068_港湾整備2
港を整備して、奴隷を購入して、船を買って、商館となる建物を建てて、俺のアスタリカ公国での拠点造りは順調だ。
購入した奴隷は50人に及び、瀕死の12人はルビーの【癒しの風(C)】によって回復した。
ルビーの【癒しの風(C)】でも1度や2度では完全に回復しなかったが、3度、4度と【癒しの風(C)】で治療すると、部位欠損でもしっかりと治った。
エリクサーのように一気に治すほどのパワーはないが、重ねがけをすれば最終的には完全に治癒できるのだから凄い。
「帆を上げろ!」
「帆を上げろ!」
俺の【通信販売(B)】で購入したガレオン船の操船訓練をしている奴隷たち。
まさかガレオン船まで買えるとは思っていなかっただけに、かなりびっくりした。
このガレオン船を5隻購入してしまったので人が足りないし、商館を運用するための人員もいるから、もっと奴隷を購入しなければいけない。
アバスさんにはあと50人は買うからと伝えているが、それだけの奴隷を仕入れるのに時間がかかるそうだ。がんばってもらうしかない。
購入したガレオン船は当然ながら改造を施している。改造点は3つあり、2つは5隻共通の改造だが、1つは違う。
共通した改造の1つは操船を簡単にするものだ。副次的な効果として操船に必要な人員を減らすことができたので助かっている。
もう1つの共通点は強度だ。安全第一、これがヘンドラー商会のモットーなので、ランク5の魔物の攻撃まではほぼ無傷にできる。
3つ目の改造は2隻が武装強化だ。ガレオン船にはオプションでカノン砲が装備できるけど、そのカノン砲の攻撃力と射程距離、そして命中精度を向上させている。
他の3隻はペイロードの向上だ。ペイロードとは簡単にいうと、荷物の積載量である。
武装がほとんどない代わりにペイロードを向上させたので、大量の荷物の運搬が可能になっている。
つまり、2隻は護衛艦で3隻が交易用の物資運搬船となる。
今は人も少ないし、慣れてもいないので、1隻の護衛艦で訓練航海をしている。
艦長には両足を失って瀕死だったカルトバウアーを充てているが、このカルトバウアーは瀕死状態から完治したことで俺に恩を感じている。
おかげで今ではテイムに切り替えて俺の奴隷ではなく、配下として働いてくれている。
カルトバウアーが両足を失うことになった原因があのクラーケンだったこともあり、俺が敵討ちをした格好になったのも大きいだろう。
瀕死だった奴隷は俺への恩を感じている者が多く、12中11人がテイムに切り替わっている。
残った1人も最近やっと精神が安定してきたところなので、これからテイムに切り替えるかを確認することになるだろう。
カルトバウアーは元々漁師の元締めだったことで、スキルに【操船(C)】【統率(D)】【漁師(C)】がある。
スキルの【操船(C)】があるとエンジンつきの船も操船できてしまうのが驚いたことだ。
ホバークラフトなんか、あっという間に操船をマスターしてしまった。スキルってすごいね。
スキルがなくてもホバークラフトの操船ができたリーシアもすごいけど。
訓練航海は進み、今度は砲撃訓練に入った。
「弾こめぇーー!」
「弾こめぇーー!」
カルトバウアーの命令を副官のカブラスが復唱すると、航海士たちがカノン砲に弾を込めた。
この弾込めの作業も簡易化されており、弾と火薬は一体化されている。そのおかげで装弾作業は思った以上に早く完了した。
「うてぇぇぇっ!」
「うてぇぇぇっ!」
腹の底に響くような轟音と共に標的である小型の木造船への砲撃が開始された。
初段は木造船の奥30mほどの海に着弾して水しぶきが上がった。
「狙い甘いぞ!」
ただでさえ揺れている船から、動いている木造船への攻撃である。近代兵器のように武器管制もないので、命中精度は悪い。
それでも通常のカノン砲を撃つよりもはるかに命中精度はよくなっているはずなのだ。
慣れていないこともあると思うので、訓練で命中精度を上げてもらうしかない。
訓練航海から帰ってきた俺に、アバス奴隷商店から伝言が残されていた。
「奴隷が入荷したようだから、アバスさんの店に行ってくるよ」
「グローセさん、私も一緒にいきます」
