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007_商談3

 


 このハジメの町にやってきて一週間も経っていないのに俺は五百万円以上の資産を作った。

 五百万円といえば日本でなら一年以上暮らせるだけの金額でありこの世界でもそれは変わらない。

 だが、たった一週間でこの大金を稼いだので小心者の俺は常に後ろを気にする次第で早々に護衛を雇いたいと思う。


 アンブレラさんから教えてもらった奴隷の相場は、戦闘奴隷であれば最低でも三百万円はするから才能の有りそうな一般奴隷を買おうと思う。

 一般奴隷は三十万円程度から、後は所持スキルや能力で値段が変わるそうで見てみないと何とも言えないそうだ。


 冒険者はランクFからランクSまでランクがあり、護衛依頼がだせるのはランクD以上でランクDの場合は三人雇うとして一週間の護衛で三十万円程度らしい。

 あとはランクが上がるとそれだけ金額も上がっていくとのことだ。

 奴隷の場合は武器防具と衣食住を主人が用意する必要があるが、冒険者は住み込みの場合だと住は用意する必要があるが基本は用意する必要はない。


 ここで問題だが、俺はこのハジメの町に住み着くのか他の町にいくのかだ。

 まだ方針は決まっていない。しかし他の町に行くにしてももう少しこの世界のことを知ってからになる。

 だからしばらくはこの町で暮らすつもりでいる。


「あ、そうだ忘れていましたが貸家も探しているのでした」

「それでしたら当ギルドの不動産部に案内させましょう」


 アンブレラさんから代金と売買証明書をもらいギルド員がリヤカーから荷物を卸している時に家のことを思い出した。

 そんな俺にアンブレラさんは嫌な顔もせず丁寧に対応してくれ不動産部に案内をしてくれた。

 不動産部ではスラッと背の高い壮年の男性が俺の対応をしてくれたが、アンブレラさんもそうだが壮年の男性も目の下に隈ができている。

 商人ギルドはブラックなのだろうか?


「私はイルヨ・イナイと申します」

「グローセ・ヘンドラーと言います。お忙しいところ、すみません」

「いえいえ、アンブレラから聞いております。当ギルドに良い商品を卸していただきありがとうございます」


 なかなかインパクトのある名前だ。覚えやすいのは良いことだと言っておこう。

 綺麗なお辞儀をしたイナイさんは俺に椅子を勧め俺が座ると自分も座る。

 そして女性職員がお茶を出してくれたので温かいうちに口に含むがあまり美味しくない。


「さて、貸家をお探しだとお聞きしておりますがどのような物件がご希望でしょうか?」

「そうですね、部屋数はそれほど多くなくて結構ですが、トイレと風呂、風呂が無理であればシャワーだけでも構いません。後は多少の庭があると良いですね」

「それでしたら……この物件はいかがでしょうか?」


 イナイさんは持ってきていた分厚いファイルをペラペラ捲り物件を見定めるとファイルを俺に見やすいようにする。


「6LDK、トイレと風呂に庭もそれなりに広い物件です」


 内容は日本の不動産会社と変わらない内容が記載してあった。

 図を見る限り平屋で大きなリビングとダイニングキッチンを中心に部屋が配置されている。

 見た感じ建坪はかなり広い。そして庭はそんな上物が2つは建てられそうなほど広い。

 これって結構高そうな気がするんだけど?


「これだと家賃は幾らですか?」

「はい、これは月八十万円になります」


 うほ~、日本の頃の俺のアパートの家賃の1年分に近いわ。

 フザケンナと言おうと思ったが、よく考えると今の俺なら払える金額なんだ。

 イナイさんも俺の取引額は把握しているだろうから俺の格に合わせた物件を勧めているんだろう。


「悪くはないですが、私のような若輩者には家格が勝っているようですね」

「そのようなことはないと思いますが……でしたらこの物件はいかがでしょうか? 4LDKで先ほどの物件よりは風呂の規模が小さくなりますが、庭も馬車の二台程度は止められます。家賃もお値打ちになりまして四十万円です」


 恐らくだがこの物件を勧めるために先ほどの豪華な物件を勧めてきたんだろう。よくあるパターンだな。

 四部屋もあれば部屋数も十分だし風呂もある。これを見せてもらおう。


「この物件を見せてほしいのですが、大丈夫でしょうか?」

「はい、今から向かわれますか?」

「ええ、できればお願いします」


 イナイさんが用意してくれた馬車に乗り物件を見にいく。

 初めて馬車なんて乗ったが結構揺れた。

 比較的舗装された町中の道を通っているのにこの揺れだと町の外だと酷いことになるんじゃないかと容易に想像ができた。


「こちらでございます」


 商人ギルドから十分ほどで到着した物件が建つ場所は住宅街で周りは豪華な邸宅も少なくない。

 俺、こんな高級住宅街で場違いじゃないか?


