066_クラーケン退治
ホバークラフトは転覆は免れたが、俺とセーラはホバークラフトが傾いた勢いで投げ出されそうになった。安全帯を手すりにつけていたので海に落ちることはなかったが。
備えは大事だと実感したよ。
ちなみに、安全帯というのは高所作業などで使われる落下防止のベルトのような物だ。
「主、セーラ、無事か!?」
インカム越しにリーシアの声が聞こえてきた。
「俺は無事だ。セーラ、大丈夫か!?」
「はい、大丈夫です!」
セーラの無事を確認してホッとしたが。気を抜いていられる状況ではない。
「リーシア、奴の足の攻撃範囲から離脱だ」
「分かった!」
船の中でも女将軍とその護衛が数人怪我をしたようだが、今はそんなことに構っている場合ではない。
最大船速でクラーケンから離れるホバークラフトの上で俺とセーラは態勢を立て直した。
「船上での戦闘ってのは、地上と違った感じで戦い方が難しいな」
「ええ、船から落ちたら立て直すのが難しいですし、船の揺れ方も96式装輪装甲車と違った揺れ方ですから」
「今回は近づきすぎた。奴の攻撃範囲外から、物量で押すことにしよう」
「はい」
「リーシア、奴から300mをキープしてくれ」
「分かったぞ」
リーシアの運転でホバークラフトが離脱から旋回に変わった。
300mの距離なら俺とセーラなら攻撃できるが、クラーケンの足はそこまで長くない。
「お返しをさせてもらうぞ!」
「やってやります!」
セーラの魔法が放たれた。クラーケンの体を固定している氷をさらに分厚くする氷の魔法だ。
奴は逃げることもできずに、俺とセーラに遠距離から攻撃を一方的に受けるのだ!
スコープ越しにクラーケンを狙いトリガーを引く。
すると、氷から上に出ている奴の足が銃弾の邪魔をした。
しかし着弾した瞬間に爆発して足がなくなった。さぁ、もっと邪魔をしろ。その足を全部吹き飛ばしてやる!
次から次へと足を吹き飛ばしてやった。
すると、セーラが数百もの真空刃を放ちクラーケンの体を細切れにした。
最初からその真空刃を使えば一瞬だったと思う。
「よくやってくれた!」
女将軍が喜んでいる。嬉しいのは分かるが、泣くことはないだろう。
部下の兵士たちも抱き合って喜んでいる。
クラーケンの体は数百のパーツとなっていたので、回収できるものは回収した。セーラ曰く、回収が面倒だと思っていたから真空刃は使いたくなかった、である。今思えば、俺もそう思う。
「今回も出番がなかったっピー」
ルビーがしょんぼりしている。
「そんなにしょんぼりするな。このあとはルビーのレベル上げをするからさ」
「本当なのっピー!?」
「ああ、本当だ」
「やったっピー!」
女将軍の屋敷で戦勝パーティーが行われた。
女将軍や兵士たちが飲めや歌えやの大騒ぎをした。
リーシアもそのバカ騒ぎに混ざったが、俺は自分の酒量を知っているから、大人の飲み方だ。
セーラも俺と同じように酒量を弁えた飲み方をしている。まぁ、リーシアはざるなので、酒に飲まれることはないのだが。
「何をしている。ヘンドラー殿も飲まぬか!」
女将軍が絡んできた。
「飲んでますよ」
「もっと飲まぬか! ほれ、飲め、どんどん飲め!」
この女将軍は酒を飲むと絡み酒になるようだ。
「はいはい」
「はいは一回だ!」
「はーーーい」
「むぐぐぐーーー、飲め!」
俺の首に腕を回してエールを勧めてくる。
エールは大したアルコール度がないので、そこまで酔わないからいいが、炭酸で腹が膨れるのがいけない。
翌朝は誰も起きてこなかった。仮にも公皇の血筋の家で皆が飲んだくれてぶっ倒れているのはよくないと思うぞ。
「グローセさん、今回のクラーケン退治の報酬はどうされるのですか?」
パンダのアップリケがしてある可愛いパジャマを着てベッドで寝ていたセーラが起きてきた。
「この国での商業権を要求するつもりだ。当然、税などなしでね」
「では、この国でも拠点を設けるのですか?」
「この国には海があるからね」
「なるほど、海上貿易ですね」
俺はセーラに頷いた。
昼過ぎにやっと起きだしてきた女将軍は完全に二日酔いの顔をしていた。
「うっぷ……」
おいおい、客の俺がいるところで吐くなよ。
「将軍殿、此度の報酬を頂きたい」
