドルということはラージー、いや、ビッグもいるのだろうか?

 セーラが教えてくれたようにランク3の魔物なので、ルビーに任せることにした。


「いくっピー!」

 ルビーは【炎の羽ばたき(C)】を発動させて、ミドルトレントを炎で包んだ。

 すると、ミドルトレントは水を発生させて、自分にまとわりついていた火を消した。

「あれは【水魔法】です。他に【木魔法】があります」

 ほうほう、ミドルともなると、魔法も使ってくるのか。

 魔法を使って火を消しにかかってくるので、ルビーとは相性が悪い感じがする。

「ならこれならどうだっピー!」

 燃え盛る羽根の数が増えた。

 ミドルトレントは【水魔法】で火を消そうと必死だが、ランク3とランク5の差は埋められないようで、次第にミドルトレントが炭化していき、動かなくなった。

「終わったっピー」

 その瞬間、ルビーが何かに弾かれたように吹き飛ばされた。


「まだ生きています。今のは【木魔法】の木を鞭のように使った攻撃です」

 セーラの言う通り、ミドルトレントは瀕死だけどまだ生きている。

「ピー……ゆだんしたっピー……」

 地面に叩きつけられたルビーが羽根をゆっくりと動かすと、ルビーの体が光った。

「あれは【癒しの風】ですね」

 セーラが解説者になっている。

 だけど、誰も手を出そうとしない。

 ここで手を出すとルビーのこれまでの戦いが無駄になってしまう。だから見守っているのだ。

 それに、ルビーの目にはまだ戦意が見える。


「よくもやったなっピー。今度は油断しないっピー。覚悟しろっピー!」

 すると、ルビーは見えない刃を飛ばした。

「あれは風属性の攻撃ですか? ルビーに風系の攻撃スキルはなかったはずですが?」

 セーラが首を傾げた。

「今、【風魔法】を覚えたみたいだよ」

 俺とルビーはなんというか、繋がっている。【情報共有】の効果だけど、ルビーが見たもの感じたものが俺にも共有されるのだ。

「今、【風魔法】を覚えたのですか。ルビーも少しずつ成長しているのですね」

 そんなことを話していたら、ルビーは炭化したミドルトレントを切り刻んで、完全にミドルトレントを沈黙させた。


「ごめんなさいっピー。油断したっピー」

「これから魔物はもっと強くなるから、気を引き締めていこう」

「はいっピー」

「主、宝箱だぞ」

 リーシアの声で、ドームの中央に宝箱があるのを認識した。

「ワン、あけるワン」

 宝箱に駆け寄って、鼻をすんすんとさせて蓋に手をかけた。

 サンルーヴが開けた宝箱の中を見てみると、冠があった。


「月桂樹の冠?」

 ギリシャ神話で出てくるような草冠というか葉冠だ。


 種類:ドルイドの月桂冠

 説明:女性のみ装着できる。装着すると木の精霊と契約ができる。


 おお、木の精霊か。精霊召喚とかなんか憧れるよな。


『インス、これはセーラに使ってもらうのが一番いいかな?』

『そうですね。セーラさんなら間違いないと思います』


 そんなわけで、このドルイドの月桂冠はセーラに決定。


 

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