 イナイさんの案内で家の中を見て回る。

 リビングは三十帖はありそうで、ダイニングキッチンも広い。

 四つある部屋も最低でも十帖はあるので俺が住んでいたアパートが犬小屋に思えるぜ。

 トイレは宿のトイレ同様水洗だし、風呂は日本のアパートの三倍は大きい。

 庭も馬車二台どころか五台でも余裕に置けるし馬小屋と納屋まであった。


「いかがでしょうか?」

「周囲が御屋敷ばかりなのですが奴隷とかがいても大丈夫でしょうか?」

「問題ありません。他のお屋敷にも奴隷の五人や十人はいますので」


 マジか、奴隷の五人や十人が普通にいるんだ。

 てか、そんなにいたら部屋が足りないじゃん?


『奴隷は一部屋に数人が詰め込まれますし、酷い場合は納屋に押し込められます』

『奴隷の扱い悪いね』

『そうですか? マスターのおりました世界でも昔は奴隷を家畜同様の扱いをしていたはずですが?』

『それを言われると反論のしようがないね』


「いつから入居できます?」

「掃除もこまめにしておりますので今すぐでも大丈夫です。ただ、キッチンやトイレに風呂の魔道具を動かすための魔石は取り付けていませんので、ヘンドラー様の方でご用意いただくことになります」