「ああ……報酬……うっぷ……何がい……うっぷ……」
話にならないな。
「明日、改めてお話しします」
「ああ……うっぷ」
ダメだこりゃ。
時間ができたので、港にいってみる。
「ご主人様ー、お魚がいっぱいあるワン」
「お、本当だ。漁が再開されたんだな。よし、買うぞ!」
おお、マグロがあるぞ! こっちはカツオか! これはサメか? ゴッツイ歯だな! あれもこれも買い込んだ。大漁。大漁。
こうやって魚を購入できるのだから、クラーケンを退治した甲斐があったというものだ。
「主よ、いまさらだが、魚がほしければ自分で獲ってくればよかったのではないか?」
「そんなことするわけないだろ。できる、できないではなく、しないの。餅は餅屋ってね」
「なんだ、そのモチなんとかっていうのは」
「モチはモチ屋というのはおそらく専門家に任せろという意味ではないでしょうか?」
「さすがはセーラ! その通りだよ。魚を獲るのは漁師ってこと」
「ふーん。だが、主は冒険者でも兵士でもないのにクラーケンを倒したではないか」
「クラーケンは例外。何事にも例外があるんだよ」
リーシアは納得していないようだった。まぁ、脳筋族のリーシアだから、それでいいさ。
その夜は魚料理を満喫した。【通信販売(B)】でも魚は買えるけど、現地で調達した魚をさばいて食べるのはまた格別だ。
「ご主人様、おいしいーワン」
サンルーヴは沢山食べて大きくなるんだぞ。
「うむ、主よ、美味いぞ」
相変わらずの食べっぷりですね、リーシアさん。
「生の魚がこんなに美味しいなんて……この緑色の物がぴりっとして、よいアクセントになっています」
セーラは大人だね。リーシアとサンルーヴはワサビをよけて食べているのに。
「俺の故郷では刺身といって、魚を生で食べる習慣が根づいているんだ。生で食べられない魚もあるから、なんでもかんでも刺身にできるわけじゃないけどな」
「醤油って本当になんにでも合いますね」
「醤油は魔法の調味料だよ。大概の物は醤油で食べることができるぞ」
醤油は本当に重宝する調味料である。
「この酒も合うな!」
お猪口では少ないとどんぶりに日本酒をなみなみに注いで飲み干したリーシアが漢に見えるぜ。
「この辛口のお酒が刺身によく合いますね」
セーラは大人だよね。
「フルーツジュースおかわりワン」
はいはい、サンルーブはフルーツジュース好きだな。
「ご主人様ー、ルビーにもフルーツジュースをくださいっピー」
ルビーもフルーツジュースが好きなのは分かったが、ちょっと待ってくれ。サンルーヴに注いでからルビーにも注ぐから。
刺身の次はカツオのたたきだ。ちゃんと藁で焼いているから香ばしい香りがするし、ニンニクを添えているのでパンチ力もある。
「おお、これも美味いな! 主も食え!」
そう言っているリーシアのお酌で忙しくて食えませんが?
「グローセさん、このニンニクがまたよく合いますね」
そうなんだよ、カツオのたたきとニンニクはよく合うのだ。
「ご主人様ー、フルーツジュースワン」
はいはい。
「ご主人様、ルビーはニンニクの匂いがちょっと苦手っピー」
まぁ、好みは人それぞれだよな。ルビーは人間じゃないけど。
今度は鍋です。アンコウが手に入ったので、アンコウ鍋をしてみました!
アンコウは皮も内臓も、もちろん身も食べられるからね。
「ほう、あのグロテスクな顔の魚がこんなに美味いのか!?」
リーシアちゃんよ、見た目で魚を判断したらあかんで。
「この皮のプリンプリン感がいいですね」
ゼラチン質の皮だからね、明日の朝になったらセーラのお肌もプリンプリンかもね!
「マスター、これ美味しいワン!」
サンルーヴは身の部分が気に入ったようだ。
「うまうまっピー」
ルビーは全てが気に入ったようですね。
魚料理を満喫した俺たちは楽しいひと時を過ごした。
もちろん、夫婦の営みもありました。セーラのもち肌が、リーシアの肉食系が、サンルーヴの野性味が……ご馳走様でした。
新作(50話完結)もよろしくお願いします。
佐倉勘次郎 ~織田信長の弟の織田信与の家臣になってそうろう~
URL : https://ncode.syosetu.com/n0883fj/




