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065_クラーケン

 


 轟音をたてて海上を走るホバークラフト。操縦席ではリーシアが鼻歌を歌いながら運転をしている。

 それにしても、このホバークラフトはめちゃくちゃ速いな。時速250Kmは伊達じゃないようだ。波をかき分けるどころか、波を突き破って走っていくように速い。


 俺は【サーチ(A)】をフルに発動させてクラーケンの気配を探ったが、なかなかクラーケンの反応がない。

「将軍、どこにクラーケンがいるのですか?」

「この先に岩礁地帯があるが、その岩礁地帯から沖にいくとよく出ると聞いている」

 聞いている、か。つまり自分では見たことがない。もしくは、把握をすることができないほどに無能なのか。どっちでもいいや、この女将軍とはクラーケンを討伐して報酬をもらうまでのつき合い……だよな?


「リーシア、もう少し右に進路をとってくれ」

「了解だ」

 クラーケンの反応があるまで走り回るしかないようだ。

「クラーケンが出てきたらどうやって戦うのだ?」

 女将軍が気になっていたのだろうことを聞いてきた。

「内容は秘密です。まぁ、魔法とだけ言っておきます」

 女将軍は不満げだったが、それ以上は聞いてこなかった。早く出てこいよ、クラーケンちゃん。お前が早く出てこないせいで女将軍との間が辛いんだよ。


「グローセさん、もうすぐ日も暮れますし今日はここで終了しましょう」

 ホバークラフトに乗って朝からクラーケン探索をしていたが、クラーケンとは出会うことができなかった。

「そうだな、今日は帰ろう」

 港ではなく、砂浜からそのまま上陸して女将軍の部下がいる場所へ向かった。

 明日、同じ時間に砂浜から出航すると言い残して、俺たちは宿屋に向かった。あの女将軍と一緒にいると気疲れして仕方がない。


 翌日もクラーケンは出てこなかった。その翌日も……こんなことを繰り返すこと7日、いい加減飽きてきた。

「もうこの海にはいないんじゃないか?」

「そうですね、これだけ探し回っても遭遇できないとなると、手の打ちようがありませんから」

 俺とセーラの会話が聞こえたのか、女将軍がかなり焦った顔をした。

「ヘンドラー殿、クラーケンは必ずいる!」

「ですが、既に7日も探し回っているのですよ? 明日、ダメでしたらこの話はなかったことにしてくださいね」

「く……分かった……」


 翌朝、探索最後の日だ。

 漁港があるのに魚が仕入れられなかったのは残念だけど、見つからないものをいつまでも探しているほど俺も酔狂ではない。それに漁港は他にもあるのだから。

「よし、行くぞ!」

 何やら女将軍が気合を入れている。彼女はホバークラフト内でセーラが出すお茶やお菓子を飲み食いしているだけで何もしていないし、クラーケンが出てきても戦わないというのに。

 そんな女将軍の姿を見てため息が出る。なんでこうなったのかな?


 ホバークラフトを走らせること30分。とうとうこの時がやってきた。

「リーシア、左に30度だ」

 面舵とか取り舵という言葉は知っているが、どっちがどっちか俺には分からない。だから左右、東西南北といった感じで指示をするしかできない。

「左に30度だな!」

「グローセさん、見つけたのですか?」

「かなり大きな反応だ。もう少し近づけばクラーケンかどうか分かるよ」

 セーラがやっと戦えますねと笑顔を向けてきた。一瞬、リーシアと被ってしまった。セーラは脳筋ではないと思いたい。

「ご主人さま、サンルーヴは何をするワン?」

「サンルーヴはルビーと一緒に座っていてくれればいいから」

「分かったワン」

「ルビーはまた出番がないっピー」

 サンルーヴの頭を撫でながらルビーにもクッキーを差し出した。

 そろそろルビーも本格的に育ててやらないと、いけないな。いつまでも出番なしでグレられても困る。


「やっとクラーケンと戦えるのだな!?」

「戦うのは俺たちですよ。将軍殿は座っていてください」

「う、うむ……了解だ」

 不満顔だけど、あんたじゃなんの役にもたたないから。

 てか、なんでそんなにやる気なの? クラーケンとまともにやり合える力が自分にあると思っているのだろうか?