「分かりました。ここに決めますので、その魔石を売っている店を教えていただけますか?」

「それでしたらご案内いたします」

「ありがとうございます」


 その後雑貨屋で魔石を買い、商人ギルドに帰ってすぐに契約書と鍵を受け取る。

 一月分の家賃を支払って預けてあったリヤカーを引き取って商人ギルドを後にした。

 宿には帰る必要はないのでそのまま奴隷商店に足を向ける。


『奴隷を買うのに何か必要なことってあるかな?』

『マスターをお守りする者なのでスキルや能力が良いに越したことはありませんが、やはりマスターに従順であるのが第一でしょう』

『奴隷って魔道具で命令には逆らえないようになっているんだよね?』

『正確には命令に逆らったら首輪が締め付け苦痛を与え更に息ができなくなりますので逆らえないのです』

『孫悟空の緊箍児(きんこじ)のようだな』


 奴隷商店に着いた。中に入ると胴回りが俺の倍以上はある厚化粧のオバさんが俺を迎えてくれた。


「商人ギルドの紹介ですね。私はブレンダ。マダムブレンダと呼んでくださいな」

「あ、はいマダムブレンダさんですね。私はグローセ・ヘンドラーです。よろしくお願いします」

「『さん』は不要ですよ。それでどのような奴隷をご要望で?」

「若くて体が丈夫な奴隷がほしいのです」

「種族や性別は?」

「特に希望はありませんので、できれば多くの奴隷を見せてほしいですね」


 マダムブレンダは少し考え俺を奥に通す。

 通されたのは檻が立ち並ぶ薄暗い場所。少し臭う。

 どうも檻の中に奴隷がおり、その中を見ていく方式のようだ。


「この檻はヒューマンの男ですね。そっちが獣人の男になるね」


 マダムブレンダに案内され檻の中を見ていく。

 檻の中には五人ほどが詰め込まれており、俺は【鑑定(S)】を使ってステータスを見ていく。

 ヒューマンの男は見た目は良いが能力やスキルはあまりパッとしないので獣人を見る。

 獣人はヒューマンに比べHP、筋力、耐久、俊敏が高い傾向にあり丈夫さとしてはヒューマンより良いのだが皆俺より歳上だ。

 男性ゾーンが終わって女性ゾーンを見せてもらう。

 中にはゴブリンやオークなどの種族もいた。


 人語が話せるのなら意思疎通もできるしオークなんて力が強そうなのでオークでも良いかと思ってしまう。

 そんなことを考えていると檻の中に一人だけで入れられている女性、女の子を見つける。

 色白のプラチナブロンド、『アルビノ』という言葉が頭の中に浮かぶ。


「その子は気性が荒く反抗的でね、奴隷の首輪によって苦痛を与えられても屈することがないんだよ」


 俺がじーっと女性を見ていたからかマダムブレンダが『止めとけ』と言葉を続ける。


「明日には処分する子だからね」


 マダムブレンダは掌をフリフリと白い女の子を否定する。

 そんなマダムブレンダに気を悪くしたのか白い女の子は檻の鉄格子ギリギリまで歩いてくると口を開く。


「俺を買え」

「え?」

「何だい、アンタが喋るなんて珍しいね」


 マダムブレンダは俺がどう反応するのか様子を見るようだ。


「買えと言われても反抗的な奴隷はいりませんよ」

「問題ない。主と決めた以上は従う」


『嘘は言っていないようだが、どう思う?』

『オーガ族は戦士の一族。主と決めた方には一生従うでしょう』

『え? オーガ?』

『目の前に居るのはオーガ族の変異種です。一般的なオーガより非力のようですが変異種は成長すると化ける可能性を秘めています』


 俺は【鑑定(S)】を発動し白い女の子のステータスを確認する。



 氏名:リーシア・オーガン

 職業:

 情報:オーガ(変異種) 女 15歳 奴隷

 HP:300(A)

 MP:50(E)

 筋力:70(A)

 耐久:50(B)

 魔力:10(E)

 俊敏:50(B)

 器用:20(D)

 魅力:20(D)

 幸運:5

 アクティブスキル:

 パッシブスキル:【身体強化(E)】

 魔法スキル:

 ユニークスキル:

 犯罪歴:


 【身体強化(E)】HP、筋力、耐久、俊敏を強化する。



 俺よりよっぽど戦闘向きのステータスだ。

 ステータス的には完全に前衛になるだろう。

 反抗しないのなら買っても良いと思う。見た目も悪くないしね。


「マダムブレンダ、この子を買います。幾らですか?」

「本当に買うのかい?」

「ええ」

「……フー、分かった。二十万で良いよ」

「それだけで良いのですか?」

「どうせ明日には処分する予定だったんだ、二十万で売れただけでもウチには御の字さね」


 マダムブレンダは見た目は胡散臭いが誠実な商売をするようだ。

 もう少しダイエットして化粧を薄くすれば少しは好きになれる、かも。

 そして俺は『テイマー』なので奴隷契約ではなく主従契約をしたいとマダムブレンダに伝えると了承してくれた。

 主従契約というのは奴隷の首輪のような制約を与える一方的な契約ではなく、相手の了承がいるので力でも信頼でも良いが受け入れられないと契約ができないのだ。

 俺がもし『魔物使い』だと魔物に対してしかこの主従契約はできないが、『テイマー』は相手が了承すれば誰とでも主従契約ができる。


「俺はグローセ・ヘンドラーだ、よろしくな」

「リーシア・オーガン」

「リーシアと呼んでいいか?」

「主の好きなように呼んでくれ」

「主って堅いな。グローセって呼んでくれ」

「主は主だ」


 俺の提案をにべもなく断るリーシア。

 だが、主従契約はすんなりと結ばれたので、今からリーシアは俺の従者となる。


「何で俺に買われたんだ? 処分されるからか?」

「黒い髪の毛に黒い目、我が主に相応しいと直感した」

「へ? それだけ?」

「十分な理由だ」


『オーガ族の崇める神は暗黒神なのでマスターと暗黒神を重ねて見たのではないでしょうか?』

『暗黒神……』

『属性の一つである暗黒を司る神です』

『……管理界でみた金髪さんはどんな神なの?』

『申し訳ありません。そのことについては回答を許されておりません』

『そうなんだ……暗黒神は悪い神なの?』

『善悪の定義は人それぞれですので明確な回答をしかねます』


 インスの言うことも分からないではない。

 俺が正しいと思っていることでも他人から見れば変なことをしていると思われていることは多々あるだろう。

 人の価値観なんて人それぞれだから、一方的な押し付けは争いを生む元になる。


 リーシアを連れて新居に戻り「明日から働いてもらうから今日は休んでいい」と言ったらリーシアは何を思ったか納屋に向かう。


「何をしているんだ?」

「俺の寝床に向かっている」

「いやいやいや、リーシアの部屋はここ。納屋で寝泊りする必要ない」

「……そうか、ならばその部屋を使おう」


 先が思いやられる。


 

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