セーラは前回の時には桟橋建造のためにアバス奴隷商店へはいっていない。
既に桟橋も完成したことだし、俺が断る理由もないので、一緒にアバス奴隷商店へ向かうことにした。
もちろん、リーシアとサンルーヴ、ルビーも一緒だ。結局、いつものメンバーになった。
アバス奴隷商店で奴隷を大量に購入して、体力に自信がある奴隷は船に、見た目がいい奴隷は商館に配置した。
もちろん、本人の希望を聞いているので、できる限りは希望を叶えてやっている。
「商館も軌道に乗り始めているようだね」
「グローセさんの用意される商品がいい物なので、売れないわけがありません」
セーラが皆の教育をしてくれたから、店の評判がいいんだよ。
商館の方は酒類を中心に販売を開始している。
このアスタリカ公国は小国だけど、酒の売れ行きはいい。
大量に用意したビールが飛ぶように売れている。
ガレオン船の訓練が終わったら海上貿易も考えている。
その頃には酒の種類も増やして、大々的に貿易をしようと思っている。
今考えている輸出先は、アスタリカ公国の北にあるイクマ大公国とさらに北にある大国のフェルト王国、そして南の大国である水の国だ。
イクマ大公国はワインとブランデーが人気で、フェルト王国はウイスキーが人気、水の国はワインが人気だと聞いている。
それと、女将軍の領地内で良質の湧き水がある場所をさがして、酒造りをしようと考えている。
俺の【通信販売】は俺がいなければ使えないが、地場産業として酒造りができれば交易も安定するだろうと考えてのことだ。
「皆、これからが本番だ。ガレオン船の訓練が終わったら、荷物を搭載して他国へ向かってもらうからな」
俺は集まった従業員の前でそう話した。
俺は一旦デルバルト王国(赤の塔がある国)へ戻らなければいけない。
それにルビーのためにランク上げもするから、そろそろこの国を離れようと思っているんだ。
インスの話ではダンジョンの件は全然改善されていないので、王侯貴族がかなり気をもんでいるそうだ。
中にはスタンピードが発生する前に王都を離れる貴族も出始めているそうで、毎日のように城から使者がインスのもとに来るそうだ。
「皆も知っている通り、俺は隣のデルバルト王国の赤の塔の町に拠点を持っている。赤の塔の町を離れて久しいのでそろそろ帰る頃合いかと思っている」
病気で体中の皮膚がただれていたのを助けたことで、俺に恩を感じてくれているサラエには商館の責任者をしてもらっている。そのサラエに話しかける。
「この商館の責任者はサラエだ。サラエはカルトバウアーを始めとした重役と相談をして商売を進めてくれ」
「ヘンドラー様のご期待にそえますように、命を懸けて取り組みます!」
いや、命は懸けなくていいから!
「カルトバウアーはサラエを支えてやってほしい」
「任せてくだせぇ。サラエ嬢を皆で盛り立てます!」
「皆、よろしく頼んだよ」
「「はい!」」
従業員全員が元気よく返事をしてくれた。
「今日は宴会だ! たっぷり飲んで、食って、騒いでくれ!」
「「おおぉぉぉっ!」」
定期的にここを訪れるつもりだけど、それでもしばらく会えなくなるので宴会をして親睦を深めておこうと思った。
今回の宴会ではバイキング方式で肉、魚、野菜などの料理を大量に用意した。
航海士は海の男だけあって酒も食べ物も大量に消費するから、料理はかなり多く用意した。
酒もアルコール度数の高いウォッカまで用意した。なんとアルコール度が95%のほぼアルコールというものだ。
こんなウォッカをカルトバウアーや航海士たちは何杯も喉に流し込むのだから、信じられない。あんなものを飲んだら1杯でぶっ倒れる自信がある。
「おい、主! このウォッカはいいな! パンチがきいているぞ!」
ここに航海士たちでも勝てない蟒蛇がいた!
「グローセさん。私、酔ってしまったみたい……」
セーラが色っぽい……。
「ご主人様~、フルーツジュースおかわり~ワン」
サンルーヴはいつものフルーツジュースだ。
「ご主人様、このお肉が美味しいっピー!」
それ、鶏肉だぞ。共食いにならないか?
「主、飲め!」
ぐわっ!? ウォッカを口移しするなぁっ!