 俺はデッキに出て海を見つめた。その横ではセーラが杖を持ち、クラーケンはまだかと待ちわびていた。

「将軍殿は中へ」

「む……うむ……」

 戦闘中に海に落ちられても邪魔くさいので、女将軍には中で大人しく座っていてもらった方がありがたい。

「リーシア、反応はクラーケンで間違いない。このままの進路で頼む」

「任せておけ!」

「セーラ、あと2分ほどで接触すると思うから、準備を」

「はい!」

「サンルーヴとルビーは大人しく座っていてくれ」

「分かったワン」

「了解なのですピー」

 ホバークラフトが爆音を立てながら波をものともせずに海上を進む。

 俺たちは無線インカムを通じて意思疎通をしているので問題ないが、女将軍とそのお供の兵士たちは大きな声を出して話をするしかない。


「セーラ、左前方だ」

「はい!」

 クラーケンの大きな反応が深海から浮上してくるのが【サーチ(A)】で分かる。

「リーシア、速度を落として5ノットを維持。いつでも加速できるように準備だけはしてくれ」

「了解だ」

 俺とセーラは安全帯をつけて、ホバークラフトから投げ出されないように船体上に増設されているフェンスに安全帯のフックをかけた。


「来るぞ。10・9・8……3・2・1・0!」

 俺が1を数えたところで海面が盛り上がり、0でクラーケンの体の一部が海面上に現れた。その衝撃で海面が荒れてホバークラフトが大きく揺すられた。

「きゃっ」

「大丈夫かセーラ!?」

 大きく船体が傾いたことで俺たちはまともに立っていられなかったが、安全帯のおかげで放り出されずに済んだ。


 現れたクラーケンはタコのような形をしているが、その大きさは頭部だけで20mはありそうだ。そこに足がうにゃうにゃと海面上にでてきたが、その足の長さはどれだけ長いかも分からないほどだ。

 海上に出ている足は全部で8本。やっぱりタコなんだと思った。

「なんだあれは!?」

 ホバークラフトの中から女将軍や兵士が騒ぐ声が聞こえてきた。

 今の声で彼女がクラーケンを見たことがないのが分かったし、部下から報告を受けても理解ができていなかったのが分かる。

 つまり、彼女はクラーケンのことを何も分かっていなかったことが確定したのだ。


「セーラ、頼むぞ!」

 女将軍などどうでもいいが、目の前ではクラーケンがホバークラフトを海に引きずり込もうと足を伸ばしてきている。

「はい!」

 セーラが杖を掲げて魔法を発動させると、視界が覆いつくされるほどの吹雪が吹き荒れ、カチカチと音をたてて海が凍り、さらにクラーケンの表面も凍っていき動きが悪くなっていく。


 いくらクラーケンといえども海面を凍らされれば自由に動くことは難しいはずだ。

 そこで俺はバレットM82A1をストレージから取り出すと、三脚を立てた。

「リーシア、左に回り込め」

「おう!」

 バレットM82A1を握る手に力が入るのが分かった。スコープごしに巨大なクラーケンの目が見える。

 指をトリガーにかける。息をゆっくりとそして深く吸い込む。ドンッ。

 発砲と同時にクラーケンは巨大な足で弾を防いだ。しかし、数mはあろう太い足は、弾丸が貫通してクラーケンの頭部に当たった。

「軌道がそらされただと!?」

 弾丸の軌道を予測したのか、それとも他の何かがあって知られたのか分からないが、クラーケンは俺の射撃を防いだ。

 巨大な足と巨大な頭の一部に穴を開けたがクラーケンは何もなかったかのように氷から抜け出そうもがいている。

「グローセさん、私が!」

「頼む!」

「アイスジャベリン!」

 セーラは氷の槍をいくつも出して、それをクラーケンに放った。着弾した氷の槍はクラーケンを貫くことはなく割れてしまったが、着弾部からさらに氷の膜がクラーケンを覆っていく。


 俺は薬莢を排出してスコープを覗く。ドンッ。

「ち、またかよ」

 クラーケンは俺の狙撃に異様なまでに警戒をしているのか、また足で俺が撃った弾を防いだ。

「グローセさん、私がやります!」

「俺のことは気にせずに、どんどんやってくれ!」

「はい!」

 俺は俺でやれることをするまでだ。足が邪魔なら足を全部破壊すればいい。

 弾を属性弾に変更してスコープを覗く。

「ん?」

 その瞬間だった、ホバークラフトの船体が大きく傾き、俺とセーラは体勢を大きく崩されてしまった。


 

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